キョカラ
現パロキョカラ、配信者キョウヤとファンのカラスバ
推している配信者がいる。
最近人気が出てきた彼の名はキョウヤ。ゲーム配信と雑談配信がメインで、強靭なメンタルの持ち主。どんなゲームもそつなくこなすがたまにポンコツがでる。嫌みのない笑顔が格好いい大学生である。
切っ掛けはやっていたゲームでたまたまマッチングして、あまりに上手かったからプレイヤーネームを調べたことだった。その頃はまだまだ新人で、登録者数も10桁代だったことを考えると、そこそこ古参のファンを名乗っても良いだろう。
最初は顔出しはしていなかったが、途中で吹っ切れたらしく最近は顔出しで配信することの多い彼は、一言で言ってしまえば何から何までとにかくドタイプで、理想そのものだった。
彼の配信したゲームは網羅しているし、雑談で出てきたゲームもプレイ済み。グッズは流石に手が出せず、普段使い出来るようなキーホルダーくらいしか買えていないが、そこそこ重度のオタクであることは間違いなかった。
そんなわけで、今日も今日とてキョウヤの配信を垂れ流しているわけなのだが。
『でさ、この間の新作がさ』
トークテーマは話題の最新作で、そう言えば発売日にDLはしたが忙しくてまだ出来ていないななどとぼんやり思いつつ、ワイプ内の彼を見る。
私生活が忙しいんだろうか、少しやつれたように見える。気のせいだといいんやけど。そう思うが、自分に何か出来ることなんてあるわけなくって、強いて言うならそっと投げ銭をするくらいだろう。
『あ、Kさん!いつもありがとうございます』
Kとは自分のことである。この手のニックネームを付けるのが苦手なオレは、だいたいのゲームでイニシャルであるKと名乗っており、動画配信サイトの登録ネームもそれだった。Kと名乗る人間なんて山ほどいる。だからこそとても気楽であり、身バレの心配もない。
『あそこはやっぱりこうするのが良いと思うんだよね』
いつの間にかゲーム攻略の話題になっていたようで、真剣な顔であれやこれやと語る彼の顔に思わず見惚れる。ころころと人懐っこく笑っている時でこそ年相応だが、ランクマッチ中や、真面目なシーンではまた違った鋭い一面を見せる。その二面性が人気の秘訣なのだろう。自分もそれに魅せられた一人ではあるのだけれど、それは今は置いておいて。
『あれ、新しいパッチ来てたけどさ。ちょっと持ちキャラ触ったんだけど、中々厳しいね』
ああ、調整が入るって言っとったな。オレの持ちキャラは入らんかったけど、キョウヤの持ちキャラは弱体が入るんやっけ。最近忙しすぎて触れてなかったがそろそろ復帰するか。そんなことを思いながら、少し温くなったコーヒーを啜った。
部屋の電気を消して、ゲーミングチェアに体重を預けながら、彼の声に耳を傾ける。
『ま、ナーフはしょうがないね。切り替えて新しい方法を考えていこう』
今日の配信は雑談だと言っていたが、やっぱりゲームがしたくなったのかいつの間にかゲーム画面に切り替わっていた。そうすると彼はスイッチが入ったように真剣な面持ちになる。
「……」
その表情を眺めながら、溜め息を一つ。タオルを手にとってからメガネを外し、そうして股座に手を伸ばす。スラックスの上から緩く立ち上がる陰茎に触れた。
早い話が、オレはこの年下の配信者の声で抜いているのだ。いつの頃からか日課になってしまったそれのきっかけはストレスとかそんな理由だったように思う。気持ち悪いと思われるかもしれないが、その、彼に抱かれたいのだと思う。
目を閉じて、彼の声に集中する。勃ち上がった陰茎を擽るように撫でれば、びくりと身体が跳ねた。
「っ、!ぅ……、はぁっ」
心の中でキョウヤの名前を呼びながら陰茎を扱くが、足りない。と言うか、後孔が疼いてしょうがない。
こう言うことをするようになってから、興味本位で開発してしまったが故に、気付けば後孔をいじらないとイけない身体になってしまっていた。
舌打ちを一つ。パソコンデスクの引き出しからローションを取り出して指に絡めると、いつものように中指をゆっくり埋めて行く。
