プロローグ

・少女は男の二面性に恐怖を覚える
揺れる大型ヘリの中、隣でツカサくんが私の手を握ってくれている。


ツカサ「不安だと思うけど、大丈夫だからね…」

ユウキ「うん…あの、ツカサくん」

ツカサ「なに?ユウちゃん」


ひどく優しい声。
いつも通りというか、まして不安を煽るというか…。


ユウキ「このヘリに乗せられたけど、どこに向かってるの?」

ツカサ「…境界の外」

ユウキ「境界の外…?」

ツカサ「分かる?境界の外」

ユウキ「…うん、人間の住めない危険区域だよね…?
 魔物がいるからって…」

ツカサ「僕達、今からそこに行くんだよ」

ユウキ「それを、倒すの?」

ツカサ「そういうこと」

ユウキ「私、そんな力なんてないのに…」

ツカサ「…あるよ」

ユウキ「え…」

ツカサ「ユウちゃんには魔物を倒す力がある。
 選ばれたんだって」

ユウキ「魔物を倒す力に?」

ツカサ「そう、だから僕と…そこのメガネはそれを補佐する人なの」

ユウキ「そうなんだ…」

「まぁ説明としては合ってるけどさぁ…」


顔を上げると、ショウタがそこにいた。


ショウタ「全く、ずいぶんラブラブなこって」

ユウキ「あわわ、ごめんなさい…」

ショウタ「いいよ。そういう人間らしいところ見れるの好きだから。
 あーツカサくん、邪魔したのは悪かったけど、降りる準備して」

ツカサ「はぁ…じゃ、僕達先に行くから」

ユウキ「あ…気をつけてね」

ツカサ「うん、ユウちゃんも…」


名残惜しそうにツカサくんの手が離れる。
やがて、ショウタくんと共にどこかへ行ってしまう。
外を見れば、パラシュートが落ちてく姿が見える。


アキラ「彼らは先に高台地点に、俺達は地上で奴らを待ち構えることになるでしょう」

ユウキ「はい…」

アキラ「…そろそろこちらも準備しましょうか」

ユウキ「…はい」


降ろされた先は荒れ地の真ん中。
ツカサくんとショウタくんは近くにいない。
遠くの瓦礫のビルにいるのだろうか…。
キョロキョロと辺りを見回していると、アキラさんがこちらへと、手招きで合図してくれる。
私は慌てて彼に付いていく。


