スタレ



 身体が熱くてしょうがなくて、すがり付くようにシーツを掴む。何処もかしこもアイツの匂いがするこの船に、逃げ場なんてなかった。
 頭がぼんやりして、何故ここにいるかもわからない。あれ、なんでオレここにいるんだっけ。飛びそうになる意識をなんとか繋ぎ止め起き上がろうと踠くが、身体は言うことを聞いてくれなくて。奥歯を噛みしめ何とか四つん這いになると、ちょうどノックの音がした。
「大丈夫ですか?ブートヒルさん」
 グラスと、多分水の入ったであろうボトルを持ったアルジェンティが現れてこちらに近付いてくる。これでもかってくらい心配しきった顔でだ。見りゃわかんだろ。大丈夫なわけあるか。声にしたかったが、開いた口からはただ唾液が落ちていくばかりで。困惑しているとアルジェンティが隣に腰掛けた。
「薬をお持ちしました。これで少しでも楽になればいいのですが……」
 労るように身体を撫でる温かい手に、大袈裟なくらい身体が跳ねる。
「っ、んやぁっ、さわんな」
「すみません……つい。薬、飲めますか?」
 心配そうに差し出される手を振り払い、力の入らない手でアルジェンティにすがり付く。そんなものよりも、オレが欲しいものくらいわかっている癖に。額を肩に擦り付け、安心する匂いを目一杯吸い込む。嗚呼、蕩けるように甘い。
「ブートヒルさん?」
「ふぅ、うぅ……」
 こいつに堕とされてから初めてのヒート。番っていてもしんどいそれに、オレは苦しんでいた。
「はぁっ、そんなのよりも……わかってんだろ」
「でも、貴方に負担をかけてしまう」
 アンタが堕としておいてよく言うよ。このキューティーが。
 なんとか息を吐き、そのまま差し出された手に己の手を絡め、体重をかけて引っ張る。あっさり体勢を崩したアイツが、こちらに倒れこんできてぱさりと赤い髪が落ちた。何か文句でも言おうと開かれた口を塞ぐようにキスをする。
「っ!」
「……それとも抱いてくれって言わねぇとダメかよ?」
 そう囁けば、アイツの目が変わった。揺れる欲に気分を良くしながら、差し出された舌を甘く食んでやる。やっぱり、アンタも相当我慢してたんじゃねぇか。
 ぶわりと甘い匂いが濃くなって、頭がぼーっとする。何も考えられない。アルジェンティ、アンタ以外は。
「っ、♡」
 吐息が隙間から漏れていく。甘い唾液を流し込まれ、それをこくこくと飲み下しながら背中に手を回した。
 何度も何度も、確認でもするようにそうしていると、不意にアイツが離れていく。名残惜しいなんて思って、恥ずかしくなって視線を逸らすと特大のため息と共にぎゅうっと抱きしめられた。
「あまり煽らないで……」
「……まだ余裕ぶる気かよ。捨てちまえ、そんなの」
「っ、ブートヒルさん」
 首筋の継ぎ目をなぞるように汗を舐められ、身体が震える。受け入れるように抱き返すと、アイツがふっと笑った。



