hrakアカデミア/短編
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夜の闇が静かに街を包む中、れいは一人、寮の屋上に立っていた。涼しい風が頬を撫で、遠くで聞こえる街の喧騒が、心のざわめきを増幅させる。
先ほどまで、クラスの担任である相澤先生の誕生日パーティーをおこなっていたが、れいは少し外の空気を吸ってくる、と言って屋上まで来ていた。
―どうして、こんなにも胸が苦しいの……。
れいは夜空を見上げながら、心の中でそっとつぶやく。その想いの源は、自分でも気づかないうちに芽生えたものだった。
最近は何をしていても、無意識のうちにクラスメイトの常闇踏陰の姿を探してしまい、それがいつしか自分の心を乱し始めていた。
先ほどのパーティーで、クラスメイトの耳郎響香と楽しげに話している常闇踏陰を見てしまったのだ。
ふいに、涙が出てくる。
はらり、と頬に伝った水滴を、ハンカチでそっとおさえる。
一度泣き始めてしまうと引っ込みがつかなくなるのか、大粒の涙によりハンカチにまだら模様ができあがる。まるで、今の乱れた心のように。
その時、後ろから静かな足音が聞こえた。振り向くと、常闇が立っていた。夜の闇と溶け合い、彼自身がまるで影そのもののように見える。咄嗟のことに驚いて、泣いている顔をさっと隠すれい。
「ここにいたのか。」
常闇は低い声で言った。
「常闇くん……。どうしたの?」
「赤沢がいないことに気がついて、心配になって芦戸に聞いたらここだと言われてな。どこか具合が悪いのか?」
れいの心臓がキュッと痛くなる。常闇が自分のことを気にかけてくれている、だがそれは自分への特別な想いなどではなく、彼の普遍的な優しさがそうさせるだけで、その残酷な優しさが、れいの心をさらに乱れさせた。
「大丈夫、私は元気だよ。」
と、れいは苦笑いを浮かべながら答えた。
常闇は黙ってれいの隣に立ち、静かに夜空を見上げた。二人の間にはしばらくの沈黙が流れる。
「……赤沢は、何か悩んでいるのか?」
常闇がぽつりと聞いた。
その問いに、れいは少し驚いた。常闇はいつも冷静で、その観察眼は鋭い。
「悩んでるなんて、全然。」
咄嗟についた嘘も、すぐに見抜かれてしまう。
「そしたらその涙はなんだ。」
常闇は小さなため息をつきながら、れいの手に握られたまだら模様のハンカチを見やる。
「俺は泣いている女子を放っておくような教育は受けていないぞ。」
―あぁ、私は彼のこういうところが、好きなんだな。
常闇のぶっきらぼうで、けれどとても優しい言葉に、胸が熱くなる。
「常闇くんは鋭いね。そう、少し、悩んでるかもね。」
―原因は貴方にあるけれど。
心の中でぐっと、本音を飲み込む。
恋はいつもそうだ。自分が一方的に思い慕っているだけなのに、まるで相手のせいだとでも言うように、相手の一挙手一投足に勝手に期待して、心が乱れて、胸が締め付けられるような痛みを感じる。
常闇は月を見上げながら言った。
「それは……俺が解決できることか?」
れいはまだら模様のハンカチを握りしめながら、常闇を見つめる。
「どうだろう……。まだ、わからない。」
肯定とも否定ともとれない態度のれいを見て常闇は訝しげに眉をひそめたが、フッと笑いながら達観したように呟いた。
「そうか。そういう時は、ゆっくりと時間をかけて考えることが肝要だ。時には、心が乱れることで、自分の本当の気持ちに気づくことがある。」
その言葉は、 れいの心の奥深くに直接響いた。
常闇はその個性の影響で、幼少期から、冷静に生きることに文字通り命を懸けてきた人間だ。高校生とは思えないほど大人びていることも、彼の個性と生い立ちゆえだ。
そんな達観した常闇の言葉に、れいは心が救われる思いがした。
―今、答えを出さなくても良いんだ。
―この忍ぶような淡い恋は、まだ、誰にも語らずに、私の中で大切にしまっておきたい。
「ありがとう、常闇君……。」
