主♂エド



 持たされた鍵を使い扉を開けると、アルコールの独特な匂いが部屋に充満していた。見ればテーブルの上に酒の瓶やら缶やらが散らかっている。その横のソファにあいつが転がっていた。
 面倒臭いタイミングで来てしまったと思い、あいつがこちらに気付く前に帰るかとドアノブに手を伸ばす。

「あっ、師匠〜!おかえりなさい!」

 部屋を出るよりも先に気付かれた。面倒臭さに思わず舌打ちをする。うざったるいことに、飲酒しているからか何時もよりもテンションが高い。

「さっきまで他の師匠が遊びに来てたんですよ〜。だから久々にお酒飲んじゃった」

「そうかよ……。うるせぇから寝てろ」


「やです〜。だって師匠来てくれたし」

「ったく面倒臭ぇ。来るんじゃなかったぜ」

 酔っ払い相手が一番面倒臭い。適当にあしらいながら、冷蔵庫に入っていたミネラルウォーターを投げつける。受け取ろうとはしていたが、キャッチに失敗してそのまま顔に当った。

「痛っ、水ありがとうございます」

「……けっ」

 ソファに寝転がっているあいつの足を数発叩けば、渋々退けたのでそこに座る。

「あっ、師匠もお酒飲みます?度数低いのならここに……あー、でもどうなんだろ。セーフなのかな……」

 うだうだと悩んでいるあいつを気にせず、差し出された缶を引ったくる。それは最近街の広告でよく見かける低アルコールを謳った物だった。たしか若者の間で流行っていると聞いたことがある。
 蓋を開け中の液体を口に含めば、フルーツの爽やかな風味の後に独特の苦味が鼻に抜ける。

「あー、まぁ本人が大丈夫言うなら……んーでも未成年……」

「未成年じゃねぇし、ガキ扱いすんな。酒くらい飲んだことあるっつの」

「へー、お酒強いんです?」

「……オマエよりかは強い」

 缶の中身を流し込みながら言う。つまみはないのか問えば、残り物らしいジャーキーだのチーズだのを出されたので適当に頂く。
 あいつの話を聞き流しながら缶を傾ければ、気付けば中身はなくなっていた。

「飲むの早いですね。そう言えば夜飯食べました?あまりで悪いんですけどピザがありますよ」

「食う」
 
「じゃあ温めますね。あ、まだ飲みます?」

「おう」

「あ、じゃあテーブルの左側のやつ、飲みかけで悪いんですけど同じメーカーのだから飲んで良いですよ」

 キッチンへ向かう背中を見送りながら、飲みかけの缶を探す。同じようなデザインの缶を見付け、ぐいっと流し込んだ。

「一つ度数エグいのあるんで気を付けて……あっ」






 暑い、いや熱い?
 ああ、脱げば良いのか、と上着を適当に床に放り投げる。
 ふわふわと身体が浮いているような浮遊感に身を任せ、妙な多幸感に飲まれていると、あいつが心配そうにこちらを覗き込んでくるのでへらっと笑えばミネラルウォーターを手渡された。飲もうとするも、手に力が入らないのでキャップを開けられず諦める。

「これは俺が悪いなぁ……。大丈夫です?水飲めます?」

「開かねぇ。てか別に平気だぞ」

「顔どころか首も真っ赤だから説得力ゼロですよ。ほら開けますから貸してください」

 心配そうなのが何故かとても面白くて笑いが込み上げてくる。くつくつ笑いながらボトルを手渡せば、開けて返してきたのでちびちび飲む。
 身体が熱い。それは初めて抱かれたあの時の熱に近いような。そう思いながらぼんやり宙を眺めた。
 あいつは適当に放り投げた上着を拾いハンガーに掛けていた。別にいいのに、と思う。

「水飲めました?危ないからテーブルの上置きましょうね」

「ここ座れよ」

「はいはい」

 「これでいいですか?」と横に座ったあいつを力任せに押し倒す。ソファの縁に頭をぶつけたのか痛がるあいつが面白くてくつくつ笑いがこみ上げた。
 そのまま腹に馬乗りになりあいつの顔を覗き込む。

「痛っ!あの師匠、落ち着いてくださいって」

「落ち着いてる」

 何やら騒ぐ口を塞ぐ。開かれた唇から舌をそっと侵入させ、前にされた時の様に絡め取る。ちゅくちゅく音を立てて夢中で貪った。
 触れ合っている場所がとにかく熱い。蕩けてぐちゃぐちゃになってしまいそうな、そんな感覚。

