第一章:真紅の暴君
・本日は決闘日ナリ
金髪の少女が女王に楯突いている。
怒り狂った女王は兵士たちに首を跳ねるように命令する。
王も命ずる、彼女の首を跳ねろと…。
誰も、女王を止めることができない。
こうなる前に、誰かが止めてあげていれば…。
ジェード「…なんてね。
それを今からするんだよ、エースくん達がね」
──────
ハーツラビュル寮、薔薇の迷路にて…。
クロウリー「これより、ハーツラビュル寮寮長の座をかけたの決闘を行います!
挑戦者はエース・トラッポラ、デュース・スペード。
挑戦を受けるのは現寮長であるリドル・ローズハート」
リドル「…昨日の今日で、まさかボクに決闘を挑むなんてね…
さて、ルールはルールだ、その首輪を外してやろう…
まぁ、すぐ付けることになるんだけどね」
カチャン…とエースとデュースの首輪が外れる。
エース「ふー…息苦しくなくなった!」
デュース「…よしエース、作戦はわかってるな?」
エース「あぁ、ジュゼから貰った作戦、ちゃんと活かしていかないとな!」
リドル「ふぅん?それなりに無い頭で考えてきたんだね?
まぁいいや、それじゃあさっさと始めよう」
ケイト「リドルくん、今日の午後のお茶の用意はどうする?」
リドル「愚問だね。
僕のお茶の時間は毎日きっかり16時と、ルールで決まっている」
ケイト「でも、もう15時半過ぎてるけど…」
リドル「ボクが遅刻をすると思うのか?どうせすぐ決着がつく。
そういうわけで、僕には時間がない。
さぁ、2人纏めてかかっておいで」
「「「いいぞ〜!寮長〜!
軽くひねっちゃってくださぁ〜い!」」」
ハーツラビュル寮生たちが野次を飛ばす。
それを見てグリムがムッとする。
グリム「かぁ〜!カンジ悪いんだゾ!」
ジュゼ「…最初から本気で来そうだね…
気をつけてね」
デュース「あぁ!」
ジェード「頑張れ!エース、デュース!」
グリム「早く勝って、オレ様の首輪も外すように命令するんだゾ〜!」
クロウリー「では、私が投げたこの手鏡が地面に落ちて割れるのがはじまりの合図です。
では………レディー、ファイッ!」
カシャンっ、と音とともにリドルは高らかに唱える。
リドル「オフ・ウィズ・ユアヘッド!!」
エース「え、いきなりっ!?ぐわっ!?」
デュース「っ!」
エースは即座に首輪の餌食になるが、デュースはマジカルペンを振るい、魔法を回避する。
トレイ「回避した!?」
デュース「…いでよッ、大釜!」
デュースはリドルの真上に大釜を召喚するが、ひらりと躱される。
リドル「遅い!オフ・ウィズ・ユアヘッド!!」
デュース「あっ!?」
がちゃんっ!首が重くなり、デュースは膝をつく。
エース「くっそ、詠唱もさせてくんねーのかよ!!」
リドル「ふんっ…その程度でボクに挑もうなど無謀にもほどがあるよ…」
デュース「くそ…」
ケイト「でも…デュースちゃんすごいね…
一回だけだけど、リドルくんのユニーク魔法回避して自分の召喚魔法を発動するなんて…」
トレイ「…防衛魔法の略式詠唱を使った…?
デュースが元々知っていたのか…?
いや、教えたのは…」
トレイは、助け起こしに行くジュゼを眺める。
ジュゼ「惜しかったね、デュース」
デュース「あぁ…すまない、ジュゼ。
期待に応えられなかった…」
エース「あー…ジュゼに教えてもらった防衛魔法の略式詠唱、発動すらできんかったわ…」
ジェード「エースは突っ込み過ぎだよ。
デュースは、どこで学んだんだか…戦うことに場慣れしてるようで」
グリム「でも、勝ててないから意味がないんだゾ!」
リドル「そうだ、君たちは負けたんだよ。
まったく、その程度の実力でよくボクに挑もうと思ったものだ。恥ずかしくないの?
