終末地
状況は絶望的だった。後ろには傷付いた皆が居て、それをなんとか守ろうと一歩踏み出す。限界と言う文字が頭に浮かんで、それでもなけなしの力を振り絞って剣を握り締めた。
アルダシルは喋らない。恐怖さえ感じるくらい涼しい顔で、目の前に立っている。
それでも、負けるわけにはいかない。こんなところで諦めたら、皆に顔向け出来ないから。
「くっ……」
身体が軋むように痛む。先程吹き飛ばされた時に何処かが折れているのかもしれない。立ち上がり、踠くように前に進む。
ここで勝てなくても、少しでも時間稼ぎになるのなら何だって良かった。
「アルダシル!」
一瞬、風が頬を撫でる。何が起こったのか、全く分からなかった。腹部の鈍い痛みと共に、意識が霞んでいく。
「管理人!」
ペリカの悲痛な叫びが鼓膜を揺らす。一瞬で距離を詰めてきたアルダシルに腹を殴られたのだ。
「に、にげて……」
胃液と共に辛うじて吐き出した言葉。そうして何とか立て直して欲しい。時間ならいくらでも稼ぐから。
不意に身体がふわりと持ち上げられたような感覚がして、持ち上げられたのだと気付く。抗おううとしたが、何も出来ずにそのまま意識が遠くなっていく。
何もかもが黒に飲まれていく。深く、深く。
「管理人、起きて」
身体を揺すられて、意識が浮上した。目の前には大層面白そうに微笑むアルダシルがいて。痛む身体に、これが夢ではないことを思い知る。
「アルダシル、なんで……」
「殺されるかと思った?」
「っ」
正直、彼の強さは計り知れない。ネファリスの態度からするに、ネファリスでさえ敵わない可能性がある。自分なんて、簡単に殺せてしまうのではないか。嫌な汗が頬を伝う。
咄嗟に距離を取ろうとして、気付く。簡易的なベッドの上で、上部のポールに腕を縛られているのだ。
「管理人は殺さないよ」
そう言って、彼が覆い被さってくる。何をする気なのか分からず、辛うじて自由な足をバタつかせる。抵抗になっていないことくらい理解した上で、それでも何かしないと恐怖に飲まれそうだった。
「何をする気なのか分からないけど、情報なら吐く気はないよ」
「ふふ、まだ諦めていないんだ。ねぇ、管理人。管理人は覚えていないだろうけど、僕達は昔恋人だったんだよ」
予想外の言葉に、思考が止まる。今何と言ったか。恋人?そんなわけ。でもそれを否定出来る記憶を持ち合わせて居ない。
アルダシルの手が、擽るように顎を撫でる。
「無いんでしょう?記憶」
「だから何だって言うの?」
「何って、10年ぶりに会うんだ。触れたいと思うのは普通のことなんじゃないかな」
真意が読めない。嘘を言っているようにはとても思えなくって、それでもそんなこと信じられる筈もないじゃないか。
「信じていないね?」
「そりゃあ、君はエンドフィールドの敵でしょう?」
「ふふ、でも確かに恋人だったんだよ」
思い出させてあげる。そう耳元で囁かれて、ぶるりと身体が震えた。何をされるのか分からない怖さと困惑。その二つがぐるぐると頭を回る。
どうすればいい?助けが来るのはどのくらい?考えれば考える程絶望的な状況に、冷や汗が吹き出る。
顎を撫でていた手が離れていって、そのまま服を捲り上げる。冷えた外気に晒された腹を、撫でられて鳥肌が立った。
「っ、……!」
「記憶がなくても管理人は変わらないんだね」
急所を取られているような感覚。いや、実際に急所は取られているのだけれど。それが嫌で身動ぎをする。
「通信は防除しているけど、あまり持たないだろうからね。時間がないんだ」
そう言ってアルダシルは晒された腹にキスを落とす。そこでようやっと、自分がこれから何をされるのか分かった。
性的なこと、されるんだ。
「アルダシル、嫌だっ」
じゅっと音がして、ちりっとし痛みが走る。何度も何度も、何かを確かめるように繰り返される動きに鳥肌が止まらない。
「管理人は性欲が薄い方だったよね」
「知ら、ない」
「僕は知っているよ」
ぞわぞわとした、感じたことのない感覚に困惑していると、アルダシルはふわりと微笑んだ。
「怖い?」
「別に怖くなんかっ」
「なら続けて良いよね」
そうは言ったが、自分は知らないことを全部知られていることの怖さに震える。でも、現状なにをされても受け入れることしか出来ない。
服の中に手が差し込まれて、胸の突起を優しく撫でる。瞬間、びくりと身体が跳ねた。
「……あ?」
「ふふ、身体は覚えていてくれてるみたい」
それは確実に性感だった。そんなところで感じるわけないのに。それなのに、くにくにと形を変えるように押し潰されて、じりじりと追い詰められていく。
「管理人、気持ちいい?」
「っ、う……ぐっ!んんっ……」
「声、我慢しないで」
「やっ、あぐっ……」
ぎゅっと両の突起を摘ままれて、目の前がチカチカ明滅した。
気持ちいいはずない。それなのに、焦れてしょうがない。いっそ、認めてしまえたら楽なのかも知れないが、そんなこととてもじゃないが出来なかった。
「っ、う、アルダシルっ、そこやだっ」
