twstワンダーランド/短編
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ナイトレイブンカレッジでの生活も終わりが近づいていた。
元の世界に戻る日が刻々と迫っていることを知りながらも、心の中ではまだここに残りたいという気持ちが拭いきれない。
同級生やグリムとの別れも辛いが、特に、れいには想い人がいた。
―アズール先輩とお別れするのが、寂しい……。
いつからだろう、あの冷静な瞳を、柔らかい銀髪を、優しい声を、ふと探してしまうようになったのは。
そんな気持ちを知ってか知らずか、アズールはれいをモストロラウンジへと招待してくれた。
元の世界に戻るれいに、対価なしでディナーをご馳走してくれるという。
対価なし、というところに初めは怪しんだれいだったが、どうやら純粋に誘ってくれているだけとわかり、少しだけお洒落をしてモストロラウンジへと訪れた。
美しく立派な水槽の前には、いつも通り冷静で知的な雰囲気を漂わせたアズールが立っていた。彼はれいの顔を見て、優しく微笑んだ。
「れいさん、お待ちしておりました。あなたのナイトレイブンカレッジでの最後の思い出に、僕から最高のおもてなしをさせてください。」
恭しくお辞儀してエスコートをするアズール。
「こ、こんばんは。」
そっと腕に身体を寄せ、ついていくれい。
「本日はれいさんのために、特等席をご用意させていただきました。」
案内された個室の目前には大きな水槽が広がり、豪華に飾りつけされたテーブルがれいを待ち構えていた。
「すごい……。アズール先輩、ありがとうございます。」
「いえ。あなたへのこれまでの感謝の気持ちに比べたら……。これくらい、お安いものです。」
「感謝だなんて、私は何も……。」
「あなたには沢山、借りがありますから。今日は二人きりで、素敵な時間を過ごしましょう。」
アズールは柔らかな声でそう言い、席を勧めた。
れいはソファに腰掛けた。アズールも隣に腰掛ける。
ウェイターの生徒にソフトドリンクを注文し、乾杯をした。
運ばれてくる食事はフルコースでどれも驚くほど美味しく、れいの舌を楽しませた。料理が運ばれてくるたびにアズールが蘊蓄を交えて丁寧に説明をしてくれたり、ジェイドやフロイドがチラチラと覗きにくるのをアズールが追い返したりと、あっという間に時間は過ぎていった。
最後のデザートが片付いたとき、れいはふと、どうしようもなく寂しくなってしまった。
隣に座っているアズールの顔を見ると、胸が締め付けられるような思いが込み上げてくる。
泣きそうになるれいに気づいたアズールは、微笑みを崩さないまま、話しかける。
「おや、お食事がお気に召しませんでしたか。」
「いえ、とても美味しかったです。本当に今日はありがとうございます。……アズール先輩、私は……先輩とお別れするのが、寂しいです。」
れいのその言葉にアズールは驚いたように目を見開いたが、すぐに微笑みを取り戻した。
「そう言っていただけるのは、光栄なことです。しかし、元の世界に戻ることがれいさんの運命ならば、仕方のないことですね。」
アズールの声は平静を装っていたが、そこにはかすかな動揺が感じられた。
「アズール先輩、あなたとの思い出は……私にとってとても大切なものなんです。努力家で、知識が豊富で、いつもどんなときでも最善の解決策を見つけ出すあなたに、私は惹かれていました。」
れいの言葉に、アズールは静かに目を閉じた。そして、再び目を開くと、彼のスカイブル―の瞳は深い感情を堪えるように涙ぐんでいた。
「れいさん、僕もあなたに、とても惹かれていました。あなたがいてくれることが僕にとってどれだけ心強いか、癒されるか。そんなあなたと、お別れしてしまうのは寂しいことです。ですが、それでも……。」
アズールは れいの耳元でそっと呟く。
「それでももしあなたが元の世界で、僕を探してくれたなら、僕はここであなたを待っています。」
囁かれた言葉に驚いたれいは、ゆっくりとアズールを見つめる。
アズールはれいに優しく微笑みかけた。その微笑みには契約も対価もない、まっさらな愛情が感じられた。
