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空蝉(うつせみ)

カシャ、カチャリ。

どこか私はおかしいのかもしれない、と1人稽古をしながら思う。

親を失った時も、
杏寿郎がいなくなった後も、
涙が一粒もでなかった。

それでも時は進む。
杏寿郎がいない環境にいとも簡単に馴染んでいく。
だけど身体の中で何かが壊れる音だけは止まない。

あれから杏寿郎の後を継いで炎柱になった。
柱稽古で沢山の隊士たちの特訓をしたとき、善逸くんにある一言を言われた。

「ガラス細工が擦れて壊れるような、
すごく嫌な音がする。」

耳がいいのだろう、
頭を抱えて相当苦しんでいたからここの稽古だけは例外で外してもらった。

私は大切な何かを壊してしまったのかもしれない。

「おいお前、
炎の呼吸の奥義は会得したのか?」

木の枝でこちらを見下ろしている小芭内を見る。

「技の型を模すことまではできるのだけど」

「何を悠長なことを言っている。
最終決戦は明日だぞ?!!」

ともに煉獄家で育った仲だからか、たまにこうして様子を見に来てくれる。

「私の方より、甘露寺さんのところへは行ったの?」

「…お前が同じ状況だったら煉獄に会いに行ったか?」

「私なら…
行けないかな。」

「それと同じだ。」

ぶっきらぼうに言うと去ってしまう。
青く果てしない空を見上げる。


「深雪!稽古をしよう!!」

そんな声が聞こえた気がした。
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