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短編集

きみは、いつも私のそばにいて。
きみは、いつも私に幸せをくれる。

いつか、この幸せに溺れてしまうんじゃないか。

そんなことを考えるくらい、きみは私を幸せにしてくれる。

きみに幸せにしてもらうことは、決して嫌なことじゃない。
むしろ、ありがたいことで、私は常に感謝しているくらいだ。

ただ、私は、きみの与えてくれる幸せに見合ったものを、何も返せていない。
私は、受け取ってばかり、貰ってばかりだ。

いつか、私がきみの負担になる日が来る。
いつか、私はきみを不幸にしてしまう。

そう考えるなら、私はきみから離れていくべきだ。

そう、思っているのに。

「どうしたの? 浮かない顔してるけど」

きみに声をかけられて、ハッとする。
きみは、きょとんとしつつ、どこか心配そうな表情を浮かべていた。
ああ、心配をかけるなんて、私は駄目な奴だな。
心の中で自嘲しながら、「なんでもないよ」と私は小さく笑みを浮かべる。

「そう? それならいいんだけど」

きみは、にっこりと笑顔になったかと思うと、嬉しそうに話し出した。

「僕は、きみと一緒にいられて、とても幸せだなあ」

どきん、と心臓が跳ねる。
きみが、まさに今、私が考えていたことを言い出したからだ。

「僕はね、きみと居られることが何よりも幸せなんだよ」

そんなわけない。
私は、幸せを与えられるような人間じゃない。
私と居たって、きみを幸せにできない。

私の表情を読んだのだろうか。
きみは、言葉を続ける。

「きみは、もしかしたら、自分じゃ僕を幸せにできないと思っているかもしれない」

まさにその通りだ。
返す言葉もなく、私は曖昧に笑ってみせる。

「でもね、そんなことないんだよ。僕は、きみと居られて幸せだ」

きみは、同じ言葉を繰り返した。
そう言われても、私は、きみに何もしてあげられていない。
私は、与えられてばかりだ。

「僕は、きみが幸せになってくれることが幸せだ」

私は、今まで曖昧な表情を浮かべていたが、その言葉に、思わず目を見開いた。
私の幸せが、きみの幸せに繋がる?
そんな、都合の良い話が、あるわけ──

「僕がきみに何かをしてあげて、きみが喜んでくれる。幸せになってくれる。そのことが、僕は何よりも嬉しくて、幸せなんだ。……僕はね、僕と居ることで幸せになってくれる、きみと居られることが幸せなんだ」

きみは、照れくさそうに笑う。
私は、言葉を失っていた。
そんな、そんな幸せな話があっていいのか。
私は、きみに幸せを与えられているのだろうか。

「あとね、もっと大事なことがある」

喜びと、不安と、いろんな感情が混ざった私をよそに、きみは話を続ける。
少し目を泳がせて、言いよどみながらも、最後にははっきりと私の方を見て、笑顔でこう言い放った。

「きみが、僕のことを心から愛してくれるから、僕はこんなにも幸せなんだ!」

……ああ。
やっぱりきみは、溺れるほどの幸せを私に与えてくれる。
私が愛することを許してくれる上に、それを幸せだと感じてくれるなんて。
歓喜に踊る胸が熱くなる。
涙が溢れそうなほど、私は幸せだ。

私は、きみを──

「きみを、愛してる」
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