「どうやって戻ってこられるかはわからないけれど……、もしアズール先輩が私を待っていてくれるなら、私、必ず戻ってきます。」
れいはそう言って、アズールとしっかりと目を合わせた。
「それでいいのです。僕はいつまでも待っていますよ、れいさん。」
アズールはそう言ってれいの手を取り、そっと手の甲にキスをした。
数日後、れいは元の世界に戻る日を迎えた。別れの瞬間、ナイトレイブンカレッジのみんなに交じって、アズールは穏やかな笑顔でれいを送り出した。
れいも、もし再びこの世界に戻ることができるなら、必ずアズールとの約束を果たすことを心に決め、手を振った。
―――――
れいが元の世界に戻ってから、しばらくの時が経った。
現実の世界は空虚でつまらなく、ナイトレイブンカレッジでの生活は夢のように遠い過去の出来事に感じられた。
れいは心のどこかで、いつか必ず、アズールとの約束を果たすと信じ続けていた。
ある日の夜、れいは再びあの世界に戻る夢を見た。
夢の中で聞こえる優しい声に導かれ、気がつくとナイトレイブンカレッジの入り口に立っていた。冷たい風が頬を撫で、懐かしい景色が広がっている。
「ここは……。」
れいはフワフワとした意識のまま、周囲を見渡した。
建物や庭園が、まるで昨日までそこにいたかのように感じられる。
紛うことなき、ナイトレイブンカレッジの敷地だ。
自分の手を見てみると、少し透けている。
「夢の中……?」
それにしては建物などがリアルで、そこに本当に立っているような感覚もある。
もしかして幽体離脱かしら、と思い至ったとき。
れいの頭に一つの思いが浮かんだ。
アズールとの約束。
れいは自然と、足をオクタヴィネル寮へと向けた。
モストロラウンジに足を踏み入れ、静寂が漂っている中に立ち尽くす。
やはり、誰もいないか―
帰ろうと思った矢先、ラウンジの奥から聞こえてきたのは。
「やはり、あなたは戻ってきましたね、れいさん。」
れいは驚きと喜びで胸がいっぱいになった。そこには、少しも変わらないアズール・アーシェングロットが立っていた。安心しているようにも泣きそうなようにも見える微笑みを浮かべている。
「アズール先輩……私は約束を果たしました。あなたが待っていると信じていたから、私は戻ってきました。」
れいの声には、こみ上げる感情が込められていた。
アズールはれいに近づき、優しく手を取りキスをした。
「もちろん、僕はあなたとの約束を忘れたことはありませんでした。あなたがいつか戻ってくると信じて、ずっと待っていましたよ。」
アズールの言葉には、深い慈悲の心が感じられた。
れいはその言葉に安心し、アズールの胸に飛び込むように抱きついた。アズールも驚いた様子を見せながらも、そっとれいを抱きしめた。
「もう、離れたくないです……。」
れいはアズールの肩に顔を埋めながら、そう誓った。
「ええ、あなたがここにいる限り、僕たちはずっと一緒です。もう何も恐れることはありません。」
二人は惹かれるように唇を合わせた。
その瞬間、れいの身体が柔らかな光に包まれた。
それまで少し透けていた れいの身体が濃くなり、鮮明になる。
「え、これって……夢、じゃない?」
キョトンとしているれいに、アズールがニヤリと微笑む。
「ごめんなさい、れいさん。あなたが帰るときに、少しだけ魔法をかけておいたのです。夢の中で僕とあなたが愛を誓うと一生一緒にいられるという、少々ロマンチックな契約魔法です。」
れいは驚きで唖然としながらも、アズールの身体をより一層強く掴む。
「そしたら、これからも一緒にいられるんですか?」
「えぇ、少し強引すぎたでしょうか?」
「強引すぎるでしょう……。でも、ありがとうございます。それで、対価は?高くつきそうな魔法ですよね……。」
アズールは噴き出して笑う。
「もう、いただいておりますよ。」
アズールは再びれいに口づけた。
再び訪れたこの世界で、れいはアズールと共に、これからの未来を築いていくことを決意した。
【立ち別れ いなばの山の 峰に生ふる まつとし聞かば 今帰り来む】
あなたと離れ離れになったけれど、稲葉の山の峰に生えている松のように、もし私を待っていると聞いたなら、すぐに戻ってきますよ。