れいはそう言って微笑んだ。常闇は少しだけ頬を緩めたように見えたが、すぐに元の冷静な表情に戻った。
「赤沢が安心できるなら、それでいい。」と、彼は静かに答えた。
二人はしばらくの間、言葉を交わさずに夜空を見つめ続けた。それぞれの心に浮かぶ思いを胸に秘めながら、静かな時間を共に過ごすことの幸せを噛みしめていた。
「あぁ、そういえば。さっきこれを耳郎から貰った。」
常闇の手には、有名なチョコレート店のチョコがふたつ、握られていた。
「相澤先生の誕生日ということで、八百万が手配してくれたらしい。俺にはわからないが有名なお店らしいな、女子が騒いでいたぞ。」
「じゃあさっき、耳郎さんと話していたのはこれを……?」
「ん?あぁ、そうだ。男子には価値がわからないと言ってよこさなかったが、俺は……その、赤沢と食べたいと思って、なんとか2個貰ってきたんだ。」
れいはその言葉に驚き、常闇を見つめた。
「え、それって……。」
「あ、いや!赤沢が気に入るかと思ったんだが、気分じゃなければ……。」
「ううん、とっても嬉しい。ありがとう。……このお店、私の好きなお店だ。」
「やはりそうだったか。」
「ありがとう。いただきます。」
チョコレートの包みをそっと開けてみると、中からは美しく装飾された一口サイズのチョコレートが顔を出した。
夜空に輝く星々を模した金粉が散りばめられており、まるで夜の世界をそのまま閉じ込めたかのようだった。
二人でチョコレートを頬張る。甘さの中に苦みと渋みがあり、私の乱れた恋心のようだ、とれいは心の中で苦笑いした。
「すごく美味しいね。ありがとう。」
「よかった。」
二人はチョコレートの甘い余韻を感じながら、夜空に目を戻した。
その夜、れいと常闇は就寝時間まで、夜空に浮かぶ月と星を見て過ごした。
月の柔らかな光が二人の顔を照らし、星々は宝石のように煌めいていた。
【陸奥の しのぶもぢずり 誰ゆゑに 乱れそめにし 我ならなくに】
染物のように乱れてしまう私の恋心。これは誰のせいでしょうか、私のせいではないはずなのに。
先ほどまで、クラスの担任である相澤先生の誕生日パーティーをおこなっていたが、れいは少し外の空気を吸ってくる、と言って屋上まで来ていた。
―どうして、こんなにも胸が苦しいの……。
れいは夜空を見上げながら、心の中でそっとつぶやく。その想いの源は、自分でも気づかないうちに芽生えたものだった。
最近は何をしていても、無意識のうちにクラスメイトの常闇踏陰の姿を探してしまい、それがいつしか自分の心を乱し始めていた。
先ほどのパーティーで、クラスメイトの耳郎響香と楽しげに話している常闇踏陰を見てしまったのだ。
ふいに、涙が出てくる。
はらり、と頬に伝った水滴を、ハンカチでそっとおさえる。
一度泣き始めてしまうと引っ込みがつかなくなるのか、大粒の涙によりハンカチにまだら模様ができあがる。まるで、今の乱れた心のように。
その時、後ろから静かな足音が聞こえた。振り向くと、常闇が立っていた。夜の闇と溶け合い、彼自身がまるで影そのもののように見える。咄嗟のことに驚いて、泣いている顔をさっと隠すれい。
「ここにいたのか。」
常闇は低い声で言った。
「常闇くん……。どうしたの?」
「赤沢がいないことに気がついて、心配になって芦戸に聞いたらここだと言われてな。どこか具合が悪いのか?」
れいの心臓がキュッと痛くなる。常闇が自分のことを気にかけてくれている、だがそれは自分への特別な想いなどではなく、彼の普遍的な優しさがそうさせるだけで、その残酷な優しさが、れいの心をさらに乱れさせた。
「大丈夫、私は元気だよ。」
と、れいは苦笑いを浮かべながら答えた。
常闇は黙ってれいの隣に立ち、静かに夜空を見上げた。二人の間にはしばらくの沈黙が流れる。
「……赤沢は、何か悩んでいるのか?」
常闇がぽつりと聞いた。
その問いに、れいは少し驚いた。常闇はいつも冷静で、その観察眼は鋭い。
