ラシエド
「知ってる?今日ってキスの日らしいよ」
ソファでチョコミントのアイスを食べながらテレビを見ている彼にそう話しかければ、視線すらこちらを向かず、面倒くさそうに「何処の情報だよ」と返される。
「SNSで見かけたんだって。凄い数があって……。だからさ、しよっか」
隣に座りながらそう言えば、彼は可愛らしい舌をべっと出して「バァカ、誰がするかよ」と言い返してきた。
「だいたいそんなキスしたら出来ちまうだろ……ガキが……」
後半の方になればなるほど小さくなる声に、一瞬 理解が遅れる。確かに、オレ達はまだキスだってしたことがないけど、お互い好き同士だ。というとこまで考えて、そこじゃないと気付く。
「エド……もしかしてキスで子供が出来ると思ってる?」
「ばっ、言うんじゃねぇよ!」
顔を赤くしながら言う彼を、そんな事を信じちゃって可愛いなぁと思う。そのまま押し倒して全て教えてしまいたいと言う欲をなんとか抑えて言う。
「あのねぇ、エド。キスだけじゃ子供は出来ないから大丈夫だよ」
「へっ?そうなの……か?」
「そうそう。それはいつか教えてあげるから」
彼が持っていたアイスのカップを取り上げ、近くのテーブルの上に置く。
「はっ?てめっ」
「いただきます」
油断して呆けている彼の薄い唇を奪い、わざとらしくリップ音を立てて吸う。
オレの胸を力なくどんどん叩く彼を気にせずに唇を舐め、何か言おうと開いた口にそのまま舌をねじ込んだ。
噛まれるかもと思ったが、以外にもそのまま受け入れる彼を愛しく思いながら、舌を絡め取る。チョコミントの爽やかさと甘ったるさが口内に広がった。
「ふあっ、んんーー!」
胸を叩いていた手を取り絡ませる。
息継ぎの出来ないだろう彼が、苦しがって離れようとするのを許さず、そのまま口内を貪ぼる。おずおずと舌を差し出してきたので吸い付き、口を離せば二人の間を銀色の橋が繋いでいた。
「はっ、……これがオトナのキス。ああ、子供は勿論出来ないから安心してね」
「はーっ、はーっ!てめぇ何すんだ!」
ぜぇぜぇと肩で息をしながら怒った彼が殴りかかって来るのを受け流し、そのまま手の甲にキスを落とす。
「ちゃんと責任は取るからね」
耳まで真っ赤にしながらぎゃんぎゃん吠える彼に笑いかけながら、口の中に微かに残ったチョコミントの甘さを楽しんだ。