スコティ・ホールドなる鑑識官

・悩みの予知
スコティが執務室に缶詰になるようになったのは、実は最近の話だ。
コイツの勤務態度はまぁ、大概悪い方ではあったが、官舎に戻るのを嫌がるほどではなかったはずだ。
官舎に何かあるのか、はたまた本当に外に出たくないだけなのか、未だにわからない。
分からない、から…相談することにした。
最近できた、友人に…


アキラ「え?同期が仕事場から離れない?」

セス「あぁ、どうにかして官舎に帰るように説得してはいるんだが、なかなか上手くいかなくてな…
 アイツ、手元に仕事があると、永遠とそればかりに掛かりっきりになる。
 前は、そんなことなかったのに…」

アキラ「それは…心配だね。
 でも、それはセスも同じじゃないのか?」

セス「え?オレも?」

アキラ「休暇に職場に顔を出そうとするのも、なかなかに仕事熱心で人のことが言えないんじゃないかって僕は思うかな。
 もちろん、良いところでもあるよ」

セス「だが、アイツのアレは度が過ぎてる…
 班長も、実は仕事熱心が過ぎるとは言われているが、今はその記録をあいつが塗り替えんばかりに今詰めている状況だ。
 オレはどうにかして、あの状況を打開したい。
 力を貸してほしい、店長!」

アキラ「分かったよ。
 まずは、その同期さんの好みの映画は何かな?」

セス「好みの映画か…いや、アイツは映像作品を見るよりマンガが好きだな…
 マイペースな奴だから、映画はほんっとうに興味のあるものしか見ていないように感じる…」

アキラ「じゃあ、好みのマンガはどんなのだい?」

セス「雑多に色々読みあさっているな。
 恋愛もアクションも推理物もコメディも…
 少し前に、アイツの私物棚にあるマンガを読もうとしたら、アイツとは思えん程の素早い手つきで奪い取られて、『これだけはダメ!』って怒られた。
 何故だと問いたら、『これは、お前は知ってはいけない世界だ』とか…意味がわからん…」

アキラ(なるほど、相当なオタクの民と見た…)
 「ならば、ここらへんのアニメ映画はどうだろう?」

セス「ふむ…あ、この映画の表紙!あの私物棚の中にあったマンガと同じだ」

アキラ「どれどれ…うん、これなら大丈夫だと思うよ」

セス「大丈夫って…どういう意味だ?」

アキラ「いやなんでも…
 同期さんと見終わったら、感想聞かせて」

セス「おう!ありがとな、店長!」



意気揚々と六分街からルミナスクエアに戻り、治安局の鑑識課の執務室の扉を叩く。
「スコティは居るか」と声を掛ければ、鑑識課の同僚が「いつものところに」と返してくれる。


