ルクエド
飾り付けられた古めかしいツリーを眺めながら、あいつが帰って来るのを待つ。チカチカ色とりどりに光る電飾が綺麗で、部屋を薄暗くして温いココアをちびちび啜りながらソファで寛いでいると、かちゃかちゃと鍵が開く音がした。
喜んで駆け寄るなんて、そんなの待ち望んでいたみたいじゃないか。ソファから立ち上がることなく視線だけそちらに目を向ければ、ピザでも買ってきたのだろう、大きな袋をいくつか下げたあいつが部屋に入ってきた。
「うおっ、居たのかよ」
「悪いかよ」
「いや悪くなんてねぇけど、なんでこんな部屋暗くしてんだ?」
「別に、半分寝かけてただけ」
適当に誤魔化しながらテーブルにマグカップを置けば、袋を置いたあいつがこちらに歩いてくる。大きな手が頭を撫で、擦り寄るようにもたれ掛かればふふっと笑われた。
「……なんだよ」
「猫みたいだなって思ってさ。で、おかえりのハグは?」
「するわけねぇだろ」
誰がするかよそんなこと。そう思いながらも、お構い無しに抱きしめてくる太い腕に、ため息を吐きながら抱きしめ返す。
「おかえり」
「ただいま」
なんだか照れくさくなって顔を胸に埋めれば、いつもの匂いがふわっと香った。少しの汗と石鹸、後なんだろう。香水?なんとなく甘いような、そんな香り。その匂いを吸い込む。
「臭かった?」
「いや、別に気になんねぇけど」
嫌じゃないしなんなら好きだ。安心する。心の中でなら素直に言えるんだけどな。なんて思いつつ見上げればあいつと目が合った。
「ん、どうした?」
薄暗い部屋で、キラキラと光る電飾だけが俺たちを照らしている。星の瞬きみたいなそれがあいつの目に映っていて、思わず見惚れる。
「エド?」
「……なんでもねぇ」
恥ずかしくなって視線を反らし、手に力を入れて押し退けようとするが、びくともしない。いつもなら力の差なんてあまり感じないのに、こういう時は何故だか駄目だ。
「照れてるの、可愛い」
「見てんじゃねぇよ」
ちゅっ、と音を立てて頬にキスを落とされ、部屋が薄暗くてよかったと心底思った。じゃなければ、顔の赤みがすぐバレていただろう。
当たり前のように身体を撫で回され、どんどん力が抜けていく。そういう雰囲気に流されそうになりながらも、ギリギリの所で持ちこたえ「買ってきた飯、冷めんだろ」とだけ呟けば「ははっ、そうだったな。これ以上はまた後でにしようか」と言って離れていくのが寂しくて、思わずあいつの裾を掴んだ。
「ちょっとだけなら……」
本心から出た言葉にあいつはにっこり微笑むと、そのまま優しくソファに押し倒される。
……こんなの、ちょっとで済む訳ないのに。そう思いながら、落とされるキスに身体を震わせる。腹に、胸に、首筋に、どんどん唇に近付いてくるそれに焦れて、自分からキスを強請るようにあいつの唇に吸い付いた。何度も何度もそうしていると、薄く開かれた口に舌が割り込んでくる。
「んんっ、ふぁっ……、」
隙間から甘い吐息と唾液が零れ落ちていく。それも気にせずに、貪るようなキスを受け入れると、あいつの背中に腕を回しぎゅうっと抱き着いた。
「っ、んっ……んぁっ」
まだキスだけだと言うのに、先を知っている身体がかっと熱を持つ。早く暴かれたくてしょうがないなんて、そんなの浅ましすぎる。恥ずかしくてきゅっと目を瞑れば、身体を撫で回していた手が、そっと胸の突起へ伸びた。
「んっ!、はあっ、そこっ」
「ここ触られるの大好きだもんな。ほら、もう勃ってる」
「言うなぁっ、あぁっ!」
こりこりとしこり勃つそこを押し潰され、思わず嬌声を上げる。気付けば快感を拾うようになってしまったそこは、何時もよりも赤く色付いて、もっと触って欲しいと主張しているようだった。
「あ、ぅっ……、んんっ!」
「気持ちいいな。もうここだけでもイけるんじゃねぇの?」
「んっ、そんなっ、んああっ!」
否定しようと口を開くが、それよりも先に突起に吸い付かれ、背筋を快感が駆け抜ける。舌先で転がすように嬲られるともう駄目だった。身体を撓らせ、快感から逃れようと藻掻くが、そう簡単に逃がしてもらえる訳もなく。
「ひぃっ、う!んんっ、」
追い詰められるように甘噛みをされ、いやいやと首を横に振る。気持ちいいけど、あともうちょっと刺激が足りない。かくかくと動く腰さえ自分で止めることが出来なくて、助けてほしくて半泣きになりながら足を絡みつかせれば、ふふっとあいつが微笑んだ。
「足りねぇ?」
「んっ、ちゃんとイキたいっ」
「ははっ、素直で可愛いな。こっちも触ってやるよ」
下着ごとスキニーを下ろされ、先走りに塗れた陰茎が姿を現す。既にガチガチに勃ち上がったそれを優しく握り込まれ、数回扱かれただけでイキそうになった。
