エレットとセレナーデの館

玄関の扉の鍵は開いていて、アヴァンは大きく開け放つ。
まさに館というべき広々としたロビーで、埃臭さは感じられない。


アヴァン「中もしっかり掃除されてら。
 やっぱ人住んでんのかもな!」

シュール「お前……
 だとしたら、ずかずか入り過ぎだろ。
 今からでも遅くない、外でチャイムとか探して…」

「そこを動くな」


気の張った声が、ロビーに響く。
大きな階段の上に、フードをかぶった少年がこちらを睨んでいる。


シュール「あーあ、見つかった」

アヴァン「おぅ!もしかして、ここの住人か?
 俺様はアヴァン。
 ちとギルドの依頼で、ここを調べに来たんだけど…」


と、アヴァンが一歩動く。その時、


───ドンッ!!


雷鳴のような、銃声のような音が響く。
アヴァンの足元には、先程までなかった銃痕と硝煙が揺れている。


アヴァン「おわ!?いきなり何すんだ!!」

「言ったはずだ。動くな、と」


男の手には銃…はなく、ただ手で銃の形を作っているだけ。
しかし、その指先からは硝煙の様な煙が上がっている。


アヴァン「そういう能力って訳か。
 へっ、おもしろいじゃね──がぅ!?」


ガッと、アヴァンはシュールに後ろから首根っこを掴まれる。


シュール「何が面白いだ!!
 すまん、こいつが勝手に入るから…
 ここに人がいて、住んでることが分かったから、もうこれ以上調べる必要は無いだろう。
 騒がして悪かった……おら行くぞ」