好き勝手に動く手から逃れたくて身動ぐが、なんの抵抗にもなっていなくて。それどころか切なくてかくかくと腰が揺れる始末だった。
「ふふ、可愛い。あんなに愛し合ったんだ。覚えていてくれて嬉しいよ」
「はぁっ、……っ、んっ!」
「こっちも触ってあげようね」
服の中をまさぐっていた手が股間に伸ばされる。布の上からなぞられて、腹の奥が切なく疼く。こんなの知らない。知識としては理解していても、受け入れられない。
「もっと気持ち良くなろう?」
「い、やだっ……うっ、」
前を寛げて、陰茎が露になる。薄ピンク色の先端から滲み出る先走りを手に絡めて扱かれて、直接的な快感に声が出そうになるのを何とか堪えた。
「んっ、う!……っ、あぐっ!はぁっ!まって、止まって」
アルダシルは楽しそうに笑っているだけで手を止めてはくれなかった。どうしよう、気持ちがいい。なんとか打開策を考えようとしても、快感に邪魔されてまともに考えられない。
手のひらで敏感な先端をぐりぐり刺激されて、すぐにでも果ててしまいそうになる。でも、あと少しでイけそうなのに、上手くイくことが出来なくて。辛くて苦しくて、生理的な涙が頬を伝う。
「あっ、!んんっ、ぐ……う!」
「上手くイけない?」
こくこくと頷く。頭の中はもう、楽になりたい一心で。情けなく自分で腰を揺らしながら手のひらに陰茎を擦り付ける。
「管理人はね、こっちでないとイけないんだよ」
こっち、と囁きながら、彼は後孔をなぞる。思わず意識してしまい、後孔がひくりと収縮した。
そんなわけない。でも、身体は正直で。じんわりと腹の奥が疼いてしょうがない。知りたくないけれど、身体が覚えているんだと痛感する。
ってことは彼が言う通り、記憶を失う前の自分はアルダシルと恋人関係にあったのだろうか?
「ねぇ、管理人。好きなんだ」
気付けば側にあったアルダシルの綺麗な顔がもっと近付いてきて。そうして優しくキスを落とされる。
「管理人」
そう切なげに呼ばれて、胸が締め付けられるようだった。もし、本当に恋人関係だったのなら。もしそうなら、それを覚えていないのって、辛すぎる。
「アルダシル、聞いて」
「なんだい?」
「君の、君たちの行動に賛同は出来ない。エンドフィールドとして、管理人として、皆の為にそれだけは出来ない……けど」
「……けど?」
「君のことは……嫌いじゃない」
それは本心だった。あの竹林で初めて会った時から、そうだったんだ。
「……管理人」
「だから今だけ、今だけすきにして」
今出来る最大限をぶつける。せめてでも、彼の傷が少しでも癒える様に、祈る。
至近距離で、彼はふっと微笑んだ。
「管理人はやっぱり管理人なんだね」
そう言って、アルダシルはチューブ状の何かを指に纏わせる。ローションの類いだろうか。分からないけど、多分彼のすることだから大丈夫。
ゆっくりと、指がナカに挿入ってくる。圧迫感に息を飲んで震えているとまた唇にキスを落とされた。
「やっぱり顔が見れないのは残念だな」
「それは、ごめんね」
「大丈夫だよ。知っているから」
慣らすように指をくるりと動かされて、ぞわりと鳥肌が立つ。一瞬、びりっと電流のような痺れに襲われて、びくりと大袈裟に身体が跳ねた。
「あぐっ!」
「ふふ、可愛い」
そこを逃がさないと言わんばかりに撫でられて、思わず声が漏れる。引きかけた熱が戻ってきて、理性をじりじりと削り落としていく。
それは間違いなく快感だった。
「あ、あっ……うっ、んんっ!」
「管理人、気持ちいい?」
こくこくと頷く。とんとんと叩くように刺激されて、その度に身体が震えた。
過ぎた快感に身動ぎをする度、ぎしりと簡易ベッドが軋む音が部屋に響く。
「はぁっ!ああっ……!アルダシル!」
「ここにいるよ」
「いきそっ、あぐっ!」
「うん、いいよ」
「あっ、~~~~っ!」
一緒に陰茎も扱かれて、逃げることも出来ず絶頂する。びゅくびゅくとアルダシルの手の中に精を吐き出して、くたりと脱力した。
アルダシルは吐き出された精をいとおしそうに眺めた後、そのまま口元へと持っていって舐めとる。
「管理人の味がする」
「はーっ、はーっ……っ、流石にそう言われるのは恥ずかしいと言うか……」
引き抜かれた指を、少し名残惜しく思いながら言う。アルダシルはにっこりと微笑んで、腕の拘束を緩めた。
「?」
「残念だけど、時間だ。もうすぐエンドフィールドがここに辿り着くから」
「でも、君は……」
「僕は大丈夫だよ」
乱れた着衣を整えながら彼は言う。何処と無く寂しそうな横顔に、思わず魅入る。
間髪入れず聞こえた爆音に、本当に助けが来たことを知る。皆、無事だったんだ。そう思いながら、立ち上がった。
「管理人!大丈夫ですか!?」
こちらに走り寄ってくるペリカが見える。後ろを振り返れば、すでにアルダシルの姿はなかった。
「またね」
誰に言うでもなく、呟く。
皆に心配をかけてしまったのを謝ならければ。
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