やっぱりルールを破る奴は、何をやってもダメ。お母様の言うとおりだ」
そう言い放つリドル。
彼らの作戦は少なくともジュゼも関わっている。
ジェードにとっても、多少なりとも頭に来る発言ではあった。
ジェード「…ジュゼくん、これ、怒ってもいいよね…?」
まだ静かにキレているジェードに、ジュゼは一瞥し、そっと肩に手を乗せる。
ジュゼ「…防衛魔法は掛けてあげるよ」
キラリと光る感覚。
ジェードはニコッと笑って、リドルに立ち向かう。
ジェード「サンキュー……
リドルせんぱーい?ルールを守るのはとーっても大事だよ?
だけど、無茶苦茶なルールを押し付けることに意味はあるのかね?」
リドル「ハァ?ルールを破れば罰がある。
そして、この寮ではボクがルールだ。
だからボクが決めたことに従えない奴は首を跳ねられたって文句は言えないんだよ!」
ジェード「ならば、すべてのルールに君は説明をつけれるのかい?
それを行う根拠は?歴史的見解は?
今そのルールを守る理由は?」
リドル「これは伝統でありこの寮の決まりだ。そこに説明が必要かい?
そんな簡単なこともわからないなんて、キミは一体どんな教育を受けてきたの?
どうせ大した魔法も使えない親から生まれて、この学園に入るまでろくな教育も受けられなかったんだろう、実に不憫だ」
ジェード「はぁ???
おいおい、その会話のどこに親の話が──」
エース「ふざっっっっけんなよっ!!!」
すると、叫んだエースが突っ走り、リドルをぶん殴る。
「「「寮長を…殴った…!?」」」
ジェード「え、ちょ、えぇ!?」
ジュゼ「ありゃ、エースの方が手が早かったね…」
グリム「右ストレートがきれいに顔面に決まったんだゾ!」
唖然とする観衆の中、エースはリドルを睨む。
リドル「痛…え?ボク、殴られた…?」
エース「あー…もういい。
寮長とか、決闘とか、どうでもいいわ。
子供は親のトロフィーじゃねーし、子どもの出来が親の価値を決めるわけでもないでしょ。
お前がそんなクソ野郎なのは親のせいでもなんでもねーってたった今よ〜くわかったわ!
この学園に来てから1年、お前の横暴さを注意してくれるダチの1人も作れなかった、てめーのせいだ!
そりゃお前はガッチガチの教育ママにエグい育て方されたかもしんないけどさ…
ママ、ママってそればっかかよ!
自分では何も考えてねーじゃん!
何が赤き支配者だ。お前は魔法が強いだけのただの赤ちゃんだ!」
リドル「赤ちゃん、だと…このボクが…」
わなわなと震えるリドルに、ジェードが苦笑いする。
ジェード「あは、おれが言いたいこと全部エースが言っちゃいそぉ」
ジュゼ「もう…どうかと思うけど、そういうの…」
リドル「…何も知らないくせに…
ボクの事、何も知らないくせに…!」
エース「あぁ知らないね、知るわけねーだろ。
あんな態度でわかると思うか?甘えてんじゃねーよ」
リドル「ああああうるさいうるさいうるさい!!黙れぇ!!!!
お母様は正しいんだ!だから、ボクも絶対に正しいんだ!」
怒りの声を上げるリドル。
それをトレイとクロウリーが制止しようとする。
トレイ「やめないかリドル!勝負はついているんだ!」
クロウリー「そうです!
トラッポラくんはローズハートくんに暴行を働いたため失格。
これ以上争いを続けるのであれば、校則違反になりますよ!」
「新入生の言うとおりだ。
もうこんなのうんざりなんだよぉ!!」
べちゃり、誰かがリドルに向かって卵を投げつける。
トレイ「卵…寮生が、投げたのか…?」
リドル「誰だ!ボクに卵を投げた奴は!」
しかし、寮生達は黙ってリドルを見る…いや、睨むだけ。
ジェード「ありゃ…これはこれは…」
ジュゼ「彼らも限界だったようだね…」
すると、リドルは彼らの様子を見て、まるで鍋が吹き出すように笑い出す。
リドル「フ…ハハハ、アハハハハ!!
うんざりだって?うんざりなのはボクのほうだ!!
何度首をはねても、どれだけ厳しくしても、お前たちはルール違反を犯す!
どいつもこいつも、自分勝手な馬鹿ばっかり!!
いいだろう、名乗り出ないなら全員連帯責任だ!!
全員の首をはねてやる!!
