衝突と兆し

アキラ「で、ツカサさんがこのあと謝る?」

ユウキ「はい!」


洗いざらい、さっきのツカサとの話を全てしたユウキ。
なんの悪びれもなさそうな無垢な顔に、アキラは頭を抱える。


アキラ「…ユウキさん、実はそれ、本人以外からネタバラシされると、謝罪の効力がなくなるといいますか…」

ユウキ「え…そうなんですか!?」

アキラ「あなたも大概天然ですね?
 まぁでも、分かりました。
 彼が君の為に真剣に謝るようでしたら許しましょう」

ユウキ「ご、ごめんね、変なこと言っちゃって…」

アキラ「いいんですよ。
 さて、そろそろ軍勢のお出ましでしょう、構えてください」

ユウキ「分かりました。
 換装──」


ユウキの姿が剣の姿となり、アキラに握られる。


アキラ「じゃあ、さっさと終わらせますか!」


不審な反応があったと通達を受けていたにもかかわらず、魔物たちの動きもいつもどおり。
特に凶悪性のある魔物が含まれていたわけでもなく、すんなりと掃討完了する。


アキラ「はぁ…終わったようだな…」

ユウキ《…拍子抜けですね。警戒してたよりあっさり一掃してしまったような…》

アキラ「そうですね…
 ショウタ、ツカサさん、そちらの様子は?」

ショウタ《ハローハロー、こっちも異常なーし。
 えー、所長がそんなしょうもない嘘つかないと思うけどー》

ツカサ『所詮観測に過ぎないから外しただけじゃないの?』

ショウタ《えー?そんなことあるー?》

ユウキ《…あの、アキラさん…》

アキラ「なんでしょう、ユウキさん」

ユウキ《なんだか、N極の方向に人影が見えるような気がします…》

アキラ「え?人影?」


もちろん、そちらはショウタたちのいる廃ビルではない。
出撃船αは、上空からこちらの様子をうかがっている。
この荒廃した世界に人影がいるわけがない。
だけど明らかに、こちらを見る人影を、4人は確認する。


ショウタ《人影ぇ?誰だあれ》

ツカサ『…流石に遠すぎて見えないな…
 船に望遠で確認してもらったら?』

ショウタ《なるほどその手があったかー!
 んじゃ早速──》


刹那──爆発音が上空から響く。
空を見ると、出撃船αが大破し、空から真っ逆さまに落ちてくるところだった。


ツカサ『は…α船が撃墜された!?』

アキラ「はぁ!?」

ユウキ《どういうこと…?》

ショウタ《ええ!?わかんないわかんない!!
 なんでなんで!?》

ツカサ『…アキラ、人影を見てて。
 僕は船に視線を向けるから』

アキラ「あぁ、わかった」


ツカサがスコープで撃墜された船を見上げる。
それは、大きな風穴が空いており、真っ二つに割れるように落ちてくる。
やがて、ドシャーッン!!と、大きな物音を立て、船が地面に落ちる。


