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空蝉(うつせみ)

「深雪ちゃん、
もうすぐお姉さんになるのよ。」


そういって母のあたたかいお腹に耳を当てるとトクトクと小さな音がする。


私の自慢の両親だった。

町一番と名高い剣術道場で沢山のお弟子さんに囲まれ、毎日が楽しくて夢中で稽古をした。
どんなに負けて悔しくても、諦めないで頑張っていればもっと強くなる。

きっとこの日常が当たり前に続くとそう思っていた。

あの日まで

「ぶっえ、くそまずい!!
こいつガキを孕んでやがった。

ガキは味もしないしまずいから嫌なんだよっ!!」


ぺっと吐き出された赤ちゃんが床に叩きつけられる。

ガチャン!!

心の中で何かが激しく壊れる音がして、

悲しみも、

怒りも、

苦しみも、

幸せも、

全部、全部、
もうなんにも感じなくなった。


ーーーー
ーーー
ーー


「深雪さん気がつきましたか!?
今しのぶさんをよんでっ」


炭治郎くんが心配そうに顔を覗き込んでいる。


「ここは…?」

「蝶屋敷です!
深雪さん、無限列車が脱線した時に吹き飛ばされて」

「そうだ、私、任務中だった。」

はっとすべてを思い出し、辺りを見回す。

「杏寿郎は?」

「れ、煉獄さんは…」


うわぁぁ、と瞳から大きな滴を零す炭治郎くんをみて察する。


少し落ち着いた頃、ここに至るまでの経緯をこと細やかに教えてくれた。
私への最後の言葉は"君を嫁に貰い損ねた、不甲斐ない"らしい。


「そう。
杏寿郎らしいけれど、
お別れの言葉もなくいってしまうんだね。」
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