多部 暁の話

・多部 暁の怒り
兄さんが消えた。
忽然と姿を消したようで、行方不明。
行方不明届けを出すも、それはなぜかもみ消された。

理由は一つ。
彼は、天使の触媒に選ばれたのだという。
この世界を守る武器に姿を変えられる、天使の触媒。
悪しき魔物を討伐する力を有するが、それは無差別に決められる。
それが俺の兄さんだった。

誰が決めたなんて、どうやって決められたかなんて、全くの不明。
ただ、そういうものだから…それだけ。

許せなかった。
そんなこと、あってはならないと思った。
世界を救うから?だから何?
そんなことで、俺の兄さんは触媒にされたというのか!?


その怒りと衝動は、数十年にも渡った。
まず、その組織を突き止めた。
そこには兄さんの姿が目撃された。
でも、それは人間ではなかった。

白い髪に白い肌。
その身体を武器に変化させ、魔物を撃ち抜く姿。
とても人間とは思えない所業だった。
天使の触媒は人間であることを捨てるということ。
戸籍が無くなったのも、彼が人間ではなくなったから。
彼は死んだも同然だったから…。
こんなの、交通事故に遭ったようなものだと思えば聞こえはいい。
けれど、そうだとしても許せなかった。
だから、俺はその組織に入ることにした。
彼を助け出すことができないのであれば、せめて彼のそばにいることを望んだ。
あわよくば彼の、触媒のパートナーになれればとも望んだ。
…流石にそれは、高望みではあったが…。


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パートナー志願試験。
ちょうど彼はパートナーを失った直後だった。
好機だと思っていた。
でも、彼に出会って、俺は絶望することになる…。


アキラ「…サリエル、ですね…?」

ショウタ「そうだよ、オレはサリエル!
 好きな料理はトマト料理!
 君はオレを、ただの武器だって思う人かな?それとも…」

アキラ「兄さん!」

ショウタ「…?」

アキラ「多部 翔太(タベ ショウタ)。貴方は俺の兄さんです。
 俺は多部 暁(タベ アキラ)。貴方の弟です!!」

ショウタ「…ふーん?」

アキラ「ふーんって…」

ショウタ「ごめん、生きてたときのこと?サリエルになる前?の事は、分かんないんだ」


記憶が、無い…?
武器になる為に、天使の触媒になる為には、記憶すらも不要ということか…?
人間を…


アキラ「人間を…なんだと思っているんだ!!!」


パートナー試験は中止になった。
きっと、彼に会うのはこれで最後になるのだろう。
会場で暴れたので、今は薄暗い牢獄の中だ。
そのうち解放されるだろうが、まぁパートナー試験を受けることはできないだろう。
この数十年間、何をやっていたんだろうな、俺は…。
記憶もない兄のことばかり考えて、馬鹿みたいだ。


アキラ「…俺は、これからどうすれば…」


牢獄が開かれる、にしては早い気もする。
司法も暇なのかな…なんて思っていると、向かう先は昨日見た部屋。
パートナー試験…?
そこにまた、あの子がいた。
数十年前の、姿の変わることのなかった白髪の少年。
俺の兄が、慈愛の目でこちらを見つめている。


ショウタ「君のことは思い出せない、それはごめんね。
 でも、君がオレの弟であることはハッキリ分かったよ」

アキラ「兄さん…?」

ショウタ「調べたんだ、君のこと。
 で、もしかして君がここに来たのはオレの為?ありがとう。
 でも、こんな地獄のようなところ来たらだめだって。
 オレは兵器で君はこれからその兵器を扱う兵士にさせられる。
 死ぬまで戦わされるんだ、だから…」


俺は彼の元に歩み寄る。
今度は誰も止めに来なかった。
そして、彼を抱きしめる。


アキラ「…兄さんのそばにいられるなら、俺はどうなろうと構わない。
 兄さんの言ったとおり、俺は兄さんに会うためだけにここに来た。
 オレがここにいられるなら兵士にだってなんだってなってやる。
 兄さん、また一緒に暮らそう?
 兄さんのいるところに俺は居たいんだ」


目をまんまると見開く彼。
やがて諦めたのか、それとも嬉しかったのか。
そっと抱きしめ返してくれた。


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結論を言えば、俺は彼のパートナーにはなれなかった。
どうやら、彼の適性は俺とは合わなかったようで、でも無理矢理にでも使ってみたいと言ってみても困ったように笑った。


ショウタ「まぁ、一度このビデオを見てから考えようか?」

アキラ「兄さん、最近は動画って言うんですよこれ」

ショウタ「え?そうなの?
 えっと、動画…これね、オレの武器形態、狙撃型なの。
 銃になって相手を撃つの、ちなみに銃の形はその人の好みに合わせられるよ。
 でもね、君結構近眼でしょ?」

アキラ「うぐ…」

ショウタ「眼鏡は戦闘中すぐ無くなるものだと思ったほうがいいし、オレの補正も限界がある。
 戦い方を変えてみる手も一応あるけど…
 でも君は、近接型になるもう一つの触媒の方がいいに決まってるよ」

アキラ「それは…そうだとは思うけど…」

ショウタ「それに、戦いは常に苛烈だ。
 君は君の得意を伸ばすべきだ。
 今回は、失うような選択なんて取りたくないし…」

アキラ「え?今なんて…」

ショウタ「な、なんでもない!
 とにかく!もう一つの天使の触媒に会ってみよう!
 話はそれからだよ!」

アキラ「はい…わかりました…」


それが、ある意味大変なことになろうとは…。
この時の俺は考えもしなかった…。
いや、同類はどこにでもいるのかもしれない。
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