ツカサ『…生きてる人、いなさそうだね…』

ショウタ《すぐに帰れなくなったどうのもあるけど、もしかしてあの人影がやったの!?やばすぎぃ!!》

ツカサ『…アキラ、できるだけ拠点まで撤退しよう。
 とりあえず、廃ビルまで退避して』

アキラ「あぁ…ユウキさん、行きますよ」

ユウキ《うん…
 え…》

「……」


振り返ると、そこには男がいた。
黒髪、黒い服、真っ黒な瞳。
まるで深淵かのような浅黒い男が、こちらを見つめていた。


アキラ「だれだ!?」

「……」

ユウキ《…向こうに人影がない…
 この人が、さっきの…》

「……」


男は静かに、アキラに向けて、銃の形に組んだ手を構える。
そして…


「…ばん」


その声は静かだったが、激痛がアキラを襲うのは一瞬だった。


アキラ「っあ゛ぁっ!!?」


激痛の先を見ると、足から血が流れており、まるでそこに弾丸でも撃たれたかのような、そんな痛み。


ユウキ《アキラさん!?》

ショウタ《え!?アキラどうしたの!?》

ツカサ『いつの間に人影が…
 いやそんなこと言ってる場合じゃない!!』

ショウタ《え?ちょ、待ってこの高さからの廃ビルダイブはらめぇええええ!!!》


ブチッ、通信が切れてしまう。
アンテナを立てていた中継地点エリアから外れた為に、連絡が取れなくなったようだ。
ユウキは換装を解き、アキラを支える。


ユウキ「アキラさん!大丈夫ですか!?」

アキラ「ぐ…あし、が…」

ユウキ「…あなた、一体アキラさんに何をしたんですか…!」

「……」


深淵の瞳は何も映さない。
でも、明らかにユウキを捉えていることには他ならない。


アキラ「…ユウキさん、逃げてください…っ」

ユウキ「え…」

アキラ「コイツはただ者じゃない!!
 アンタまでやられる状態になったら、俺はアイツに…ツカサになんて顔向けすりゃいいんだ…!」

ユウキ「でも…アキラさんを、一人になんてできない…!」


ユウキはアキラの前に立ちはだかり、深淵の瞳を持つ男を睨む。


ユウキ「私が相手です!換装──天使の剣よ!!」


思わず口走った換装呪文。そんなこと言われたことなんてない。
けれど、その手にはユウキが扱えそうな片手剣が握られていた。


アキラ「え!?」

「……」

ユウキ「さぁ、かかってきなさい!!」

「……」


深淵の瞳は目を細めたかと思えば、いつの間にやらその場から消えていた。


ユウキ「え?あれ…?」

アキラ「消えた…」

ツカサ「ユウちゃーん!!」


向こうから走ってくるツカサとショウタが見える。


ショウタ「ほんっとありえない!アンテナも持たずに飛び降りるとか!!
 通信が取れないこの数分間でどうにかなってたらどうす…え、ユウキちゃん…?」

ユウキ「はい」

ショウタ「なんで…剣を持ってるの…?」

アキラ「そう、ですよね…?
 天使の触媒って、自分でも武器を扱えるんですか…?」

ツカサ「…そうなの、ショウくん?」

ショウタ「いやいやいや!そんなことないから!!
 だったらオレが、ツカサにもっと直々に武器レクチャーしてると思わない!?」

ツカサ「それは、そうかも…
 え、ユウちゃんすごい!一人で剣が出せるってこと!?」

ユウキ「えっと…アキラさんを守らないとって必死で気付きませんでしたが…
 私、すごいことしてたんだ…?」


先程まで新たな力を得た彼女を祝福していたが、理由を聞いた途端に、ツカサの目から光が失われる。


ツカサ「アキラを…?」

ショウタ「アキラ、もしかしてケガしてる?
 大変だ、手当てしないと…」

アキラ「あぁ…そうですね…
 それよりも、あっちは大丈夫なんですか…?」

ショウタ「へ?あっち?」


振り返ると、ツカサくんはワナワナと、ユウキに近付き、彼女の肩を掴んでいた。


ツカサ「ユウちゃんは、アキラの為に、武器を持てるようになったの…?」

ユウキ「ん?まぁ…そうかもしれないね」

ツカサ「僕じゃなくて、アキラの為に…?」

ユウキ「ツカサくん…?」

ツカサ「ねぇ…ユウキにとって、アキラって、なに…?」


まるで、迷子の猫のような…いや、そんな可愛いものでないのかもしれない、失望に近い色をしたツカサの目に、ユウキは淡々と答える。


ユウキ「…アキラは戦闘パートナー。
 この戦いを切り抜くためには、彼は必要な存在でしょ?」

ツカサ「…でも…」

アキラ「俺を切り捨てていれば、ツカサ、あんたの邪魔者は消えるとでも?」


ツカサはハッとして振り返る。
アキラは明らかに怒った表情をしていた。


アキラ「アンタにとって、俺は心底邪魔な存在なのは重々承知だよ。
 俺だって、戦闘パートナーでなければわざわざ、アンタの恋人に変化を起こすような状況すら望まなかった。
 でもな、考えてみろ。
 今、俺を失うようなことがあればどうなるか、分かってんか?
 新しいユウキのパートナーが現れるだけだ。
 んで、そいつは一体全体どんなやつなんだろうな?」

