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初夜である。
恋人と過ごす、初めての夜。言い方を変えるなら、これから俺たちはセックスをする。そのためにわざわざラブホテルに来た。
相手は年下なのだ。自分がリードしてやらないと、なんて考えて、自信満々にお前は寝ておけなんて言ってしまったが、俺だって経験なんかあるわけがない。
あいつがシャワーを浴びている間、慌ててネットで調べたが、全部右から左だった。全然集中が出来ない。そりゃそうだ。そもそもの話、誰かを好きになることさえ初めてなのだから。
「ミズキ、シャワー空いたよ」
半裸の彼がタオルを片手に部屋に入ってくる。相変わらず、とんでもなく格好いい身体つきだと思う。もう、どうしようもないくらいベタ惚れなのだ。
「ん、わかった。準備してくるき、いいこにしとって」
そう言って部屋を出る。準備、と言ったが、失敗したくなかったので腹の中の洗浄は家で済ませてきている。どちらかと言えば、必要なのは心の準備だ。
「どうしよ」
彼と会うときは、何時だって経験豊富な自分を演じてきた。ボロがでないように必死に取り繕って、だ。自分で自分の首を締めている自覚はある。あるけれど、始めてしまった以上は引くに引けなかった。
ポルノで見た女のようにすればいい。自信満々で、フェラして笑ってやるんだ。……いや、フェラってどうやるんだ。ただ舐めただけじゃダメだよな。気持ち良くしてやらないと。そんなことを考えながら、思わず頭を抱える。
本当に出来るのか?初夜。
そも、拡張だってしたことのない身体だ。その、とてもじゃないが、挿入るとは思えない。でも、来てしまった。今も多分、彼はベッドの上で待っている。
「だー、もう!なるようにしかならんばい」
そう、あれやこれや悩んだって、来てしまった以上は仕方がないのだ。全ては己の意味のわからんプライドのせい。半ば自暴自棄になりながら蛇口を捻ると、とっととシャワーを浴びて部屋に戻ることにした。
部屋に戻ると、想像通り彼はベッドの上に座っていた。股間のイチモツをバキバキに勃起させながら気まずそうにしているのを見て、アンバランスさに思わず吹き出す。
「おかえり」
「面白すぎん?」
「だって、どうにもならなかったんだ」
そんな彼が愛おしくて、早く触れてやりたくて近付く。至近距離で目が合って、それで。伸ばされた彼の手が頬を撫でる。温かいそれに猫のようにすり寄って、笑ってみせた。
「ミズキ、好き」
「知っとる」
「ミズキは言ってくれないの?」
「ははっ、俺だって好いとるよ」
どちらからともなく、唇を重ねる。ティーンのような、触れるだけのキス。それだけで心臓が張り裂けそうなくらい高鳴って、うるさいくらいだった。
心が通じ合ってるみたいで、嬉しくて何度もキスをする。すると、急に隙間に舌を差し込まれた。途端に湿度を増す口付け。逃げ場もなく歯列をなぞられて、ぞわぞわと鳥肌が立つ。嫌じゃない。嫌じゃないけど、性的で、羞恥が勝つ。
「んんっ、」
こちとらキスだって初めてなのに。そんなことを知らない彼は、欲望のまま俺の口内を蹂躙する。上手いかどうかとかはわからない。だって、本当に経験がないのだ。比べようがない。
彼の手が肌を滑る。擽ったくて身動ぎをすれば、彼の穢れを知らない瞳と目が合った。
「そんな見んなよ……」
「見るだろこんなの。ミズキ、凄くエロい」
ちゅっとリップ音を立てて彼が離れていく。名残惜しくてつい彼を追ってしまった。恥ずかしい。こんなの、想定していない。リードしてやらなきゃって思ってたのに、キスだけでこのザマだ。
「ミズキ?」
「あっ……」
そうだ、こんなんじゃいけない。ちゃんと気持ち良くしてやらないと。上手く出来るかわからないけれど、やってやる。
「舐めちゃるき、見とって?」
「えっ、ちょっと」
うっそり笑ってみせて、彼の陰茎に手を伸ばす。良かった、ちゃんと勃ってる。一安心しながらそこに顔を近付けると、ボディーソープの匂いがした。ポルノの見様見真似でアイスでも舐めるように舌を動かす。
「ふふっ、擽ったい」
ちゅっと吸い付いて、口内に招き入れると出し入れを繰り返す。でも、あんまり気持ち良さそうじゃない。
「ミズキ?」
