第二章 聖杯戦争
貴方のお名前は?
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聖堂協会からマスターが揃ったとの報告を受け、ついに聖杯戦争が始まったらしいことを知る。しかしあらゆる意味で未熟な私ができることは一つ、知識をつけることしかない。大学も全休を利用して、近場の図書館に行くことにした。
ついでにアサシンの服も買うつもりだ。バイト代と仕送りを貯金していた通帳を見て、何も問題ないと判断する。
図書館で読む予定なのは、アサシンの歴史が書かれた小説。フランス革命期の書籍を漁っていれば、すんなり情報が出てきた。
霊体化してついてきたアサシンが微妙な顔をしていたのは、この際無視する。
フランス革命期の話自体は、漫画でいくらか読んだことがあった。しかしそれは、かのマリー・アントワネットなどが主人公の話ばかりで、処刑人までに目が向かなかったのだ。彼はフランスではかなり有名人だったらしい。
フランスの処刑人——Monsieur de Paris。二百年近い世襲によって死刑執行人として生きた、サンソン家の四代目当主。副業として医者の収入があり、低い身分にも関わらず貴族のような暮らしをしていた。本人は慈善家かつ平等論者。敬虔なカトリック教徒。死刑廃止論者で、実際に廃止されたのは彼の死後百八十年経った頃。人道的視点からギロチンを導入。しかし斬首の手軽さ故に、革命と恐怖政治の只中であった彼はその間二千七百人あまりを処刑。熱心な王党派であったが、崇拝するルイ十六世をその手で斬首。
小説に書いてあることを、ただ淡々と脳内にインプットして行く。情報の多さと濃さと、凄惨さに脳がかき回されるような気がした。
『……あまり、良い話ではないでしょう』
一度本を置いて眉間をほぐしていれば、霊体化した彼の声が聞こえた。なるべく不自然にならないように、口元を本で覆いながら小声で返す。
「確かに、一気に読む内容じゃないですね……明日はフランス革命の映画でも観ますか」
『正気ですか……?』
「トラウマだってんなら、別の場所で待機してもらうことになりますね」
『いえ、そんなことはないんですが……』
「んじゃ一緒に見よう。負担でなければ解説してほしい。……レミゼは時期が違うから
参考にならないな」
ポケットから取り出したスマホを操作し、フランス革命を舞台にした映像作品を探していく。とりあえずは、「マリー・アントワネット」と「ダントン」さえ観れば問題ないだろうか。
スマホの時計が、十九時を示す。そろそろ閉館の時間だ。窓の外を見ると、既にどっぷりと陽が沈んでいた。
夜の都会は、田舎と違いかなり明るい。電灯も疎らな山の中とは違い、交通網も発達していて夜遅くまで足があるのが良い。
ここ冬木の新都も例外ではなく、オフィス街を抜けた後にある広場以外は、人通りが多い。
しかし今は聖杯戦争の真っ最中。いつ何処で敵が襲って来るかもわからないこの状況で、長々と出歩くのは得策とは言えないだろう。
「アサシン、周りにそれっぽい敵はいる……?」
『いえ、今は何も感じません』
つらつらと言葉を交わしながら、足早に広場を抜けて行く。敵がいないというのなら、先程から感じるこれは何だ。
『……マスター?』
思えばこの広場にはあまり来たことがなかった。とても寒い。身体の芯からゾクゾクと冷え切っていく感覚がする。人がいないせいなのか?
「マスター、一度休んだほうがいい」
足元のおぼつかない私を支えるように、霊体化を解いた彼が背中をさすってきた。気分の悪さに俯いていると、ベルトで括られた不思議なブーツが見えた。少々コスプレ感が否めないが、暗がりでは特に歩いていても問題なさそうな格好でよかった。
力の抜ける足を叱咤し、彼の腕を掴みながら足を進める。
「早く帰りましょう……ここは、なんだか気分が悪い」
「ああ、貴女は感じやすいのですね」
「……何の話?」
「ここは所謂僕らのような、亡霊が多くいるんですよ。上手く歩けないのでしたら背負います」
「……このままは、色々な意味で危なそうだからお願いします」
まずもって人気のない場所で男女が密着しているのはよろしくない。加えて彼がサーヴァントだと敵にバレてはお終いだ。
背中を向けて屈んだ彼に、遠慮なく体重をかける。すると難なく持ち上げられてしまった。
「重くないですか?」
「サーヴァントですから、これくらいは」
「じゃあ、食料買い込んだら、荷物持ちを……」
目蓋が重い。人におぶられたのなんて、何年振りだろう。身体に伝わる体温と、優しいテノールの子守唄に揺られる。
〽︎Frère Jacques, Frère Jacques,
Dormez-vous? Dormez-vous?