「ふっ……んんっ、」

「ちょっ、待って待って」

「ん、なんだよ」

「はっ、こう言うのは素面の時にですね……」

「素面で出来る訳ねぇだろ」

 再度唇を重ねれば、諦めたのかこちらに舌が差し込まれた。上顎を擽るように撫でられたかと思えば、歯列をなぞるように優しく刺激され、息が上がる。

「んぅ、……ッ、はぁっ」

 素直に気持ちがいいと思う。舌同士を絡ませ、ひとしきりその感覚を楽しむ。優しく食まれれば、その度に身体がビクついた。
 名残惜しく思いながら離れれば、二人の間を銀の糸が繋ぐ。息が整うまで待っていると、するりと脇腹を撫でられた。

「……ひっ、」

「もう、酔っ払ったら酔っ払たでたちが悪い!」

「……嫌かよ」

「恋人にこんなふうに迫られて嫌なわけ無いでしょ」

 恋人、と言う単語に喜びが広がり思わず口角が上がる。口には絶対に出さないが、それは確かにじわりじわりと自分を侵食していた。
 脇腹を撫でていた両手が、そのまま上に伸ばされる。擽ったさに身を捩れば、ふふっと笑まれ腹が立つ。

「笑うなっ」

「はいはい、ごめんなさい」

 胸の突起を優しく摘まれたかと思えばかりかりと爪で刺激され、その度に声が漏れた。前は擽ったかっただけだったのに、それは確かに快楽の芽だった。

「うっ、……んんっ、ぁッ……」

「ちょっと感度上がりました?お酒のせいかな」

「しらね、んっ……」

「ほら、こりこりしてきた。気持ちいいです?」

 摘まれ押し潰される度、身体が跳ねる。これは気持ちいいのか、そう思うと不思議と感度が上がり、口の端から涎がこぼれた。快楽から逃れようと身を捩るが、手を振りほどけない。

「あっ、うぅ……、……ッ」

「良さそうですね」

「んう……やだぁっ、」

 イきたいのにあと少しのところでイけない歯痒さから腰が揺れる。刺激が欲しくて、下着に先端を擦り付けるように動けば「服が汚れるから」と脱がそうとしてきたので、好きにさせる。促され、靴まで脱げば辺りに適当に放り投げた。

「俺も脱ぐんで待ってくださいね。ちょっとどいてもらえます?」

「待てねぇ……」

「そっか待てないかぁ」

 脱ぐのを諦めたのか、そのまま抱き寄せられる。右耳から聞こえる少し早い鼓動の音に安心感が増す。擦り寄れば、ふふっと微笑んだ後頭を撫でられ、また違った気持ちよさに思わず目を閉じた。

「エドくんは猫みたいで可愛いですね」

「ん、」

「体調は大丈夫ですか?」

「大丈夫」

「じゃあ続き、しましょうか」

 頭に乗せられていた手が背中を撫でる。それだけで吐息が漏れ出た。この先与えられるであろう快楽を思い出し、ほとんど無意識に後孔を締め付けてしまい顔が赤くなるのがわかる。

「今すごいえっちな顔してるの、自覚あります?」

「……うるせ、あっ」

 そっと陰茎を撫でられ、待ち望んだ感覚に思わず声が漏れた。緩く扱かれ、二人の隙間からいやらしい水音が聞こえてくる。

「ああっ、……ん、」

「エドくん、指舐めて」

 背中を撫でていた方の手の指を唇にとんと置かれ、どう舐めて良いのか分からず硬直していると「アイスを食べるときみたいに」と言われ恐る恐る頬張った。差し出された三本の指を唾液をたっぷり絡めて舐る。

「ふっ、ぁんんっ……」

「ふふ、よく出来ました」

 見せ付けるようにゆっくり引き抜かれれば、そのまま後孔に添えられたので息を飲む。まずは一本、時間をかけて埋められていく。異物感に目をぎゅっと瞑り耐えていると、陰茎を扱いていた手が優しく先端に触てきた。押し開かれる感覚の気持ちよさに頭がバグる。

「ああぅっ、それやだぁっ……キツい」

「大丈夫大丈夫」

「大丈夫じゃねえっ……殺すぞっ、んあ゛あ゛!」

「ここもちゃんと刺激してあげますから」

「あ゛あ゛っ!待って、そこっ!すぐイっちゃうからぁ!」

 前回見付けられたしこりを捏ねられ身体が勝手に跳ねた。あいつの肩に置いた両手に力が入り、思わずがりがりと引っ掻いてしまうがそれを気にするだけの余力なんてない。拡げるために肉壁を撫でる指が、気まぐれにしこりを捉えその度に口から嬌声が漏れる。

「イって良いですよ」 

「あ゛あ゛あ゛っ!!」

 イっていいと言われた瞬間、いつの間にか増やされた指がしこりを挟み込み抉る。まるで電流のような強い衝撃に襲われ、簡単に果てた。口の端から唾液が伝うことすら気持ちよくて、どうにかなりそうだった。
 