「悩んでるなんて、全然。」
咄嗟についた嘘も、すぐに見抜かれてしまう。
「そしたらその涙はなんだ。」
常闇は小さなため息をつきながら、れいの手に握られたまだら模様のハンカチを見やる。
「俺は泣いている女子を放っておくような教育は受けていないぞ。」
―あぁ、私は彼のこういうところが、好きなんだな。
常闇のぶっきらぼうで、けれどとても優しい言葉に、胸が熱くなる。
「常闇くんは鋭いね。そう、少し、悩んでるかもね。」
―原因は貴方にあるけれど。
心の中でぐっと、本音を飲み込む。
恋はいつもそうだ。自分が一方的に思い慕っているだけなのに、まるで相手のせいだとでも言うように、相手の一挙手一投足に勝手に期待して、心が乱れて、胸が締め付けられるような痛みを感じる。
常闇は月を見上げながら言った。
「それは……俺が解決できることか?」
れいはまだら模様のハンカチを握りしめながら、常闇を見つめる。
「どうだろう……。まだ、わからない。」
肯定とも否定ともとれない態度のれいを見て常闇は訝しげに眉をひそめたが、フッと笑いながら達観したように呟いた。
「そうか。そういう時は、ゆっくりと時間をかけて考えることが肝要だ。時には、心が乱れることで、自分の本当の気持ちに気づくことがある。」
その言葉は、 れいの心の奥深くに直接響いた。
常闇はその個性の影響で、幼少期から、冷静に生きることに文字通り命を懸けてきた人間だ。高校生とは思えないほど大人びていることも、彼の個性と生い立ちゆえだ。
そんな達観した常闇の言葉に、れいは心が救われる思いがした。
―今、答えを出さなくても良いんだ。
―この忍ぶような淡い恋は、まだ、誰にも語らずに、私の中で大切にしまっておきたい。
「ありがとう、常闇君……。」
れいはそう言って微笑んだ。常闇は少しだけ頬を緩めたように見えたが、すぐに元の冷静な表情に戻った。
「赤沢が安心できるなら、それでいい。」と、彼は静かに答えた。
二人はしばらくの間、言葉を交わさずに夜空を見つめ続けた。それぞれの心に浮かぶ思いを胸に秘めながら、静かな時間を共に過ごすことの幸せを噛みしめていた。
「あぁ、そういえば。さっきこれを耳郎から貰った。」
常闇の手には、有名なチョコレート店のチョコがふたつ、握られていた。
「相澤先生の誕生日ということで、八百万が手配してくれたらしい。俺にはわからないが有名なお店らしいな、女子が騒いでいたぞ。」
「じゃあさっき、耳郎さんと話していたのはこれを……?」
「ん?あぁ、そうだ。男子には価値がわからないと言ってよこさなかったが、俺は……その、赤沢と食べたいと思って、なんとか2個貰ってきたんだ。」
れいはその言葉に驚き、常闇を見つめた。
「え、それって……。」
「あ、いや!赤沢が気に入るかと思ったんだが、気分じゃなければ……。」
「ううん、とっても嬉しい。ありがとう。……このお店、私の好きなお店だ。」
「やはりそうだったか。」
「ありがとう。いただきます。」
チョコレートの包みをそっと開けてみると、中からは美しく装飾された一口サイズのチョコレートが顔を出した。
夜空に輝く星々を模した金粉が散りばめられており、まるで夜の世界をそのまま閉じ込めたかのようだった。
二人でチョコレートを頬張る。甘さの中に苦みと渋みがあり、私の乱れた恋心のようだ、とれいは心の中で苦笑いした。
「すごく美味しいね。ありがとう。」
「よかった。」
二人はチョコレートの甘い余韻を感じながら、夜空に目を戻した。
その夜、れいと常闇は就寝時間まで、夜空に浮かぶ月と星を見て過ごした。
月の柔らかな光が二人の顔を照らし、星々は宝石のように煌めいていた。
【陸奥の しのぶもぢずり 誰ゆゑに 乱れそめにし 我ならなくに】
染物のように乱れてしまう私の恋心。これは誰のせいでしょうか、私のせいではないはずなのに。
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