OW
何気ない行動だった。本当に、何の気なしに扉を閉めたら出られなくなったのだ。
鍵が壊れているだとか、何かが引っ掛かっているとかだったらまだ良かった。問題は、壁にでかでかと掲げられた文字にある。
「もしかしてセックスしないと出られない部屋って、書いてある?」
「読むなって。何かの間違いだろこんなの。いたずらか何かに決まってる」
ご丁寧に多言語に渡って書かれたその文言。アレだろ?同人誌とかで見る奴。いや見たことはないけど、知識程度には知っている。
いや、と言うかここ基地だよな?やっぱり誰かのいたずらだろ、これ。しかし扉が開かないのもまた事実であって、思わず眉間に皺を寄せる。
「ワンチャン殴ったら開くとか、まぁないよな……」
結構本気で殴ったが、扉は凹むこともなくそのままそこにあった。ただ手がびりびり痛むだけで、なんの成果もない。横で見ていたウーヤンが心配そうにこちらを見てくるが、痛いだのと言ったら格好悪いのでそしらぬ顔で話しかける。
「貧乏くじ引いたみたいだな。で、どうするよ」
「どうするって……」
壁に書かれた文字を何度も読みながら困惑している彼をしばし眺めた後、考える。助けを呼ぼうと端末を立ち上げるが、通信阻害でもされているのか誰にも繋がらない。
「駄目だ。助けも呼べないみたいだな。そっちは?」
「俺のも駄目」
いよいよ手詰まり感が漂う。するしかないのか、セックス。
そもそもの話、俺たちは確かに恋人同士である。付き合い初めて1ヶ月経ったか経たないかくらいの、だ。まぁ、そこは不幸中の幸いと言うべきか。他の奴と一緒に閉じ込められていたら大事故もいいところだ。だったらとっととセックスしちまえよって?そうはいかない。問題は別のところにある。俺たちは、まだキスさえしていないのだ。
「どうすっか」
暫く考えて出た答えは、耐久戦にもちこむことだった。幸い水はウーヤンがいくらでも出せる。後は、積み重なった荷物の山から食料が出てくればなんとかならないこともない。寝る場所は何故かキングサイズのベッドが置いてあるし、このまま俺たちがいないのがわかったら誰かしらが助けにくるのではないか。いや、そうに決まってる。
「おっ、こっちの荷物、乾パンが入ってるみたいだ」
「マジで?ラッキーじゃん」
段ボールの中から取り出した、乾パンの入った缶詰めを振りながらウーヤンは笑う。この量なら2~3日は持ちそうだ。そうして助けさえ来ればきっとなんとかなる。
……別に、セックスがしたくないわけではない。なんならしたいけど、こう言うのはムードが大事だ。こんななし崩しみたいな形じゃなくて、ちゃんと順序を踏んで付き合っていきたい。
「ミズキ?」
「あ、悪ィ。なんでもねえよ」
そうして、事故みたいな二人っきりの生活が幕を開けたのだった。
で、今。早3日目。残り少なくなった乾パンを分け合いながらぽつりと呟く。
「助け、来ないな」
「まさか気付いてないとか」
「さ、流石にそんなわけないだろ。きっとアレだ。こじ開けんのになんか特殊な器具でも必要なんだ」
それかここが特定されていないかだが。いやでも基地の中なわけだし流石に気付くだろ。どうなってんだオーバーウォッチ。
辛うじてわかる時間にあわせて昼間は鍛練だので時間を潰して夜は寝る。そんな生活をしているが、正直そろそろしんどい。
「ミズキ、もしここから出れたら何がしたい?」
「え?なんだよ。あー、そうだな……そうだ、一緒に旨いもん食いに行こうぜ」
「はは、いいなそれ」
「ほら、そろそろ寝ようぜ?もしかしたら寝てるうちに助けが来るかもしれないし」
そう言ってひとりでベッドに入る。一緒に寝るのは少し気はずかしくって、話し合って交代で使うことに決めたのだ。そうして今日は俺の番。
「うん、そうだな」
床に敷いた布団にくるまるウーヤンを横目に、目を閉じる。ほんと、早くなんとかなってくれ。頼む。
「おやすみ、ミズキ」
「あいよ」
そうして不安を抱えながらも眠りに落ちていった。
どれくらい経っただろうか。ふと、違和感に目を覚ます。なんと言うか、身体をまさぐられているような感覚がする。特に下半身。
「……ウーヤン?」
眠い目を擦りながら下に視線を向ければ、彼が蹲っているのが見えた。
「あ、目覚めちゃったか」
「なん、」
そう言う彼は、俺のまだ勃ってもいない陰茎を握っていた。
「本当は寝てる隙にって思ったんだけど、やっぱり無理だよなぁ」
「な、何するつもりだ」
「何って、セックス?」
瞬間、かっと顔が熱くなる。ウーヤンの口から発せられた言葉に驚いて身動ぎをするが、体勢を変えたウーヤンにそのまま押さえつけられた。
「ほら、すぐ終わらせるって。目を瞑っててくれれば適当にこっちでやるからさ。なんなら俺だって思わなければいいし!声出さないようにするから」
「はあ?」
ウーヤンはそう言ってのけると、何処から取り出したのかローションまみれの手で陰茎を柔く扱く。
「いや、っ、待てって。絶対勘違いしとる!」
恋人にそんな風に触られて、勃たないわけがない。硬さを増すそれを撫でながら、ウーヤンはほっとした顔で笑った。
「良かった。勃たなかったらどうしようかと思った」
「止まれって。と言うか話を聞けっ!」
「だって、セックスしなきゃ出られないんだろ?」
「だからって、お前がどうにかしなくたっていいだろ」
そう叫べば、ウーヤンは顔を歪めた。この顔は知っている。傷付いた時の顔だ。
「だって、俺たち恋人なのに」
「だからこそ、だろ。……悪い、言葉足りんかった。お前の気持ち考えてなかったかもな。こう言うのってムードがあるだろ?大切にさせろよ」
「うぐっ」
言葉にしなきゃ伝わらないよな。そりゃそうだ。擽るように顎を撫でて、薄く開かれた唇にキスをする。お互いを確かめるように、ゆっくり唇を合わせて、身体をぎゅっと抱き締めた。
「なし崩しにお前を抱きたくない」
「でも、それじゃ出られないかも知れないだろ」
「開くって保証もないだろ」
「ないけど、なにもしないよりかはましだ。それに、俺はミズキにだったら抱かれてもいいって思ってる」
「っ」
さらっととんでもないこと言ったな今!そんな場合じゃないけれど、嬉しさで思わず破顔する。
「なあ、抱いて?」
「それ反則なのわかってやっとうと?」
ちゅっと音を立ててキスをして、半ば無理やり彼の身体を引き剥がすとそのままベッドに押し倒した。腕から嫌な音がしたが、今はそんなのに構っていられない。
「そんなんされたら止まれんよ」
「っ、」
驚いたような顔の彼に再度キスを落として、服の隙間に手を差し込む。大切な物に振れるように優しく肌を撫で回せば、彼はくすぐったそうに吐息を溢した。
それが愛おしくて、首筋に噛み付くように跡を残す。何度も何度も繰り返して、花びらを散らしていけば、彼はかあっと顔を赤く染めた。
「なんか、思ってたより恥ずかしいっ」
「今更何言ってんだ。人のちんこ握った癖に」
「それはそうなんだけど」
「やっぱなし、なんてのは聞いてやれないからな」
耳元で吐息混じりに囁いてやれば、彼はこくりと小さく頷いたのだった。
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