短編集
6月。
6月というとやはり梅雨の時期というイメージが強い。
つまり、雨が降る日も多いわけで。
日曜日の昼下がりだというのに、今日も今日とてよく雨が降っていた。
「はあ……」
雨が嫌いなわけではない。
しかし、こうも雨続きだと気持ちもじめじめしてしまうものだった。
きのこでも生えそうなくらいじめじめするな……なんて馬鹿なことを考えていると、携帯の通知音が鳴る。
携帯の液晶を見ると、そこには付き合っている彼女からの連絡が入っていた。
何件か立て続けに来ている。
一体何なんだ、と思って連絡の内容を見てみると、そこには可愛らしい……そして彼女がいかにも好きそうなオシャレで可愛らしいピンクや赤などの色を使った花柄の傘の写真が送られてきていた。
それと同時に、「新しい傘を買いました!早く使いたいから歩いてきみの家まで行くね!」というメッセージも届く。
……彼女のこの何事も楽しもうとするスタイルは尊敬に値する、と心の底から思った。
そして、彼女が来るのだから少しくらい身だしなみを整えようとベッドから立ち上がる。
やはり、彼女の前でくらい少しは素敵な彼氏でいたいものだ。
ーーー
彼女の家から僕の家までは、徒歩で10分ほどだろう。
しかし、10分経っても彼女は来ない。
どこかで寄り道しているのだろうか?
まさか事故に――
なんて心配をしながら家の前で待っていると、目の前から彼女が歩いてきた。
しかし、持っている傘は先ほどの写真のものではない。
むしろ、彼女の父親が使っていそうなシンプルで大きい傘だ。
「ごめんね!遅くなっちゃった!」
「いや、いいんだけどさ……傘は?」
苦笑いして謝る彼女をよそに、僕は彼女の傘を指さす。
そうすると、彼女は苦笑を浮かべたまま今までの経緯を話し出した。
ーーー
「……要約すると、傘がなくて濡れている子どもがいたから傘をあげたんだね?」
「そーゆーこと!」
にひひ、と彼女は笑う。
そんな彼女を見て、僕は何とも複雑な表情を浮かべるのであった。
「お気に入りの傘なんじゃなかったの?」
「傘より、子どもの方が大事でしょ?」
彼女は即答する。
……やっぱり、彼女はすごい。
尊敬に値するし、そういうところが大好きだ。
「しっかしさー!人の傘を盗むなんてひどいよね!その子、ちゃんと傘を持っていたのに置いてたら盗まれたんだって!ほんっと信じらんない!」
傘への未練なんかより、子どもの傘を盗んだ相手への怒りの方が大きいあたり彼女らしい。
僕は微笑みながら彼女の発言に頷く。
しばらく怒っていると、彼女も落ち着いたらしい。
いつもどおりの様子に戻る。
そのタイミングを見計らって、僕は彼女に声をかけた。
「……じゃあ、きみの新しい傘を買いに行こう」
「へ?」
彼女は素っ頓狂な声を上げる。
あまりにも間の抜けた声だったので、思わず吹き出してしまった。
「ふふっ、子どもに傘を譲ってあげた優しいきみには、僕から新しい傘をプレゼントするよ」
「え、そ、そんなの悪いよ。別にいいよ?」
彼女は慌てふためいているが、僕はそんなこと気にしない。
「いいの。僕がプレゼントしたいんだから。ね、お願い?」
優しい声色と表情で言ってみせると、さすがの彼女も言い返せなくなったようだ。
仕方ないな、という表情を浮かべながら僕に向かって自らの傘を差し出す。
僕が反応に戸惑っていると、彼女は明るく「ほら、入って!」と笑いながら言った。
こういうところ、本当にずるいよな……なんて思いながら僕は彼女の傘に入る。
相合傘をするのなら僕が傘を持った方が良いため彼女の手から傘を受け取りながら、僕はいつまでも彼女に敵うことはなさそうだ、なんて考えた。
それでも、僕は僕にできることをする。
「ねえ」
「ん?」
傘の中では声がよく響く。
その中で僕はちゃんと響き渡るように言葉を発した。
「きみのことが大好きだよ、愛してる」
その後、真っ赤になった彼女に横腹を殴られたが、少しだけ勝った気分になったので気にしないことにする。
