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 最近、見るからにやんちゃしてそうな男に懐かれている。バイト先であるコンビニに良く来るその男は、いつも決まった時間、深夜1時に現れてはコーヒーを買っていくのだが、その度に話しかけてくるのだ。懐っこく笑いながら店員さんなんて呼び掛けて取り留めのない話をする。
 別に忙しい時間帯ではないから、話しかけてくる分にはまあ構わない。最初は適当な返事のみで済ませていたが、毎度毎度のことだったのでこっちが折れて今では会話をしてやっている。
 一人で現れることもあれば、仲間らしい複数人で現れることもある。何が楽しいのかはわからない。話に聞く限り、誰にでもそんな感じらしいのだが、特に懐かれているように思う。
「店員さん!」
 ほら、今日も来た。いつものメーカーの缶コーヒーを持ちながら、見慣れた金髪が近付いてくる。
 多分、ヤンキーの部類なんだろう。一緒にくる仲間らしき奴らも目立つ格好をしているから多分そう。
「今日も来たな」
「うん、会いに来ちゃった」
 そう言ってへにゃりと笑った彼を見て、こちらも笑う。別に懐かれているのは、嫌な気はしない。
 何より彼の顔が好みだからだ。
「今日さぁ、夕立に降られちゃって大変だったんだよ」
「あー、確かに雷鳴ってたな」
「そうそう、もう全身びちゃびちゃ!最悪だった」
 世間話をしながら、レジに商品を通す。彼は鳴れた手付きで電子マネー決済をすると、缶コーヒーを受け取った。
「じゃ、またね」
「はいよ」
 手を振りながら店を出ていく彼を見送って、溜め息を吐く。
 なんだあれ、可愛いかよ。多分そんな気なんてないのだろうけど、なら尚更たちが悪い。
 早い話が、あの客に惚れているのだ。
「どうすんだよ……」
 どうするもなにもないのはわかっている。だって、俺はただの店員で、あいつはただの客。そもそもの話が、同性なのだ。その時点で、この関係が変わるとも思えない。
 だとするのなら、今のまま二、三言葉交わすくらいでいい。
 そう思っていたのがつい一日前の話。
「あれ?おにーさん?」
 その彼に声をかけられた。丁度、酒に何か盛られてホテルに連れ込まれそうになっている時に。
「誰だよあんた」
「その人の友達だけど?」
 彼の見た目がいかついからか、俺に何かしらを盛った男がたじろいでいる。力の入らない身体を引き摺るように動かして、なんとか男と距離を取った。
「彼氏とか、じゃなさそうだな。で、かなり具合悪そうだけど」
「関係ねぇだろ」
「友達がヤバそうなのほっとけないだろ?」
 本音を言うと、別にこの男に掘られても構わなかった。マッチングアプリで男を漁る日々を送っているのだから今更だ。でも、こうなると話がかわってくる。申し訳ないけれど、利用させてもらおう。
「……多分なんか盛られてる」
「は?マジ?」
 彼が男を睨む。なんなら拳を握り締めて今にも殴り掛かりそうな勢いだ。
 彼が男にじりじりと近付いていく。男は舌打ちをすると、そのまま逃げていった。
「……で、大丈夫そ?家まで送ろうか?」
「任す……」
「ちょっと待ってて、水買ってくるから」
 そう言って、彼は近くの自販機へと走っていった。すぐ戻ってきたその手には水が握られている。その優しさに、ほんの少しだけ罪悪感が痛む。
「飲めるか?」
「ん」
 水の入ったボトルを受け取ろうとしたが、力が入らなかった。弛緩剤の類いでも盛られたのかもしれない。手の震えに気付いた彼は、ボトルの口を開けると、慎重に飲ませてくれた。
 優しい。こんなの、好きになってしまう。
「俺ん家この辺だからさ。君が良ければだけど、ウチくる?」
 頷けば、ふっと微笑まれた。肩を貸されて、ありがたく体重をかける。
 そのまま引き摺るように夜の街を後にした。



 中心地に程近い住宅地。そこに彼の住むアパートはあった。朦朧とした意識の中、必死に来た道を頭に叩き込む。出来ればこれを切っ掛けに友達になれたらなんて思うけど、なんの面白味もない自分じゃ不釣り合いかもしれない。それでも希望が捨てきれなくって、着いてきてしまった訳だが。
 階段を上がることが出来ず困っていると、そのまま抱き上げられた。俺、一応190近く背があるのに、だ。重くないわけないのに大丈夫かなんて聞いてみたけども、鍛えているから大丈夫だと言いきられてしまった。そんなの見せられたらもう惚れるに決まっている。いやまあすでに惚れているのだけれど。
 そうして部屋の中に入ると、そのままベッドに下ろされた。部屋一杯に清涼感のある匂いがする。香水だろうか?
