ルクエド



 ゆっくり息を吐く。吐かれた息の白さに冬の訪れを感じながら、壁に寄りかかりあいつを待つ。きっとそろそろ出てくる頃だろう。ジャンパーのチャックを閉め、ポケットに手を突っ込む。
 トレセンからぞろぞろ出てくる人の波の中に、あいつの姿を見付け、さも偶然と言わんばかりに近付くと、俺を見た瞬間にこやかになりエドと名前を呼ばれた。それさえ嬉しいと思うのだから、もうきっと駄目なんだろう。
「どうした?」
「別に。たまたま近くにいたから来ただけ」
 我ながら白々しいな、と思う。待ってたなんて思われたくなくって素っ気ない態度を取れば、ポケットに手を突っ込まれた。
「手、冷えてんじゃん。早く帰ろうぜ」
 あったかい手が俺の手を撫でる。あいつが首に巻いていたマフラーを俺にかけたもんだから、まるで恋人同士みたいだ、なんて思ってかあっと顔が赤くなった。
 まぁ、恋人同士なのは間違いないのだけれど。
「メシは?何か食いたい物あるか?」
「なんでもいい」
「じゃ、適当に買って帰るか」
 歩き出したあいつの後ろをついていく。マフラーからふわっといつもの香りがして、バレないように頬ずりをする。
 嗚呼、好きだな。自分がこうなるなんて思っていなかったから不思議な感覚だけど。その、悪くない。
「エド?」
「なんでもねぇよ」
 名前を呼ばれ慌てて隣に立つと、あいつが顔を覗き込んできた。にやけが止まらないのを見られたくなくて、ふいっと視線を逸らせば頭を撫でられた。
「はは、可愛いヤツ」
「うるせっ……」
 誰かに見られたらどうすんだよ。それともこのくらい普通なのか?そう思いながらあいつの手を払う。
「ガキ扱いかよ」
「違ぇよ。どちらかと言えば恋人扱い?」
「っ!」
 かあっと顔が熱くなる。自然にそういう事しやがって、ばぁか。もっと凄いことだってした事あるのに、こう言うスキンシップは何故だか全然慣れない。すぐ熱くなってしまう頬を隠すようにマフラーに埋め、にんまり笑うあいつの後をついて行った。



 楽しい時間っていうのはいつもあっという間に過ぎていく。あの後適当に夕飯を済ませると、あいつはすぐに最近流行りらしいゲームをプレイし始めた。その様子を隣に座り、クッションを抱きしめながらぼーっと眺める。
「面白い?」
「エドもやってみるか?」
「いや、俺は見てるだけでいい」
 そんなやりとりをしながら、何気なくあいつの肩にもたれ掛かる。深い意味はなかったんだ。別に構って欲しいなんてこと、ない。
「なんだよ〜、構って欲しいのか?」
「べ、別に」
 ちょっと寂しかったなんて、ほんの少しだけ思ったけども。そんなの恥ずかしいから抱えていたクッションに顔を埋める。すると、あいつはテーブルの上にコントローラーを置き、ぎゅっと抱きしめてきた。
「ゲーム、もういいのかよ」
「これオートセーブだから大丈夫」
 むき出しの項にキスを落とされ、身体がぴくんと跳ねる。
 これは、その、そう言う雰囲気って奴なんだろうか。その手の事は不慣れだからわからないけど、きっとそうなんだろう。恐る恐る顔を上げれば、あいつの顔が近付いてきた。きゅっと目を瞑ると、少しカサついた唇が静かに重ねられる。
 何度も何度も、優しくそうされると気持ちが高ぶってくる。自然と息が上がって、息継ぎの仕方も知らない俺はあいつに縋りつきながらそれを黙って受け入れるしかなかった。
「んんっ、……っ、ん、」
 舌で唇をノックされ、薄く口を開く。それは前に教えてもらった、蕩けるくらい気持ちよくなるキスの合図だ。
 一緒に身体を弄られ、ぞわぞわと鳥肌が立つ。ぎゅっと目を瞑り、口内を蹂躙する舌になんとかついていこうと絡めるが、きっとまだまだ拙いのだろう。
 口の端から唾液が垂れていくのも気にせず、息も忘れて夢中になっていると、酸欠で頭がくらくらしてきた。
「はっ、んんっ、……息!できねぇっ!」
「っ、大丈夫か?」
「だい、じょぶっ……」
 ぜえぜえと肩で息をしながら、なんとか落ち着けようと深呼吸を繰り返す。あいつは全然苦しそうじゃないから、俺がキスに慣れていないのが丸わかりで恥ずかしくなって視線を逸らした。
「ゆっくり覚えていこうな」
 そう言いながら背中を撫でる手に、こんなにも安心するのは何でだろう。自分から擦り寄り、そのまま首筋に顔を埋めればさっきのマフラーと同じ匂いがした。
「甘えてんの、可愛い」