6月というとやはり梅雨の時期というイメージが強い。
つまり、雨が降る日も多いわけで。
日曜日の昼下がりだというのに、今日も今日とてよく雨が降っていた。
「はあ……」
雨が嫌いなわけではない。
しかし、こうも雨続きだと気持ちもじめじめしてしまうものだった。
きのこでも生えそうなくらいじめじめするな……なんて馬鹿なことを考えていると、携帯の通知音が鳴る。
携帯の液晶を見ると、そこには付き合っている彼女からの連絡が入っていた。
何件か立て続けに来ている。
一体何なんだ、と思って連絡の内容を見てみると、そこには可愛らしい……そして彼女がいかにも好きそうなオシャレで可愛らしいピンクや赤などの色を使った花柄の傘の写真が送られてきていた。
それと同時に、「新しい傘を買いました!早く使いたいから歩いてきみの家まで行くね!」というメッセージも届く。
……彼女のこの何事も楽しもうとするスタイルは尊敬に値する、と心の底から思った。
そして、彼女が来るのだから少しくらい身だしなみを整えようとベッドから立ち上がる。
やはり、彼女の前でくらい少しは素敵な彼氏でいたいものだ。
ーーー
彼女の家から僕の家までは、徒歩で10分ほどだろう。
しかし、10分経っても彼女は来ない。
どこかで寄り道しているのだろうか?
まさか事故に――
なんて心配をしながら家の前で待っていると、目の前から彼女が歩いてきた。
しかし、持っている傘は先ほどの写真のものではない。
むしろ、彼女の父親が使っていそうなシンプルで大きい傘だ。
「ごめんね!遅くなっちゃった!」
「いや、いいんだけどさ……傘は?」
苦笑いして謝る彼女をよそに、僕は彼女の傘を指さす。
そうすると、彼女は苦笑を浮かべたまま今までの経緯を話し出した。
ーーー
「……要約すると、傘がなくて濡れている子どもがいたから傘をあげたんだね?」
「そーゆーこと!」
にひひ、と彼女は笑う。
そんな彼女を見て、僕は何とも複雑な表情を浮かべるのであった。
「お気に入りの傘なんじゃなかったの?」
「傘より、子どもの方が大事でしょ?」
彼女は即答する。
……やっぱり、彼女はすごい。
尊敬に値するし、そういうところが大好きだ。
「しっかしさー!人の傘を盗むなんてひどいよね!その子、ちゃんと傘を持っていたのに置いてたら盗まれたんだって!ほんっと信じらんない!」
傘への未練なんかより、子どもの傘を盗んだ相手への怒りの方が大きいあたり彼女らしい。
僕は微笑みながら彼女の発言に頷く。
しばらく怒っていると、彼女も落ち着いたらしい。
いつもどおりの様子に戻る。
そのタイミングを見計らって、僕は彼女に声をかけた。
「……じゃあ、きみの新しい傘を買いに行こう」
「へ?」
彼女は素っ頓狂な声を上げる。
あまりにも間の抜けた声だったので、思わず吹き出してしまった。
「ふふっ、子どもに傘を譲ってあげた優しいきみには、僕から新しい傘をプレゼントするよ」
「え、そ、そんなの悪いよ。別にいいよ?」
彼女は慌てふためいているが、僕はそんなこと気にしない。
「いいの。僕がプレゼントしたいんだから。ね、お願い?」
優しい声色と表情で言ってみせると、さすがの彼女も言い返せなくなったようだ。
仕方ないな、という表情を浮かべながら僕に向かって自らの傘を差し出す。
僕が反応に戸惑っていると、彼女は明るく「ほら、入って!」と笑いながら言った。
こういうところ、本当にずるいよな……なんて思いながら僕は彼女の傘に入る。
相合傘をするのなら僕が傘を持った方が良いため彼女の手から傘を受け取りながら、僕はいつまでも彼女に敵うことはなさそうだ、なんて考えた。
それでも、僕は僕にできることをする。
「ねえ」
「ん?」
傘の中では声がよく響く。
その中で僕はちゃんと響き渡るように言葉を発した。
「きみのことが大好きだよ、愛してる」
その後、真っ赤になった彼女に横腹を殴られたが、少しだけ勝った気分になったので気にしないことにする。