このメロディは聞き覚えがある。手遊び歌の、グーチョキパーの歌のメロディだ。
〽︎Sonnez les matines! Sonnez les matines!
Din, dan, don. Din, dan, don.
彼が歌っているということは、これは元々フランスの曲なのかもしれない。彼についても知らないことがいっぱいある。明日は映画を観て勉強しなくては。
そんなことを思いながら、香水と薬品の匂いのする肩口に顔を埋めた。
数日のうちに、キャスターとランサー、ライダーが脱落したという報せがあった。
ついぞ顔を見ることはなかったが、私たちが普段通りの生活を続けている間に戦争は動いていたようだ。私たち以外が三騎士クラスにバーサーカーというのがどうも、緊張してしまう。
私はといえば、朝はアサシンのご飯を一緒に食べて、昼は大学に通いつつ知識吸収。夜は一日の反省会をしてから布団に潜る日々を送っていた。
図書館の重要そうな本は粗方読んでしまったので、本腰を入れて敵の情報を探ろうかと新都を歩く。
そこまで気配遮断をしているわけでもないのに、敵のマスターと遭遇することがないまま今日まできてしまった。
「私って、マスターとしてのオーラ無いんですかね……」
「オーラというか……貴女が自分から渦中に入ろうとしないから、アサシンのマスターは居ないのでは、と囁かれているのですが」
「初耳だなあ」
並んでたこ焼きを頬張りながら、そんな会話をする。
彼には服を買い与え、出来るだけ実体化してもらっていた。人間らしい生活を送らせるのが目的だが、中々上手くいかない。特に頑なに睡眠をとってくれないあたりが一番の問題としてある。
明日あたりが駄目なら「私はホラーが苦手だから、枕元に立たれると怖すぎて寝られない」などと言いつつ引き摺り込もうかとも考えて、また強引に寝かしつけられる気がしたのでやめた。しかし悔しいことには変わりないので、彼に対しての嫌がらせとして、たこ焼きを食べさせてみたのだが。
「不思議な食感がしますね」
「何で普通に食べてるんだよ……デビルフィッシュじゃなかったのか」
「よければエスカルゴでも食べてみますか?」
「謹んで遠慮します」
そもそもエスカルゴがどういう食料なのかイマイチわかっていないが、多分仕返しとしての軽口だと思うので流しておくことにした。
こんなにダラダラ過ごしていて良いのだろうか。いくら数人の魔術師しか参加していないとは言え、戦争中とは思えない。
「何もなさ過ぎて逆に怖い」
「僕の幸運値が高いので、そのせいかと」
「他の数値はあまり高くないのに……リアルラックって大事なんだな」
逸話によって能力が割り振られるのであれば、彼の幸運値には少し首を傾げてしまう。しかし恐怖政治を生き残ったあたり、悪運だけは強いのだろう。それが本人にとってどれだけ不本意でも、英霊とはそういうものだ。
そろそろ帰ろうかと腰を上げると、周りに人がいないことに気がついた。石畳が紅く染まり、道行く人々の輪郭はぼやけ、生と死の境が曖昧になる。黄昏時だ。
カン、とコンクリートに金属が当たる音に振り向く。そこには現代には似合わない羽帽子を被り、銃刀法のある日本では滅多に見ることができないサーベルを携えた剣士が立っていた。
白いマントに中世ヨーロッパ貴族のような服、羽帽子にサーベル。中世的な美少年……美少女? 敵であるのが残念でならないほどに、好みの容姿だ。
こちらに殺気を向けているからして、明らかにサーヴァント、武器を見るにセイバーだろう。隣を見ればいつの間に着替えたのか、黒いコートに剣を携えたアサシンが私を庇うように立っている。
「……キミのその剣、見覚えがあるな」
男性にしては少し高めの、凛とした声が響く。視線は、アサシンの持つ剣に向けられていた。
「僕にも、貴方の服装には見覚えがある。……出身はフランス、貴族の出か」
「そう言うキミはわかりやすいな。“Épée de Justice”……正義の剣、か」
その言葉にアサシンが、グッと歯嚙みをする。フランス人にとっては、やはり彼は有名人らしい。
調べているうちにわかったことだが、正義の剣はサンソン家の所有の剣。肩の馬は八つ裂きの刑を模していることから、彼の逸話を知っている人間からすれば個人の特定は容易なのだろう。
「宝具解放……します? 真名悟られてるっぽいですし」