 それがいつの話だっけ。蕩けた思考で考えるが、もう時間の感覚なんてなくたなっていて。ごちゅっと音が聞こえて、衝撃に目の前が明滅した。
「お゛っ、あ♡♡」
「ふふっ、考え事ですか?」
 優しい声音のわりに余裕のなさそうなアイツは、腰を掴むとぐりぐりと弱いところを刺激してくる。
「ぐぅ、あっ♡♡~~~~っ♡♡おくっきてる♡♡」
 怒張に奥の奥まで貫かれながら、壊れたように身体をわなつかせる。何をされても気持ちが良くって、狂いそうだった。
「ひうっ♡♡あ゛~~~っ♡♡だめんなるからぁ♡♡」
「ああ、こんなに締め付けて……可愛らしい」
 がりがりとアイツの背中に線を残しながら、何度目なのかもわからない絶頂を味わう。頭がバチバチと焼ききれそうで、見たこともないエラーメッセージがちらつくが構っていられない。
「ぎゃっ♡♡まって、まって♡♡でちゃうからっ♡♡」
「良いですよ。全部見せてください♡」
 ぷしゃ、と音を立てて排水が溢れだし、股を濡らす。お構い無しに陰茎を引き抜かれたかと思うと、そのまま奥まで叩き入れられ衝撃に背を反らせた。腹の奥にびゅくびゅくと精を吐きかけられ、その刺激にさえ感じる始末で。
「はあぁっ♡♡おくっ、もっと♡♡」
 自分から腰を揺らし、脚を絡み付かせ浅ましくも精を強請る。機械の身体にゃ何の意味もないことくらいわかっているはずなのに、止められなくて。何時もみたいにはしたないって怒られるかと思ったが、アイツは嬉しそうに微笑むばっかりだった。
「ブートヒルさんっ、」
「あるじぇんてぃ♡♡」
 反射的に名前を呼びながら、多幸感にゆらゆら揺れていると唇を重ねられた。溺れているみたいな気分になって口を開けば熱い舌が差し込まれる。砂糖よりも甘いそれを夢中で貪り、緩く腰を打ち付けられる。
「んんっ、♡♡はぁっ……ちゅ♡♡」
 アイツがナカで出したのが掻き回されて、孕ませられるような錯覚に頭が湯だっていく。気持ち良くって、それでもまだまだ足りないと腹の奥がじくじく疼いてしょうがない。
 ヒートって、こんなやべえんだ。
「あ゛っ、はぁ♡♡♡」
 アンタになら壊されても構わない。そんな考えまで浮かんで、咄嗟に首を振る。
 そうするとアイツは何かを勘違いしたのか、優しく手を握り絡めてきた。別に優しくして欲しかったワケじゃないのに、嬉しくて思わずきゅうきゅうとナカを締め付ける。
「ブートヒルさん、気持ちいいですか?」
「良いっ♡♡もっと、アンタが欲しい♡♡」
 自分でも、もう何を口走っているのかわからなくなっていた。それでも、アイツが嬉しそうだからいいか。
 はふはふと息を吐きながら、舌をつき出す。酸欠で苦しいけど、それさえ気持ち良くってもうダメだった。
「はあ゛ぁっ♡♡あ、う♡♡ん゛ん゛っ♡♡」
 肌がぶつかる音が部屋に響く。いつもならもっと喋りかけてくるアイツも、流石に余裕がないのかふうふうと息を吐くだけだった。
 獣のよう、とはまさにこう言うことを言うのだろう。こんな余裕のないアルジェンティは初めて見たかもしれない。意識を飛ばしそうになりながらも、にんまり微笑んでいるとアイツと目があった。
「?どうかしましたか?」
「いいや?なんでもねぇよ」
 それが嬉しかったなんて、口に出してはやらない。不思議そうなアイツを置いてけぼりに、自分から誘うように腰を揺らせば、それを合図に律動が早くなる。
「あ゛んっ♡♡そこらめっ♡♡すぐいっちゃ、う゛~~~っ♡♡」
「ふふ、愛しています」
 その言葉に、大きく身体を仰け反らせながら果てた。



 そのまま、気をやってしまった彼を抱きしめながらゆっくり陰茎を引き抜く。孔からこぽりと音を立てて白濁が流れ落ち、シーツにシミを作っていく。
 思わず生唾を飲み込み、首を横に振った。これ以上はいけない。彼に負担をかけてしまう。
 それでも気持ちを抑えることが出来ず、くぱくぱと開閉をする孔に、立ち上がった陰茎を押し付けた。
 正直、ヒート中の彼はとても蠱惑的で、思っていた以上に盛り上がってしまった感は否めない。
 そう言う物だと言われればそれまでなのだが。
「ごめんなさい。こんなこと、いけないのに」
 絡み付いてくる肉を掻き分け、溶けきったそこにゆっくり腰を進めていく。
 意識のない彼を襲うなんて、と思う反面、確かに興奮している己がいる。
「っ、ぅ」
 彼が気持ち良さそうに身体を震わせる。意識がなくても感じるのか。そんなことを思いながら、こちゅっと奥に先端を押し付けると、ぷしゃと先程までとは違う、勢いのない排水が溢れだした。
 腰を掴み何度も何度も腰を打ち付ける。反応があまりないのが寂しくて、首筋に歯を突き立てれば痛みで彼が目覚めた。
「いっ、……はえ?」
「良かった、起きましたか?」
「っ~~~~!♡♡♡」
 遅れて来た快楽に、意味もわからず身体を震わせる彼を抱きしめながら弱いところを責める。困惑している瞳から、ぽたりと冷却水がこぼれ落ちた。
 それを舐めとり、耳元で囁いてやる。
「まだ終わらせませんよ?」
 ふふ、と微笑んでやればナカがきゅうっと締まった。
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