主♂エド
「愛してますよ」
それは甘い甘い毒のようだと思う。キスと一緒に落とされるそれはじわじわと己を侵食し、溶かしてしまう。
身体の中が温かくなるそれを、もう何度浴びただろうか。言葉を反芻しながら、自分も応えようとする。
「……」
「どうしました?」
「……なんでもねぇよ」
が、俺にはできなかった。
よく面と向かって言えるなと思う。それは俺にはとてもじゃないができないことだった。
愛していないわけではない。それだけは言えるが言葉にするのはこそばゆくて恥ずかしい。
「けっ……」
言わなきゃ伝わらないのも分かる。でも俺には出来ない。それこそむちゃくちゃにでも抱かれて前後不覚になってなけりゃ無理だ。
その気もなかったのに、ふと情事を思い出してカッと身体が熱くなる。あいつに触られるのは嫌いじゃない。そりゃあ殴り飛ばしたくなる時はあるけれども、それでも、きっとそれは惚れているからなのだろう。
「……えっちな顔してるの、気付いてます?」
「別にしてねぇよ」
「ふふ、可愛い」
そう言うと、あいつは俺を抱きしめる。心地よさから、肩に擦り寄ると唇にキスを落とされた。啄むような優しいキスから、気付けば貪るようなキスへと変わる。鼻から上擦った声が漏れ、くちゅくちゅと卑猥な水音が部屋に響く。
「はっ、ふうっ……んんっ、やっ」
あいつのパーカーをぎゅっと握る。深いキスは気持ちがいい。が、何度しても慣れない。顔がカッと熱くなる。きっと耳まで赤くなっていることだろう。
「んーかわい、顔真っ赤ですよ」
「はぁっ、うるせぇっ」
耳を食まれ、囁かれる。擽ったさに身を捩れば、指が胸の突起を撫でた。声が出そうになるのをなんとか堪えながらあいつを睨めば、獣の様にギラついた目で俺を見ていて、無意識に腹の奥を締め付けてしまう。
「っ、」
「そんな目で見ちゃ駄目ですよ。止まれなくなる」
「やめる気ない癖にっ」
「それはそう」
そっとソファに押し倒される。首筋をそっと食まれ、身体が震えた。胸の突起を撫でていた指が、押し潰すような動きに変わり、気持ち良さに思わず目を瞑る。
「あっ、う!んんっ、」
もう片方に吸い付かれ、咄嗟に手で口を塞いだ。何度抱かれても、声を聞かれるのは恥ずかしい。
指で摘まれたかと思えば、優しく引っ張られ、慣れない刺激に身体が跳ねる。気持ちがいいと思う度、くぐもった嬌声が隙間から漏れ出た。
「恥ずかしがらないで、声聞かせて?」
「んあっ、や、やだぁっ、ああっ!」
口を塞いでいた手を引き剥がされる。瞬間、舌で窪みを穿られ思わず声を上げた。強く吸われれば、鋭い痛みと共に快感が駆け抜ける。
「やぁっ、そこばっか」
「でも好きでしょ?」
「ん、……うるせぇっ」
性懲りもなく繰り返される胸への愛撫に、口から嬌声が上がる。少しずつ溶かされていく様な感覚に、あいつの肩に爪を食い込ませながら耐える他なかった。
「うっ、んんっ……ぁっ、」
「気持ちよさそうですね」
「やだぁ、あっ!うまくイケなっ」
中途半端な刺激にいやいやと首を横に振る。気持ちがいい、がもっと直接的な快感が欲しい。これじゃあ足りない。腰を揺らしてあいつの脚に陰茎を擦り付ける。下着の中が湿って、貼り付く感覚が気持ち悪い。
「ふふ、えっち」
「うるせぇっ、……焦らしてんじゃねぇよ」
「しょうがないですね」
そう言うとゆっくりスキニーと下着を脱がされる。緩く勃ち上がったそれを優しく握り込まれ、生理的な涙が頬を伝う。
「今日は違ったことしましょうか」
「……は?」
あいつがニコリと微笑む。こういう時の微笑みはだいたいが碌でもないことを考えている時だ。