「いや、間合いが完全にセイバーの懐だ。一騎打ちでは勝ち目はない。一旦退きます」
「逃がさないよ」
軽く、セイバーが地面を蹴った。一瞬で間合いを詰められたのち、身体に強い衝撃が走る。受け身も取れずに石畳に叩きつけられ、顔を上げた先では彼らが互いの剣を合わせている。
「アサシン!」
「いいから走れ! 出来るだけ遠くまで走って、距離を…………マスター伏せて!」
「え」
反射的に頭を下げると、ガン、という音と共に矢が地面に刺さった。あと数センチズレていれば、肩を貫いていただろう。
心臓がうるさい。足がすくんでしまっている。第二射の光が見え、逃げなくてはいけないのに動けない。
唯一望んでいた、魔術師の顔を見るということも叶わず、私は死んでしまうというのか。
——ああ、そんなの、真っ平ごめんだ。
「Raser le sol」
唇から、以前何かで読んだ文字が流れる。私の指が触れていた、地面が割れた。
「Scatter sur le sable」
何でもいい。生きたい。私はこんなところで死にたくない詠唱を続けると砂埃が辺りを覆い、私の姿を眩ませる。
「Laissez-vous emporter avec vous」
令呪のあるうなじが熱い。訳もわからず、矢に当たらないよう身を縮こませる。すると不意に私の身体をアサシンが抱き上げた。
運ばれるまま砂埃を抜けると、そこは見慣れたアパートの前だった。
ついでにアサシンの服も買うつもりだ。バイト代と仕送りを貯金していた通帳を見て、何も問題ないと判断する。
図書館で読む予定なのは、アサシンの歴史が書かれた小説。フランス革命期の書籍を漁っていれば、すんなり情報が出てきた。
霊体化してついてきたアサシンが微妙な顔をしていたのは、この際無視する。
フランス革命期の話自体は、漫画でいくらか読んだことがあった。しかしそれは、かのマリー・アントワネットなどが主人公の話ばかりで、処刑人までに目が向かなかったのだ。彼はフランスではかなり有名人だったらしい。
フランスの処刑人——Monsieur de Paris。二百年近い世襲によって死刑執行人として生きた、サンソン家の四代目当主。副業として医者の収入があり、低い身分にも関わらず貴族のような暮らしをしていた。本人は慈善家かつ平等論者。敬虔なカトリック教徒。死刑廃止論者で、実際に廃止されたのは彼の死後百八十年経った頃。人道的視点からギロチンを導入。しかし斬首の手軽さ故に、革命と恐怖政治の只中であった彼はその間二千七百人あまりを処刑。熱心な王党派であったが、崇拝するルイ十六世をその手で斬首。
小説に書いてあることを、ただ淡々と脳内にインプットして行く。情報の多さと濃さと、凄惨さに脳がかき回されるような気がした。
『……あまり、良い話ではないでしょう』
一度本を置いて眉間をほぐしていれば、霊体化した彼の声が聞こえた。なるべく不自然にならないように、口元を本で覆いながら小声で返す。
「確かに、一気に読む内容じゃないですね……明日はフランス革命の映画でも観ますか」
『正気ですか……?』
「トラウマだってんなら、別の場所で待機してもらうことになりますね」
『いえ、そんなことはないんですが……』
「んじゃ一緒に見よう。負担でなければ解説してほしい。……レミゼは時期が違うから
参考にならないな」
ポケットから取り出したスマホを操作し、フランス革命を舞台にした映像作品を探していく。とりあえずは、「マリー・アントワネット」と「ダントン」さえ観れば問題ないだろうか。
スマホの時計が、十九時を示す。そろそろ閉館の時間だ。窓の外を見ると、既にどっぷりと陽が沈んでいた。
夜の都会は、田舎と違いかなり明るい。電灯も疎らな山の中とは違い、交通網も発達していて夜遅くまで足があるのが良い。
ここ冬木の新都も例外ではなく、オフィス街を抜けた後にある広場以外は、人通りが多い。
しかし今は聖杯戦争の真っ最中。いつ何処で敵が襲って来るかもわからないこの状況で、長々と出歩くのは得策とは言えないだろう。
「アサシン、周りにそれっぽい敵はいる……?」
『いえ、今は何も感じません』
つらつらと言葉を交わしながら、足早に広場を抜けて行く。敵がいないというのなら、先程から感じるこれは何だ。
『……マスター?』
思えばこの広場にはあまり来たことがなかった。とても寒い。身体の芯からゾクゾクと冷え切っていく感覚がする。人がいないせいなのか?