オフ・ウィズ・ユア・ヘッド─首をはねろ─!!」
ハーツラビュルの寮生たちの首に、リドルの首輪が嵌められる。
寮生たちは怖がって散り散りに逃げていく。
リドル「アハハハ!どうだ!誰もボクに手も足も出ないだろう!
やっぱりルールを厳守するボクが一番正しいんだ…!」
まさに暴君のそれに、ジェードは嘲笑う。
ジェード「はーぐずってんなー。
癇癪持ちの赤ちゃんこっわ〜w
そりゃあ、魔法封じでねじ伏せたらどうにでもなるけど…それは正しいとは程遠い行為ですなw」
エース「それな、何でも自分の思い通りになるはずないだろ!?
そうやってすぐ癇癪起こすとこが赤ん坊だっつってんの!」
リドル「今すぐ撤回しろ!串刺しにされたいのか!!」
エース「やだね、絶対にしねぇ」
ジェード「客観的に見た事実を突きつけられてお顔真っ赤にしてるなんて、余裕なさすぎw
あ、やっぱり赤ちゃんだ か ら 〜?」
リドル「うぎぃいいいい!!!!」
煽るジェードと反省の色を見せないエースの言葉に、顔を真っ赤にして怒り散らすリドル。
ジュゼはため息を吐く。
ジュゼ「ジェード、それは煽りすぎだ…!」
ジェード「あはー、やりすぎたー…」
ケイト「ガチでやばいって!お前ら逃げろ!」
エース「へ?」
リドル「薔薇の木よ、あいつの身体をバラバラにしてしまえー!!」
メキメキメキ…リドルが魔法で薔薇の木を持ち上げ、今にもこちらに投げ飛ばさんばかりに杖を振り上げている。
グリム「うわぁ!薔薇の木が、集まってくる!!」
デュース「あれ全部で突っ込んでくる気か!?」
ジュゼ「はぁ…俺の龍の鎧で受け止めます、魔法換装かい──」
トレイ「いや、その必要はないぞ、ジュゼ」
ジュゼの行動を静止したトレイが、ドゥードゥル・スートで薔薇の木を止め、トランプにしてしまう。
ついでとばかりにグリムたちの魔法封じの首輪も外れる。
グリム「トレイの魔法で、魔法封じの首輪が外れたんだゾ…!」
ジュゼ「…『ドゥードゥル・スート』は上書き魔法…
それはリドル先輩のユニーク魔法も例外じゃない、ということ…?」
リドル「…トレイが、ボクの魔法を上書きした…?
トレイの方がボクの魔法より優れてるってこと…!?」
トレイ「そんなことあるわけないだろう!
リドル、いったん落ち着いて話を聞け」
リドル「キミもボクが間違ってるって言いたいの…?
ずっと厳しいルールを守って頑張ってきたのに…!
いっぱいいっぱい我慢したのに…!
ボクは…ボクは……信じないぞ!!!!」
喚くリドルに、ジェードはハッと気づく。
リドルは理由はどうあれ否定されることを恐れていた。
そして今、トレイに魔法で抑えつけられ、否定されたと錯覚している。
きっと、リドルの中で信じていた人に否定されてしまったのだ。
ジェード「…呆れた、否定を恐れるなんて…
それじゃあ何も成長できないに決まってる」
ジュゼ「それより、彼がこのまま魔法を使い続けたらまずいことになるよ…!」
ケイト「そうだよ!リドルくん、このままじゃブロットが…!」
クロウリー「これ以上魔法を使ったら、魔法石がブロットに染まりきり、オーバーブロットしてしまう!!」
リドル「ボクは……ボクこそが!!!
絶対、絶対、正しいんだーーー!!!!!」
リドルが掲げた杖の先から溢れるように黒いインクが流れていく。
そして、黒いインクのオーラがリドルを包んだかと思うと、弾ける。
赤黒い煤けたドレス、背後には禍々しく巨大な女王の影…。
リドル・ローズハートがオーバーブロットした──
リドル『ククク……ハハハハハハ!
ボクに逆らう愚か者ども…そんな奴らはボクの世界にいらない…!
ボクの世界ではボクこそが法律。ボクこそが世界のルールだ!
返事は「ハイ、リドル様」以外許さない!!
ボクに逆らう奴らはみんな首をはねてやる!アハハハハ!!』
クロウリー「あぁなんてことだ…!
