短編集
いつも利用する馴染みの居酒屋。
いつもの時間帯に待ち合わせして、いつものように店内に入る。
いつもと同じ掘りごたつの個室に入り、いつも頼む食べ物と飲み物を注文する。
そして、彼女の、いつもと同じお決まりの台詞が飛んできた。
「またフラれたあ~~~~!!!!!」
周囲の迷惑にはならない程度の泣きそうな声で叫び、額から机に突っ伏す。
シクシクと聞こえてくるから本当に泣いているように見えるが、実際に涙を流していないことは知っていた。
これも、いつものことだからだ。
彼女は恋多き女性とでも言えばいいのか、よく恋愛をしている。
いや、むしろ恋愛をしていない時の方が少ない。
たとえ恋愛をしていない時でも、恋愛をする相手を探している。
そして、彼女の片想いから両想いになり、付き合って破局するまでを僕はいつも見せられていた。
見たくて見ているわけじゃない。
彼女が僕に逐一報告してくるから、嫌でも彼女の恋愛状況が分かってしまうのだ。
「……また次があるよ」
この言葉も、いつも僕が彼女にかける言葉だった。
下手に慰めるのも難しいし、なにより彼女はそれを望んでいない。
ただ、僕に報告して、散々自分の気持ちを吐き出したいだけなのだ。
こう何度も同じことを繰り返すと、いろんなことがパターン化されて、最適な状態を作り出せる。
どう対応すれば彼女はスッキリするか、彼女の望んでいる言葉とは何か。
それと、僕の感情の整理、とか。
「うう……なんで駄目だったのかなあ……。
なんでか上手くいかないなあ……」
しょんぼりとしながら彼女は机の上に両腕を置き、その上に自身の顎を乗せた。
そのまま、僕を上目遣いで見つめてくる。
「なんで、私はいつもフラれるのかなあ?」
じっ、と。
真っ直ぐな瞳で見つめられる。
これも彼女がよくする言動。
だから、何も気にすることなんてないのだ。
そして、僕もいつもと同じようなことを言う。
「相性があるから仕方ないよ。
付き合っていくうちに合う合わないがある。
それは仕方のないことで、きみだけが悪いわけではない」
小さく微笑みながら、僕は彼女の眼を見てしっかりと言い放った。
彼女は悪くない。
それは本心からの言葉だし、実際のところ彼女に悪いところは特にない。
優しく思いやりがあり、顔も特別可愛かったり美人だったりはしないものの、素朴な良さを持っている。
笑顔も素敵だし、コミュニケーションも上手だ。
ただ一つ言うならば……そんな性格ゆえに、なのだろうか。
優しすぎるから、思いやりすぎるから、上手くいかなくなる。
恋愛なんて分からないが、そういうものなのかもしれない。
他にも魅力はたくさんあるのに、何かの要因で二人の歯車が上手く噛み合わなくなって壊れてしまう。
お互いのことを深く知らない恋愛なんて、そんなものなのではないだろうか。
「まあ、僕はきみの話をちゃんと聞くから。
食べて、飲んで、言いたいことは言い切って、スッキリさせよ」
僕は笑みを浮かべたまま、彼女をなだめる。
彼女は僕の言葉を聞いて、少しだけ笑ってくれた。
その表情に、チクリと胸が痛む。
ああ、なんで。
(僕はきみの恋愛対象になれないのだろう)
僕は、きみのたくさんのことを理解している。
僕は、きみとたくさんの時間を共にしてきた。
僕は、こんなにも君が好き。
それなのに。
(……どこで、間違えたんだろうなあ)
”ともだち”だから。
恋愛対象にはなれない。
僕は、きみが好きで。
仲良くなりたくて。
友達から入ろうとして。
やっとすごく仲良くなれて。
告白したら、”ともだち”ゆえに断られた。
(ゲームで言えば、どこかで選択肢を間違えたってやつだ)
友達として仲良くなったから、”ともだち”としか見えなくなった。
だから、僕も提案したんだ。
「ずっと友達でいよう」って。
「僕はきみの味方でいるよ。友達としてね」って。
(今思えば、僕もきみも、ずるいのかもしれないな)
ただ、きみと居られれば。
その思いで、縋り付いた。
障害である”ともだち”に。
結果として、僕の策略は功を成したわけだ。
僕は、きみの一番の”ともだち”になれた。
ずっと長い付き合いだから、女友達よりも気楽だと。
そう言われたことがある。
複雑だったけど、第一に心に沸き上がった感情は「安心」だった。
僕はきみの近くにいられるのだと。
誰よりも、近くの存在なのだと。
(……嫌な奴だよな。僕も)
きっと彼女は、僕がもう恋心を抱いていないと思っているだろう。
僕だって、そんな素振りを見せないようにしている、
だから、今でもこんなふうに会えるんだ。
(それでいい)
もう、多くは望まない。
だから、せめて。
(きみが、僕から離れるまでは、僕がきみの一番近くに居たいんだ)
