~原作前
その日天気のいい晴れた日だった。
当時俺は小学二年生で漸くランドセルとやらに慣れた頃で、概ね順調に人生を謳歌していた。
この時代はとても平和だ。
以前のような近隣諸国での絶え間ない争いはない。
そも天下統一を目論む武士という文化はとうの昔に途絶え、俺が生まれる前に他国との戦争も終わった。
戦とは無縁の生活はこんなにも平穏なのかと今の幸せを甘受していた、そんな時だ。
それは起きた。
ーーー三門市内のとある公園
「もー!留ちゃんと修くん隠れるの上手すぎ!てか木の上って反則でしょ!」
「逆に10秒しか数えてないのにどうやって登ってんの?」
「鍛えてっからな!」
「留の真似だよ。僕は留ほど早く登れないけど…」
「それにしても早すぎ〜…はぁ喉乾いた…なーんでこんないい天気な日に限って水道使えないのー!」
「工事中だから仕方ないさ………」
ふと一瞬不運の文字が過ぎる。
いやいやいやいや俺は伊作じゃない。
確かに前世は伊作の不運に巻き込まれて、巻き込まれ不運なんて不名誉な称号をつけられたが…
いや…俺のせいじゃない…よな…?
「…そういや母さんからお小遣い貰ってたんだった!俺ちょっとそこの、えーと、じどうはんばいき?で飲み物買ってくるよ。」
「ええ!?いいよいいよ悪いし!」
「いーって、俺も喉乾いてるし。んじゃ、ちょっと行ってくる。」
「あ、待って俺も行く!」
俺の背を追いかけ秀次も付いてきた。
心配してくれてるのだろうか?
中身は余裕で元服済み…今で言うなら成人済?なのだからそんな心配しなくてもと思うが、傍から見たら小二女児であるから何も言えない。
見た目は完全に少年だが。
「うーん、どれにするか…。秀兄決めてくれよ。」
「えー、留のお金なんだし留が決めてよ。」
「つってもなぁ…。」
まだ横文字に慣れない自分としてはどれがどれだかよく分からん。
あぁ、でも前に飲んだ時舌がピリピリするヤツは驚いたが美味かったな。
と、そんな風にはどれを買おうか迷っていると…
ゾワッ…!
「っ!!」
「留?どうかした?」
「え、いや…なんでもない……。」
は。
…なんだ、今の。
「留ちゃん!!!!!」
背後から引き攣った声で呼び掛けられる。
そこには息も絶え絶えで顔面蒼白な菜月がいた。
「ナツ姉どうした!?」
「修くん…修くんが…!」
『修』
その言葉を聞いた瞬間に駆け出した。
何があったか、なんて聞いてる余裕もない。
あの様子、只事じゃない。
修が心配だ。
公園に付き急いで中を覗き込むと、そこには
高校生ぐらいの男子四、五人に囲まれ、胸倉を掴まれている修がいた。
よく見るまでもなく、修の頬が酷く腫れているのがわかる。
それを見た瞬間。
目の前が真っ赤に染った。
おれのだいじな
だいじなひと
ゆるさない
ゆるさない
ゆるさない
ゆるさない
ゆるさない
ころしてやる
「留!」
それまで白みがかってた意識が一気に晴れる。
「あれ…修…?」
修に手を伸ばそうとして気付く。
手に、見覚えのある赤が付いていた。
…人の血だ。
「ァ…グッ…ずびまぜっ…ゆるひて…ゆるひて…………ッ!!!」
前を向く、原型のない程変形した顔面。
鼻や口から血を垂れ流してる男の胸倉を、俺は掴みあげていた。
よくよく周りを見ると、残りの男達も皆同じような状態で地に伏している。
「あー…。」
漸く、状況を把握した。
「それ以上は駄目だよ。」
修は辛そうに眉を八の字に曲げ、今にも泣き出しそうだ。
「………………そうだな。」
男の胸倉をパッと離すと、無様に地面に転がった。
「失せろ。」
その一言で男達は蜘蛛の子を散らすように、覚束無い足取りで逃げていく。
…今の時代って、こういうの傷害罪とかになんのかな。別にいいが。
問題なのは修の方だ。
怖がらせちまった…
「留、大丈夫?」
顔を覗き込み、心配そうに見つめる修の姿に、無性に泣きたくなる。
「ごめん…修…痛かったよな…怖がらせたよな……ほんとうに、ごめん…。」
「大丈夫。僕は大丈夫だから。泣かないで留。」
「ッ泣いてない…!」
自分の方こそさっきまで泣きそうだったくせに。
修に抱き締められ、肩の力が抜ける。
アイツらに殴られた事も。俺の事も。
怖かったろうに。
それでもお前は俺を見捨てないんだな。
「留ちゃん修くん!!」
「ナツ姉、秀兄!」
「大丈夫だった!?急いで大人の人呼んできたんだけど…あれ…アイツらどっかいったの?」
「……うん。ナツ姉が行った後すぐどっか行っちゃった。」
「そうなの?良かった…って修くんほっぺた!全然良くないよ!ほら早く来て!冷やさないと!」
「う、うん。」
「…………………。」
「?どうした秀兄?」
「…ううん、なんでもない。」
「………そっか。」
「(……………………………………殺そうとした……………………殺すことに、なんの躊躇いもなかった…。)」
(修くん含め家族が大好きマンな留さん。傷付けようものならキリングマシーンに変貌します。)
当時俺は小学二年生で漸くランドセルとやらに慣れた頃で、概ね順調に人生を謳歌していた。
この時代はとても平和だ。
以前のような近隣諸国での絶え間ない争いはない。
そも天下統一を目論む武士という文化はとうの昔に途絶え、俺が生まれる前に他国との戦争も終わった。
戦とは無縁の生活はこんなにも平穏なのかと今の幸せを甘受していた、そんな時だ。
それは起きた。
ーーー三門市内のとある公園
「もー!留ちゃんと修くん隠れるの上手すぎ!てか木の上って反則でしょ!」
「逆に10秒しか数えてないのにどうやって登ってんの?」
「鍛えてっからな!」
「留の真似だよ。僕は留ほど早く登れないけど…」
「それにしても早すぎ〜…はぁ喉乾いた…なーんでこんないい天気な日に限って水道使えないのー!」
「工事中だから仕方ないさ………」
ふと一瞬不運の文字が過ぎる。
いやいやいやいや俺は伊作じゃない。
確かに前世は伊作の不運に巻き込まれて、巻き込まれ不運なんて不名誉な称号をつけられたが…
いや…俺のせいじゃない…よな…?