…私がついていながら、生徒をオーバーブロットさせてしまうなんて…!」
ジェード「なにこれ…能力暴走みたいなやつ?」
クロウリー「オーバーブロットは魔法士が一番避けねばならない状態です。
彼は今、負のエネルギーに囚われて感情と魔力のコントロールを失っている!」
グリム「なんだかよくわかんねーんだゾ!」
デュース「僕もだ!」
ケイト「つまり!闇堕ちバーサーカー状態ってこと!」
ジュゼ「とりあえず、このままだとまずいのは目に見えてわかるね。
最悪、死んじゃうかも」
デュース「死…!?まずいどころの話じゃないぞ!
でも、どうやって止めたら…」
トレイ「っ…お前らは寮生を避難させてくれ」
ケイト「うんうん、ここはけーくんたちにおまかせ♪
って言ってもまずい状況なのは変わんないけど…」
エース「なら、オレにもやらせろ!
ムカつくけど、こんなところで死なれたらそれはそれで困るし!」
デュース「あぁ、目覚めが悪いしな!」
ジュゼ「ジェード、学園長と一緒に寮生の避難を…」
ジェード「っ…でも…」
ジュゼに言い任せられるが、ジェードは戸惑う。
本来なら率先して指揮を取るべきなのはジュゼよりジェードの方だ。
しかし、この世界では彼は魔法がろくに使えない。
それを分かっているジュゼは前に出て、ジェードを守ろうとしていた。
ジュゼ「役目、分かってるだろ…」
ジェード「それはそうだけど…ぁ」
ジュゼが立ち向かったあと、深緑の霊獣がジェードの側に現れる。
まだ隣に居たグリムが、霊獣を見て驚く。
グリム「ふな!?なんだそいつ!?」
ジェード「…なに、今更現れてさ…」
霊獣『…──、──。』
ジェード「は?あれを倒す?お前が?」
グリム「ジェード、そいつと喋ってるのか?」
霊獣『────、──。』
ジェード「ペンダントを…ふーん?
まぁ確かに、お前があの化身みたいなのを倒せば解放されるかもだけど…」
霊獣『──。』
ジェード「は?リドルの方はおれが見ろと!?
お前それどういう…ちっ…聞く前に消えた…
あー、もう、仕方ないなぁ!!」
グリム「ええ!?何を話してたんだゾ!?」
一方、暴れるリドルと対峙するエースたち。
リドルは疲弊するどころか、もっと酷く暴れる一方だ。
エース「おい、このままじゃリドルのやつやばいんだろ!
手立てはないのか!?」
ケイト「オーバーブロットなんて稀だから対処法なんて誰もわからないよ!」
ジュゼ「リドル先輩をどうにかして気絶させる…?
危険かな、でもあの化身と切り離すにしてもリスクが計り知れない…
学園長が他の先生を呼びに行ってるけど、いつまで持つか…」
ジェード「おまたせ☆」
ひょこっと横から現れるジェードに、ジュゼが一番驚いた顔をする。
ジュゼ「ジェード!?いや君は待ってないけど…」
ジェード「そこはただ驚いてほしかっただけなんだけど…まぁいいや。
リドル先輩の隙を作って欲しい。
あとはおれがどうにかする」
ケイト「どうにかって、お前魔法が使えないって…」
ジェード「限定魔法発動の許可が降りたので!」
と、ペンダントをちらつかせる。
デュースはあのドワーフ鉱山でやったジェードの魔法を思い出す。
デュース「もしかして、あの…!
わかった。テメェら全力でカシラに隙作んぞ!!」
エース「命令すんなっての!!」
グリム「ぶなぁ!こうなったらやってやるんだゾ!!」
ジュゼ「…大丈夫、なんだね?」
ジェード「大丈夫、おれを信じて!」
ジュゼ「…わかった。君を信じるよ…!」
エースたちの放った一斉攻撃により、リドルに隙ができる。
リドル『うぎぃいいい!!』
エース「今だ!!ジェード!」
デュース「やってやれ!!」
ジェード「サンキュー!