いつもの時間帯に待ち合わせして、いつものように店内に入る。
いつもと同じ掘りごたつの個室に入り、いつも頼む食べ物と飲み物を注文する。
そして、彼女の、いつもと同じお決まりの台詞が飛んできた。
「またフラれたあ~~~~!!!!!」
周囲の迷惑にはならない程度の泣きそうな声で叫び、額から机に突っ伏す。
シクシクと聞こえてくるから本当に泣いているように見えるが、実際に涙を流していないことは知っていた。
これも、いつものことだからだ。
彼女は恋多き女性とでも言えばいいのか、よく恋愛をしている。
いや、むしろ恋愛をしていない時の方が少ない。
たとえ恋愛をしていない時でも、恋愛をする相手を探している。
そして、彼女の片想いから両想いになり、付き合って破局するまでを僕はいつも見せられていた。
見たくて見ているわけじゃない。
彼女が僕に逐一報告してくるから、嫌でも彼女の恋愛状況が分かってしまうのだ。
「……また次があるよ」
この言葉も、いつも僕が彼女にかける言葉だった。
下手に慰めるのも難しいし、なにより彼女はそれを望んでいない。
ただ、僕に報告して、散々自分の気持ちを吐き出したいだけなのだ。
こう何度も同じことを繰り返すと、いろんなことがパターン化されて、最適な状態を作り出せる。
どう対応すれば彼女はスッキリするか、彼女の望んでいる言葉とは何か。
それと、僕の感情の整理、とか。
「うう……なんで駄目だったのかなあ……。
なんでか上手くいかないなあ……」
しょんぼりとしながら彼女は机の上に両腕を置き、その上に自身の顎を乗せた。
そのまま、僕を上目遣いで見つめてくる。
「なんで、私はいつもフラれるのかなあ?」
じっ、と。
真っ直ぐな瞳で見つめられる。
これも彼女がよくする言動。
だから、何も気にすることなんてないのだ。
そして、僕もいつもと同じようなことを言う。
「相性があるから仕方ないよ。
付き合っていくうちに合う合わないがある。
それは仕方のないことで、きみだけが悪いわけではない」
小さく微笑みながら、僕は彼女の眼を見てしっかりと言い放った。
彼女は悪くない。
それは本心からの言葉だし、実際のところ彼女に悪いところは特にない。
優しく思いやりがあり、顔も特別可愛かったり美人だったりはしないものの、素朴な良さを持っている。
笑顔も素敵だし、コミュニケーションも上手だ。
ただ一つ言うならば……そんな性格ゆえに、なのだろうか。
優しすぎるから、思いやりすぎるから、上手くいかなくなる。
恋愛なんて分からないが、そういうものなのかもしれない。
他にも魅力はたくさんあるのに、何かの要因で二人の歯車が上手く噛み合わなくなって壊れてしまう。
お互いのことを深く知らない恋愛なんて、そんなものなのではないだろうか。
「まあ、僕はきみの話をちゃんと聞くから。
食べて、飲んで、言いたいことは言い切って、スッキリさせよ」
僕は笑みを浮かべたまま、彼女をなだめる。
彼女は僕の言葉を聞いて、少しだけ笑ってくれた。
その表情に、チクリと胸が痛む。
ああ、なんで。
(僕はきみの恋愛対象になれないのだろう)
僕は、きみのたくさんのことを理解している。
僕は、きみとたくさんの時間を共にしてきた。
僕は、こんなにも君が好き。
それなのに。
(……どこで、間違えたんだろうなあ)
”ともだち”だから。
恋愛対象にはなれない。
僕は、きみが好きで。
仲良くなりたくて。
友達から入ろうとして。
やっとすごく仲良くなれて。
告白したら、”ともだち”ゆえに断られた。
(ゲームで言えば、どこかで選択肢を間違えたってやつだ)
友達として仲良くなったから、”ともだち”としか見えなくなった。
だから、僕も提案したんだ。
「ずっと友達でいよう」って。
「僕はきみの味方でいるよ。友達としてね」って。
(今思えば、僕もきみも、ずるいのかもしれないな)
ただ、きみと居られれば。
その思いで、縋り付いた。
障害である”ともだち”に。
結果として、僕の策略は功を成したわけだ。
僕は、きみの一番の”ともだち”になれた。
ずっと長い付き合いだから、女友達よりも気楽だと。
そう言われたことがある。
複雑だったけど、第一に心に沸き上がった感情は「安心」だった。
僕はきみの近くにいられるのだと。
誰よりも、近くの存在なのだと。
(……嫌な奴だよな。僕も)
きっと彼女は、僕がもう恋心を抱いていないと思っているだろう。
僕だって、そんな素振りを見せないようにしている、
だから、今でもこんなふうに会えるんだ。
(それでいい)
もう、多くは望まない。
だから、せめて。
(きみが、僕から離れるまでは、僕がきみの一番近くに居たいんだ)