主♂エド




 慣れた手つきで、あいつの部屋の鍵を開ける。部屋の中は真っ暗で、家主の留守を伝えていた。
 壁のスイッチを押し電気をつけながら、夜のこの時間に居ないのは珍しいとふと思う。
 普段だったらやれ腹は空いてないかやら、何か飲むかやら世話を焼いてくるのでうざがっているが、いないならいないで寂しいと感じてしまう辺り相当毒されている。
 ソファに座りテーブルの上を見渡せば、メモ書きが置いてあった。

『冷蔵庫の中にご飯あるので、もしお腹空いてたら温めてたべてください』

 メッセージアプリに送れよと思う反面、自分が今日ここに来るのを見越していると思うと偶然であっても腹が立つ。
 冷蔵庫を開けてみれば、ラップされたオムライスがあったので後で食べるかと思いつつ、いつの間にか常備されていた炭酸水を手に取った。
 メッセージアプリを開き、何時帰ってくるかと送る。すぐに返信はない。それもまた珍しいことだと思いつつ、帰ってくるまで適当に待つかと、何気なくベッドへ腰掛ける。
 別に眠気があるわけでは無い。ただ暇なだけだと言い聞かせ、ホコリが舞うのも気にせず音を立てて飛び込めば、ふわりとあいつの匂いがした。あいつのベッドなんだからそりゃそうか、とその匂いを肺一杯に吸い込む。

「……」

 メッセージへの返信はまだない。もしかしたら、それどころではない何かに巻き込まれたのかもしれない。
 なら当分は帰って来ないだろう、とうつ伏せになり、もうすでに緩く勃ち上がった自身に困惑しつつ、下着の中に手を滑らせる。

「はっ……んん、あっ」

 残り香を吸い込みながら目を閉じ、指で輪を作りあいつの手付きを思い出しながら緩く扱けば、我慢出来ず声が漏れ出た。

『気持ちいいですか?』

 頭の中であいつの声が響く。ぞわりと全身の毛が逆立つのを感じながら頷けば、更に感度が上がった気がした。
 
「うぅ、ふっ……んッ」

 血が沸騰でもしているかのように熱い。シーツに噛みつきながら、早くイきたい一心で陰茎を扱くがあともう少しのところでイけない。なんで、なんて思いながら、これじゃ足りないと後ろが疼く。
 舌打ちをし、サイドチェストに手を伸ばす。引き出しの中の、気付けば用意されていたローションを手に取り、雑に指に絡めれば後孔にあてがった。

「くっ、……ああっ」

 ゆっくり埋まっていく指をきゅうきゅう締め付けながら、シーツに頭を擦り付け異物感に耐える。
 時間をかけてようやく一本目に慣れた頃、恐る恐る手探りで良いところを探すがなかなか見つからない。焦れる気持ちを押さえ付け、出し入れを繰り返す。

「うっ……んっ、……やあぁっ!」

 ほとんど無意識に腰を揺らしながら探していると、ようやくそのしこりを見付けた。待ち望んだ快感に思わず声が出るのも気にせず指を押し付ける。

「あっ、ぅ……ゆるしてっ」

 何度も出し入れをしながら、指を増やす。
 ローションで滑りの良くなった後孔は卑猥な水音を立てながら、指を飲み込んだ。
 あいつの指使いを思い出しながら、強く押し込めば眼の前が真っ白になった。

「んんっ、――――ッ」

 シーツを握りしめ、ほとんど無意識にあいつの名前を呼ぶ。

「呼びました?」

「へっ?」

 急に真横から声がして驚いて目を開けると、あいつがにこにこ顔でそこにいた。
 サァっと血の気が引くのがわかる。

「声をかけようか迷ったんですけど全然気付かないから……」

「いつから……」 

 恐る恐る問えば、微笑みながらあいつは言う。

「後ろ弄り始めた辺りですかね」

「……帰る」

 起き上がろうとすれば、そのまま覆いかぶさられた。体重をかけて押さえつけられ身動が取れない。

「こんなえっちな場面見せられて、黙って帰すと思います?」

 後孔に入った指をそのままに、ローションの滑りを借りて新たに指が入ってくる。自分の指ではないそれに、感覚が過敏になるのがわかる。それまで好きに動かしていた手が固まってしまったかのように動かない。
 良いところに触れそうで触れない焦らすような動きに、いやいやと首を振る。

