スタレ
ベッドに寝転がり、柄にもなくそわそわしながらアイツを待つ。シーツに顔を埋めればアイツと同じバラの匂いがした。その香りを好ましいと思うようになってから、随分経ったように思う。――いや、なんなら初めっから好ましいと思っていたのだけれども。それは今は置いておいて。
どう考えても隣に居て良いのはオレじゃ無いはずなのにな、ってところまで考えてやめた。悲観的な考え方は好きじゃねぇし、アホらしい。我ながら女々しくて笑っちまう。
「お待たせしてしまってすみません」
鎧を脱いでいたアルジェンティが、いつもの微笑みを携えてこちらへ歩いてくる。その笑みが、欲に濡れる瞬間をオレは知っているし、出来れば一生オレだけに見せていれば良いなんて思ってしまって首を振る。
あー、今日は酒を飲み過ぎたかもな。オレらしくもない。
「ああ、待ちくたびれたぜ。愛しのダーリン」
へらっと笑って、いつも通りクソな変換をかます共感覚ビーコンに心の中で舌を打つ。そんなこともお構い無しでのしかかってくる筋肉ダルマに、挨拶がてら首筋に甘く噛みつけば、その綺麗な緑色の瞳が揺れた。
「……あまり煽らないでください」
「最初っからその気だったクセに、今更だろ」
特に気にするでもなく、ちゅうっと吸い付いて何度も跡を散らす。ハハッ、バラの花びらみてぇだ。純美の騎士様にゃお似合いだろ。
「……ブートヒルさん」
オレを呼びながら仕返しと言わんばかりに唇にキスを落とされ、応えるように口を開けば舌がすぐに侵入してきて思わず口角が上がる。がっつきすぎだっつーの。確かにこうして身体を重ねるのは久しぶりだが、オレぁ逃げたりしないぜ?
「はっ、ぁ……、んんっ、」
どちらからともなく舌を絡ませ合い、ふわふわと蕩けるような心地よさに身を任せる。飲みきれなかった唾液が口の端から漏れ、シーツにぽたりと落ちていく。
吐息さえ逃さないと言わんばかりに口内を蹂躙され、息苦しさに彼の胸を叩いた。
「っ、ふぁっ……、っ!」
当たり前だがそんなんじゃ逃がしてもらえるはずもなく、品のない音を立てながら舌を吸われ、背筋に甘い痺れが走る。一々キスが長ぇんだよ、クソが。でも、嫌じゃねぇから不思議だ。
どれぐらいそうしていたのか、酸欠で頭がぼんやりし始めたところでようやく解放された。
「はぁっ、はぁっ……随分と熱烈じゃねぇか」
なんとか息を整えて、涙目で彼を睨みつける。なんの威嚇にもならないことくらいわかってはいるが、せずにはいられなかった。
「ああ、そんな可愛らしい目で見ないでください。加減が出来なくなってしまいます」
「あ?誰が可愛いって?」
「貴方は何時だって格好良くて可愛らしいですよ」
目ぇ腐ってんのかよ、と声を出そうとしたが出来なかった。また口を塞がれたからだ。ちゅっと音を立てて唇を吸われ、優しく耳の裏を撫でられる。ぴくり、と身体が跳ねた。
「ぁっ、う、……っ」
あれ……オレ、こんなに過敏だったっけか?なんか抱かれる度に感度が上がっている気がする。サイボーグにそんな物必要だとは思うが、今だけは高性能な回路に感謝しておこう。
アイツは反応を楽しむように目を細めると、擽るようにつーっともう片方の手で腹の装甲の継ぎ目を撫でた。
「んあっ、はぁ……、あるじぇんてぃ」
「はい、なんです?」
「それっ、擽ってぇって……」
「ふふ、本当にそれだけですか?」
オレはそれを知っている。それは明らかに快感の芽だ。そんな、まだ腹を軽く撫でられただけだぞ?こんなんで、抱かれたらどうなっちまうんだ。
「っ、んんっ、うるせっ……焦れってぇな。早くここ、触れよ」
アイツの手を取り、自分から股を開いてそこに触れさせれば、仕方がないと言いたげにズボンを脱がしに掛かる。ゆっくり見せ付けるように脱がされ、股間が露わになる。既に湿り気を帯びたそこを撫でられ、直接的な刺激にビクンと身体が跳ねた。
「あっ、んんっ……」
「ああ、よかった。もう濡れてますね」
「っ、……言うなっ」
粘液に濡れた、テカテカと光を跳ね返す指を見せられ、羞恥に顔がカッと熱くなった。手の上で転がされているような感覚に、腹が立つのと同時にほんの少しだけ期待している自分がいる。
「アルジェンティ、」
「ちゃあんと気持ち良くしてあげますからね」
彼はそう言うと、ゆっくり指を蜜壺の中に沈めていく。びくんと身体が跳ね、電流の様な快感が背筋を駆け抜けた。駄目だ、耐えらんねぇ……声出ちまう。
「んあっ、あっ!」
「ふふっ、もっと沢山声を聞かせてください。貴方の声ならずっと聞いていられますから」
いつの間にか溢れていた涙を舐め取るように頬にキスを落とされる。ちくしょ、気持ち良い。
「あ゛ぁっ!まっ、そこ駄目だっ」
「駄目な人の声じゃないですよ。ああ、可愛らしい。このまま壊してしまいたいくらい」
欲を孕んだ低い声が、鼓膜に相当する部分を揺さぶる。その、抱かれている時にしか聞けない声に、オレ自身酷く興奮しているのがわかった。
ああ、早く抱いてくれよ。