アキラ「さて、そろそろ目的のエリアに到着しますよ」

ユウキ「は、はい…」

アキラ「…緊張してるようですが大丈夫ですよ。
 索敵に関してはサリエル…ショウタたちがカバーしてくれますし、貴女は私とのリンクに意識を集中してください」

ユウキ「リンク…こう、でしょうか…」


差し出されたアキラさんの手を触れれば、視界が暗転する。
気づけば、自分は大剣になっていた。


ユウキ《えぇ!?わ、私、どうなってるんですか!?》

アキラ「初期化されていても武器編成は初期化されない…
 初めてなったからヒヤヒヤしたけど、なんとかなるもんだな…」

ユウキ《え?今なんと…》

アキラ「いやぁこっちの話!」

ツカサ『こっちは聞き逃さなかったけど???』


無線からツカサくんの声が聞こえてくる。
また威圧的だ。ツカサくんは相当、アキラさんのことを敵視しているようだ。


ショウタ《まぁまぁ大目に見てあげてよツカサくん!
 今回のことはマジでこっちもびっくりだったんだから〜》

ツカサ『…ユウちゃんのこと、雑に扱ったら許さないからな』

アキラ「貴方、毎回それを言うつもりですか?
 まぁいいですけど…」

ショウタ《それよりN方向2キロ先に敵しゅつげ〜ん。
 今回は上手くやるんだよ?ルーキー?》

ツカサ『…分かってるよ』


アキラさんはため息を吐き、北の方を見る。
黒い獣のようなモノが、のす…のす…とこちらにやってくる。


アキラ「ユウキさん、見えますか?
 あれが今回のターゲットです」

ユウキ《は、はい!見えました!》

アキラ「今から奴らに斬撃を繰り出します。
 それを私と息を合わせて攻撃します、いいですね?」

ユウキ《息を…合わせて…》


すると、ショウタくんがアドバイスをかけてくれる。


ショウタ《頭の中で、自分も剣を振るように心がけてみて?
 ま、実際にやりながらでもいいけど!アキラには何も影響はないから!》

アキラ「あるとすれば威力くらいですね。
 ジャストタイミングだと威力も跳ね上がります」

ユウキ《は、はい…!》

ショウタ《あ、一応君が何もしなくても、アキラがなんとかしてくれるとは思うよ〜!》

アキラ「ショウタ!それはアドバイスにはなりませんよ!」

ツカサ『それは僕も同感…』


通信機越しにツカサくんの呆れた表情が伺える。


ショウタ《テヘ☆
 さぁてそろそろ接敵だ。死ぬんじゃねーぞ野郎共》


ぐおおおお!!!
黒い獣がこちらに気づき、猛スピードで走ってくる。
アキラさんは大剣を構える。


アキラ「──…行くぞ」


まるで大剣を構えているとは思えない振りかぶりで、多くの魔物を切り裂いていく。


アキラ「オラオラ!!どうした雑魚どもがよぉ!!!」

ユウキ《わわ、え、ちょ、ええ!?》


アキラの斬撃が遠くからでも見える。
それを眺めながら、ツカサは周りの魔物を撃ち続けていた。


ツカサ「…前から思ったんだけど、アイツ戦う時キャラ変わり過ぎじゃない?」

ショウタ《たはは…アキラのやつ、バトルスイッチ入ると口調荒くなるんだよね〜。
 ちょーかわいいよあれ》

ツカサ「かわいい…?」

ショウタ《あれ?違った?》

ツカサ「…面白いなら分かるけど…あ、討ちもらし」

ショウタ《面白い…いや、かわいいだね!あれは!
 S2m撃って》

ツカサ「ん」

ショウタ《オレの感性が、あれはかわいいが一番等しいと囁いている!
 N3m通せるっしょ》

ツカサ「いや知らんしっ!」


グワッ!?

ユウキ《今のは!?》

アキラ「ツカサたちの援護射撃だ、気にすんな。
 今は目の前に集中しろ」

ユウキ《は、はい!》

アキラ「来るぜ、でかいやつが!!」


見ると、後ろから大きな魔物がにじり寄って来る。


ユウキ《うわぁ…》

アキラ「…こればかりはユウキさんの力が必要だ。
 必殺技で仕留めるぞ!」

ユウキ《必殺技!?》

ショウタ《あ~横から失礼。
 オレとユウキちゃんには、パートナーと自分に属性付与ができるのよ。
 これは人が潜在的に持っているエレメンタルを活性化させるってやつなんだけど、詳しい説明は後で!
 アキラの属性は風、ユウキちゃんの属性は雷!
 で、それなりにパワーが溜まってると思うからいい感じのところで一気に放つのだ!》