ツカサ「……」

アキラ「俺がお前にとって最高に良い、ユウキの戦闘パートナーだなんて言うつもりは微塵もねーが…
 パートナーって、どうやって選ばれているか分かってんのか?
 俺達みてーな志望者だけじゃない。ならば、どこから選ばれているのか…」

ツカサ「…誰だっていうの」

アキラ「…囚人だよ。
 それも、終身刑モノの何人も人を殺した殺人鬼が一番お似合いなんだってよ。
 そんな奴にお前は、ユウキさんを扱わせたいのか?」

ツカサ「え…それ、は…
 …いや、たしかにこの施設ならありえるのか…」

ショウタ「あーそうだね、”そんなこともあったらしい”し、アキラが危惧する理由はなんとなく分かるよ。
 ツカサくん。ここでアキラを失ったら、絶対にユウキちゃんの為にならない。
 それは、君の自己満のために動いてる身勝手な行いだ。
 そしてなにより、オレの弟を殺す気だったの?」

ツカサ「……」

ショウタ「ま、ツカサくんは本当にユウキちゃんに振り切ってるからね…
 本当に、何も見えてないくらいに…
 ホント、若造って感じだね〜」

ツカサ「っ…」

アキラ「ええ、そのとおり。若造って感じですね」

ユウキ「えっと、怒ってないんですか…?」

アキラ「…彼はそういう子でしょう?」

ショウタ「そうそう。そういう奴だしね」


結局は全てユウキの為だと、ショウタもアキラも理解している。
故の諦めを示していると、ユウキが声をかける。


ユウキ「…ねぇ、ツカサくん。
 そういうのって、良くないと思う」

ショウタ「おっとぉ?」


ツカサは目を丸くする。
珍しく、ユウキが真っ向からツカサを意見していた。


ユウキ「アキラさんは、一生懸命ツカサくんに応えようとしてくれてるんだよ!
 ツカサくんの為になるようにって考えてくれてる。
 それじゃだめなの?」

ツカサ「…はぁあ…」


ユウキの話を聞いてか否か、ツカサは大きく息を吸い、アキラを見る。
そして、──


ツカサ「ごめんなさいっ!!」


その場で土下座を繰り出した。


ショウタ「は!?ツカサくん!?」

ツカサ「僕は、本当に意地を張っていた。
 アキラさえ居なくなればという、憎悪に駆られていたのは事実だ。
 ショウタの事も考えず、自分の感情に忠実に、取り戻せたユウちゃんを…ユウキを、他の男に取られまいと、嫉妬に駆られて、躍起になっていた…
 実は、囚人の話はショウタから聞いてたし、考えたら分かることだった…
 僕は本当に、浅はかなことをしていた…!
 今更謝られたって、許されないとは思う。
 でも、謝らせて…ごめんなさい…」