「俺のこと思ってくれてたんです?」

「あんっ、……うるせっ、」
 
「否定はしないんですね」

 項にキスを落としながら出し入れを再開されれば、気持ちよさに膝立ちになった足がガクガクと揺れる。口からは涎が垂れ、シーツを濡らしていた。

「良さそうですね」

「はぁーっ、ああっ!」

「ほら、ここぎゅーって押して」

「あ゛あ゛っ」

 もう自分の意志で動かせない指は、勝手に言われた通り良いところをぎゅっと押し込む。眼の前がチカチカ点滅して、声を我慢する事ができない。
 
「いい子いい子」

「う゛あ゛っ、も、やだぁ……、」
 
「ここでやめていいんです?」

 自分の指ごと引き抜かれ、後孔がせつなく引くつくのがわかる。思わず後ろを見れば、にやにやにやけているのが目に映り腹が立つ。言うことを聞かない足を無理やり動かして蹴り飛ばそうとすれば「危ないから」と掴まれてしまった。

「抵抗されたほうが燃えるっての、そろそろ気付いたほうがいいですよ」

 そう言いながら、いつの間にか出された陰茎を後孔に当てられる。思わずゴクリと生唾を飲み込んだ。

「挿入れてもいいですか?」

「やめる気なんざ無ぇくせにっ!」

「あはは、それはそう。あ、そうだ」

「っ……、んだよ」

「せっかくだし自分で動いてみてくださいよ」

「死ねよっあ゛っ」

 文句を言おうと口を開いたタイミングで陰茎が押し入ってくる。浅いところで焦らすように捏ね動かれると、もう駄目だった。
 言うことを聞かない身体をなんとか持ち上げ、自分で体重を掛け言われた通りゆっくりと飲み込んでいく。

「ほら、もうちょっともうちょっと」

「後でっ、覚えてろよ……」

「はいはい」

 息を吐きながら奥まで咥え込めばいい子と褒められ、条件反射でそれだけで果てそうになる。

「う゛あ゛っあ゛……!」

 とても見せられそうにない顔をしているのでベッドに突っ伏したままの体勢でなんとか腰を動かせば、吐息が聞こえた。いつもと違う位置に先端が当たり、何度もイきそうになるのを耐える。

「そうそう、気持ちいいですね」

「あ゛っ気持ちいっ、腰とまんないっ……」

「ふふ、可愛い」

 朦朧とした意識の中、必死に腰を動かす。触っていない陰茎がその度揺れて腹にぺちぺち音を立ててぶつかる。

「う゛ぅ゛っ!!」

 しこりに雁首が当たり、思わず仰け反る。ゼェゼェと肩で息をしながら、一度目の絶頂に身体を震わせた。

「はーっはーっ、」

「ちゃんとイけましたね」

「ふあっ、」

 あいつが髪を撫でる、それすら気持ちよくて思わず声が漏れる。
 項を吸われたかと思えば噛まれ、驚いて腰が跳ねる。また跡付けやがって、などと思いつつ。
 噛まれたところを舐められ、じくじくと痛みが走る。それと同時に、それまで動いていなかったあいつが律動をはじめ、バチバチと背筋に電流が走った。

「あ゛ん゛っ!くそっ!あ゛あ゛――っ!」

「はーっほんと可愛い」

 獣の性交のような激しさに頭が蕩ける。自分がどうなっているのかさえもうわからず、シーツを強く握り首を横に振りながらイキ散らす。

「う゛ぅ゛っ、もっ無理、」

「くっ、俺もイきそう」

 気持ちよさに何も考えられずただ、うわ言のようにあいつの名前を呼べば、横を向かされ唇を吸われた。答えるように舌を絡めれば、ラストスパートと言わんばかりに腰を打ち付けられ果てた。







「……腹減った」

 中々整わない息が落ち着くのを待ちながら言う。そう言えばオムライス……と、思いながら後ろにいるあいつに蹴りをいれる。

「あいたっ!温めてきますから、あとオレンジジュースでいいですか」

「んー、」
 
 色々なところが痛む身体を起こし、笑う足に気合を入れながらソファまで歩く。

「無理しないでくださいよ」

「無理させたのは何処のどいつだよ」

「そりゃまぁ……」

 電子レンジの動く音をぼんやり聞きながら、ソファにもたれかかる。うつらうつらしながら待てば、キッチンからいい匂いがしてきた。

「ほら、できましたよ」

「いただきます」

 あいつの視線を感じながらオムライスを口に運ぶ。まぁそこそこ美味い。なんやかんや言いながら最近は手料理を食べる機会も増えたなと思う。

「それ食べたらゆっくりしててくださいね」

 適当に相槌をしながら、夜が更けていくのをぼんやりとすごした。
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