セス「ありがとうございます。
 おいスコ!今日の仕事はもう終わりだ!」

スコティ「ふにゃ!?まだ資料まとめ終わってないよぉ!?」

セス「お前の今やってる仕事は急ぎでもなければ明日でもできる仕事だ!
 鑑識課の皆さん、コイツ退勤させときますね」


鑑識課のみんなからは、どうぞどうぞの勢い。
やはり、近頃のスコティの働きぶりは、鑑識課のみんなからもあまりよく思われていないようだ。


スコティ「んぁ〜!まだやるのぉ〜!」

セス「だめだ!このあとの予定は、オレと一緒に官舎で映画を見るんだ!」

スコティ「え?映画…?なんの?」

セス「お前が読んでたマンガのアニメ化されたやつ。えーっと…タイトルなんだっけ…」

スコティ「…セス、わざわざ借りてきたの?」

セス「そうだが?」

スコティ「…わざわざ、六分街まで行って?」

セス「あぁ…え、Random Playを知ってるのか?」

スコティ「…DMの件、スコがやったじゃん」

セス「そうだコイツの仕業だった…
 ま、そのおかげでアキラ店長という友人が増えたのは、不幸中の幸いだったけどな!」

スコティ「…そうなんだ」

セス「…なんだよ、そのトーンは」

スコティ「いや、別に…
 分かった、歩くから地面に下ろして。
 いつまで小脇に抱えてるのさ」

セス「おう、わりぃ」


スコティを地面に下ろすと、すくっと立ち上がり、何やら物思いに更けている感じがする。
そんな同期の様子が気になりつつも、官舎へ向かう。


官舎にある自室に、スコティを招き入れる。
コイツは頑なに、自分の自室には戻りたがらないので、仕方なくオレの自室に上げている。


セス「テレビ、お前の自室の方がデカくなかったか?
 あっちの方が見やすくないのか?」

スコティ「こっちでいい」

セス「相も変わらず頑なで。
 まぁ、もう言うこともなくなってきたし…
 何食べる?」

スコティ「なんでもいい」

セス「わかった。何が出ても文句言うなよ」

スコティ「……」


今日のスコティは、若干…いや、だいぶしおらしい。
最近は、官舎に連れて帰ってもうだうだ文句を垂れていることが多かったが、大人しいのは大人しいで逆に不安になる。


セス「…スコ、今日は大人しいのな」

スコティ「ん…セスがわざわざ、映画を借りてきたからね」

セス「…今の、質問の答えとして適切か?」

スコティ「適切かどうか測るのは君の仕事じゃないと思うよ。こと今回においてはね」

セス「…オレの正論に平気で打ち返してくんの、お前くらいなんだよな。
 よっと、できたぞ」

スコティ「いただきま〜す」

セス「映画もつけるか?」

スコティ「うん、よろしく〜」

セス「おう」


流した映画は、何かの続き物のようだ。
しまった、このマンガは読んだことないから全く内容がわからない。


スコティ「全く内容が分からないって顔してるね」

セス「う…まぁ、な…」

スコティ「そりゃそうだよ。これは前作を知ってないと、今作の流れが全くわからない仕様だからね。
 原作も追ってないセスなら特にね」

セス「うぐ…」

スコティ「でも…スコの気をどうにかしようと思って借りてきたんだよね?」

セス「…そうだ」

スコティ「…その気持ちだけで嬉しいから」


くふくふ、困ったように笑う彼に、オレは幾分真面目な顔をしてスコティに尋ねる。


セス「…スコティ」

スコティ「なぁに?」

セス「最近、なんでそんなに仕事に今詰めてるんだ?
 お前が、前から鑑識の仕事が好きだとは知っていたが、最近のお前は本当に酷すぎるぞ。
 今まで見ていたマンガとか、最近は追えてないだろ?
 どうしてそんなことをしているんだ?」

スコティ「…セスには関係ない」

セス「大アリだ」

スコティ「なんでさ」

セス「お前が遊んでくれなくなるのはイヤだって言ってんだよ」

スコティ「っ…それ、は…」

セス「まさか、オレには言えないことか?」

スコティ「ぅ…」


目を逸らすスコティ。
でも、やがて目を泳がせながらも、こちらをまっすぐ見ようと努力しながらも、スコティがこちらを見る。


スコティ「…セス。怒らないで、聞いてくれる?」

セス「内容次第だな」

スコティ「肯定して、じゃないと話さない」

セス「…分かったよ」

スコティ「…スコね、嫌な予知をした…」

セス「は?」

スコティ「セスが…大変なことになる予知…
 そんなの視ちゃったらさ、どうにかしなきゃって思っちゃって…
 セスのこと、守らなきゃ…その為にはもっと、鑑識の仕事、できるようにならなきゃって…
 思っちゃって…その…」

セス「…不安になってたか?」

スコティ「なってた…」

セス「いつの話だ?」

スコティ「随分前、1ヶ月くらいかな…でも、いつそれが起きるかも分からない…」

セス「そうなのか?」

スコティ「でも、スコの目の前で確実に起きるんだ。
 場所は…どこだかわからないけど、治安局の外なのは確実」

セス「だからずっと、治安局にひきこもってようとしていたのか。
 …お前の能力には、発生条件がある。
 一つ、その予知は目の前で起きる。一つ、その予知は本当にいつ起きるかわからない。
 一つ、その予知は回避は可能だが、必ず起きるものである」

スコティ「…黙っててごめん…
 セスに言われて、思った以上にぼくが取り乱していたんだって、今自覚した…」

セス「全くだ…
 で、その場所は分からないのか?」

スコティ「見たことない場所…
 でもね、もう一つ場所としてあるのが…ぼくの…自室…
 ぼくはテレビの中で、君の惨劇を目撃する…
 どうあがいたって、ぼくが声を出しても届かない瞬間だ…」

セス「はぁ…スコティ、それはもっと早く言ってくれ?
 次からはオレとの約束な?」

スコティ「ん…ごめんね、セスぅ…」


抱きついて泣き出すスコティ。
その背中をポンポンと撫でてやる。
おそらくスコティには、オレがどこにいてその状況になるのか、全くわからないのかもしれない。
画角さえ合えば、回避が可能なはずだが…


