終末地

※現パロ

「管理人ー!ただいま!」
 窓の向こう側、帰ってくる学生やら社会人の皆さんに挨拶を返す。嬉しそうに手を降ってくるのはチェン・センユー。305号室の住人だ。
 僕はこのマンション、帝江号の管理人だ。昨今のカスタマーハラスメント対策にと、ネームプレートに管理人とだけ記載していたら管理人呼びが完全に定着してしまって早数ヶ月。まぁ、管理人と言っても僕の担当は通る人の管理と多少の見回りだけなのだけど、ありがたいことに割と楽しく仕事をさせて貰っている。
「管理人。ただいま」
「あ、アルダシル。お帰りなさい」
 彼は404号室の住人。社会人で大体いつもこの時間に帰ってくる。
「ねえ、今日はこの後空いているかい?」
 整った、綺麗な顔が近付いてきて囁いてくる。それは、僕と彼が友達だから。
「……、空いているけど」
「なら、いつもの時間に部屋に来て?」
 彼は気紛れに、こうして僕を部屋に招く。それは別にいい、いいんだけど問題は別のところにあった。
「……わかった」
「うん、待っているね」
 そうして彼は微笑んだ。その顔が眩しくて、思わず目を逸らす。
 エレベーターへ消えていく背中を見送りながら溜め息を吐く。別に嫌ではないんだ。嫌ならそもそもはぐらかして行かなければいいのだから。



 ぐつぐつと頭が煮立っているみたいに熱い。息を吐いて、ぼんやりとする頭に何とか酸素を回そうとするが、開いた口からは情けない喘ぎ声しか出なかった。
「あぐっ」
「ふふ、今ナカが締まった」
「言わないでっ、ああっ」
 身体をわなつかせながら、彼が喜ぶのが嬉しくてきゅうきゅうと彼のそれを締め付ける。僕は今、彼の寝室のベッドで穿たれていた。
「管理人、可愛い」
 これが問題ってやつだ。ただの友達だったら何も問題はないのに、彼と僕の関係は、俗に言うセックスフレンドと言うやつだった。
 きっかけはここで働き初めてすぐ、彼の副業が小説家と言うのを知ったことに始まる。早い話が、推し小説家だったのだ。知った時はまさかと思ったが、話して行くうちにとても趣味が合う事に気が付いて。そうしてあれよあれよと言う間に部屋に招かれて、気付いたら何故だかずるずると身体を重ねる関係になってしまっていたのである。
「あるだしるっ、ちゅうして」
「ふふ、いいよ」
 合わせられた唇。ぺろりと舐められて、そのまま唇を割り開かれる。侵入してきた舌に夢中でしゃぶりついて、そうして口内を好き勝手蹂躙された。
「んんっ、ちゅっ……、うっ」
 鼻から上ずった声が漏れる。気持ち良くって、何度も軽くイキながら、自分からも腰を振る。
 カリ首が前立腺をごりごりと抉り取るように動かされて、目の前がチカチカ明滅した。
 媚びるように足がアルダシルの腰に絡み付く。
「んあっ、ひっ!あるだしるっ、~~~~っ!」
「管理人、好き」
 声にならない声を上げながら感じ入る。アルダシルはいつもこうして僕の事を好きだと言うが、想い人がいることを僕は知っている。だから欲を発散するために、こうして僕を抱くのだ。
「気持ちいい?」
 こくこくと必死に頷きながら、邪魔にならないようになんとか声を我慢する。男の喘ぎ声なんて聞きたくないだろうし、萎えられたら悲しいから。
「あっ、う!ん~~~~~っ!」
 汗がアルダシルの肌を滑り落ちて、僕の頬に落ちてくる。舐めとれば、しょっぱい。こんなに綺麗なのに、彼もちゃんとした人間なのだ。
 腰を掴まれて、そのままぱんっと音を立てながら容赦なく打ち付けられる。瞬間、びくびくと彼の陰茎が震えた。
 ゴム越しに出されている感覚に、身体が歓喜する。ああ、そのままぶちまけて奥にマーキングして欲しいなんて。望んではいけないことを望みながら、余韻に酔いしれる。
「管理人、管理人」
 すり寄ってくる彼を抱き締めて、息を吐く。気持ちよかったと言う感想と同時に、またやってしまったと言う罪悪感に襲われる。
 ずるりと引き抜かれた陰茎に体勢を変えて頬擦りをして、たぷたぷと精液でいっぱいのゴムを取って、さっきまでナカに挿入っていたそれを頬張った。
「そんなことしなくていいんだよ?」
「もごっ、……僕がしたいの」
 忘れられたくなって、せめてでもと始めたそのルーティン。絡み付いた白濁を綺麗に掃除しながら、その剛直に酔いしれる。
 さっきまで埋まっていたナカが切なく疼く。それを見越したように彼の指が後孔に触れて、ふるりと身体が震えた。美しい文字を紡ぎ出すその指で、浅ましく開閉するそこを苛められて、どうしようもなく興奮する。
「はぁっ、きれいになったよ」
 口を開いてそれをずるりと引き抜いて、そのままふらふらと立ち上がる。僕たちに甘いピロートークなんて必要ない。多分求められていないから。
「おふろ、かりるね」
 震える足に力を入れて何とかシャワールームへ歩き出す。だって、僕たちセフレだもん。



