主♂エド
初めは特に何も、強いて言うなら俺に弟子入りしようなんて変なやつだなとしか思っていなかった。思っていなかったんだよ、最初は。
それがアレコレ世話を焼かれるうちに気付けば目で追っていたり、今日は会いに来るだろうかなんて思ったり……そんなことばかり考えてしまう。
これはどういう感情なんだろうか。ファルケ達に対して思う感情とは明らかに違うそれがなんなのか、俺にはわからなかった。
でも誰かに言おうものなら、面倒くさいことになるのが目に見えているので相談もできない。
ならいっそのこと、思い切って本人に聞いてみるか、と思ったのはつい先日のこと。
今日も今日とて会いに来たあいつをスパーリングに誘い、良い汗をかいた後、素知らぬふりをして聞いてみる。
「知り合いの話なんだけどよ」
「何かあったんです?」
「いや、別に大した事じゃねぇんだ。ただ、その……相談をされたんだが俺じゃわからなくて……」
困った末に他人の体で話すことにした。不自然ではないだろうか、少し不安に思いながら言葉を選んで話す。
あいつが顔を覗き込んできて、思わず視線をそらした。
「誰かを目で追ったり、会えるかどうか考えたりするのって、どういう感情だと思う」
それを聞いて、あいつは顎に手を付け何やら考えると「恋してるみたいですね」と言った。
恋。予想外の返答に思考が停止する。恋、俺が?こいつに?
「だって、相手のことが気になるってことでしょう?」
「まぁ……」
「それって、よっぽどだと思うんですよね」
そう言ってあいつはへらっと笑った。恋。自覚した瞬間、顔がカッと熱くなる。そんな訳ない、と思うと同時に、そうなのかもしれないとも思う。
俺は、この馬鹿弟子が好きなのか?
「で、誰の話なんですかそれ。そんな顔してちゃ自分のことみたいですよ?」
「……、」
「俺はずっと言ってますけど貴方一筋です」
真っ直ぐな目でそう言ってのけたあいつから目が離せない。だって、俺は男でと言いかけると「性別なんて関係ないです」とばっさり言い切られてしまう。
「色んな理由があると思います。師匠の上に乗ったたくさんの物、少し持たせてはくれませんか?」
手を取られそう言われる。普段なら笑うか何かして適当にあしらっていたのに。気持ちに気付いてしまった瞬間、とても酷なことだとわかってしまった。
「……だったら俺より強くなれよ」
「強くなったら、貴方を貰ってもいいんですか?」
「……、」
答えを出せずにいると、焦れたあいつに手を引かれた。そのまま俺よりも少し小さいあいつの腕の中に収まる。外だぞと思うと同時に、もう逃げれそうにないと思ってしまった。
「エドくん、俺は貴方の事が好きです。答えはいつでもいいから、嫌なら嫌って言って下さい」
「……嫌じゃ、ねぇ」
まわりの音にかき消えそうなくらい小さい声で答える。あいつの好意はずっと知っていた。その上で弟子を取った。その時点で答えは決まっていたのかもしれない。
「良かった」
「くそ……離せよ」
「ふふ、師匠だったら俺のこと突き飛ばすくらい出来るでしょ?うれしいな……俺頑張りますから」
「そうかよ」
ぱっと離され、いつもと変わらない弟子の姿がそこにはあった。先程までの真剣な表情も嘘のように笑顔にかくれてしまった。
心の中でじんわり温かい何かが広がっていく。
それは確かに恋だった。