…深緑の霊獣よ…喰らえ!!“グリーンブラッドファング”!!」
ペンダントから放たれる深緑の霊獣が、リドルを飛び越え、化身を引き裂く。
絹の裂くような悲鳴、ふと意識がどこかへ連れ去られるような感覚。
ばたり、と互いが倒れた。
トレイ「リドル!?」
ジュゼ「ジェード!?」
金髪の少女が女王に楯突いている。
怒り狂った女王は兵士たちに首を跳ねるように命令する。
王も命ずる、彼女の首を跳ねろと…。
誰も、女王を止めることができない。
こうなる前に、誰かが止めてあげていれば…。
ジェード「…なんてね。
それを今からするんだよ、エースくん達がね」
──────
ハーツラビュル寮、薔薇の迷路にて…。
クロウリー「これより、ハーツラビュル寮寮長の座をかけたの決闘を行います!
挑戦者はエース・トラッポラ、デュース・スペード。
挑戦を受けるのは現寮長であるリドル・ローズハート」
リドル「…昨日の今日で、まさかボクに決闘を挑むなんてね…
さて、ルールはルールだ、その首輪を外してやろう…
まぁ、すぐ付けることになるんだけどね」
カチャン…とエースとデュースの首輪が外れる。
エース「ふー…息苦しくなくなった!」
デュース「…よしエース、作戦はわかってるな?」
エース「あぁ、ジュゼから貰った作戦、ちゃんと活かしていかないとな!」
リドル「ふぅん?それなりに無い頭で考えてきたんだね?
まぁいいや、それじゃあさっさと始めよう」
ケイト「リドルくん、今日の午後のお茶の用意はどうする?」
リドル「愚問だね。
僕のお茶の時間は毎日きっかり16時と、ルールで決まっている」
ケイト「でも、もう15時半過ぎてるけど…」
リドル「ボクが遅刻をすると思うのか?どうせすぐ決着がつく。
そういうわけで、僕には時間がない。
さぁ、2人纏めてかかっておいで」
「「「いいぞ〜!寮長〜!
軽くひねっちゃってくださぁ〜い!」」」
ハーツラビュル寮生たちが野次を飛ばす。
それを見てグリムがムッとする。
グリム「かぁ〜!カンジ悪いんだゾ!」
ジュゼ「…最初から本気で来そうだね…
気をつけてね」
デュース「あぁ!」
ジェード「頑張れ!エース、デュース!」
グリム「早く勝って、オレ様の首輪も外すように命令するんだゾ〜!」
クロウリー「では、私が投げたこの手鏡が地面に落ちて割れるのがはじまりの合図です。
では………レディー、ファイッ!」
カシャンっ、と音とともにリドルは高らかに唱える。
リドル「オフ・ウィズ・ユアヘッド!!」
エース「え、いきなりっ!?ぐわっ!?」
デュース「っ!」
エースは即座に首輪の餌食になるが、デュースはマジカルペンを振るい、魔法を回避する。
トレイ「回避した!?」
デュース「…いでよッ、大釜!」
デュースはリドルの真上に大釜を召喚するが、ひらりと躱される。
リドル「遅い!オフ・ウィズ・ユアヘッド!!」
デュース「あっ!?」
がちゃんっ!首が重くなり、デュースは膝をつく。
エース「くっそ、詠唱もさせてくんねーのかよ!!」
リドル「ふんっ…その程度でボクに挑もうなど無謀にもほどがあるよ…」
デュース「くそ…」
ケイト「でも…デュースちゃんすごいね…
一回だけだけど、リドルくんのユニーク魔法回避して自分の召喚魔法を発動するなんて…」
トレイ「…防衛魔法の略式詠唱を使った…?
デュースが元々知っていたのか…?
いや、教えたのは…」
トレイは、助け起こしに行くジュゼを眺める。
ジュゼ「惜しかったね、デュース」
デュース「あぁ…すまない、ジュゼ。
期待に応えられなかった…」
エース「あー…ジュゼに教えてもらった防衛魔法の略式詠唱、発動すらできんかったわ…」
ジェード「エースは突っ込み過ぎだよ。
デュースは、どこで学んだんだか…戦うことに場慣れしてるようで」
グリム「でも、勝ててないから意味がないんだゾ!」
リドル「そうだ、君たちは負けたんだよ。
まったく、その程度の実力でよくボクに挑もうと思ったものだ。恥ずかしくないの?