「よしよし、気持ちいいですね」

「う゛う゛――っ!!」

 そう言いながら先走りを絡めた指で先端を刺激されあまりの気持ちよさに前後不覚になる。また何かが漏れ出そうな気配を感じ取り、すこしでも快楽から逃がれようと身を捩るが、なんの意味もなかった。

「ぐっ……あ゛あ゛っ!」

「ほら、三本入りましたよ。すごいえっちな音する……」

 ぐぷぐぷと下品な音を立てて飲み込まれていく指が、ナカでバラバラに蠢く。ほとんど無意識に腰が揺れ、その刺激でまた勝手に昇りつめようとする。

「……も、ゆるしてぇっ、」
 
 咄嗟に出た許しに、あいつは憎たらしく微笑めば「でも気持ちいいでしょ?」と問うてきたので首を縦に揺らしなんとか答える。後で覚えとけよ、と思いながら。

「もう、挿入れてっ……はやくぅ……っ、」

「……もう少し慣らさないと、痛い思いさせたくないんですよ」

「いいからっ……、あ゛う゛っ!んんっ」

 耳元で「早く壊して」と途切れ途切れに囁やけば、急に指を引き抜かれた。後孔がぱくぱくと収縮するのがわかる。もう、自分が何を言っているのかもあやふやで、生理的な涙が頬を伝った。

「それは反則でしょ……。酒入ってるし勃つか怪しかったけど全然勃った」

「ぅ?」

「挿入れてあげるからちょっと待ってくださいね」

 チャックを下ろす音が聞こえ、ヒク付く後孔に温かいものが当てられる。見なくてもわかるそれに、思わず息が上がった。

「はっ、はっ、」

「あはは、焦んなくてもちゃんとあげますからっ、」

 ゆっくりじらすように先端を埋められていく。出っ張ったところをすぎれば、後は自重でするすると飲み込まれていった。
 体勢の問題か前より深い場所まで飲み込んだそれを、ついきゅうきゅうと締め付けてしまう。

「あ゛っ、う」

「はぁっ、もう少し力抜けます?」

「んん……こう?」

「そうそう、偉いですね」

 頭を撫でられながら褒められれば、嬉しさからかへにゃへにゃと力が抜けていく。勝手に腰が揺れて、その度に良いところに掠めてぞわぞわと背中を電流が走る。

「自分で動いてみます?」

「うぅ、無理……」

「それはまた今度かな……ほら、動きますよ」

 そう言いながら両手で腰を掴まれる。気持ちいいのが来る、そんな期待からあいつから目が離せない。
 
「あ゛っやだぁ……」

 ゆっくり引き抜かれたと思えば、勢いをつけてそのまま最奥に叩きつけられ、暴力的な快楽に意識が飛びかけた。眼の前のあいつの肩に齧りついて耐えようとするが、どうする事も出来ずただ快楽を与えられる。

「ん゛ん゛――――っ!!」

「痛っ……ふふ、可愛い。気持ちいいこと好き?」

「ん゛う゛あ゛あ゛っ!すきでいいっ、すきっ!」

 頭が働かず、言われた事を反射的に返すことしかできない。いやいやと首を振りながら快楽から逃れようとするが、腰を掴まれているのでそれは叶わなかった。

「ああっ、イってるからぁ!動かないでぇっ!」

「もうちょっとだから、無理させてごめんっ」

「だめっ……も、もうっ!あ゛あ゛あ゛――っ!」

「くっ、……」

 腹の奥で熱いものが弾けて、それと同時に視界が真っ白になった。




 

「はぁ……っ、大丈夫です?」

「……ふっ、ふっ……はっ、だいじょうぶにっ、見えんのかよ」

 挿入ったままの体勢でなんとか息を整えようとするが、中々整わない。身体が勝手にビクつき、言うことを
聞かないのをなんとか動かそうと試みるも、気怠くてどうしようもなかった。

「んー、しんどそう」

「はーっ、はーっ……身体の色んなとこが痛え……」

「腰上げれます?」

「んっ、……っあ゛」

 ゆっくり時間をかけてなんとか陰茎を引き抜いていけば、白濁が下品な音を立てて吐き出された。視線を感じ、あいつの両目を手で隠す。

「あー、喉いてぇ」

「また紅茶淹れたげますよ。先にシャワー浴びましょうか。立てます?」

 呼吸が落ち着いたところで、立ち上がろうとするも膝が笑って力が入らない。

「立てねぇわ」

「手ぇ貸しますんで……」

「もうちょい休ませろ」

 動き出そうとするあいつにのしかかる。優しく頭を撫でられながらぼんやり宙を眺めていると、疲労からくる眠気で目が開けていられない。

「眠いですか?あれだったら寝ちゃってもいいですよ。後片付またやっておくんで」

「……頼むわ」

 微かに聞こえる心臓の音を聞きながら、意識を手放した。
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