キョカラ
「カラスバさん、今日は俺に全部やらせてください」
急にキョウヤが事務所にやってきたかと思えばそう言われて、思考がフリーズする。
誰かおったらとか考えへんのかコイツ。たまたまジプソがおらんからええけど、いや良くはない。今コイツはなんと言ったか。
「全部、やらせてください?」
思わずそのまま問いかけ返す。ナニとは言わない。そんなことはわかっているし、問題はそこではない。
「そう、全部。俺ちゃんと勉強したんですよ」
「……あほだらぁ、オマエになんか任せられんわ」
「なんでですか」
なんでですかって、オマエ。そんなの羞恥が勝つからやし。そも何よりプライドが許さない。年下の経験無しに全部任せるなんて、死んだ方がマシまである。
「だってカラスバさん、抱かれにくる時いつも準備万端なんですもん」
「オマエ、しばかれたいんか」
オレとオマエしか部屋にいないからと油断しすぎである。一応周りには内緒の関係なのだが?などと思いながら凄むが、何故だかコイツは全く怖がらないんよなぁ、と思わず頭を抱えた。
「あ、バトルなら何時でも大歓迎ですよ!」
戦闘狂とも言えるくらい、キョウヤは戦うことが好きだった。その上強いのだからたちが悪い。まぁ、そこが好きなところでもあるのだが、それは今は置いておいて。
「そやない」
「しますか?バトル」
「それは後で相手したるから。で?何や、オマエが全部やりたい?」
「はい」
「却下」
「なんで」
文句ありげなキョウヤを一旦黙らせる為に椅子から立ち上がり、近付く。何処で誰が聞いているのかわからない以上、これ以上勝手にされるわけにはいかない。
「そんなん、オマエに経験がないからに決まっとるやろ」
「経験があったらやらせてくれるんですか?」
「あほだら、誰が許すかそんなん」
キョウヤの手が頬に伸ばされる。それを振り払って胸ぐらを掴むが怖がるどころか嬉しがるばかりで。
「ふふ、カラスバさん俺のこと大好きですもんね」
「バカタレ」
溜め息を一つ。否定はしないが言葉にされるのは擽ったさが勝つ。これはこっちが折れるしかなさそうだ。でも、タダで折れるのは癪に障る。
「おら、一勝負しよや。勝ったら一つだけ言うこと聞いたるわ」
「本当ですか!?勿論俺が勝ちますよ」
結局コイツを黙らせるにはバトルが一番手っ取り早いのだ。こんなんに付き合わされるペンドラー達が些か可哀想ではあるが、仕方ない。
「そんなこと言ってたら足元掬われるで?」
砂利を踏みしめ歩きながら言う。勿論手は抜かない。勝ったらそれまでだし、負ける気はなかった。
「楽しみましょう」
「おっし、やり合おうや」
その日の夜、仕事が終わってからわざわざワイルドゾーンの前で待ち合わせをしたわけだが。
少し早く着いたからと、ボールの中のペンドラーを見ながらキョウヤを待つ。なんだかそわそわと落ち着かない。
それはいつもの準備をしていないからなのか、それとも初めて家に呼ぼうとしているからなのか、あるいはそのどちらもか。早く来て欲しい反面、そのまま来なければ良いとさえ思う。
「カラスバさーん!お疲れ様です!」
来やがった。目立つなと言ったのに、大声出しよって。あほなんやろか、いやあほか。
「お待たせしました」
「別に、そんな待ってへんよ」
「そうですか?じゃあホテルに帰りましょうか」
「あほだら、そんなしょっちゅう入り浸ってられんやろ。何のために待ち合わせしたと思っとるんや」
?と頭の上にはてなマークを浮かべながらきかは首をかしげる。こら、わかってへんな。
「オレん家、行こか」
「えっ!良いんですか!?」
「ええよ、オマエなら」
そう呟けば、嬉しそうにガッツポーズをした後に抱き付いて来ようとしたので押し退けつつ、歩き出す。
「ほら、着いてき」
呼び出したワイルドゾーンは家から一番近いところ。ここからなら歩いて5分もかからない。
薄暗く人気のない路地裏を抜け、角を曲がった先、慣れた手付きでオートロックを操作して、ホールを抜けエレベーターへ直行する。