思わず動きを止めて、泣きそうになりながらすがり付くように彼を見る。プライドも何もない。年上なのに情けなくってしょうがないが、本当どうしたらいいのかわからないのだ。
「ウーヤン、俺どうしたらいい?」
「……ごめん、ミズキが困ってるの可愛くてさ。仕切り直ししよう」
顎を擽るように撫でられて目を閉じる。そのままベッドに押し倒されてぎゅうっと抱き締められた。
「俺、ウーヤンしか知らない」
「うん、知ってる」
至近距離で彼が言う。そのままキスを落として、ふっと笑った。知られていたことが恥ずかしくて、思わず両腕で顔を隠す。
「俺だって男は初めてだよ」
「男はって言った」
「そりゃ、まあ人並みには、ね?」
首筋に吸い付かれて、肌に赤い跡が散る。見様見真似で同じように吸い付いてみるが、上手く跡が残らない。
「ふふっ」
「笑うなばか」
繰り返し何度か吸っていたら、うっすらだけど跡を残すことが出来て、一旦これでいいかと満足する。何か言いたげな彼には敢えて言及しない。なんか腹が立つし。
ふと、身体を撫でていた彼の手が股間に伸ばされる。人に触られたことなんてないから、急な快感にびくりと身体が跳ねた。自分でだっておざなりな処理しかしてこなかったのだから当たり前か。
「ひっ」
「可愛い」
ゆっくり見せ付けるように扱かれて、その動きから目を逸らせない。他人の手でもたらされる快感は甘美で、気を抜いたらすぐにでも果ててしまいそうだった。
「ん、ぁ……っ、ふぅっ」
声が出そうになるのを手を口に当てて必死で耐えていると、その手にキスを落とされて……。彼はふっと微笑むと耳元で「声、聞かせて?」なんて囁いてくる。
ぶわっと血が沸騰したように熱くなって、恐る恐る手を離す。なんてことするんだこいつは。俺を殺す気か。口に出かけたけれど、すぐに快感に上書きされてその言葉がこぼれ落ちることはなかった。
「あ、あぁっ……!」
気持ちがいい。触れられているところから溶けてしまいそうだ。そうして二、三度扱かれて、俺は彼の手の中で果てた。
「うっ、んんっ」
人生で一番出たかもしれない。ぼーっとする頭で、次はどうしたらいいのか考える。
やっぱり、任せっぱなしは性に合わないから。
「……次はどうしたらいい?」
「じゃあさ、同じように扱いてよ。真似してみて?」
彼は俺の手を取って、がちがちに勃起した陰茎へと導く。俺のよりでかい。背、小さい癖に。
言われた通り、見様見真似で彼の陰茎を扱く。彼の瞳がぎらついて、捕食者のようだと思った。悩ましげに歪められた眉。少し開いた口元から目が逸らせない。
吸い寄せられるように触れるだけのキスをすれば、そのままかぶり付かれた。
「ふっ!」
じゅるじゅるといやらしい音を立てながら唾液を啜られて、背筋に柔い快感が走る。舌を誘い出されて、絡め取ると甘く食まれた。なんだそれ、なんだそれ!さっきよりも激しい口付けに、戸惑う。手が止まってるぞ、と視線が訴え掛けてきて、おずおずと手を動かす。
息継ぎの暇さえわからない。苦しくなって離れようとしても、彼は離してくれなかった。酸欠で頭がぼんやりしだした頃、ようやく解放されて、新鮮な空気を必死に吸いこむ。
「はーっはーっ!」
「ごめっ、可愛くてつい……」
殺されるかと思った。俺より年下の癖に!睨み付けるが、何処吹く風で彼は俺の頬にキスを落とす。
「もうちょい握れる?」
「あ、おう」
言われた通り握りこめば、彼は緩く腰を打ち付ける。挿入されてもないのに犯されているような感覚に、自然と息が上がった。彼の熱い吐息が、首筋にかかる。そうして何度か扱きあげると、彼は陰茎を震わせながら果てた。
俺の腹に、彼の精が吐きかけられていく。それを掬い取って舌先に乗せれば、独特の臭みが鼻に抜けた。
「まっず」
「そりゃあそう。と言うか煽らないで……」
そんなつもりはなかったのに囁かれて、かっと顔が熱くなる。
俺、変なことしたかな。心配になって、すがり付くように彼を見れば、ふっと微笑まれた。
「多分だけど今回は挿入らないと思うからこれで終わり」
「えっ?」
今、終わりと言ったか?確かに挿入らないかもと不安になったが、上から退こうとしたのを見て本気だと悟った。
「俺、腹んなか綺麗にしたのに」
「え?出来たの?」
泣きそうになりながら頷けば、彼は嬉しそうに笑ってのしかかってきた。重たい!