やっぱりルールを破る奴は、何をやってもダメ。お母様の言うとおりだ」
そう言い放つリドル。
彼らの作戦は少なくともジュゼも関わっている。
ジェードにとっても、多少なりとも頭に来る発言ではあった。
ジェード「…ジュゼくん、これ、怒ってもいいよね…?」
まだ静かにキレているジェードに、ジュゼは一瞥し、そっと肩に手を乗せる。
ジュゼ「…防衛魔法は掛けてあげるよ」
キラリと光る感覚。
ジェードはニコッと笑って、リドルに立ち向かう。
ジェード「サンキュー……
リドルせんぱーい?ルールを守るのはとーっても大事だよ?
だけど、無茶苦茶なルールを押し付けることに意味はあるのかね?」
リドル「ハァ?ルールを破れば罰がある。
そして、この寮ではボクがルールだ。
だからボクが決めたことに従えない奴は首を跳ねられたって文句は言えないんだよ!」
ジェード「ならば、すべてのルールに君は説明をつけれるのかい?
それを行う根拠は?歴史的見解は?
今そのルールを守る理由は?」
リドル「これは伝統でありこの寮の決まりだ。そこに説明が必要かい?
そんな簡単なこともわからないなんて、キミは一体どんな教育を受けてきたの?
どうせ大した魔法も使えない親から生まれて、この学園に入るまでろくな教育も受けられなかったんだろう、実に不憫だ」
ジェード「はぁ???
おいおい、その会話のどこに親の話が──」
エース「ふざっっっっけんなよっ!!!」
すると、叫んだエースが突っ走り、リドルをぶん殴る。
「「「寮長を…殴った…!?」」」
ジェード「え、ちょ、えぇ!?」
ジュゼ「ありゃ、エースの方が手が早かったね…」
グリム「右ストレートがきれいに顔面に決まったんだゾ!」
唖然とする観衆の中、エースはリドルを睨む。
リドル「痛…え?ボク、殴られた…?」
エース「あー…もういい。
寮長とか、決闘とか、どうでもいいわ。
子供は親のトロフィーじゃねーし、子どもの出来が親の価値を決めるわけでもないでしょ。
お前がそんなクソ野郎なのは親のせいでもなんでもねーってたった今よ〜くわかったわ!
この学園に来てから1年、お前の横暴さを注意してくれるダチの1人も作れなかった、てめーのせいだ!
そりゃお前はガッチガチの教育ママにエグい育て方されたかもしんないけどさ…
ママ、ママってそればっかかよ!
自分では何も考えてねーじゃん!
何が赤き支配者だ。お前は魔法が強いだけのただの赤ちゃんだ!」
リドル「赤ちゃん、だと…このボクが…」
わなわなと震えるリドルに、ジェードが苦笑いする。
ジェード「あは、おれが言いたいこと全部エースが言っちゃいそぉ」
ジュゼ「もう…どうかと思うけど、そういうの…」
リドル「…何も知らないくせに…
ボクの事、何も知らないくせに…!」
エース「あぁ知らないね、知るわけねーだろ。
あんな態度でわかると思うか?甘えてんじゃねーよ」
リドル「ああああうるさいうるさいうるさい!!黙れぇ!!!!
お母様は正しいんだ!だから、ボクも絶対に正しいんだ!」
怒りの声を上げるリドル。
それをトレイとクロウリーが制止しようとする。
トレイ「やめないかリドル!勝負はついているんだ!」
クロウリー「そうです!
トラッポラくんはローズハートくんに暴行を働いたため失格。
これ以上争いを続けるのであれば、校則違反になりますよ!」
「新入生の言うとおりだ。
もうこんなのうんざりなんだよぉ!!」
べちゃり、誰かがリドルに向かって卵を投げつける。
トレイ「卵…寮生が、投げたのか…?」
リドル「誰だ!ボクに卵を投げた奴は!」
しかし、寮生達は黙ってリドルを見る…いや、睨むだけ。
ジェード「ありゃ…これはこれは…」
ジュゼ「彼らも限界だったようだね…」
すると、リドルは彼らの様子を見て、まるで鍋が吹き出すように笑い出す。
リドル「フ…ハハハ、アハハハハ!!
うんざりだって?うんざりなのはボクのほうだ!!
何度首をはねても、どれだけ厳しくしても、お前たちはルール違反を犯す!
どいつもこいつも、自分勝手な馬鹿ばっかり!!
いいだろう、名乗り出ないなら全員連帯責任だ!!
全員の首をはねてやる!!