「俺ん家連れてきちゃったけど、病院の方が良かったよなぁ……気持ち悪いとかない?」
「はぁ……だい、じょぶ」
「全然大丈夫そうじゃないけど。汗、これで拭いていいからさ。で、薬盛られたって言ってたけど……」
 差し出されたタオルを取ろうにも、身体に力が入らない。気だるさの中、なんとか口を開いて状況を説明する。
「多分、弛緩作用のある薬と……催淫剤盛られてる」
「そっか……はあ!?今催淫剤って言った!?」
「酒も入ってるからぼーっとしてて、さ。放っておいてくれて大丈夫だから……」
「……そう言う訳にもいかないだろ」
 溜め息を吐いた後、タオルを持った彼が隣に座る。流れ落ちていく汗を優しく拭かれて、それだけで勃つかと思った。
「口から入ったなら吐かないと。苦しいかもだけど我慢な?」
 横を向かされて、薄く開いた口に指を突っ込まれる。噛んでしまわないように気を付けながら舌先で押すが、彼は出ていってはくれなかった。
「ぐっ、うぇっ」
 ゆっくりと舌の付け根を押されて、反射的に嘔吐く。胃液がこみ上げてきて、今にも吐きそうだった。彼はサイドテーブルに置かれていたビニール袋を手に取ると、俺の顔の横に置く。
 そこに吐けと言うことだろうか。
「ほら、ゆっくりでいいから」
 指を引き抜かれて、胃の中身をビニール袋に吐き出す。液体しか口にしていなかったからか、とても吐きやすかった。多分、薬も一緒に出せたと思う。
 背中を優しく擦られて、なんだか泣きそうになる。
「はぁっ、あぐっ……」
「落ち着いた?」
 小さく頷けば、彼はビニールに入った吐瀉物を片付けにいってしまった。その背中を見送りながら、上手く動かない手で股間をまさぐる。
 最悪だ、吐きながらイった。
 下着が精で濡れて、張り付いてきて気持ちが悪い。終わってる。だって、善意で吐かせてくれたのに。それなのに、剛直で喉を突かれた時のことを思い出したのだ。人としてどうかしている。
「大丈夫そ?」
 戻ってきた彼は、股間に触れている俺を見て気まずそうに「出てようか?」何て言う。
 そりゃそうだ。そんなとこ見たら普通気まずくてしょうがないだろ。でも、ぽろぽろと目の端から涙が溢れ落ちて止まらない。
「大丈夫?苦しい?」
「……いかないで、ほしい」
 すがり付くように、呟く。こんな名前も知らない男に、面倒事でしかないのに、それでも彼は俺を見捨てることはなかった。
「うん、こう言う時って発散した方がいいって言うし!仕方ないよな!……後で殴らないでくれよ?」
 彼の顔が近付いてくる。真横に寝転がった彼は、そのまま俺をぎゅっと抱き締めた。頭がぼんやりして、今一歩何を言っているのかわからないけれど、期待していいのかもしれない。
 甘えるようにすり寄って、彼の匂いを肺一杯に吸い込む。夢にまで見た温もりに、また涙が滲んだ。それを舐めとって、彼は笑ってみせる。
「ね、名前教えて?」
「……みずき」
「ミズキね、わかった。あ、俺はウーヤンって呼んで」
「うん」
 彼の温かい手が頬に触れる。あっと思った時には、唇が触れ合っていた。



 熱い。身体が溶けてしまいそうなくらい熱い。薬のせいなのかなんなのかわからないが、もうまともな思考なんてなかった。
「っ、うぁ……はぁっ、ん」
 後孔には、すでに彼の陰茎が入り込んでいる。男でも大丈夫なのか不安だったが、萎える気配がない辺り、心配なかったようだ。
 でも、もし声を聞かせて萎えられたら立ち直れそうにない。だから両手で口を押さえてなんとか堪えている状況だった。
「ねぇミズキ、声聞きたいんだけど」
「あ、ぅ……っやだ……」
 押さえている手にキスを落とされる。聞かせてとは言うけれど、好きでもない男の声なんて聞きたくないに決まっている。逃げるように身動ぎをすれば、動くなと言わんばかりに両足を掴まれた。そうして、穿たれた剛直をゆっくり引き抜かれ、ぞくぞくと快感が電流のように身体を駆け巡る。