「やっ、あっ……♡」
前立腺に指が触れて、甘い痺れが走る。きゅうきゅうと指を締め付けながら、膨らんだそこを抉るように押し潰せば、目の前がチカチカと明滅した。
ああ、気持ちいい。推しである彼の声で抜いている罪悪感と、気持ち悪さ、そして快楽。それらがぐちゃぐちゃになって、混ざりあっていく。
「あっ、うんんっ……♡」
気付けばじゅぽじゅぽと音を立てながら、夢中で出し入れを繰り返していた。想像の中で、キョウヤはオレを容赦なく責めたてる。
『ほら、早く』
それが想像なのか、それとも現実の配信での言葉なのかわからなくなって。身体が痙攣しだして、限界が近いことを察した。
イけそうでイけない。辛くて辛くて、楽になりたくて陰茎に手を伸ばし扱く。
「い、あっ……♡いくっ、……ぅ~~~っ!♡」
びくんっと一際大きく身体が跳ねて、頭が真っ白になる。タオルの中にびゅくびゅくと精を吐き出しながら、甘い余韻に酔いしれる。
「はーっ、はーっ……♡」
そうして訪れる現実。また推しで抜いてしまったと言う自己嫌悪。少しの疲れと、埋まらない何か。
『あっ、やば。俺明日引っ越し先下見にいくんだった。ちょっと早いけど、今日はもうお開きにしようか。みんなごめんね!』
丁度配信も終わるタイミングのようで、バタバタと音が聞こえた後、配信は切られてしまった。
「引っ越し?」
キョウヤ、引っ越すんか。……そう言えばオレちの隣、空き家やったな。
「オマエが引っ越してきてくれたらええのに」
そんなの叶うはずないのは自分が一番わかっている。でも、夢くらい見させてくれたっていいじゃないか。
気だるい身体を起こし、引き摺るようにシャワールームへ向かう。尻がべとべとで気持ち悪い。風呂にはすでに入っているから、とっととシャワーで流してしまおう。
明日は休日だ。朝起きたら軽く部屋の掃除をして、買い出しに行った後、ゲームをしよう。そう考えながら、蛇口を捻った。
昼頃、部屋の掃除をしていると、ふとインターホンが鳴った。何か荷物でも頼んでいたっけか。面倒だから勧誘等ではないことを祈りつつ、ドアスコープを覗けばそこには見慣れた顔があった。
「はぁ?」
そう、見慣れた顔があったのだ。
それこそ穴が開くくらい見たキョウヤがそこにいた。
いや、そんなことあるはずない。何かの間違い、……いや夢だ。きっと椅子にでも座った拍子に寝落ちて、夢を見ているに違いない。咄嗟に手の甲をつねってみるが、痛みがあって。じゃあ、これは現実?そんなバカなことがあるか。
「すみませーん、いらっしゃいますかー?」
「!」
二度目のチャイムの後、彼が声をかけてきた。頭が混乱しているが、出ないわけにもいかないのでわざとらしく音を立てて玄関を開ける。
「すまんすまん、掃除してて手が離せんかったんや。で、どちらさん?」
我ながらとても自然に動けたと思う。顔にもきっと出ていない、はず。助演男優賞はオレのもんや。そのくらいバカらしいことを言ってないとやっていられなかった。
何かの間違いだと思って扉を開けたが、やっぱりそこにはキョウヤがいて。
「隣に越してくる予定の者です!まだ越してくるのは先なんですけど、挨拶まわりだけ済ませておこうと思って!」
ひえ……本当に越して来よった。
いや、そんな都合のいい話があるわけ、この期に及んで未だ信じられずにいるオレと、純粋に喜んでいるオレの狭間で気が狂いそうになる。
「おう、そうか。隣ずっと空き家やったからな。オレはカラスバっちゅうもんや。よろしゅうに」
普段から怖いとよく言われる顔でキョウヤを怯えさせないように、にこやかに挨拶をする。
「カラスバさん!よろしくお願いします!いい人そうで良かった……俺のことはキョウヤって呼んでください!」
そのまま「これ、つまらぬものですが」と手に持っていた紙袋を差し出してきたのでそれを受け取りつつ、礼を言う。
「ありがとさん。ああ、そうや、いつ頃越してくるん?」
「来週の金曜日です。もしお家にいらっしゃるならお騒がせすると思いますが、よろしくお願いします」