オフ・ウィズ・ユア・ヘッド─首をはねろ─!!」
ハーツラビュルの寮生たちの首に、リドルの首輪が嵌められる。
寮生たちは怖がって散り散りに逃げていく。
リドル「アハハハ!どうだ!誰もボクに手も足も出ないだろう!
やっぱりルールを厳守するボクが一番正しいんだ…!」
まさに暴君のそれに、ジェードは嘲笑う。
ジェード「はーぐずってんなー。
癇癪持ちの赤ちゃんこっわ〜w
そりゃあ、魔法封じでねじ伏せたらどうにでもなるけど…それは正しいとは程遠い行為ですなw」
エース「それな、何でも自分の思い通りになるはずないだろ!?
そうやってすぐ癇癪起こすとこが赤ん坊だっつってんの!」
リドル「今すぐ撤回しろ!串刺しにされたいのか!!」
エース「やだね、絶対にしねぇ」
ジェード「客観的に見た事実を突きつけられてお顔真っ赤にしてるなんて、余裕なさすぎw
あ、やっぱり赤ちゃんだ か ら 〜?」
リドル「うぎぃいいいい!!!!」
煽るジェードと反省の色を見せないエースの言葉に、顔を真っ赤にして怒り散らすリドル。
ジュゼはため息を吐く。
ジュゼ「ジェード、それは煽りすぎだ…!」
ジェード「あはー、やりすぎたー…」
ケイト「ガチでやばいって!お前ら逃げろ!」
エース「へ?」
リドル「薔薇の木よ、あいつの身体をバラバラにしてしまえー!!」
メキメキメキ…リドルが魔法で薔薇の木を持ち上げ、今にもこちらに投げ飛ばさんばかりに杖を振り上げている。
グリム「うわぁ!薔薇の木が、集まってくる!!」
デュース「あれ全部で突っ込んでくる気か!?」
ジュゼ「はぁ…俺の龍の鎧で受け止めます、魔法換装かい──」
トレイ「いや、その必要はないぞ、ジュゼ」
ジュゼの行動を静止したトレイが、ドゥードゥル・スートで薔薇の木を止め、トランプにしてしまう。
ついでとばかりにグリムたちの魔法封じの首輪も外れる。
グリム「トレイの魔法で、魔法封じの首輪が外れたんだゾ…!」
ジュゼ「…『ドゥードゥル・スート』は上書き魔法…
それはリドル先輩のユニーク魔法も例外じゃない、ということ…?」
リドル「…トレイが、ボクの魔法を上書きした…?
トレイの方がボクの魔法より優れてるってこと…!?」
トレイ「そんなことあるわけないだろう!
リドル、いったん落ち着いて話を聞け」
リドル「キミもボクが間違ってるって言いたいの…?
ずっと厳しいルールを守って頑張ってきたのに…!
いっぱいいっぱい我慢したのに…!
ボクは…ボクは……信じないぞ!!!!」
喚くリドルに、ジェードはハッと気づく。
リドルは理由はどうあれ否定されることを恐れていた。
そして今、トレイに魔法で抑えつけられ、否定されたと錯覚している。
きっと、リドルの中で信じていた人に否定されてしまったのだ。
ジェード「…呆れた、否定を恐れるなんて…
それじゃあ何も成長できないに決まってる」
ジュゼ「それより、彼がこのまま魔法を使い続けたらまずいことになるよ…!」
ケイト「そうだよ!リドルくん、このままじゃブロットが…!」
クロウリー「これ以上魔法を使ったら、魔法石がブロットに染まりきり、オーバーブロットしてしまう!!」
リドル「ボクは……ボクこそが!!!
絶対、絶対、正しいんだーーー!!!!!」
リドルが掲げた杖の先から溢れるように黒いインクが流れていく。
そして、黒いインクのオーラがリドルを包んだかと思うと、弾ける。
赤黒い煤けたドレス、背後には禍々しく巨大な女王の影…。
リドル・ローズハートがオーバーブロットした──
リドル『ククク……ハハハハハハ!
ボクに逆らう愚か者ども…そんな奴らはボクの世界にいらない…!
ボクの世界ではボクこそが法律。ボクこそが世界のルールだ!
返事は「ハイ、リドル様」以外許さない!!
ボクに逆らう奴らはみんな首をはねてやる!アハハハハ!!』
クロウリー「あぁなんてことだ…!