ユウキ「つ、ツカサくん…?」


ユウキはだいぶオロオロとしている。
どうやら、ここまで丁寧に土下座までして謝るとは思ってなかったようだ。
頭を挙げないツカサに、アキラは近づき、肩を持つ。


アキラ「…その謝罪で充分です。
 顔を上げてください」

ツカサ「っ…ごめん」

アキラ「もう謝らないで。
 今までの俺への嫉妬による行動に関しては、その謝罪で帳消しです。
 むしろ、それをよく認めてくれました、ありがとうございます」

ツカサ「え…そんなの、礼を言うことじゃ…」

ショウタ「いーや、ここは素直に受け取っておくところだぜ、若造よ。
 こっちは君より断然大人なんだから!」

アキラ「…まるまる小学年離れた歳なら、大人ぶれるのか…?」

ツカサ「多分、それ今考えることじゃなくね…?」

ユウキ「…ふふ、よかったぁ…
 二人とも、これで仲良くなったってことだね?」

ツカサ「…まぁ、敵視はやめることにする。
 君の為にならないことが証明されちゃったし…」

ショウタ「お前、やっぱどこまで行ってもユウキファーストだな…?」

ツカサ「当たり前でしょ」

アキラ「そういうところがツカサさんだということですよ。
 おや?」


見上げると、2隻目の出撃船がちょうど上空にたどり着いた様子。
アキラの耳に通信が入る。


『こちらβ船。α船との連絡が途絶えた為、救援に来た次第だ。
 現在どのような状況だ?』

アキラ「はい、報告します。
 α船を攻撃した敵は逃走。既に姿はなく、サリエルのレーダーにもカマエルのレーダーにもエネミー反応なし。
 現場状況に関しては、α船壊滅。死傷者不明。
 天使の触媒・カマエル、操縦者アキラ、天使の触媒・サリエル、操縦者ツカサ、ともに無事です」

『了解した、報告感謝する。
 β船を着地させる。
 α船の処理に関してはθ船を派遣し、行うこととなる。
 天使の触媒・カマエル、操縦者アキラ、天使の触媒・サリエル、操縦者ツカサ、そちらで待機せよ』

アキラ「了解。こちらで待機します」


通信が途絶え、上空のβ船がゆっくりと降りてくる。


アキラ「ふう…ところで、あれはなんだったんだろうな…」

ツカサ「君たちが対峙した敵?
 遠くから見てた時、人型に見えたけど…人だったの?」

ユウキ「うん、人だった。
 手銃みたいにして、あの船やアキラさんの足を撃ち抜いてたみたいだけど…弾道も何もなくって…」

アキラ「弾道がない…ショウタ、私の手当をした時、鉛玉等は?」

ショウタ「…ん?え?あぁ…出てないよ。
 でも風穴は空いてたからびっくりだよ〜」

ツカサ「…それ、アキラ歩けるの?」

アキラ「え、そうじゃん。私歩けるんです?」

ショウタ「ん〜…薬液につけたらいけるんでね?」

アキラ「や、薬液?」

ショウタ「たしかねー腕無くなってもどうにかなったんじゃないかなー?
 多分、昔の記録だから詳しいことは分からないけど」

アキラ(そんなこと、日記にも書いてなかった気がする…
 ショウタがただ興味が無かっただけだとは思うが…)

ツカサ「…アキラ、立てる?それとも、背負った方がいい?」

アキラ「え…あぁ…いや、船を待ちますよ。
 お手を煩わせる必要もないでしょうに」

ツカサ「…いや、僕が貸してやるって言ってんだ!
 おらぁ立てやこらぁ!!」

アキラ「ちょ、変なところでムキになるなって…」


すると、コソッと小声でツカサはアキラに話しかける。


ツカサ「…僕は、ユウキを、君に任せることにする」

アキラ「え…」

ツカサ「もちろん、任務の時だけ。
 それ以外のプライベートは全部僕のだから…!」

アキラ「それは、どうぞご勝手に…」

ユウキ「えっと…二人ともコソコソ話してどうしたの?」

ツカサ「何でもないよユウちゃーん」

アキラ「いっだぁああ!!」

ユウキ「ちょツカサくん、アキラさんの足踏んじゃってる!
 ねぇショウくんも、ツカサくんを止めて…
 …ショウくん?」

ショウタ「え…あぁ…
 そーだよ、今までの行いを報いたい気持ちは分かるけど、そこで無理矢理立たせるのはち、が…」


そう、言い終わる前に、ショウタは倒れる。
それは本当に唐突で、それはまるでスローモーションのように、三人には映る。


アキラ「っ…兄さんっ!!??」


アキラの悲痛な叫びが、荒れ地にこだました。


──To Be Continued…
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