「良いところに住んでるんですね」
「当たり前やろ。頭がボロ屋に住むわけにはいかんのや」
「それもそうですね」
最上階のボタンを押して、そのままエレベーターが動き始めるとキョウヤはチャンスと言わんばかりに近付いてすり寄ってきた。
「こら、まだ外」
「ちょっとぐらい大丈夫ですよ」
「ダメなもんはダメ」
「ちぇー」
そう言いながらも腰に回された手を叩けば渋々離れたので安心しつつ。丁度最上階に着いたようで、開いた扉からそのまま玄関前に出る。
「最上階、ウチしかないから玄関直通なん、凄いやろ」
「金持ちの家って感じしますね」
「……言い方もっと考えろや」
「ねえ、もうくっついても大丈夫ですか?」
「もうちょっと待ちや。ここ監視カメラあるで」
「う、」
辺りをキョロキョロ見渡しているキョウヤに思わず笑みが溢れる。そんなん、わかるところに設置しとるわけないやろ、あほだら。
手招きをして扉を開け玄関に連れ込んだ瞬間、腕を引っ張られ壁に追い詰められた。
「カラスバさん」
「ちょ、まだ玄関」
「今日ずっと触れたかったんです。許してください」
至近距離にキョウヤの顔がある。相変わらずええ顔しとるなと見惚れていると、キスを落とされた。
「……しょうがないヤツやな」
許してしまうオレも大概、コイツに甘い。
何度も触れあうだけのキスを繰り返して、この先を想像して体温が上がる。薄く唇を開けば、そのまま舌が差し込まれて、歯列をなぞられぞわぞわと鳥肌が立つ。
コイツ、ちょっと教えただけなのに上手くなりやがって。覚えがいいんか知らんけど、腹立つわ。
「んんっ、はぁ……っ」
「カラスバさん、可愛い」
「うるさっ、い」
ちょっとキスされただけでかくかく震える膝に渇をいれて、キョウヤをにらみつける。このままじゃここでヤられかねない。せめてでもベッドには辿り着きたい。
「がっつく奴は嫌われんで」
「カラスバさんに好かれていればそれでいいので」
「あほだら、そう言う問題ちゃうわ。……寝室まで我慢できたら好きにしてええで」
「!」
わかりやすく表情が変わったもんだから思わず吹き出す。自分、どんだけヤりたいねん。いやまぁ若いしそんなもんか。期待して浮かれているのはオレも同じやし。
すっと離れたキョウヤを横目に寝室へ歩き出す。扉を開けて、靴とジャケットを脱いでからベッドに仰向けで寝転ぶと、良い子で待っていたキョウヤが嬉しそうに覆い被さってきた。
「待ってました。好きにしていいんですよね?」
「男に二言はない、や」
そう言うと、顔が近付いてきてそのまま唇にキスを落とされる。何度も何度も、確かめるように。
勝手に先を想像して息が乱れる。薄く唇を開けば、隙間から舌が滑り込んできて。上顎を擽るように撫でられぞわぞわと鳥肌が立った。
「ん、ぅ……、っ」
上擦った声が隙間から漏れていく。気付けば自分から必死に舌を絡めていて。プライドも何もかもがとろかされていく。
気持ちいい。ずっとしていたいくらい。
そうこうしている間に、気付けばネクタイを緩められ、片手でシャツのボタンを取られていた。
器用やん。わろける。いや、気付かんくらい夢中になってたってことか。恥ずかし。
「触りますね」
「いちいち言わんでええわ」
シャツの上から胸の突起を撫でられ、びくんと身体が跳ねた。別に気持ちよかったわけじゃない、驚いただけ。自分にそう言い聞かせる。
「どうです?服越しの方が気持ちいいかもって見かけたんですが」
「っ、別に?全然平気やな」
嘘。服越しに突起を撫でられ、明らかに今までとは違う感覚にぶるりと身体が震える。
それは確かに快感の芽で……。抱かれている時点で今更なのだが、身体が作り変わっていくような感覚にじわりと羞恥で顔が赤くなる。
「そっかぁ、でも触っていかないと、ここが気持ち良い場所って覚えないので続けますね」
頬にキスを落としそう言うと、キョウヤはそのまま胸を捏ねる。女みたいに柔らかくないのに面白いんやろか。そう思いながらもその様を眺めていると、キョウヤと目があって。咄嗟に逸らし、見慣れた天井に目線を逃がす。