アヴァン「はーなーせーよー!!
 いやほんとに離して!帰るから!首締まってんの!!」


ギャーギャー騒ぐアヴァンをズルズル引きずりながら、シュールは玄関の扉を目指す。
すると、


「えー、帰っちゃうのー?」

「これは面白くないねぇ、なぁ?エヒナ、エク」

「うんうん!だから、こうしちゃおーよ、バトラ兄さん」


三人の声が響いてきたかと思うと、がちゃん、開け放たれていた玄関の扉が突然締まる。

シュール「なっ!?」
「それを、オレがこーするわけ」


そして扉の周りに黒い粒が集まり、扉をがっちり固定される。
シュールが扉を引っ張るが、どんなに引っ張ってもまったく開かない。


シュール「ぐっ……あ、開かない!」

「「「あはははは」」」

ゼロ「はぁ…おまえら、いい加減にしろ」

「お前こそ、なぜ外の奴らを頑に拒むんだ?」

「この前、庭で遊んでた時も怒ってさ。
 エヒナ、もっと外で遊びたーい!」

「そうそう!エレットだけ特別ってなんかずるいよ!」

アヴァン「え?エレット?」

ゼロ「それは、お前たちが完全ではないからだ」

「完全って何さ?
 オレたちは、ちゃんと形作られた立派なドールだぜ?」

「パッと見、そこの人間と変わりないしー。
 誰もわからないよ」

「それにそれに、それを言うなら、ゼロだって完全じゃないよね?
 君がえらく言うのって意味わかんない!」

ゼロ「…レイとシズルが決めたことなんだ。
 お前らは大人しくしていればいい」

「それが飽きたって言ってんのー!」

「まぁ、ここに人間が来てるんだ。
 少しは暇つぶしになるだろうなぁ?」

「おにーさんたち、二階の食堂で待ってるからねー」


あはははは、と笑い声と共にドタドタとどこかへ走っていく音がした。
残されたのはアヴァンとシュール、そして頭を抱えるゼロと呼ばれたフードの少年だけだ。


アヴァン「えーと、大変なことになったのか?」

シュール「だいたいお前のせいでな!!」

アヴァン「えー!俺のせいかよー!」

ゼロ「…悪い、うちのイタズラっ子共のせいで…」

アヴァン「いやいや、それはいいんだけどよ!
 …ここ、エレットの家なのか?」

ゼロ「…エレットを知ってるのか?」

アヴァン「あぁ、ウィングズギルドって知ってるか?
 俺はそこのリーダーをしてるんだ」

ゼロ「ウィングズギルド…エレットが話してたあのギルドか。
 アイツは、いつも楽しそうにアンタたちの話をしてくれる」

アヴァン「そりゃよかった。
 で、こっちはシュールな。
 にしても…さっきの扉の黒い砂といい、子どもらしき声といい、ここは一体なんなんだ?」

ゼロ「…そうだな。
 まずは、これを見てもらおうか」


と、ゼロはフードを取る。
そこには、エレットと全くそっくりな顔がそこにあった。


シュール「エレット!?と、そっくり…?」


金髪に琥珀の瞳。
ただ違うとすれば、それが長髪で、後ろに結んであることか。


ゼロ「これは、エヒナもバトラもエクレールも同じ…
 というか、ここに住んでる少年はみな同じ顔だ。
 まぁ、多少の違いはあるだろうが…」

アヴァン「…もしかして、お前たちはクローンなのか?」

ゼロ「そういうことだ。
 オレたちはドールと呼んでいるがな」

シュール「くろーん、ってなんだ?」

アヴァン「見たまんま、同じ顔、同じ体格、おなじ能力を持つ人工人間の事だ。
 で、そのオリジナルは誰なんだ?エレットか?」

ゼロ「いや、オレたちを作った博士…レイ・セレナーデだ。
 彼がオリジナルであり、オレたちの生みの親さ」

シュール「セレナーデ、だからこの館の名が…
 だが、不完全だなんて…」

「そんな事より…あの3人、捕まえに行った方がいいと思いますよ?」


声のする方を見ると、やはりエレットやゼロと同じ顔の少年が、二階の手すりからこちらを見下ろしていた。


「あの子達、うちの中じゃ問題児のトップだからね。
 ほかの子達は隠れてますけど、あの子達は遊びたくてたまらないのだと思います。
 それにあの扉、バトラにやられたんでしょ?
 あれはアイツじゃないと解除できませんよ」

アヴァン「じゃあ、バトラってやつを探せばいい訳だな?」

「そういう事です。
 他の子達にはちょっかいを出さないように言っておきますね」

シュール「お前は、ずいぶん親切だな」

「ボクは、他の人間の観察がしたいだけですからね。
 ここで静観させてもらいますね」

ゼロ「…トルエノは観察が趣味なんだ。
 それは、人間も例外じゃないという訳だ」

アヴァン「ふーん。
 ま、人が寄り付かねぇし、お前らも外に出られねぇんならそういう目で見られても仕方ねぇわなぁ…」

トルエノ「ふふ、大目に見てくださいね?」

シュール「仕方ない…とっととその、バトラって奴を見つけて扉の施錠を解除してもらおう」

アヴァン「ふっふーん!盛り上がってきたなぁ!!」

ゼロ「道案内はオレがする。
 あいつらを捕まえて、レイの元に突き出さねばならんからな」


階段を上がり二階に行き、ゼロが扉を開く。
そこは食堂らしき場所で、長いテーブルの向こうに三人の金髪がいた。
フードをかぶり、片目に包帯を巻いたニタニタと笑っている少年。
一見少女のようにも見える、タンクトップワンピースの少年。
幼そうな仕草に、ダボダボの長袖セーターを着た少年。
どれもエレットの面影があるが、まったく似ていない。