ツカサ『雑説明すんな。ユウちゃん実質初めてなんだよ?』

ショウタ《まぁまぁ、ユウキちゃんなら分かるよ。
 確かに、”君”は初めての経験かもしれない。
 でも、感覚が覚えてるよ。”君は戦いの天才だった”からね!》

ユウキ《感覚が…わ、わかった、アキラさんに合わせてみます!》

ショウタ《その調子!
 オレたちもサポートするから…ね、ツカサくん!》

ツカサ『はぁ…とりあえず奴の動きを止める。
 その次は君達の番だよ…』


ショウタ《即断即決だね》

ツカサ「ユウちゃんの為だ。あまり余計な時間は取らせないよ…サリエル、詠唱!」

ショウタ《りょうかーい♪
 ──“芯から凍れ氷柱よ。狂い藻掻き苦しめ灼熱よ。我は氷、汝は焔、捉えろ──アヴソリュート・ゼロ・ブレイズ”!!》


ツカサくんの撃つ玉が火玉のように方物を描き巨大な魔物へ飛んでいく。
被弾したところから火柱が立ち、焦げる最中、足元はビシリと凍りつく。


アキラ「これで動きが止まった!
 ユウキさん、オレたちも必殺技を!!」

ユウキ《私達の必殺技…》


心の中に一節が湧き出す。
知らない言葉。けれど、知っている力。


ユウキ《いきます、アキラさん!》

アキラ「っ…カマエル、詠唱!!」

ユウキ《──“轟け雷鳴よ。大いなる竜巻よ。
 我は雷、汝は風、穿け──ライジング・トルネード”!!》


突き刺すような稲妻が天から振り刺さる。
そこから何もかもをなぎ倒す竜巻が巻き起こる。
巨大な魔物は耐えられんばかりに膝をつく。


アキラ「これで、終わりだっ!!」


アキラの大剣による一閃にて、巨大な魔物は陥落。
チリとなり消えていく。


ショウタ《ふー…初期化したにしてはなかなか上出来。やっぱ身体は覚えてるもんだねー》

ツカサ『なんか…すっごい不快な言い方』

ショウタ《ほーん?何を思いついたのかなーツカサくんはー?》

ツカサ『あーうるさいうるさい!!』

アキラ「ショウタ、ツカサ。まだ残党は残ってんぞ油断すんな」

ツカサ『僕に命令すんな!!』

ユウキ《あとは残った魔物を倒せばいいんですね?》

ショウタ《そ、あとちょっとだから頑張って〜!》


やがて魔物が一掃される。
あの大きな魔物を倒したあとは、大した難所もなかった。
きっとあの魔物を倒したことで、指揮系統を失ったのだろう。
やがて、ベースに帰還することになる。
その頃には、私の姿は大剣から元の姿に戻っていた。
色々落ち着いたあと、アキラさんが話しかけてくる。


アキラ「…はい、ここまでで不明な点とかありましたか?」

ユウキ「あの…貴方のその言動が最も不明だったは、質問になるのでしょうか…?」

アキラ「はい?」

ショウタ「だーっはっはっは!!!」


後ろで聞いていたらしいショウタくんが大声で笑っていて、ツカサくんも顔を背けて口を押さえている。


ショウタ「ひーっ!!その返しマジ最高!日記に書いとこ…
 あーちなみに、彼のあの輩口調は車のハンドル持つと性格変わるアレと同じだから、気にしなくていいよ!
 つかそのうち慣れる、クセにもなる」

ユウキ「は、はぁ…」

アキラ「や、やめてくださいそういうの…」

ツカサ「……」


我に返ったのか、またムスッとした顔をしているツカサくん。
少し気にしていると、彼もこちらに気づき、笑顔を向けてくる。


ツカサ「…どうしたの?ユウちゃん」

ユウキ「…うん…
 私ってどうなってるの?
 なんか剣になったりするし、変な感じがするんだ」

ツカサ「…本当に気づいてないんだね」

ユウキ「何が…?」

ショウタ「あー…ツカサくん、君から言うかい?」

ツカサ「……」

ショウタ「よし、じゃあオレから言おうか。
 三剣 結城。君には改めて、君に起きてる変化の話をしよう」

ユウキ「変化…?」

ショウタ「端的に言うと、君は紆余曲折あって人間ではない。
 天使の触媒、というものに生まれ変わっている」

ユウキ「…天使の、触媒…?」

ショウタ「本来なら人間だった頃の記憶はすべて置いていくことになる、はずだったんだけど…
 あろうことか君は、その記憶を思い出してしまった。
 人間だった頃の記憶、ツカサくんとの記憶をね」

ユウキ「うん、覚えて…る?」

ショウタ「何か支障があるのかい?」

ユウキ「…多分、ツカサくんのことしか分からない、のかも…?」

ツカサ「え?」

ユウキ「お母さんとお父さんの顔、全然思い出せない…」

アキラ「…通っていた学校や自宅の住所は?」

ユウキ「…思い出せない…」

ショウタ「そこは触媒としての記憶処理が働いてるのか…
 んーよくわからんなぁ…」

ツカサ「…ユウちゃんは、僕が誰なのか分かればいいよ…
 僕は君の恋人。それだけ分かっててくれたら、それでいい…」

ユウキ「ツカサくん…?」

ツカサ「…もう戻ろう。
 色々あって、ユウちゃんも疲れたでしょ?
 はやく部屋に行って休もう」

ショウタ「それには賛成。行こうぜアキラ」

アキラ「ええ…
 …ユウキさん」

ユウキ「…はい?」

アキラ「深く考える必要はありませんよ。
 貴方は、ツカサくんのことを分かっていれば、それでいいと思います」


…今のは、慰めてくれているのだろうか?


ユウキ「…分かりました…」

アキラ「では行きましょうか」


…自分が人間ではなく、天使の触媒だということは理解は、しきれていない。
でも、どこか腑に落ちてる感覚はある。
自分はもう、人間ではない何かだということに…。
でも、それに何か問題があるのだろうか…?
…分からないから、仕方がないか。
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