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短編集

僕は姉とかくれんぼをすることが嫌いで、鬼になるといつも泣いていた。

「どこぉ~お姉ちゃんどこいったのぉ~」

泣きながら探していると、決まって姉がしびれを切らして出てきてくれる。
すると僕は姉に駆け寄って抱き着いていた。
すがりつく僕を見て、姉は微笑むのだ。

「全く、困った弟だな」

そんな雰囲気を出しながら。

しかし、僕もいつまでも泣き虫なわけではない。
姉と姉の友達、そして僕と僕の友達の、複数人でかくれんぼをするときは鬼になっても泣かなかった。
その代わりに、僕は必ず姉を一番に見つけていた。
姉はとても隠れ上手だったのだが、それでも僕が第一に発見するのは姉だった。
どんな時でも、姉を一番に探していた。
周りに「お姉ちゃんにくっついてばかり」とからかわれても、気にもしなかった。
僕は、姉が大好きだったのだ。

――

だから、姉が死んだらきっと僕は悲しくて仕方ないと思っていた。
泣いて泣いて、涙が枯れるほどに泣くのだと思っていた。

しかし、実際のところそんなことはなかった。
まったく、涙が出なかったのだ。
その時ばかりは、自分で自分に失望した。

姉が好きだったのは嘘なのか?
涙も流せないほど自分は薄情なのか?

自分をどんなに攻めても涙は出ない。
ただ、体の中身が空っぽになったかのように、ふわふわと地に足がつかない感じだけがしていた。

――

姉は自殺した。
何かあったわけではない……と思いたい。
何故こんな言い方なのかというと、姉は自殺をした日、特別に何かを残して死んだわけではないのだ。
いつも通り、ただいつも通りに「出かけてくるね」と言っただけで。
でも、学校を辞めて、バイトも辞めて、いろんなものを辞め始めた姉を見て、気づくべきだったのかもしれない。
毎日笑顔で明るく過ごしていた姉の、命を投げ出すほどの苦しみに。

――

「もしも私がどこか遠くに行っても、きみなら私を見つけられるんだろうな」

ある時、とっくに成人を迎えた姉はそう言った。
高校生になっていた僕は、どうして?と首を傾げてみせると、

「だって、かくれんぼのとき、きみはいつでも私を一番に見つけてくれたから」

そう言って姉はにかっと笑う。
そんな昔のことを、と僕が苦笑いすると、姉は微笑みを浮かべながらこういうのだ。

「私はきみを信じているから。大丈夫だって」

――

いつの間にか眠っていたらしい。
葬式が終わって、ここは遺族の待合室だ。
悲しみに明け暮れる両親を見て、一気に現実に引き戻される。

ああ……姉は本当にいなくなってしまったんだ。
この世に、もういないんだ。

そう、実感しても、涙は出てこない。
姉を探すことが得意だった僕は、自分を見つけることはできなかったらしい。
僕が僕であるための感情は、どこかに身をひそめてしまって音を立てない。
それはまるで。
隠れ上手だった姉のようだ、と自嘲気味に笑うことしかできなかった。
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