「あっ、んんっ!まっ、すぐきちゃ、う!」
「イキそう?」
「うっ、あっ!いっ、いくっ!」
「いいぜ、見ててやるからイッちまえよ」
「んん〜〜〜〜っ!」
びくんっと大きく身体が跳ねる。あいつにしがみつきながらぎこちなく腰を揺らし、びゅくびゅくを精を吐き出した。気持ち良さに頭がぼんやりして余韻に身体が震える。
「ぁ、んっ、……きもちいっ」
「なら良かった。次は俺の気持ちよくしてくれよ」
出来るか?と聞かれこくんと頷けば、目の前にあいつのバカでかい陰茎が取り出された。
前に教えられた様に先っぽに吸い付くと、唾液を絡めてゆっくりと咥えこんでいく。石鹸の匂いがして、トレセンでシャワーでも浴びてきたんだろうな、とぼんやり思った。
「あー、口ん中あったけぇ」
じわりと先走りが滲み出て来て、独特の風味が口に広がる。ちゃんと出来ているか不安になりながらもしゃぶりつくが、半分くらいしか飲み込めない。もう少し奥まで、なんて思って頑張って飲み込もうとするも、喉に当たって胃液がこみ上げてくる。
「っ、無理しないでいいぞ?」
頭を撫でられ、余計な力が抜けていく。どうせなら気持ちよくしたい。そう思って見上げれば、あいつは欲に濡れた目でこちらを見ていた。
「はぁっ、ほら、ゆっくり慣れていこうな」
視線にさえ犯される。ただ見られているだけなのにぞわぞわと鳥肌が立って、頭がぼんやりしてきた。
なんつー目で見てんだよ、なんて思う。それなのに、胸が高鳴るんだから俺ももう駄目なんだろう。
飲み込める分だけ飲み込み、そのまま出し入れを繰り返す。口に入らないところは指で刺激をしてやれば、あいつの顔が歪んだ。どうやら気持ち良くできているようだ。
良かった、と思わず安心する。
「っ、う……そうそう、上手い上手い」
先走りなのか唾液なのかわからない液体が、口の端から溢れていく。褒められたのが嬉しくて、じゅっと吸い付けばあいつが短く呻いて、口の中にびゅくびゅくと精が吐き出された。
「っ、ぐぅっ!けほっ」
「わりぃ、大丈夫か?」
危うく噎せかけるが、なんとか落ち着かせてゆっくり飲み下していく。粘つくそれが喉に張り付いて、気持ちが悪い。不味いけど、それでも吐き出してしまうのは嫌で、目を瞑り時間を掛けて飲み干した。
ずるり、と陰茎が口から引き抜かれる。絡みついた白濁を舌で舐め取れば、あいつがまた呻く。
「うっ、」
ざまぁみろ、仕返しだ。そう思いながら口を離す。だって、ここまで来たらもう後は一つだろ?
「なあルーク……抱いて?」
「……煽んなって。ちょっと待ってろ」
そのまま寝室へと消える背中を、ぼんやり眺める。戻ってきたあいつの手には、使いかけのローションが握られていた。
「たく、後で怒んなよ?」
「怒らねぇから、早くっ」
抱かれたくて仕方がない。あいつのでかいので奥まで突いて欲しい。近付いてきたあいつにしがみつけば、そのまま力任せに押し倒される。
「加減出来ねぇぞ」
「上等だ、来いよ」
後孔にローション塗れの指が這わせられる。その先を想像して、ぞくぞくと背筋を快感が駆け抜けていく。もうきっと、俺はコイツなしでは生きていけないのかもしれないとすら思って、そっと目を瞑った。
お互いに満足するまで食い合った後、冷めたピザだのチキンだのを温めにキッチンへ向かったあいつを見送る。震える足を何とか立たせ、この日の為にと準備した物をカバンの中から取り出し、戻ってきたあいつに手渡した。
「ん?なんだ?」
「クリスマスプレゼント」
「開けてもいいか?」
小さく頷けば、包装紙をビリビリ破いていくのを内心ヒヤヒヤしながら見守る。中から出てきたのは……。
「ボールペン?」
「それなら普段も使えるだろ」
仕事中でも大丈夫なように、落ち着いたデザインの物を選んだ。濃いグリーンのそれには、あいつの名前が掘ってある。
「ありがとう。大事にする」
嬉しそうに笑ったあいつは、そうだ!と慌ただしく自分のカバンに駆け寄ると、中から洒落た袋を取り出した。
「俺からも、これ。出遅れたけどプレゼント」
「……?」
中から出てきたのは、香水だった。
「これ、俺が使ってるのと同じ香水」
匂いだったら、たとえ何処か遠くに行ったとしても一緒にいられるかと思って。あいつはそう続けると、満足そうににんまり微笑んだ。
「どうよ?嬉しい?」
「ばぁか」
嬉しくない訳ねぇだろ。手元の小瓶を見つめながら呟く。そういうとこ、ズルいな。俺よりもずっと上手だ。ばぁか。俺がどっか行ったとしても離す気なんかないんだ。
蓋を開け、シュッと手首に吹き掛ければ、確かにあいつと同じ匂いがした。