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春野サクラに成り代わり

物心ついた頃からずっと違和感があった。

何かが違う。

その""何か"がなんなのか自分でも分からなかったが、俺は常に付き纏う違和感が気持ち悪く必死に考えないようにしていた。

何より親を早々に亡くし女手一つで育ててくれたおばあちゃんを心配させなくないという気持ちが幼心にあったのだと、今ならわかる。

俺の両親は忍者だと、おばあちゃんは教えてくれた。

ーーまた違和感を感じた。

両親は立派な忍者で、里のお役に立ち任務に殉じたらしい。

ーーもやもやとした嫌な気持ちが溢れ出る。これはなんだ?

忍者とは何か?という幼い俺の質問におばあちゃんはこう答えた。「里のために働く人達よ」と。
忍術を使うの、と言うおばあちゃんに試しに一つ見せてもらった。

ーー見ない方がいいと、頭のどこかで警報が鳴った気がした。

おばあちゃんが印を結ぶと、ボボボンっという音と煙と共に目の前におばあちゃんが何人も現れた。
「影分身の術よ」というおばあちゃんの言葉は耳に入らず、食い入るように分身達を見て、そして

俺は気を失った。

ーーだから、言っただろう。見ない方がいいと。違和感に気付かず生きた方が、それが泡沫の物となるまで待てば、楽だっただろうに。

次に目が覚めた時、俺は全てを思い出していた。

自分が嘗て忍者の卵として、忍術学園に通っていたこと。
最高学年である六年生であったこと。
用具委員会の委員長であったこと。
同学年の学友達、同室の善法寺伊作。
そして、卒業試験で死んだこと。
その全てを、思い出した。

だから違和感があったのだと納得した。
世界観、忍者としての在り方、前世とあまりに違うその差に、自分はずっと馴染めていなかったのだと。

おばあちゃんには悪い事をした。
孫の質問に答えるために見せた忍術が元で前世を思い出し倒れられるなど、おばあちゃんからしたら急に倒れた俺にさぞ心配してしまっただろう。
娘と婿の忘れ形見として大事にしてくれているおばあちゃんの心配性がこの時を境に、一気に激化したことは言うまでもない。


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