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短編集

じわじわと暑さが襲い掛かってくる、8月の中旬。
僕は近所のスーパーに買い出しを頼まれていた。
買い物を済ませて帰路についたは良いものの、スーパー内の涼しさから一変して炎天下の下に放り出されると、体の疲弊も倍増している気がする。
暦の上だと夏は終わっているらしいが、この暑さじゃあ終わりと言えるのか。

(むしろ、本格的に暑くなってる気がする……)

ぐったりとしながら空を見上げる。
真っ青な空。
白くて柔らかそうな雲。
ぎらぎらと輝く太陽。
……まさに夏、だ。

(暦の上では、ということは、昔はもう、この時期には秋になっていたのかな)

煮えそうな頭でそんなことを考える。

(暦と変わっているのは、地球温暖化とか、そういうのも関係あるのかな)

なんだか難しいことも考えてしまった。
余計に頭が煮えそうになるうえに、暑さでぼーっとする。
たまらなくなって、僕は帰り道の途中にある公園に足を踏み入れた。
この時間帯だと、公園内のベンチに影ができるのだ。
そこで、少しだけ休憩することにする。
幸い、買った物の中にナマモノだとかそういうものはないため、急いで帰らなくてはいけないこともない。
ベンチに座って、影を作っている木を見上げる。
葉っぱが生い茂り、その隙間から木漏れ日がきらきらと輝いていた。
風が吹くと、サァッと音を立てて葉っぱが揺れ動く。
僕の髪の毛も少しだけ揺れた。

(……気持ち良いな)

この頃は、家電の発達とかでクーラーばかりに頼っていたが、自然の風というのも悪くはない。
優しく頬を撫でる風に、僕は目を細める。
ずっとここでこうしていたいが、そういうわけにもいかない。
お母さんが、僕の帰りを待っている。
晩御飯の材料が足りなかったから、今頃、僕の買ってきた材料を使って、早く晩御飯を作りたいと思っているだろう。

(……行くか)

重い腰を上げて、歩き出す。
振り返ると、さっきまで僕が座っていたベンチが神聖なように見えた。
なんだか不思議な感覚で、少し微笑んだ後、僕は公園を後にする。

相変わらず日差しは厳しいが、少しだけリフレッシュできた。
しゃきしゃきと歩いて、あっという間に家につく。
玄関のドアを開けて家に入ると、ひんやりとした空気が僕を包んだ。
さっきの風とは違う、人工の涼しさ。

「おかえり。少し遅かったね?」

僕の帰りに気付いたお母さんが、玄関までやってくる。
少し心配そうな、その中に安心も見える表情をしていた。
……ちょっと、のんびりしすぎたか。

「ただいま。少しのんびりしてたかも。ごめんね」

謝ると、お母さんはにっこりと笑う。
そんなの気にしなくていいんだよ、とその表情は語っていた。

「暑かったでしょう。アイスがあるから、食べたら?」
「うん、食べる。ありがとう」

買い物袋を渡した後、僕は冷蔵庫に向かう。
冷凍庫をあけると、パッケージに「氷菓」と書かれたアイスを見つけた。
僕は、少し古めかしいような、そういうアイスが好きなのだ。
懐かしい味が、優しく感じる。
それはソーダ味のアイスキャンディーで、見た目も味も一昔前のもののようだった。
僕の住んでいる町が、まだ少し田舎だからこそ、こんなアイスがあるのかもしれない。

アイスキャンディーを咥えて、僕は庭に出る。
庭で育てている向日葵たちが、元気に出迎えてくれた……ように感じた。
家の庭で育てている割には大きく育った向日葵。
夏が終わったら、向日葵たちの時期も終わってしまう。

(それは少し寂しいかもな)

アイスキャンディーを噛み砕きながら、また空を見上げた。
真っ青な空。
白くて柔らかそうな雲。
ぎらぎらと輝く太陽。
その下で、元気に咲き誇る向日葵。

この時期だからこそ、美しい。
この時期だからこそ、特別。

さっきのベンチが神聖に見えたのも、この時期だけの特別な存在に思えたからかもしれない。

(夏は苦手だけれど、案外悪くないのかも)

そんなことを考えていると、ふんわりカレーの香りが漂ってきた。
僕の買ってきたカレールーが役に立ったらしい。

(夏野菜のカレー、楽しみだな)

食べ終わったアイスキャンディーの棒を咥え、向日葵を尻目に、僕は家の中へ、そして台所へと進む。
カレーの味見は、僕の楽しみなんだ。
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