キョカラ
年下の高校生に。
それだけならまだ良い。いや、倫理的にはよくないのだけれどそれはそれとして。公言こそしていないが自分はゲイである。ただ、状況をややこしくしているのが、その高校生が自分の教え子だと言うことだった。
二年生である彼は、一年の頃からやらたと懐いてきた。その時は別に担任でもなかったのに、授業の始まりと終わりは必ず寄ってきてあれやこれやと話しかけてくる。しかもテストはほとんど満点。他の教科の担当曰く、オレの学科のみそうであるという。そのくらいだったらまあ可愛いものだったのだが、二年になってオレが担任になった瞬間変わってしまった。
共にいる時間が増えた分、やたらと自己をアピールするようになったのだ。「俺は料理出来ますよ!」だとか「家事得意です!」と言った具合に聞いてもいないことを喋ったかと思えば、ストレートに「先生が好きです」と告白してきたり、差し入れにと手作りのお菓子を持ってきたり、それはもう甲斐甲斐しく世話を焼いてくる始末である。
部活も、オレがいるからと運動部から文芸部へわざわざ変えたり、オレを手伝えるからと学級委員に立候補してみたり。端から見ていて笑えるくらい必死だった。良くも悪くも若いってやつだ。
そんなにか、とまるで他人事のように思う。どこにそんな惚れ込んだのか、全くわからない。
だって、一回りも年が離れている。そもオレの好みは年上だし、教え子に手を出すなんてそんな倫理感の終わっている大人にはなりたくない。向こうが良くても、周りが許さないのだ。
逆に言えば、年以外に断る理由が見当たらないのが問題だった。
「先生!おはようございます!」
「おはようさん、キョウヤは今日も元気やね」
「そりゃ、先生に朝から会えたから……」
そうしてはにかむキョウヤが眩しくて、思わず目を逸らす。正直、教え子でなければ即答でオーケーするくらいには顔が好みである。そんなドストライクな彼の微笑みなど、教師の仮面を被っていても直視が出来るわけがない。
「先生、今日はクッキー作ってきたんです。良かったら食べてください」
「今日も持ってきたん?オレにやなくて、友達にくばりなはれや」
「ちゃんとみんなの分は用意してますよ。その上で、先生に食べてほしいんです」
キョウヤは、そう言いながら、透明な袋に入ったクッキーを差し出してくる。まさか受け取らないわけないだろう。そう言わんばかりに堂々とだ。いつもの朝のルーティン。溜め息を溢しながらそれを受け取って、鞄にしまい込めばキョウヤは嬉しそうに笑った。
「感想、待ってますね」
「おん、家に帰ってからありがたぁくいただくわ」
早い時間だからまだ人が疎らな教室、それでも人がいないわけではないからか、まだキョウヤはおとなしかった。これで誰もいなかったら、手でも握られていたんじゃないだろうか。握られたところで、どうと言うわけでもないのだけれど。
「キョウヤ、またカラスバ先生にお菓子渡してる」
「あ、デウロだ。おはよう!みんなの分もあるよ」
「やったぁ、後でパーティーだね。あ、カラスバ先生、おはようございます」
「はい、おはよーさん」
二人のやりとりを眺める。オレにべた懐きではあるが、普通に友達はいるし、その仲は実に良好である。若者らしく色んなことに興味があるようで、クラス関係なく色々な人と交流しているのを良く見かける。だからこそ、なおのことなんでオレにご執心なのかがわからなかった。
これだけ顔が良いんだ。良い娘なんかいくらでも声をかけてきそうなものなのに。浮わついた話しは聞かないし、だからといって茶化されるようなこともない。きっと立ち回りが上手いのだろう。そのわりに押し付けられるのは純粋な恋心で、突き放してしまえばいいのにそれさえ出来ないでいる。
「先生?」
「ああ、なんでもあらへんよ」
「とにかく、後で感想くださいね!」
そうして離れていくキョウヤを見送り、端末のディスプレイに視線を戻す。
よかった、助かった。周りを確認してから溜め息を吐く。大人として、そして指導者として、あの恋心はへし折らなければならない。なんとしてもだ。そうは思うが、何を言っても折れないでいるキョウヤを前にすると、どうしても鈍ってしまう。
手っ取り早く恋人でも出来れば良いのだが。ゲイであることも相まって、なかなかうまく行かず進むことも戻ることも出来ずにいる。
仕方ない。独り身でも構わないなんて思っていたツケがまわってきたのだ。
オレも高校生やったらよかったんになんて、そんなことを思いながら立ち上がる。もうすぐ予鈴が鳴る時間だ。
……今日もタウニーは遅刻か。