時間をかけてマッサージするように全体を揉まれ、強ばっていた筋肉が解されていく。そんなとこ凝ってたんや、なんて思っていると、ふふっとキョウヤが笑った。
「気持ちいいですか?」
「ああ、オマエマッサージ上手いやん」
「ふふ、俺、ポケモンのマッサージ得意なんですよ」
おかしいくないか?オレはこれから抱かれるはずでは?そう思いながらも、何か出来ることなんてあるわけもなくただその様を眺める。そうしていると、ふとあることに気が付いた。
その、胸の突起が疼くのだ。血行が良くなったからなのかは知らないが、むず痒いというかなんと言うか、とにかくじくじくと疼く。
「っ、キョウヤ」
「どうしました?」
「……いや、なんでもあらへん」
だからって素直にそう言えるわけもなく……。未知の感覚に、思わず足を擦り合わせる。頭の上にはてなマークを浮かべながら困惑していると、おもむろに突起に指が触れる。
「っ!」
瞬間、びくりと身体が跳ねた。何が起こったのかわからず呆けていると、二つの突起を摘ままれ優しく押し潰される。
「ひっ、ぃ」
「ふふ、勃ってる」
「なんで、ぁうっ……!」
それは間違いなく快感だった。ぞわぞわと鳥肌が立って、満たされていく。さっきまでそんなじゃなかったのに、なんで?頭がついてこなくて、疑問ばかり浮かべていると、キョウヤがそこに顔を近付ける。
「マッサージすると良いって見かけたんですよね」
「んぅ、っ!」
ふーっとそこに息を吹き掛けられて、思わず身体が跳ねた。擽ったいのと、これは……期待?どうして良いかわからず、すがり付くようにキョウヤを見れば、にっと微笑まれて。そうしてそのまま突起に吸い付かれた。
「あ、ぁ!まっ、それっ!」
じゅっと吸われたかと思えば舌先で転がされ、勝手に身体が跳ねる。びりびりと背筋を快感が駆け抜けて、それでもイけるほどのものではなく、切なさで目の前が涙で歪む。
「っ、ぅ……んんっ、!」
どうせならイきたい。けど、うまくいかなくって。切なくてほとんど無意識にキョウヤの服を掴む。でもそんなのお構い無しと言いたげに好き勝手にされて、じりじりと焼かれるような愛撫に追い詰められていく。
「キョウヤぁ、うぁっ……もっ、いきたいっ」
「ふふ、カラスバさん可愛い。ここだけじゃまだ無理だと思うので、こっちも触ってあげますね」
そう言うと、ごそごそとズボンを寛げた後、ポーチから小さいボトルを取り出して手に広げた。
「?」
「ただのローションですよ。必要かと思って持ってきました」
そんなん、用意せんでもこの家にあるんやけど。喉まで出かかった言葉を飲み込み、勃ち上がった陰茎にとろとろと垂らされるそれを期待した目で眺める。
じわりと垂らされたところが熱を持って、不思議に思っていると耳元で「媚薬入りのらしいですけどね」と囁かれた。
「なっ!オマエっ、」
「そんな強い奴じゃないので大丈夫ですよ」
大丈夫って、いやガキのオマエがそんなん何処で手に入れたんや。声にしたかったが、する前にローションまみれの陰茎を擦られ、悲鳴に近い声が上がった。
「ひゃっ、あ!」
欲しかった直接的な刺激に身体が歓喜する。内腿がぶるぶる震えて、その刺激で果てそうになって。ヤバい、なんも考えられへん。辛うじてあった余裕が、媚薬で無理矢理引き剥がされていく。
「ん、あ♡、まってっ♡」
「イきたかったんじゃないんですか?」
「そだけど、これっ♡」
「じゃあ、ちゃんとイきましょうね」
容赦なく陰茎を扱かれ、強すぎる快感に思わず身体が逃げようとする。が、上に乗られているため快感を逃がすことが出来ず、その場でずりずりと足を動かすことしか出来ない。
「あっ、あぁ♡まって、ほし♡」
「そんな物欲しそうな顔して待って、は聞けませんね」
首筋に吸い付きながらキョウヤが言う。その声音は興奮しきっていて、それにまた興奮する。悪循環みたいなそれに、自分からどんどんはまっていく。
「ぅ、あっ!♡むり、きもちいっ♡んっ、いきそっ♡」