バトラ「よーこそ、セレナーデの館へ!
 俺はバトラ!ヨロシクなぁ!」

エヒナ「エヒナはエヒナだよぉ。
 ふふ、よろしくねぇ」

エクレール「エクだよ!
 エクレールだけど、みんなにはエクって呼ばれてるよぉ!」

バトラ「まぁルールとしてはぁ、俺達を倒したらあんたらの勝ちだ。
 この館を出られるってわけ。
 負けたら…何してもらうかねぇ?」

アヴァン「はんっ、ガキ相手に負けっかよ!
 なんなら、まとめてかかって来てくれてもいいんだぜ?」

エヒナ「もー、ナンセンスだねぇお兄さん。
 まとめてかかったらエヒナ達が圧勝しちゃうよぉ」

バトラ「自信があるのは結構、だがすぐ終わるのはつまらねぇだろ?
 時間はたっぷりあるからな」

シュール「…まぁ、うちのギルド暇だしなぁ」

アヴァン「シュールてめぇそれを言うな!!
 あいにく、こっちは忙しくてね!
 ガキのお守りをしてる暇はねーよ!」

エクレール「むー!ガキガキ煩いなぁ!
 歳取ってるのってそんなに偉いわけー?」

アヴァン「歳の話はしてねーだろ」

ゼロ「…バトラ、最後の忠告だ。
 今すぐ玄関の砂鉄を解け、さもなくば……」


と、ゼロは手銃をバトラに向ける。


バトラ「さもなくばぁ?
 はっ、てめぇに俺が止められるとでも?」

ゼロ「…ばんっ」


どんっ、とゼロの手から放たれた閃光。
しかし、バトラに当たる前に大きな砂鉄の塊に塞がれる。
そして隠すようにバトラ達を覆い始める。


バトラ「俺にアンタの雷は効かねーよ。
 さて、俺達は館内に隠れされてもらうぜ」

エヒナ「エヒナはねー、可愛いところに行こうかなー?」

エクレール「じゃあ!ボクはすごい所に行こーっと!」

バトラ「オレはなぁ…高みの見物でもさせて貰うぜ」


それぞれの高笑いとともに、ばっと、砂鉄が散り、後には誰もいなくなっていた。


アヴァン「っ!?あいつらどこ行った!?」

シュール「最後、それぞれで何か言っていたな…
 …エヒナは可愛いところ、エクレールはすごい所、バトラは高みの見物……何のことだ?」

ゼロ「さぁな、あいつらの考えなんかわかるものか…」


すると、つんつんとテーブルの下からアヴァンのズボンの裾を引っ張る者が…。


アヴァン「ん?なんだ?」


テーブルの下を見ると、そこには無表情の少年が小さなハンマー片手にしゃがみこんでいた。
例に漏れず、エレットに似た少年だ。


ゼロ「トール?何か用か?」


トールと呼ばれた、テーブルから這い出てきた少年はゼロを見ると、


トール「ん(`・ω・´)ノ」


と言い、どこかへ歩き出す。


アヴァン「え?なに、今の?」

ゼロ「ほう、エヒナの隠れ場所を知ってるみたいだ」

シュール「え、今のでわかったのか?」

ゼロ「トールは分かりにくいところがあるが分かりやすい奴だ。
 それに、アイツは兄弟達のことはよく見ているから、どこに行ったのかもなんとなくわかるんだろうな」

アヴァン「おーめちゃくちゃ頼りになる奴だな!」

シュール(…ところであいつ、喋ったか?
 いや、喋るというよりかなんか、表情のようなものが…
 …だが、無表情だったよな?)