「…そういや母さんからお小遣い貰ってたんだった!俺ちょっとそこの、えーと、じどうはんばいき?で飲み物買ってくるよ。」
「ええ!?いいよいいよ悪いし!」
「いーって、俺も喉乾いてるし。んじゃ、ちょっと行ってくる。」
「あ、待って俺も行く!」
俺の背を追いかけ秀次も付いてきた。
心配してくれてるのだろうか?
中身は余裕で元服済み…今で言うなら成人済?なのだからそんな心配しなくてもと思うが、傍から見たら小二女児であるから何も言えない。
見た目は完全に少年だが。
「うーん、どれにするか…。秀兄決めてくれよ。」
「えー、留のお金なんだし留が決めてよ。」
「つってもなぁ…。」
まだ横文字に慣れない自分としてはどれがどれだかよく分からん。
あぁ、でも前に飲んだ時舌がピリピリするヤツは驚いたが美味かったな。
と、そんな風にはどれを買おうか迷っていると…
ゾワッ…!
「っ!!」
「留?どうかした?」
「え、いや…なんでもない……。」
は。
…なんだ、今の。
「留ちゃん!!!!!」
背後から引き攣った声で呼び掛けられる。
そこには息も絶え絶えで顔面蒼白な菜月がいた。
「ナツ姉どうした!?」
「修くん…修くんが…!」
『修』
その言葉を聞いた瞬間に駆け出した。
何があったか、なんて聞いてる余裕もない。
あの様子、只事じゃない。
修が心配だ。
公園に付き急いで中を覗き込むと、そこには
高校生ぐらいの男子四、五人に囲まれ、胸倉を掴まれている修がいた。
よく見るまでもなく、修の頬が酷く腫れているのがわかる。
それを見た瞬間。
目の前が真っ赤に染った。
おれのだいじな
だいじなひと
ゆるさない
ゆるさない
ゆるさない
ゆるさない
ゆるさない
ころしてやる
「留!」
それまで白みがかってた意識が一気に晴れる。
「あれ…修…?」
修に手を伸ばそうとして気付く。
手に、見覚えのある赤が付いていた。
…人の血だ。
「ァ…グッ…ずびまぜっ…ゆるひて…ゆるひて…………ッ!!!」
前を向く、原型のない程変形した顔面。
鼻や口から血を垂れ流してる男の胸倉を、俺は掴みあげていた。
よくよく周りを見ると、残りの男達も皆同じような状態で地に伏している。
「あー…。」
漸く、状況を把握した。
「それ以上は駄目だよ。」
修は辛そうに眉を八の字に曲げ、今にも泣き出しそうだ。
「………………そうだな。」
男の胸倉をパッと離すと、無様に地面に転がった。
「失せろ。」
その一言で男達は蜘蛛の子を散らすように、覚束無い足取りで逃げていく。
…今の時代って、こういうの傷害罪とかになんのかな。別にいいが。
問題なのは修の方だ。
怖がらせちまった…
「留、大丈夫?」
顔を覗き込み、心配そうに見つめる修の姿に、無性に泣きたくなる。
「ごめん…修…痛かったよな…怖がらせたよな……ほんとうに、ごめん…。」
「大丈夫。僕は大丈夫だから。泣かないで留。」
「ッ泣いてない…!」
自分の方こそさっきまで泣きそうだったくせに。
修に抱き締められ、肩の力が抜ける。
アイツらに殴られた事も。俺の事も。
怖かったろうに。
それでもお前は俺を見捨てないんだな。
「留ちゃん修くん!!」
「ナツ姉、秀兄!」
「大丈夫だった!?急いで大人の人呼んできたんだけど…あれ…アイツらどっかいったの?」
「……うん。ナツ姉が行った後すぐどっか行っちゃった。」
「そうなの?良かった…って修くんほっぺた!全然良くないよ!ほら早く来て!冷やさないと!」
「う、うん。」
「…………………。」
「?どうした秀兄?」
「…ううん、なんでもない。」
「………そっか。」
「(……………………………………殺そうとした……………………殺すことに、なんの躊躇いもなかった…。)」
(修くん含め家族が大好きマンな留さん。傷付けようものならキリングマシーンに変貌します。)