「大丈夫だからさ、聞かせてよ」
「むりだって……」
「じゃあいじわるしちゃおっかな」
 ぱん、と肌と肌がぶつかる音がして、目の前がちかちか明滅する。腰を打ち付けられたと気付いた時には、無慈悲にも次の衝撃に塗り潰されていた。
「あ゛ぐっ!ぅ、う゛~~~~っ!」
 気持ちよくて、頭が真っ白になる。何も考えられない。いつもと違う多幸感の中、どうしようもなくただ乱れることしか出来ない。
「かわい……ミズキ、今イった?ナカ凄いうねってるよ」
「うるさ、い゛っ!」
 耳元で熱っぽく囁かれて、途端に頭が勘違いしそうになる。こいつは熱に浮かされた俺を助けるために抱いてくれているんだ。別に好きでもない男を。本当に変な奴。
「う、あ゛っ、はぁっ!」
「なんか違うこと考えてる?」
 ぐちゅぐちゅと音を立てながら陰茎を扱かれて、キャパオーバーの快感に嫌々と首を振る。陰茎からは白濁とした体液がだらだらと流れ落ちていて、イっているのかどうかすらよくわからなかった。
 誰かに抱かれたことはあるけれど、こんなになったことはない。何時だって意識ははっきりしていたし、よっぽど強い薬を使われたのだろう。それか、身体の相性がよっぽど良いか。さすがにそんなわけないか。
「逃げないで」
「あ、あ゛っ!う゛っ、にげてない」
 気持ち良くて、苦しくて、まるで溺れているみたいだった。ばかになった身体が、媚びるみたいに腰を揺らして、その様を見た彼が微笑む。
 やめてくれ、そんな優しい顔で見詰められたら堕ちてしまう。辛うじて残っていた理性をかき集めても、なんの抵抗にもならなくて。気付けばその唇を追っていた。
「キスしたい?」
「言わせんなっ、あ゛ぁっ、分かれ!」
「分かってるけど、聞きたい」
「悪趣味っ!」
 文句を言い終わる前に唇にキスを落とされて、そのまま口内に舌が侵入してくる。それを受け入れて、応えるように絡めれば、多幸感に押し潰されそうになる。
「はぁっ、ちょっと薬抜けてきた?喋れるようになってきたな」
 確かに身体の熱は少しずつ落ち着いては来たけれど、代わりに今にも意識を飛ばしてしまいそうだった。限界が近い。この辺で止めておかないと、後が辛い。わかってはいるけども、離れがたくて。その背中にがりがりと爪を立てる。
「んあ゛、あぁっ!うーやん、」
「ここにいるよ」
 好きだと言いたい。でも、それを言ったら終わってしまうから。
 だから、言わない。
「~~~~っ!」
 ごちゅっと聞こえてはいけない音が身体の中でして、瞬間目の前に火花が爆ぜる。口からは唾液をだらだらと垂れ流し、意味のない喘ぎを溢す。ぐりんと白目を剥いて、そのまま意識を手放したのだった。



 一目惚れだった。
 たまたま立ち寄ったコンビニでダルそうに仕事をしている彼を見て、運命だと思った。
 家から近くもないそのコンビニに毎日通う内、彼は俺のことを覚えてくれた。素直に嬉しかったのを覚えている。
 だから、今日薬で弱りきった彼を見た時、チャンスだと思った。悪魔が家に連れ帰ってしまおうと囁いたのだ。
「ミズキ」
 先程教えてもらった名前を呟く。薬を盛った男には腹が立つが、お陰で彼の名前を知れた。近年はカスタマーハラスメント対策とかでネームプレートに名前がかかれていない。だから、ついさっきまで本当に名前を知らなかったのだ。
 どんな字を書くのだろうか。綺麗な響きのその名前は、彼によく似合う。
 よく眠っている彼の頬に触れる。
 一通り綺麗にしたが、起きたらまず風呂に入ろう。そうして言うんだ。一目見たときから貴方が好きですって。
 
 
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