「抱かれる気で来てくれたんだ?」
「そりゃ、そのつもりで……」
「じゃあ、ちょっと触ってみようか」
いつの間にかベッドサイドに用意されていたローションを手に取ると、彼は指に絡める。そうして後孔の皺を伸ばすみたいにすりこんできた。未知の感覚に身体を震わせる。そんなとこ、その目的で触ったことなんてないから不思議な気分だ。
「大丈夫、ゆっくりやってこう?」
怯えを察っしたのか、安心させるみたいに耳元で囁かれてびくりと身体を跳ねさせる。不安だったけど、痛みはない。違和感は凄いけど、まだ我慢出来る範囲内だ。
「うっ、なんか、変な感じ」
「ここで気持ち良くなるの、結構掛かりそうなんだよな」
確かにネットで調べた時そう出てきた。でも、そんなのどうでもよくって。早く彼と繋がりたいなんてはしたないことを思ってしまっている。
「気持ち良くなくても、いいけん」
「ダメ。俺は君に気持ち良くなって欲しいの」
甘く囁かれて、耳朶を食まれる。ゆっくりやってこう。そう吹き込まれて、ぞわぞわと鳥肌が立つ。
一瞬の間を置いて、体内を探っていた指がある場所を捉えた。びりっとした刺激。それは間違いなく快感だった。
「へ?」
「ここかな?」
そこが前立腺だと知るのはずっと後のことになる。叩かれたり捏ねられたりする度、まだ弱くはあるが快感が走って、びくびくと身体が勝手に跳ねて、どうしようもなく焦れていく。
「あっ、んあっ……!なんか、へん!」
「変じゃないから安心して?」
可愛いだのなんだの囁かれながら、キスの雨を浴びる。もうこの時点で俺は年下の恋人にメロメロで、何をされても構わないとさえ思っていた。
本当に、どうかしてる。
「あぐっ、それ、やっ……うまくいけないっ」
「やっぱり?最初はこっちも弄ろうか」
そう言って柔く芯のある陰茎を扱かれて、目の前に星が散る。どっちもは無理、頭がついていかない。文句を口にしようとするが、快感に阻まれてうまく喋れない。
「んあっ、はぁっ!まって、とまってぇ!」
「ふふ、待たない」
強すぎる快感に、怖くなって彼にしがみ付く。いつの間にか2本に増やされた指が、ナカを刺激する。自然と腰が揺れて、どんどん追い詰められていく。
気持ちいい。まだ繋がってすらないのに、こんなのおかしくなってしまう。そうして一際強く前立腺を押し潰されて、俺はまた精を吐き出したのだった。
「~~~~っ!」
「あは、可愛い。ミズキ、好きだよ」
耳元で愛を囁かれて、羞恥と多幸感で気が狂いそうだ。ぎくんと身体を強張らせて、先程よりも勢いのない精を吐き出し終えると脱力する。
「いま、それだめっ」
「ん、好きって言うの、ダメ?」
「幸せになっちゃう」
「……なっていいんだよ」
ぎゅうっと強く抱き締められる。本当に?と蚊が鳴くような声で呟けば、強く頷かれて、触れるだけのキスを落とされた。
それだけで、十分だった。