「マスター、一度休んだほうがいい」
足元のおぼつかない私を支えるように、霊体化を解いた彼が背中をさすってきた。気分の悪さに俯いていると、ベルトで括られた不思議なブーツが見えた。少々コスプレ感が否めないが、暗がりでは特に歩いていても問題なさそうな格好でよかった。
力の抜ける足を叱咤し、彼の腕を掴みながら足を進める。
「早く帰りましょう……ここは、なんだか気分が悪い」
「ああ、貴女は感じやすいのですね」
「……何の話?」
「ここは所謂僕らのような、亡霊が多くいるんですよ。上手く歩けないのでしたら背負います」
「……このままは、色々な意味で危なそうだからお願いします」
まずもって人気のない場所で男女が密着しているのはよろしくない。加えて彼がサーヴァントだと敵にバレてはお終いだ。
背中を向けて屈んだ彼に、遠慮なく体重をかける。すると難なく持ち上げられてしまった。
「重くないですか?」
「サーヴァントですから、これくらいは」
「じゃあ、食料買い込んだら、荷物持ちを……」
目蓋が重い。人におぶられたのなんて、何年振りだろう。身体に伝わる体温と、優しいテノールの子守唄に揺られる。
〽︎Frère Jacques, Frère Jacques,
Dormez-vous? Dormez-vous?
このメロディは聞き覚えがある。手遊び歌の、グーチョキパーの歌のメロディだ。
〽︎Sonnez les matines! Sonnez les matines!
Din, dan, don. Din, dan, don.
彼が歌っているということは、これは元々フランスの曲なのかもしれない。彼についても知らないことがいっぱいある。明日は映画を観て勉強しなくては。
そんなことを思いながら、香水と薬品の匂いのする肩口に顔を埋めた。
数日のうちに、キャスターとランサー、ライダーが脱落したという報せがあった。
ついぞ顔を見ることはなかったが、私たちが普段通りの生活を続けている間に戦争は動いていたようだ。私たち以外が三騎士クラスにバーサーカーというのがどうも、緊張してしまう。
私はといえば、朝はアサシンのご飯を一緒に食べて、昼は大学に通いつつ知識吸収。夜は一日の反省会をしてから布団に潜る日々を送っていた。
図書館の重要そうな本は粗方読んでしまったので、本腰を入れて敵の情報を探ろうかと新都を歩く。
そこまで気配遮断をしているわけでもないのに、敵のマスターと遭遇することがないまま今日まできてしまった。
「私って、マスターとしてのオーラ無いんですかね……」
「オーラというか……貴女が自分から渦中に入ろうとしないから、アサシンのマスターは居ないのでは、と囁かれているのですが」
「初耳だなあ」
並んでたこ焼きを頬張りながら、そんな会話をする。
彼には服を買い与え、出来るだけ実体化してもらっていた。人間らしい生活を送らせるのが目的だが、中々上手くいかない。特に頑なに睡眠をとってくれないあたりが一番の問題としてある。
明日あたりが駄目なら「私はホラーが苦手だから、枕元に立たれると怖すぎて寝られない」などと言いつつ引き摺り込もうかとも考えて、また強引に寝かしつけられる気がしたのでやめた。しかし悔しいことには変わりないので、彼に対しての嫌がらせとして、たこ焼きを食べさせてみたのだが。
「不思議な食感がしますね」
「何で普通に食べてるんだよ……デビルフィッシュじゃなかったのか」
「よければエスカルゴでも食べてみますか?」
「謹んで遠慮します」