ああ、早く壊してくれよ。
「ん゛っ、ぅ!あるじぇっ、きもちいっ!」
「ふふ、気持ち良いですね」
「ぐっ、あ……、あ゛ぁっ〜〜〜〜!」
ぐっと指を押し込まれ、彼の指をぎゅうぎゅう締め付けながら果てる。背を反らし、重たい刺激を逃そうと藻掻くが、知ったこっちゃないと言わんばかりに出し入れを再開されびくびくと身体が跳ねた。
「んん〜〜〜っ!いっ、イってるって!う、あっ!」
なんとか言葉を紡ぐが、その手は止まらない。追い詰められて頭がくらくらする。気持ちが良い。まだ前戯だと言うのに、飛んじまいそうになるくらい良い。
「はぁっ、あ゛っ♡♡〜〜〜〜っ♡♡」
突然陰核を撫でられ、逃れることの出来ない快感をその身に受ける。がくがくと身体を揺らしながら、深く深く感じ入り、ぎゅうぎゅうといつの間にか増やされた指を締め付けた。涙で目の前が揺らいで、顔が良く見えない。見えないけど、恐らくは笑っている。それも心底楽しそうに。
「てめっ、♡♡んうっ、なに、わらってんだっ……♡」
「貴方が可愛らしくてつい……ねぇ、このまま続けても大丈夫ですか?」
「はぁっ、一々聞くなって……大丈夫だ」
気遣うようにゆっくり指を引き抜かれ、その先を想像して期待に身体がぶるりと震える。口の隙間から甘い吐息が漏れ出して、それにさえ興奮する。
「ほら、さんざん慣らしたんだ。早く股間のそれ、くれよ♡」
「っ!」
自分から指で蜜壺を開いて見せれば、ごくりと生唾を飲む音が聞こえた。残っていた理性を焼き切るには十分だったらしく、安心する。
「ブートヒルさん、後で怒らでくださいね」
「怒らねぇから、早くっ!♡♡」
入口に陰茎が押し当てられる。期待できゅうきゅう開閉するそこが、やっときた欲しかったものを味わうように離さない。
「ふーっ、ふーっ♡♡」
くちゅっと音を立てて先端が中にめり込む。相変わらず顔に似合わねぇもん持ってんな、なんてぼんやり思いながら、それを飲み込んでいく。引っかかることなくするすると飲み込まれていくそれを締め付けながら彼の背中に手を回ししがみついた。
「……、あ゛っ♡♡」
「っ、」
多幸感に頭が溶けそうで、怖くなってつい指に力が入る。また跡残しちまうな、と思うが気にしていられない。こんなんで動かれたら絶対ヤバい。飛ぶ。
「アルジェンティっ、」
「すみません、もう我慢できそうにない」
腰をがっと両手で掴まれて、挿入されたものがゆっくり出ていく。あっと思った時には、最奥に叩きつけるように再度挿入され、目の前がチカチカ明滅した。
「〜〜〜〜っ!♡♡」
声にならない声を上げながら、身体を反らし喉を晒す。加減なんてなく揺さぶられ、壊れたように身体をがくがく震わせながら何度も果てる。気持ちが良い、狂っちまう。
「あ゛、あっ!♡♡ん゛あっ♡♡つよいっ、またいくっ♡♡」
「一緒に沢山気持ち良くなりましょうね♡」
アイツの声が頭の中で何度も反芻されて溶けていく。涙でぐしゃぐしゃの頬にキスを落とされたかと思えば、剥き出しの喉に噛み付かれ、痛みに飛びかけていた意識が連れ戻された。
「い゛っ♡♡、あぁっ!♡♡あるじぇんてぃ、それヤベェっ♡♡」
舌っ足らずに彼を呼べば、嬉しそうに目を細めた。アホ、加減しろっての!と叫びたかったが、そんな余裕はとてもじゃないがなかった。
ごちゅごちゅと結合部からはしたない音を立てながら何度も腰を叩きつけられ、壊れたように潮に相当する物を吹き出す。
アイツも限界なのか小さく呻くと、いつもの様に陰茎を引き抜こうとするもんだから咄嗟に脚を絡めてきゅっとナカを締め付ける。
「ブートヒルさんっ!」
「〜〜〜〜っ♡♡」
焦ったような顔をしているアイツと、びゅくびゅくとナカに出されている感覚に満足感を抱きながら、視界がブラックアウトした。
再起動のメッセージが出た後、ふっと意識が戻る。どのくらい落ちてた?気怠い身体を起こせば、既に性交の痕跡はないくらい身体を清められていた後だった。しかも、ご丁寧にちゃんと充電ケーブルまで挿されている。じゃあ結構長いこと落ちてたのか。見渡せば、アイツが隣でスヤスヤと寝息を立てているのに気付いた。
「手加減なしでヤりやがって……」
手を伸ばし、燃えるような赤い髪を梳くように撫でる。するとアイツは微かに身動ぎをした後、緑色の瞳を開いた。
「……ブートヒルさん?」
「悪い、起こしたか?」
「ふふ、大丈夫ですよ」
同じ様に横に寝転べば、そのままぎゅうっと強く抱き締められた。全身が軋むが、これくらいならまだ大丈夫だろう。
「今日も可愛らしかったですよ。特に……」
「だから感想なんざいらねぇっての」
長くなりそうだったから話を遮れば、きょとんとした顔でこちらを見るもんだから思わず笑ってしまう。ホント、おもしれぇヤツだよ。
ぎゅうっと抱き締め返し、その唇に啄むようなキスを落としてから口を開く。
「アルジェンティ」
「なんですか?」
「いや、なんでもねぇよ」
?マークを浮かべ首を傾げている様にまた一笑いしながら胸板に擦り寄った。