「ふふ、イって良いですよ」
「ああっ、ん♡ダメやっ、くる♡♡」
にちにちと音を立てながら手のひらで先端を擦られ、ぎくんと身体に変な力が入る。
プライドから一瞬耐えようとしたが、そんなの無理で。そのまま手の中にびゅくびゅくと精を吐き出した。
「~~~~っ!♡♡」
余韻に身体がふるふると震える。クソ、こんなはずじゃ。そうは思うがだからと言ってどうにか出来るわけもなく、ただただベッドに沈み込んだ。
「可愛かったですよ」
「っ、うるさっ」
キスを強請るようにすり寄れば、望み通り唇にキスを落とされて。口を開けて舌を差し出し、絡ませ合う。
イった後のキス、すげぇ良い。
「んんっ、ふぁ……♡」
夢中で舌を動かしていると、ローションまみれの指が後孔を撫でる。皺を伸ばすように塗り込められ、そこが媚薬のせいでじくじくと疼き始めた。
「っ、ぅ……♡んん、うぅっ!♡」
ゆっくり、指先が埋まっていく。慣らしていないそこの狭さは自分が一番わかっている。とにかく時間を掛け、時折ローションを足されながら少しずつ飲み込んでいくと、ある場所に指が触れた。
「あっ!♡♡」
「ここ?」
「あぐっ、♡♡」
弱い場所、前立腺を優しく撫でられ、壊れたようにびくびくと身体が跳ねる。しつこいくらい重点的にそこを責められて、目の前がチカチカと明滅した。気持ちいい、それ故に辛くて、しがみつく手に力が入る。
「カラスバさん、良い匂いする」
汗ばんだ首筋を嗅がれ、身動ぐ。そんなわけない、どちらかと言えば汗臭いだろうに。中々離れないで何度も音を立てて嗅がれ、羞恥から逃げるように思わずぎゅっと目を瞑った。
「んんっ♡♡きょうやぁ……あ゛っ♡♡それ、そこっ♡♡ダメんなる♡♡」
「いいですよ。ダメになって?」
「や、あ゛っ♡♡いく、ぅっ♡♡」
何度目かもわからない絶頂を迎えながら身体を反り返らせる。逃げたくってしょうがないのに、もっと深みへ堕ちてしまいたいとさえ思う。
まるで毒を受けたみたいだった。
そうして何度も追い詰められては果てて、そしてまた責められてを繰り返していく。狂いそうなくらいに。いやもういっそ狂ってしまっているのかもしれない。
「あ、あっ!♡♡もっ、しつこい♡♡」
「しつこいのは嫌い?」
「ぐ、っ……聞くなあほだらぁ♡♡」
無様に腰を振りながら、年下の彼氏に好き勝手に身体を暴かれて興奮するなんて、変態以外の何者でもない。
もうある程度拡がっているだろうに一向に指を抜かないキョウヤに、半泣きになりながらそれを挿入してくれと懇願するが、にっこり微笑むばかりで。
「あぁ、あっ!♡♡はやくっ、♡♡」
「もう少し拡げないとですよ」
「もう挿入るやろっ、このっ、あ゛っ♡♡」
また胸の突起にじゅっと音を立てて吸い付かれ、腹のそこから声が出る。そこ、気持ちいいから、助けて。それでもすがる相手は結局キョウヤで。のし掛かられて動けない以上自分に出来ることはなかった。
「ぐ、ぅ~~~っ!♡♡もっ、ムリや♡♡」
「ふふ、挿入れてほしい?」
「っ、」
そりゃ、挿入れてほしいに決まってる。それでも、カスみたいに辛うじて残ったプライドが言葉にするのを拒絶する。
そうして選択を間違い続けて、素直になれなくって自分から苦しい方へ苦しい方へと向かっていく。
「……カラスバさんったら強情なんだから、じゃあ、俺と一緒に気持ちよくなりましょ?これならいいでしょう?」
「っ、う……♡♡」
ああ、それならいいか。
それでも言葉に出来なくてこくこくと頷けば、キョウヤは満足そうに微笑んだ。
ずっと指を引き抜かれる。長い時間出し入れを繰り返されていた後孔は閉まることなく、ぱくぱくと蓋をされるのを待っている。
早く、早く殺して欲しい。滅茶苦茶に抱いて、何も考えられなくして、いや、キョウヤのことしか考えられなくして欲しい。
「カラスバさん、好きです」
「っ、オレもすきや」
へらっと何時もみたいに笑って、それで。後孔に押し当てられた陰茎の先端を食みながら、腕を背中に回してしがみつく。
確かに幸せがそこにあった。