「金曜日か、仕事で夜までおらんから気にせんでええよ。それにここ防音しっかりしとるから大丈夫やろ」
と言うことは、来週は毎週金曜日の夜にやってる配信なしか。少し残念に思いながら、彼の顔を見る。
現実の彼は映像で見るより更に輝いて見えて……。見惚れそうになるのをぐっと堪え「じゃ、これからよろしゅうな」と話を終わらせると、扉を閉めた。最後、笑顔で手を振ってたな……尊いか。
扉を閉めた瞬間、どっと疲れが押し寄せて、思わずその場に座り込む。
「つ、疲れた」
主に表情筋が。慣れない笑顔で顔がつりそうだった。
確かに、隣に越して来たらなぁ的な事は言った。でもそれはあくまで来たら嬉しいな、な意味であって……本当に来いとは言っていないのだ。だってそんなの心臓が持たないし、何より他のファンに申し訳がない。……自分は一ファンに過ぎないのだ。
「……オレ、死ぬんか?」
あるいはもう死んでいて、最期の瞬間に幸せな夢を見ているのか。とにかく現実的ではない状況に、冷や汗が止まらない。
隣に越してくる以上、オレがキョウヤのファンであることは絶対にバレてはいけない。自分のためにも、キョウヤのためにも、更には彼のファンのためにも接触は最低限。それを心に誓う。
……カラスバさんって呼ばれてもうたなそう言えば。それはそれとして、最推しに名前を呼ばれる機会なんてそうはない。嬉しさに顔がにやけるのをなんとか抑えながら、受け取った紙袋を見る。中身はこの辺りで有名な洋菓子店の菓子折りだった。こんなん、食えへんやろ。
「とりあえず掃除、続けるか」
心を落ち着かせるために、床に放られていた掃除機を手に取る。いや、落ち着けるわけないんやけど。でもだからと言ってどうすることも出来ず、とりあえず部屋をうろうろした後パソコンを立ち上げて動画配信サイトを開く。
お気に入りから配信アーカイブをクリックして、流れ始めた動画はオレが初めてキョウヤとゲームでマッチングしたときのとっておきの奴。
「来週からどうしよ……」
ふと正気に戻って思わず頭を抱えた。
推している配信者がいる。
最近人気が出てきた彼の名はキョウヤ。ゲーム配信と雑談配信がメインで、強靭なメンタルの持ち主。どんなゲームもそつなくこなすがたまにポンコツがでる。嫌みのない笑顔が格好いい大学生である。
切っ掛けはやっていたゲームでたまたまマッチングして、あまりに上手かったからプレイヤーネームを調べたことだった。その頃はまだまだ新人で、登録者数も10桁代だったことを考えると、そこそこ古参のファンを名乗っても良いだろう。
最初は顔出しはしていなかったが、途中で吹っ切れたらしく最近は顔出しで配信することの多い彼は、一言で言ってしまえば何から何までとにかくドタイプで、理想そのものだった。
彼の配信したゲームは網羅しているし、雑談で出てきたゲームもプレイ済み。グッズは流石に手が出せず、普段使い出来るようなキーホルダーくらいしか買えていないが、そこそこ重度のオタクであることは間違いなかった。
そんなわけで、今日も今日とてキョウヤの配信を垂れ流しているわけなのだが。
『でさ、この間の新作がさ』
トークテーマは話題の最新作で、そう言えば発売日にDLはしたが忙しくてまだ出来ていないななどとぼんやり思いつつ、ワイプ内の彼を見る。
私生活が忙しいんだろうか、少しやつれたように見える。気のせいだといいんやけど。そう思うが、自分に何か出来ることなんてあるわけなくって、強いて言うならそっと投げ銭をするくらいだろう。
『あ、Kさん!いつもありがとうございます』
Kとは自分のことである。この手のニックネームを付けるのが苦手なオレは、だいたいのゲームでイニシャルであるKと名乗っており、動画配信サイトの登録ネームもそれだった。Kと名乗る人間なんて山ほどいる。だからこそとても気楽であり、身バレの心配もない。
『あそこはやっぱりこうするのが良いと思うんだよね』