首傾げるシュールはさておき、トールの案内で二階の廊下を歩き、とある部屋の前に着く。


トール「ん\_(・ω・`)」

ゼロ「ありがとうトール。
 後で何か礼をしなくてはな」

トール「ん(*´ω`*)」

ゼロ「そうか、タルトパイか。分かった」


満足そうにすると、トールは無表情で去って行った。


シュール「こいつらホントにクローンとやらかよ、個性あり過ぎだろ…」

アヴァン「クローンが必ずしも全く同じとは限らねぇぜ」

ゼロ「あぁ、特にオレ達は似て異なる存在だ。
 オレの能力はエレクトロガンだが、エヒナはエレキレビテーション、バトラはアイロンサンダーだったか…」

シュール「ふーん。
 で、エクレールは?」

ゼロ「エクは…?
 そういや見たことがないな。あいつが能力を使っているところ」

アヴァン「なんだ?一緒に住んでんのにわからねえ奴とかいるのか」

ゼロ「レイに聞けば分かるかもしれないが…
 彼は今忙しい。こんな下らない事でレイの手を煩わせるわけにはいかない」

アヴァン「ふーん。
 じゃ、まずは一戦目、行くか!」



扉を開けると、そこはおもちゃ部屋だったらしい。
そこかしこにおもちゃやぬいぐるみが置かれていたり、乱雑に放置されていたり…。
その奥の大きなぬいぐるみの上に、エヒナがふわふわ浮いていた。


エヒナ「なんか来るの早かったねぇ。
 まぁいいや!いっぱい遊んでくれるってことでしょ?」


つい、とエヒナが指を動かすと、ガタガタとおもちゃやぬいぐるみが揺れ始める。


アヴァン「な、なんだ!?」

エヒナ「ふふーん、エヒナの力はねぇ。
 エヒナを浮かせるだけじゃないんだよねぇ」


ふわっと、おもちゃが浮き上がり、アヴァン達に飛んでくる。


アヴァン「ええ!?ちょ、ぶはっ!?」


アヴァンは避けきれずにぬいぐるみが顔をクリーンヒットする。
シュールとゼロはすっと膝を折って避ける。


シュール「はぁ、やるって言うならしょうがないか」


シュールは立ち上がると同時にレイピアを召喚し、続けて飛んでくるおもちゃを切り伏せる。


エヒナ「ふふ、そうこなくっちゃ」


エヒナはにやりと笑うと、すっと後ろに後退する。


エヒナ「本番はこれからだよ!
 いけぇー!テディちゃん!!」


ず、ずずず…大きなぬいぐるみが宙に浮き、それが襲いかかってくる。


シュール「はっ、舐められたものだな」


シュールは構え、風を纏わせる。


シュール「躍れ、風の剣よ…シルヴィダンス!!」


ヒュゥン!!風を纏ったレイピアで飛んできた大きなぬいぐるみをいともたやすく貫き、引き裂く。


エヒナ「ふ、ふぇ!?」

シュール「ふんっ、なんだ?
 お前の本気はその程度か?」

エヒナ「む、むぅ!まだまだ行けるもん!
 あんたの動きなんて、封じてやるんだから!!」


ビリリッ、シュールの周囲に静電気がまとわりつく。


シュール「…浮遊、ねぇ……」


ふわりと浮かんだシュール。
しかし、大して驚く事もなく、むしろそれを利用するかのようにエヒナに急接近する。


エヒナ「うそっ!?」


シュールはそのまま、片手でエヒナの首を狙い掴みかかる。


エヒナ「ぐっ……」

シュール「悪いが、飛ぶことには慣れていてね。
 電磁浮遊でバランスを崩すとでも思ったか?」

エヒナ「ぅ…かはっ」


苦しそうにするエヒナ。
シュールは静かに、掴んでいた手を下ろす。
エヒナはばたりと倒れ、ゲホゲホと噎せている。


シュール「まぁ、相手が悪かったな。
 …で、アヴァン大丈夫か?」

ゼロ「…気絶してるが」

シュール「……」


シュールは目を回しているアヴァンの元へ近づき、腹を思いっきり踏む。


アヴァン「ぐぇ!?…な、なにすんだよてめぇ!!」

シュール「ぬいぐるみ如きに何気絶してんだばーか。
 次行くぞ」

アヴァン「え?なに?終わったの?」

ゼロ「あぁ、圧勝だった…」

アヴァン「えー、なんかぬいぐるみの綿とかメチャ落ちてるけど…
 …何があったんだよ…」

ゼロ「オレも、よく分からない…色々圧倒的すぎてて…
 外の世界とは凄いのだな…」

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