元の世界に戻る日が刻々と迫っていることを知りながらも、心の中ではまだここに残りたいという気持ちが拭いきれない。
同級生やグリムとの別れも辛いが、特に、れいには想い人がいた。
―アズール先輩とお別れするのが、寂しい……。
いつからだろう、あの冷静な瞳を、柔らかい銀髪を、優しい声を、ふと探してしまうようになったのは。
そんな気持ちを知ってか知らずか、アズールはれいをモストロラウンジへと招待してくれた。
元の世界に戻るれいに、対価なしでディナーをご馳走してくれるという。
対価なし、というところに初めは怪しんだれいだったが、どうやら純粋に誘ってくれているだけとわかり、少しだけお洒落をしてモストロラウンジへと訪れた。
美しく立派な水槽の前には、いつも通り冷静で知的な雰囲気を漂わせたアズールが立っていた。彼はれいの顔を見て、優しく微笑んだ。
「れいさん、お待ちしておりました。あなたのナイトレイブンカレッジでの最後の思い出に、僕から最高のおもてなしをさせてください。」
恭しくお辞儀してエスコートをするアズール。
「こ、こんばんは。」
そっと腕に身体を寄せ、ついていくれい。
「本日はれいさんのために、特等席をご用意させていただきました。」
案内された個室の目前には大きな水槽が広がり、豪華に飾りつけされたテーブルがれいを待ち構えていた。
「すごい……。アズール先輩、ありがとうございます。」
「いえ。あなたへのこれまでの感謝の気持ちに比べたら……。これくらい、お安いものです。」
「感謝だなんて、私は何も……。」
「あなたには沢山、借りがありますから。今日は二人きりで、素敵な時間を過ごしましょう。」
アズールは柔らかな声でそう言い、席を勧めた。
れいはソファに腰掛けた。アズールも隣に腰掛ける。
ウェイターの生徒にソフトドリンクを注文し、乾杯をした。
運ばれてくる食事はフルコースでどれも驚くほど美味しく、れいの舌を楽しませた。料理が運ばれてくるたびにアズールが蘊蓄を交えて丁寧に説明をしてくれたり、ジェイドやフロイドがチラチラと覗きにくるのをアズールが追い返したりと、あっという間に時間は過ぎていった。
最後のデザートが片付いたとき、れいはふと、どうしようもなく寂しくなってしまった。
隣に座っているアズールの顔を見ると、胸が締め付けられるような思いが込み上げてくる。
泣きそうになるれいに気づいたアズールは、微笑みを崩さないまま、話しかける。
「おや、お食事がお気に召しませんでしたか。」
「いえ、とても美味しかったです。本当に今日はありがとうございます。……アズール先輩、私は……先輩とお別れするのが、寂しいです。」
れいのその言葉にアズールは驚いたように目を見開いたが、すぐに微笑みを取り戻した。
「そう言っていただけるのは、光栄なことです。しかし、元の世界に戻ることがれいさんの運命ならば、仕方のないことですね。」
アズールの声は平静を装っていたが、そこにはかすかな動揺が感じられた。
「アズール先輩、あなたとの思い出は……私にとってとても大切なものなんです。努力家で、知識が豊富で、いつもどんなときでも最善の解決策を見つけ出すあなたに、私は惹かれていました。」
れいの言葉に、アズールは静かに目を閉じた。そして、再び目を開くと、彼のスカイブル―の瞳は深い感情を堪えるように涙ぐんでいた。
「れいさん、僕もあなたに、とても惹かれていました。あなたがいてくれることが僕にとってどれだけ心強いか、癒されるか。そんなあなたと、お別れしてしまうのは寂しいことです。ですが、それでも……。」
アズールは れいの耳元でそっと呟く。
「それでももしあなたが元の世界で、僕を探してくれたなら、僕はここであなたを待っています。」
囁かれた言葉に驚いたれいは、ゆっくりとアズールを見つめる。
アズールはれいに優しく微笑みかけた。その微笑みには契約も対価もない、まっさらな愛情が感じられた。
「どうやって戻ってこられるかはわからないけれど……、もしアズール先輩が私を待っていてくれるなら、私、必ず戻ってきます。」
れいはそう言って、アズールとしっかりと目を合わせた。