いつの間にかゲーム攻略の話題になっていたようで、真剣な顔であれやこれやと語る彼の顔に思わず見惚れる。ころころと人懐っこく笑っている時でこそ年相応だが、ランクマッチ中や、真面目なシーンではまた違った鋭い一面を見せる。その二面性が人気の秘訣なのだろう。自分もそれに魅せられた一人ではあるのだけれど、それは今は置いておいて。
『あれ、新しいパッチ来てたけどさ。ちょっと持ちキャラ触ったんだけど、中々厳しいね』
ああ、調整が入るって言っとったな。オレの持ちキャラは入らんかったけど、キョウヤの持ちキャラは弱体が入るんやっけ。最近忙しすぎて触れてなかったがそろそろ復帰するか。そんなことを思いながら、少し温くなったコーヒーを啜った。
部屋の電気を消して、ゲーミングチェアに体重を預けながら、彼の声に耳を傾ける。
『ま、ナーフはしょうがないね。切り替えて新しい方法を考えていこう』
今日の配信は雑談だと言っていたが、やっぱりゲームがしたくなったのかいつの間にかゲーム画面に切り替わっていた。そうすると彼はスイッチが入ったように真剣な面持ちになる。
「……」
その表情を眺めながら、溜め息を一つ。タオルを手にとってからメガネを外し、そうして股座に手を伸ばす。スラックスの上から緩く立ち上がる陰茎に触れた。
早い話が、オレはこの年下の配信者の声で抜いているのだ。いつの頃からか日課になってしまったそれのきっかけはストレスとかそんな理由だったように思う。気持ち悪いと思われるかもしれないが、その、彼に抱かれたいのだと思う。
目を閉じて、彼の声に集中する。勃ち上がった陰茎を擽るように撫でれば、びくりと身体が跳ねた。
「っ、!ぅ……、はぁっ」
心の中でキョウヤの名前を呼びながら陰茎を扱くが、足りない。と言うか、後孔が疼いてしょうがない。
こう言うことをするようになってから、興味本位で開発してしまったが故に、気付けば後孔をいじらないとイけない身体になってしまっていた。
舌打ちを一つ。パソコンデスクの引き出しからローションを取り出して指に絡めると、いつものように中指をゆっくり埋めて行く。
「やっ、あっ……♡」
前立腺に指が触れて、甘い痺れが走る。きゅうきゅうと指を締め付けながら、膨らんだそこを抉るように押し潰せば、目の前がチカチカと明滅した。
ああ、気持ちいい。推しである彼の声で抜いている罪悪感と、気持ち悪さ、そして快楽。それらがぐちゃぐちゃになって、混ざりあっていく。
「あっ、うんんっ……♡」
気付けばじゅぽじゅぽと音を立てながら、夢中で出し入れを繰り返していた。想像の中で、キョウヤはオレを容赦なく責めたてる。
『ほら、早く』
それが想像なのか、それとも現実の配信での言葉なのかわからなくなって。身体が痙攣しだして、限界が近いことを察した。
イけそうでイけない。辛くて辛くて、楽になりたくて陰茎に手を伸ばし扱く。
「い、あっ……♡いくっ、……ぅ~~~っ!♡」
びくんっと一際大きく身体が跳ねて、頭が真っ白になる。タオルの中にびゅくびゅくと精を吐き出しながら、甘い余韻に酔いしれる。
「はーっ、はーっ……♡」
そうして訪れる現実。また推しで抜いてしまったと言う自己嫌悪。少しの疲れと、埋まらない何か。
『あっ、やば。俺明日引っ越し先下見にいくんだった。ちょっと早いけど、今日はもうお開きにしようか。みんなごめんね!』
丁度配信も終わるタイミングのようで、バタバタと音が聞こえた後、配信は切られてしまった。
「引っ越し?」
キョウヤ、引っ越すんか。……そう言えばオレちの隣、空き家やったな。
「オマエが引っ越してきてくれたらええのに」
そんなの叶うはずないのは自分が一番わかっている。でも、夢くらい見させてくれたっていいじゃないか。
気だるい身体を起こし、引き摺るようにシャワールームへ向かう。尻がべとべとで気持ち悪い。風呂にはすでに入っているから、とっととシャワーで流してしまおう。
明日は休日だ。朝起きたら軽く部屋の掃除をして、買い出しに行った後、ゲームをしよう。そう考えながら、蛇口を捻った。