…私がついていながら、生徒をオーバーブロットさせてしまうなんて…!」
ジェード「なにこれ…能力暴走みたいなやつ?」
クロウリー「オーバーブロットは魔法士が一番避けねばならない状態です。
彼は今、負のエネルギーに囚われて感情と魔力のコントロールを失っている!」
グリム「なんだかよくわかんねーんだゾ!」
デュース「僕もだ!」
ケイト「つまり!闇堕ちバーサーカー状態ってこと!」
ジュゼ「とりあえず、このままだとまずいのは目に見えてわかるね。
最悪、死んじゃうかも」
デュース「死…!?まずいどころの話じゃないぞ!
でも、どうやって止めたら…」
トレイ「っ…お前らは寮生を避難させてくれ」
ケイト「うんうん、ここはけーくんたちにおまかせ♪
って言ってもまずい状況なのは変わんないけど…」
エース「なら、オレにもやらせろ!
ムカつくけど、こんなところで死なれたらそれはそれで困るし!」
デュース「あぁ、目覚めが悪いしな!」
ジュゼ「ジェード、学園長と一緒に寮生の避難を…」
ジェード「っ…でも…」
ジュゼに言い任せられるが、ジェードは戸惑う。
本来なら率先して指揮を取るべきなのはジュゼよりジェードの方だ。
しかし、この世界では彼は魔法がろくに使えない。
それを分かっているジュゼは前に出て、ジェードを守ろうとしていた。
ジュゼ「役目、分かってるだろ…」
ジェード「それはそうだけど…ぁ」
ジュゼが立ち向かったあと、深緑の霊獣がジェードの側に現れる。
まだ隣に居たグリムが、霊獣を見て驚く。
グリム「ふな!?なんだそいつ!?」
ジェード「…なに、今更現れてさ…」
霊獣『…──、──。』
ジェード「は?あれを倒す?お前が?」
グリム「ジェード、そいつと喋ってるのか?」
霊獣『────、──。』
ジェード「ペンダントを…ふーん?
まぁ確かに、お前があの化身みたいなのを倒せば解放されるかもだけど…」
霊獣『──。』
ジェード「は?リドルの方はおれが見ろと!?
お前それどういう…ちっ…聞く前に消えた…
あー、もう、仕方ないなぁ!!」
グリム「ええ!?何を話してたんだゾ!?」
一方、暴れるリドルと対峙するエースたち。
リドルは疲弊するどころか、もっと酷く暴れる一方だ。
エース「おい、このままじゃリドルのやつやばいんだろ!
手立てはないのか!?」
ケイト「オーバーブロットなんて稀だから対処法なんて誰もわからないよ!」
ジュゼ「リドル先輩をどうにかして気絶させる…?
危険かな、でもあの化身と切り離すにしてもリスクが計り知れない…
学園長が他の先生を呼びに行ってるけど、いつまで持つか…」
ジェード「おまたせ☆」
ひょこっと横から現れるジェードに、ジュゼが一番驚いた顔をする。
ジュゼ「ジェード!?いや君は待ってないけど…」
ジェード「そこはただ驚いてほしかっただけなんだけど…まぁいいや。
リドル先輩の隙を作って欲しい。
あとはおれがどうにかする」
ケイト「どうにかって、お前魔法が使えないって…」
ジェード「限定魔法発動の許可が降りたので!」
と、ペンダントをちらつかせる。
デュースはあのドワーフ鉱山でやったジェードの魔法を思い出す。
デュース「もしかして、あの…!
わかった。テメェら全力でカシラに隙作んぞ!!」
エース「命令すんなっての!!」
グリム「ぶなぁ!こうなったらやってやるんだゾ!!」
ジュゼ「…大丈夫、なんだね?」
ジェード「大丈夫、おれを信じて!」
ジュゼ「…わかった。君を信じるよ…!」
エースたちの放った一斉攻撃により、リドルに隙ができる。
リドル『うぎぃいいい!!』
エース「今だ!!ジェード!」
デュース「やってやれ!!」
ジェード「サンキュー!
…深緑の霊獣よ…喰らえ!!“グリーンブラッドファング”!!」
ペンダントから放たれる深緑の霊獣が、リドルを飛び越え、化身を引き裂く。
絹の裂くような悲鳴、ふと意識がどこかへ連れ去られるような感覚。
ばたり、と互いが倒れた。
トレイ「リドル!?」
ジュゼ「ジェード!?」