そもそもエスカルゴがどういう食料なのかイマイチわかっていないが、多分仕返しとしての軽口だと思うので流しておくことにした。
こんなにダラダラ過ごしていて良いのだろうか。いくら数人の魔術師しか参加していないとは言え、戦争中とは思えない。
「何もなさ過ぎて逆に怖い」
「僕の幸運値が高いので、そのせいかと」
「他の数値はあまり高くないのに……リアルラックって大事なんだな」
逸話によって能力が割り振られるのであれば、彼の幸運値には少し首を傾げてしまう。しかし恐怖政治を生き残ったあたり、悪運だけは強いのだろう。それが本人にとってどれだけ不本意でも、英霊とはそういうものだ。
そろそろ帰ろうかと腰を上げると、周りに人がいないことに気がついた。石畳が紅く染まり、道行く人々の輪郭はぼやけ、生と死の境が曖昧になる。黄昏時だ。
カン、とコンクリートに金属が当たる音に振り向く。そこには現代には似合わない羽帽子を被り、銃刀法のある日本では滅多に見ることができないサーベルを携えた剣士が立っていた。
白いマントに中世ヨーロッパ貴族のような服、羽帽子にサーベル。中世的な美少年……美少女? 敵であるのが残念でならないほどに、好みの容姿だ。
こちらに殺気を向けているからして、明らかにサーヴァント、武器を見るにセイバーだろう。隣を見ればいつの間に着替えたのか、黒いコートに剣を携えたアサシンが私を庇うように立っている。
「……キミのその剣、見覚えがあるな」
男性にしては少し高めの、凛とした声が響く。視線は、アサシンの持つ剣に向けられていた。
「僕にも、貴方の服装には見覚えがある。……出身はフランス、貴族の出か」
「そう言うキミはわかりやすいな。“Épée de Justice”……正義の剣、か」
その言葉にアサシンが、グッと歯嚙みをする。フランス人にとっては、やはり彼は有名人らしい。
調べているうちにわかったことだが、正義の剣はサンソン家の所有の剣。肩の馬は八つ裂きの刑を模していることから、彼の逸話を知っている人間からすれば個人の特定は容易なのだろう。
「宝具解放……します? 真名悟られてるっぽいですし」
「いや、間合いが完全にセイバーの懐だ。一騎打ちでは勝ち目はない。一旦退きます」
「逃がさないよ」
軽く、セイバーが地面を蹴った。一瞬で間合いを詰められたのち、身体に強い衝撃が走る。受け身も取れずに石畳に叩きつけられ、顔を上げた先では彼らが互いの剣を合わせている。
「アサシン!」
「いいから走れ! 出来るだけ遠くまで走って、距離を…………マスター伏せて!」
「え」
反射的に頭を下げると、ガン、という音と共に矢が地面に刺さった。あと数センチズレていれば、肩を貫いていただろう。
心臓がうるさい。足がすくんでしまっている。第二射の光が見え、逃げなくてはいけないのに動けない。
唯一望んでいた、魔術師の顔を見るということも叶わず、私は死んでしまうというのか。
——ああ、そんなの、真っ平ごめんだ。
「Raser le sol」
唇から、以前何かで読んだ文字が流れる。私の指が触れていた、地面が割れた。
「Scatter sur le sable」
何でもいい。生きたい。私はこんなところで死にたくない詠唱を続けると砂埃が辺りを覆い、私の姿を眩ませる。
「Laissez-vous emporter avec vous」
令呪のあるうなじが熱い。訳もわからず、矢に当たらないよう身を縮こませる。すると不意に私の身体をアサシンが抱き上げた。
運ばれるまま砂埃を抜けると、そこは見慣れたアパートの前だった。