昼頃、部屋の掃除をしていると、ふとインターホンが鳴った。何か荷物でも頼んでいたっけか。面倒だから勧誘等ではないことを祈りつつ、ドアスコープを覗けばそこには見慣れた顔があった。
「はぁ?」
そう、見慣れた顔があったのだ。
それこそ穴が開くくらい見たキョウヤがそこにいた。
いや、そんなことあるはずない。何かの間違い、……いや夢だ。きっと椅子にでも座った拍子に寝落ちて、夢を見ているに違いない。咄嗟に手の甲をつねってみるが、痛みがあって。じゃあ、これは現実?そんなバカなことがあるか。
「すみませーん、いらっしゃいますかー?」
「!」
二度目のチャイムの後、彼が声をかけてきた。頭が混乱しているが、出ないわけにもいかないのでわざとらしく音を立てて玄関を開ける。
「すまんすまん、掃除してて手が離せんかったんや。で、どちらさん?」
我ながらとても自然に動けたと思う。顔にもきっと出ていない、はず。助演男優賞はオレのもんや。そのくらいバカらしいことを言ってないとやっていられなかった。
何かの間違いだと思って扉を開けたが、やっぱりそこにはキョウヤがいて。
「隣に越してくる予定の者です!まだ越してくるのは先なんですけど、挨拶まわりだけ済ませておこうと思って!」
ひえ……本当に越して来よった。
いや、そんな都合のいい話があるわけ、この期に及んで未だ信じられずにいるオレと、純粋に喜んでいるオレの狭間で気が狂いそうになる。
「おう、そうか。隣ずっと空き家やったからな。オレはカラスバっちゅうもんや。よろしゅうに」
普段から怖いとよく言われる顔でキョウヤを怯えさせないように、にこやかに挨拶をする。
「カラスバさん!よろしくお願いします!いい人そうで良かった……俺のことはキョウヤって呼んでください!」
そのまま「これ、つまらぬものですが」と手に持っていた紙袋を差し出してきたのでそれを受け取りつつ、礼を言う。
「ありがとさん。ああ、そうや、いつ頃越してくるん?」
「来週の金曜日です。もしお家にいらっしゃるならお騒がせすると思いますが、よろしくお願いします」
「金曜日か、仕事で夜までおらんから気にせんでええよ。それにここ防音しっかりしとるから大丈夫やろ」
と言うことは、来週は毎週金曜日の夜にやってる配信なしか。少し残念に思いながら、彼の顔を見る。
現実の彼は映像で見るより更に輝いて見えて……。見惚れそうになるのをぐっと堪え「じゃ、これからよろしゅうな」と話を終わらせると、扉を閉めた。最後、笑顔で手を振ってたな……尊いか。
扉を閉めた瞬間、どっと疲れが押し寄せて、思わずその場に座り込む。
「つ、疲れた」
主に表情筋が。慣れない笑顔で顔がつりそうだった。
確かに、隣に越して来たらなぁ的な事は言った。でもそれはあくまで来たら嬉しいな、な意味であって……本当に来いとは言っていないのだ。だってそんなの心臓が持たないし、何より他のファンに申し訳がない。……自分は一ファンに過ぎないのだ。
「……オレ、死ぬんか?」
あるいはもう死んでいて、最期の瞬間に幸せな夢を見ているのか。とにかく現実的ではない状況に、冷や汗が止まらない。
隣に越してくる以上、オレがキョウヤのファンであることは絶対にバレてはいけない。自分のためにも、キョウヤのためにも、更には彼のファンのためにも接触は最低限。それを心に誓う。
……カラスバさんって呼ばれてもうたなそう言えば。それはそれとして、最推しに名前を呼ばれる機会なんてそうはない。嬉しさに顔がにやけるのをなんとか抑えながら、受け取った紙袋を見る。中身はこの辺りで有名な洋菓子店の菓子折りだった。こんなん、食えへんやろ。
「とりあえず掃除、続けるか」
心を落ち着かせるために、床に放られていた掃除機を手に取る。いや、落ち着けるわけないんやけど。でもだからと言ってどうすることも出来ず、とりあえず部屋をうろうろした後パソコンを立ち上げて動画配信サイトを開く。
お気に入りから配信アーカイブをクリックして、流れ始めた動画はオレが初めてキョウヤとゲームでマッチングしたときのとっておきの奴。
「来週からどうしよ……」
ふと正気に戻って思わず頭を抱えた。