 その日は珍しくアルダシルが昼間帰ってきた。横には初めて見る女の人。つんとした雰囲気のその人に、察する。
 ああ、この人がアルダシルが好きな人なんだろう。
「お帰りなさい」
「管理人、ただいま」
 それだけ言うと、アルダシルはすぐにその人に向き直る。
 親密そうな雰囲気でエレベーターに消えていく二人を眺めながら、思いの外ショックを受けている自分に驚いた。
 だから、僕たちはセフレなんだって。
「仲、良さそうだったな」
 少なくとも、自分はあんな顔で喋るアルダシルを知らない。もしかしたら、僕の知らないところでちゃんと告白して恋人になったのかもしれなかった。
「じゃあ、この関係も終わりだね」
 寂しいなんて、とんでもない。だって、それは喜ばしいことなはずだから。アルダシルが嬉しいなら、僕も嬉しい。ストレスからか目眩がして、思わずその場でしゃがみこむ。
「管理人、大丈夫ですか?」
 たまたま帰ってきたペリカが心配そうにこちらを覗き込んできた。いけない、仕事中だ。
「ああ、ごめんね。ちょっと立ちくらみがして……」
「顔色が悪いですよ。ちゃんと休めていますか?」
「うん、大丈夫だよ」
「ならいいのですが……」
 心配そうな彼女に、慌てて立ち上がるとふわりと頭が揺れて。そうしてその場に倒れ込む。
「管理人!」
 遠くで彼女の叫び声がする。ああ、やってしまった。そう思いながら、冷たい床に身体を預けた。



「管理人、この間倒れたと聞いたのだけれど……」
「大丈夫だよ」
 帰ってくる学生に心配をされて、申し訳なくなる。アルダシルに彼女が出来たかもしれないなんて思ったのは口が裂けても言えないな。なんて思いながら手を振った。
「管理人、無理はダメだからね?」
 そうやって心配してくれる彼女らに申し訳なく思いながら手を振った。じゃあねーと窓の前を抜けていく学生達を見送ってしばらくして、例の彼が通りかかる。
「ただいま。身体大丈夫?」
「アルダシル、お帰りなさい。少し無理をし過ぎてしまったのかも」
「管理人は真面目だから」
 少し見つめあってから、自分から話を振る。
「ねぇ、今日この後部屋に行ってもいい?」
「別に構わないけど、君からなんて珍しいね」
「大事な話があるんだ」
「大事な話?」
 思い当たる節がなさそうな彼に微笑んで、手を振る。彼女が出来たのなら、ちゃんとしないとね。
「また後でね」
 不思議そうな彼を見送って、残った自分の仕事を片付けるため立ち上がった。



「ねぇ、僕たちもうやめにしよう?セックスフレンドなんてやっぱり良くないよ」
 部屋に招かれて早々に本題を投げる。コーヒーを片手に固まっている彼に微笑みかけて、泣かないように気を付けながらなんとか平静を装った。
「今セックスフレンドって言った?」
「だって、彼女が出来たんでしょう?好い人そうだったし、アルダシルにお似合いだったよ」
 だから、もう終わり。全部なかったことにして、住人と管理人に戻ろう。そう続ければ、アルダシルは見たことのない顔で震えだした。
「管理人、君はとんでもない勘違いをしている」
「?」
「まず、セフレって言ったけど、僕は君と恋人のつもりだったんだけど」
「え?」
 アルダシルは今なんと言ったか。恋人のつもり?
「あんなに好きって伝えていたのに」
「それは予行練習なんだと思って……」
「それにお似合いだったって、誰の事?」
「この前女性を部屋に連れ込んでいたでしょう?」
「この前?……ネファリスのことかな。彼女は僕の姉だよ」
「似てないのに?」
「腹違いなんだ」
 頭を抱えるアルダシルに、思考がついていかない。え、もしかして本当に僕たち恋人同士だったの?なんて思う。
「これは伝わっていると思っていた僕も悪いね。仕切り直しさせて」
 アルダシルが目の前で膝をつく。そうして僕の手を取って、その手に口付けをした。
「管理人、僕は君のことが好きだ。君以外、何も要らないとさえ思っている。だから、僕と付き合って欲しい」
「君は僕の名前さえ知らないのに」
「だから、教えて?」
 くらりと目眩がする。だって、そんなわけないと思っていたから。
「……そんなの、断れるわけないじゃないか」
 アルダシルの綺麗な瞳が僕を射貫く。そうして小さく名前を告げたのだった。
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