何をするのか身構えていると、そのまま陰茎に舌を這わせられる。慣れない感覚に身体が震えた。
「んんっ、あっ、」
皮の隙間にまで舌が差し込まれる。ザラザラとした感触に、嬌声が漏れ出た。見せつけるように唾液を絡めて舐られると、もう駄目だった。
「はっー、ああっ!まって、そこだめぇっ!んんっ!」
「ん、……エドくんが言ったんですよ。もっと気持ちよくなりたいって」
「ひっ、あっ!言ってねぇっ!」
じゅるじゅると下品な音を立てて先走りを吸われる。腰から溶けてしまったような熱に何も考えられなくなっていく。思わず動く腰を押さえ付けられ、喉奥まで咥えられる。
「ああっ!まって、出ちゃうからっ、やっ、」
搾り取る様に出し入れされ、気持ち良さに思わずあいつの髪を掴む。勢い良く口内で果てれば、軽くむせながらも、尿道に残った精液まで吸い出される。
「あっ、ああっ……くそっ」
余韻で身体が震える。飲み下す喉の動きが気持ちいい。乱れる息をなんとか整えていると、あいつが陰茎から口を離した。
「ごほっ、ごちそうさまです」
「はーっ、はーっ……死ねっ!」
最悪だ、恥ずかしすぎる。手で顔を隠しながら蹴りを入れればそのまま掴まれた。そのまま両脚を掴まれ、持ち上げられる。後孔まで見えるだろう体勢に、顔がカッと熱くなる。
「俺としてはそう言うところ好きなんですけどね?そろそろ痛い目見ていただかないと」
「はぁ!?ふざけんなっ」
暴れようにも体重を掛けられ身動が取れない。何をされるのかとびくびくしていると、後孔に何か生温い物が当てられた。
それが舌だとワンテンポ遅れて気付く。
「ひっ、馬鹿っ!きたねぇからやめろ!」
「汚くないですよ?」
そう言うと、あいつはそのまま後孔に舌を埋めた。ゆっくり入ってくる指とは違うその感触に、ぞくぞくと鳥肌が立つ。嫌悪感だけであってほしかったそれは、明らかに快楽の芽で。
「ばかっ!やめろ、んんっ……やだっ」
縁を拡げるように舐められ、いやいやと首を横に振る。無意識に孔を引くつかせてしまい、ふふっと微笑む声がした。ついでと言わんばかりに陰茎を扱かれ、目眩がする。
「あっ、うぅん!ばかばかっ!……それいやだぁ、」
舌と一緒に指が入ってくる。唾液のぬめりを借りて挿入された指があの場所を探すように蠢く。
散々快楽を教え込まれた身体が、意思とは関係なくそれを求めるように奥へと招き入れようとする。
こんなの知らない。怖くなって、眼の前が涙で歪む。ずびずびと鼻を啜ると、気付いたあいつが驚いたように声を上げた。
「ちょ、泣かないでくださいよ」
「あぅ……泣いてねぇ」
「ああもう、ごめんなさい。やりすぎちゃいましたね」
そう謝りながら指を引き抜かれ、思わず声が上擦る。そのまま掴まれていた脚を離された。よしよしと頭を撫でられ、クソがと思いながらもつい擦り寄ってしまう。
「ひっく、……後で殴る」
「いくらでも殴られますから、もうやめときます?」
「うるせぇ勃たせてるくせにっ、バァカバァカ!」
泣き止むまで一頻り撫でられる。こんな中途半端でやめられるわけねぇだろ、と続ければ嬉しそうにしやがったので蹴りを入れつつ。
「痛っ、じゃあ続けても?」
「聞くなっ!」
頭を撫でていた手が身体を撫でる。期待から引く付く後孔にたどり着くと、ゆっくりと埋め込まれていく。
「大丈夫です?」
「んんっ、大丈夫……あっ、」
探る様な動きに、思わず口から嬌声が漏れ出る。もどかしさに腰を揺らせば、あいつが微笑むので睨みつけつつ。
ナカを探る指があの一点をかすめる。瞬間もたらされる快感に、足の指を丸めて耐えようとする。