「それでいいのです。僕はいつまでも待っていますよ、れいさん。」
アズールはそう言ってれいの手を取り、そっと手の甲にキスをした。
数日後、れいは元の世界に戻る日を迎えた。別れの瞬間、ナイトレイブンカレッジのみんなに交じって、アズールは穏やかな笑顔でれいを送り出した。
れいも、もし再びこの世界に戻ることができるなら、必ずアズールとの約束を果たすことを心に決め、手を振った。
―――――
れいが元の世界に戻ってから、しばらくの時が経った。
現実の世界は空虚でつまらなく、ナイトレイブンカレッジでの生活は夢のように遠い過去の出来事に感じられた。
れいは心のどこかで、いつか必ず、アズールとの約束を果たすと信じ続けていた。
ある日の夜、れいは再びあの世界に戻る夢を見た。
夢の中で聞こえる優しい声に導かれ、気がつくとナイトレイブンカレッジの入り口に立っていた。冷たい風が頬を撫で、懐かしい景色が広がっている。
「ここは……。」
れいはフワフワとした意識のまま、周囲を見渡した。
建物や庭園が、まるで昨日までそこにいたかのように感じられる。
紛うことなき、ナイトレイブンカレッジの敷地だ。
自分の手を見てみると、少し透けている。
「夢の中……?」
それにしては建物などがリアルで、そこに本当に立っているような感覚もある。
もしかして幽体離脱かしら、と思い至ったとき。
れいの頭に一つの思いが浮かんだ。
アズールとの約束。
れいは自然と、足をオクタヴィネル寮へと向けた。
モストロラウンジに足を踏み入れ、静寂が漂っている中に立ち尽くす。
やはり、誰もいないか―
帰ろうと思った矢先、ラウンジの奥から聞こえてきたのは。
「やはり、あなたは戻ってきましたね、れいさん。」
れいは驚きと喜びで胸がいっぱいになった。そこには、少しも変わらないアズール・アーシェングロットが立っていた。安心しているようにも泣きそうなようにも見える微笑みを浮かべている。
「アズール先輩……私は約束を果たしました。あなたが待っていると信じていたから、私は戻ってきました。」
れいの声には、こみ上げる感情が込められていた。
アズールはれいに近づき、優しく手を取りキスをした。
「もちろん、僕はあなたとの約束を忘れたことはありませんでした。あなたがいつか戻ってくると信じて、ずっと待っていましたよ。」
アズールの言葉には、深い慈悲の心が感じられた。
れいはその言葉に安心し、アズールの胸に飛び込むように抱きついた。アズールも驚いた様子を見せながらも、そっとれいを抱きしめた。
「もう、離れたくないです……。」
れいはアズールの肩に顔を埋めながら、そう誓った。
「ええ、あなたがここにいる限り、僕たちはずっと一緒です。もう何も恐れることはありません。」
二人は惹かれるように唇を合わせた。
その瞬間、れいの身体が柔らかな光に包まれた。
それまで少し透けていた れいの身体が濃くなり、鮮明になる。
「え、これって……夢、じゃない?」
キョトンとしているれいに、アズールがニヤリと微笑む。
「ごめんなさい、れいさん。あなたが帰るときに、少しだけ魔法をかけておいたのです。夢の中で僕とあなたが愛を誓うと一生一緒にいられるという、少々ロマンチックな契約魔法です。」
れいは驚きで唖然としながらも、アズールの身体をより一層強く掴む。
「そしたら、これからも一緒にいられるんですか?」
「えぇ、少し強引すぎたでしょうか?」
「強引すぎるでしょう……。でも、ありがとうございます。それで、対価は?高くつきそうな魔法ですよね……。」
アズールは噴き出して笑う。
「もう、いただいておりますよ。」
アズールは再びれいに口づけた。
再び訪れたこの世界で、れいはアズールと共に、これからの未来を築いていくことを決意した。
【立ち別れ いなばの山の 峰に生ふる まつとし聞かば 今帰り来む】
あなたと離れ離れになったけれど、稲葉の山の峰に生えている松のように、もし私を待っていると聞いたなら、すぐに戻ってきますよ。
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