セス「要は、お前の部屋に帰らなきゃ起こらねぇんだろ?
 明日、その場所探ししようぜ」

スコティ「…いいの?」

セス「こんなの、さっさと解消するに限るだろ?
 大丈夫。オレはそう簡単に、やられるたまじゃねーからな?
 スコが、こうやって話してくれたら、尚の事だ」

スコティ「…ありがと、セス…」



翌日…
起きれば、スコティはなにやら、いつも持っているパソコンを睨みながら、キーボードを叩いている。


セス「…おはよ、仕事してんの?」

スコティ「おはよセス。
 いや、趣味の資料制作」

セス「仕事とどう違うんだ…」

スコティ「必ずしも仕事に起因するわけじゃないから趣味なの。
 今ね、1ヶ月前のぼくの言葉を探して、分析してるところ」

セス「…お前、自分の発言全部録音してるんだっけ?」

スコティ「そうだね。予知発言時はどうも発言内容をあまり覚えてないことが多いからね。
 だから、ぼくのインカムで録音して溜め込んであるんだ。
 今、AI処理に能力発言時のぼくの発言を抽出してもらってるところ…
 そろそろ出るかな…」


パソコンに表示された情報は、こうだった。


“セス。目の前の横断歩道、車が走り込んでくる。
 あの親子轢かれる”


スコティ「あ、違うこれ一昨日のだ」

セス「なるほど、こういう感じか」

スコティ「まぁ、そういうこと…
 直近の予知発言なのがまずかったね…日時を指定して…」


1ヶ月前の日時に指定し直し、再度AI処理に掛ける。
パソコンに表示された情報は、こうだった。


“…セス…?なに…この生中継…?
 どこで撮ってんだよ、なんだよこれは!?
 違う。これは予知だ…市街地…いや、あれはホロウ内か?
 あの場所、どこのホロウだ…探さ、ないと…”


セス「…ホロウ内部で、オレがやられたのを見た、って感じか?
 だとして、なんで生中継なんだ?テレビがホロウ内を中継するなんざありえねーだろ」

スコティ「そうなんだよね…基本、ホロウ内外からの通信は不可能。
 ぼくのテレビは何の変哲もないし、特殊回線なんて使っていない。
 そして、もっと不可解なのは、そんなチャンネルや番組は今の今まで放送されていない」

セス「…まさか、電波傍受でも入るのか?」

スコティ「正直1ヶ月も経って、君が無事なんだからそういうことなんじゃないかな…
 本当に、二週間前に部屋に戻る用事ができた時は、お前が余計なことをしない事を祈り続けていたよ…」

セス「あー…でも言わないほうが悪い」

スコティ「んー…」

セス「お前がオレに全部打ち明けてくれたら、ここまでお前が弱る必要はなかったんじゃないか?」

スコティ「…時間って、必要だと思うんだ」

セス「…どういうことだよ」

スコティ「ぼくが予知を観測して、すぐさま話したところで、そんなに大事だと捉えるには、難しいと思わない?」

セス「……」

スコティ「だから、セスがぼくのSOSに反応するのを待ってた、のかもしれないね」

セス「…つまり、気を使っていたと…」

スコティ「んー…セスは真っ直ぐでいいねぇ…」

セス「で、市街地のホロウなんだっけ?
 新エリー都内にある6大ホロウのうちとか?」

スコティ「…近々そんな任務は無いはずだし…
 だとしたら、犯罪者が原生ホロウに入る可能性…?」

セス「いや、原生ホロウはどこも封鎖されている。
 ただの犯罪者が容易に入ることはないだろ。
 ましてや、オレがそこまで追えるとは…」

スコティ「だよねぇ、もっと上の人を使うはず。
 じゃあ、共生ホロウかなぁ?バレエツインズとか黒雁街跡地とかぁ…」

セス「でも、それでテレビに映るは何なんだ?」

スコティ「…プロキシが、テレビをジャックして放映したとか?」

セス「意味分かんねー。でもまぁ、その筋が妥当だわな。
 …だったら、もう択は一つだな」

スコティ「え…なに?」

セス「予知どおりの現象を作る」

スコティ「はぁ?何言ってるの…?
 べつに、ぼくが自室に戻らなければ、予知通りにならないだけだよ?そこまでしなくても…」

セス「でも、部屋に戻れないのはダメだろ。
 だったら、さっさと予知通りに動いて解決させちまうのが一番だ」

スコティ「……」

セス「スコティ、これはいずれ起きる事象なんだろ。
 こんな悪あがきして事象をずらそうったって限度がある。
 大丈夫だ、オレは絶対にお前のもとに帰ってくるからさ」

スコティ「…絶対だよ?」

セス「あぁ!絶対だ」

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