 可愛いなんて言われて嬉しいとか、そんなことを思う日が来るなんて思わなかった。だって、普通は格好良いの方が嬉しいだろ。俺だって、言ってんのがこいつじゃなきゃ殴ってる。
「なぁ、するの?」
「俺はしたいけど……嫌か?」
「いや、じゃ……ない」
 絞り出す様に呟けば、そのまま押し倒された。じゅっと音を立てて首筋を吸われ、思わず吐息が漏れる。
 気持ちいいことは嫌いじゃないし、求められるなら応えたい。試しに手を背中に回し、ぎゅうっと抱き着いてみると、あいつがふふっと笑った。
「何笑ってんだよ」
「いや?可愛いなって思ってさ」
 身体を撫で回していた手が、そっと胸の突起に伸びる。擽るように撫でられ、ぴくっと身体が跳ねた。そこの気持ち良さはまだわからないけど、くるくると輪郭をなぞる様に触られ、ぞわぞわと鳥肌が立つ。
「んんっ、ぅ……」
「そのうちここだけでイけるようになろうな」
 そう言いながらそこを舌先でつつかれ、擽ったさに身動ぐ。背中に爪を立てながら小さく「ばかっ」と呟けば、こっちを向いたあいつと目が合った。
「なんだよ」
「やっぱこっちの方がいいか?」
 勃ち掛けた陰茎をスキニー越しに撫でられ、驚いて身体が跳ねる。そのまま下着ごとスキニーを下ろされ、直接触られて思わず息を呑んだ。
「っ、!」
「ははっ、勃ってる」
「うるせっ……あっ」
 先走りを絡めた手が陰茎を扱く。直接的な快感に精がせり上がってくる。身を捩り手から逃れようとするが、簡単には逃がしてはくれなかった。
「んぅっ!、はぁっ、あっ!」
「気持ち良さそうだな」
 そりゃ、自分でするのと人にやられるのでは話が変わってくる。気付けば余裕なんてとっくになくて、どんどん先走りが溢れ出し、くちゅくちゅといやらしい音を立て俺を追い詰めていた。
「はぁっ!んっ、んぅ……、やっ、だめ」
「何が駄目なんだよ?」
「っ、てめぇっ!んんっ、さわんなっ!」
 すっとぼけやがって!限界が近くてあいつの背中に爪を立てると、反り返りあいつの手の中にびゅくびゅくと精を吐き出す。気持ちが良くって、爪先をきゅっと丸めながら波が落ち着くのを待とうとするが、あいつがそれを許してくれるわけもなく、追撃と言わんばかりに陰茎を扱かれ情けない声が出る。
「ひぃっ、あ゛!」
「こっちも構ってやらないとな」
 そう囁きながら後孔の縁を撫でられ、びくっと身体が跳ねた。精でねとつく指がゆっくりと挿入ってくる。気持ちいいのと異物感でぐしゃぐしゃになっていると、気持ちいい所、あれ、なんだっけ……前立腺?それを指先で潰され目の前がチカチカ明滅する。
「ん゛ぅっ!あ゛っ、それ、おかしくなるっ」
「おかしくなっちまえよ、責任取るからさ」
 前も後ろも責められて、更には耳ん中にも舌をつぽつぽ入れられてわけもわからず喘ぐしかできない。自然と揺れる腰を止めることも出来ず、自分が壊されでもしまっているような快感に怖くなってあいつの名前を呼んだ。
「るー、く!う゛、こわいっ、きもちよくてっ、あ゛っ!」
「ふふ、可愛い」
 前もこうやって訳も分からなくされたんだ。ぐずぐずにされて、それで……。でも、嫌じゃない。頭が溶けでもしたようにぼんやりしてきて、必死で息を吸う。
 いつの間にか増やされた指が俺を追い立て、縁を拡げるように出し入れされ、じゅぶじゅぶと卑猥な音を立てていた。
「るーくっ、はやく」
「焦んなって、もうちょい拡げねぇと」
「や゛ぁっ!またいくっ」
 言い終わる前にびゅくびゅくと精が吐き出される。気持ち良くて、脱力して、それで。ぜえぜえと息をしながら玉のような汗が肌を伝っていく。ゆっくり時間を掛けて身体を暴かれていく感覚に気が狂いそうになっていると、あいつも余裕がなくなってきたのか急に指を引き抜かれた。
「挿入れてもいいんだよな?」
「ばっ、きくなっ!」
「エドの口から聞きたい」
「っ!」
 腹が立って、言うことを聞かない身体を無理やり起こし、あいつの胸ぐらを掴んだ。
「なぁっ、来いよ」
「っ、」
 あいつが息を呑むのがわかる。ざまぁみろ、ばぁか。熱い物が後孔に当てられるのを感じながら、余裕のなさそうな顔のあいつを笑う。
 ゆっくりと挿入ってくるあいつのバカみたいにでかい陰茎に、媚びるように肉壁が絡みつくのが自分でもわかって、誤魔化すようにあいつの唇に噛み付いた。
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