「んああっ!そこっ!あ゛っ」
「気持ちいいですね」
いつの間にか増やされた指に、喉を晒して喘ぐ。気持ちがいい。それに頭が支配されて、腰が勝手に動く。押しつぶされるように刺激されれば、バチバチと電流の様な快楽に襲われ、思わずあいつにしがみついた。
「あ゛あ゛っ、きもちいっ……そこ、気持ちいいっ!」
「ふふ、可愛い。もう一本すぐ挿入っちゃいそう」
更に指を増やされ、ぐちぐちと音を立てて出し入れされる。異物感よりも気持ちよさの方が勝っていて、身体がおかしくなったのかと思った。
指をばらばらに動かされぐぱぐぱと拡げられ、また違った刺激にしがみついている指の先が白くなるくらい力が入る。
「うーっ、やだぁ、イキたくないっ」
「どうして?気持ちいいでしょ?」
「あ゛うっ!一緒がいいっ、いっしょにイキたいっ」
「〜〜〜!!」
うわ言のように呟いた言葉に、あいつは頭を抱えた。変なことを言ったかと不思議に思っていると、指を引き抜かれる。
チャックを下ろす音が聞こえ、引くつく後孔に熱いとのが押し当てられた。
「知ってたけどたちが悪い!」
「はっ、はっ……♡♡」
興奮から、思わず犬のように息を吐く。ゆっくりと挿入されるそれに、しこりが潰され危うく果てるところだった。
最奥にたどり着くと、呼吸が落ち着くまでそのまま頭を撫でられる。無意識にきゅうきゅうと締め付けてしまい、思わずぎゅっと目を瞑る。己の陰茎からは透明な潮が吹き出し、腹を汚していた。
「う〜、あ゛っ……っ!♡♡」
「ははっ、可愛い」
時間を置いて、馴染みかけた陰茎がゆっくり引き抜かれていく。ああ、来る。そう思い身体が強張った。
ぱん、と肌と肌がぶつかる乾いた音がして勢い良く最奥に叩きつけられる。
「あ゛あ゛――――っ!!♡♡」
気持ち良さに頭が蕩かされ、何も考えられなくなる。浅いところを捏ねられると、気持ちよさでどこかに行ってしまいそうで、怖くなってあいつにしがみつく。
「こわいっ♡♡あっ〜♡♡それっ、そこおかしくなるから♡♡」
「ふっ、可愛い。大丈夫ですよ。ちゃんと掴んでるから」
「あ゛あ゛あ゛――――っ♡♡♡きもちいっ♡♡」
あいつの背中に服の上からガリガリと爪を立てる。
首筋を噛まれ、肌に歯が食い込んでいく感覚に酔いしれる。何もかもが気持ちかいい。痛みすらも快感に変換され、辛うじて残っていた理性を苛む。
「う゛っ♡♡♡あ゛っ、あ゛あ゛っ♡♡すきっ♡♡♡すき〜っ♡♡♡あっ、奥に欲しい♡♡♡」
「はーっ、ほんとにもうっ!あげますから!」
ごちゅっと嫌な音がして、どうしようもないくらいの快楽に襲われる。眼の前がチカチカ明滅して、挿入ってはいけない場所に先端がめり込んだのだと気付いた。そこを責められると、何も考えられなくなってしまう。
「んあ゛っ♡♡――――っ!!♡♡♡」
半狂乱になりながら名前を呼ぶ。口の端から涎が泡となって流れ落ちていくが、もう構ってはいられない。ずっとイっている様な感覚に、訳がわからなくなる。
「――――っ!♡♡ん゛ん゛ん゛っ♡♡♡」
「はぁっ、エドくんっ!」
あいつの腰に脚を絡めて、ナカをぎゅうっと締め付ければ、奥にあたたかいものが吐き出された。
「はぅ、♡♡んっ……♡♡」
全身がそこはかとなく気怠く、手を動かすことすらままならない。余韻に浸っているとずるりと陰茎を抜かれ身体が震えた。
意識を保っているのもやっとで、うつらうつらと夢の世界へ片足を突っ込んでいるようなものだった。意識が落ちる前にと、あいつの服を掴んで耳元で囁く。
「あいしてる」
どうしても伝えたかったそれを言葉にして、そのまま意識を手放した。