れいは放課後、教室で休んでいた。今日の訓練は非常にキツく、へとへとになった身体を休ませるために時間が必要だった。
少し後ろを振り返ると、常闇踏陰が机に伏せて静かに眠っていた。最近れいが見る常闇は、いつもこんな感じで寝ていることが多い。よほど疲れているのだろうか。
夕日が明るく差し込む教室には、れいと常闇のふたりきり。

れいは、そっと常闇に近づいていく。クールな外見とは裏腹に、眠っている時の表情はどこか穏やかで、れいは思わず微笑んでしまった。

「踏陰君、今日は本当にお疲れ様……。」

そう呟いたその時、常闇からうっすらと黒い影が現れた。それはダークシャドウだった。

「れい、マタ君ト会エタ。」
ダークシャドウが囁いた。
「ダークシャドウ、こんにちは。」
れいはすぐに微笑んで答えた。

最近こうやって、常闇が寝ているときにダークシャドウと喋ることが、れいのささやかな楽しみになっていた。
「また会えたね。今日の訓練は疲れたでしょ？すごくかっこよかったよ。しっかり休んでね。」
ダークシャドウの頬をさするれい。

「れいハ本当優シイナ。踏陰ガ特別ニ思ウノモ無理ハナイ。」
ダークシャドウは彼女を見つめた。

れいは彼の言葉に少しだけ驚いた。
「特別って……どういう意味？」

ダークシャドウは軽く笑い、
「れい、気ヅイテイナイノ？踏陰ハ君ヲタダノ友人トハ思ッテイナイ。」
と答えた。

その言葉に、れいは胸がドキリと鳴った。
前から常闇に対し片思いをしているれいには、少々刺激的すぎる話だった。

「踏陰君が……私を？」
「ソウダ。ダガ、踏陰ハ言葉ニスルノ苦手。」
ダークシャドウは意味ありげに彼女を見つめており、楽しんでいるようだった。

「そう、なんだよね……、踏陰君ってクールだから、そういう素振り見せないもん。」

その時、常闇が小さく身じろぎした。彼女は一瞬、彼が目を覚ますのではないかと緊張したが、すぐに彼が再び静かに寝息を立てるのを聞いて安堵した。
れいは、仮にこの恋が実ったとしても、感情をあまり見せない彼と付き合い続けることは難しいだろう、と感じていた。
もっと恋愛感情をさらけ出して、甘い言葉をくれるような人の方が、自分には合っているような気がしていたのだ。それでも惚れた者の弱みで、常闇以外の人を好きになる余地は今はなかった。


夕日が落ち込み、次第に教室が暗くなる。
ダークシャドウの影も、少しずつ大きくなる。

ダークシャドウはれいを見つめながら沈黙した後、いつもとは違う真剣な声で言った。
「なァ、俺にすれバ。」

聞き間違いかと思ったれいは、ん？と首をかしげて聞き返した。

「俺と付き合えバって、言ってル！」
「え、え？」
「れいと話しているト、俺自身も心が落ち着ク。暴れたり、しなくなル。俺れいのこと、好きなんダ！」

声が大きくなったダークシャドウの突然の告白に、れいは目を丸くした。そうか、暗いとちょっと自信家になるんだっけ、と、以前訓練中に常闇が言っていたことを思い出した。

ダークシャドウは大きい腕でれいを抱きしめた。

「え、ちょちょ、急に何？！」
「なァ、俺は、れいが好きダ。踏陰と共にいる限り、俺は影でしかないけド。でも、言葉にしない踏陰より、俺の方が、かっこいいゾ。」

いつもより流暢に、男らしく喋るダークシャドウに抱かれながらくすぐったい言葉を言われ、れいは照れてタジタジになってしまった。

「れい、良い香りがする。声が好き。顔も好き。頭いいところも好き。もっと喋りたい。もっと触りたい。もっと知りたい……。」
「んっ……。」

首の弱い所に顔をうずめて、いつもより低い声を使い耳元で囁いてくるダークシャドウ。れいは我慢できずに声が漏れてしまう。

「れいはどうしたい？俺に抱かれたい？」
髪の毛を撫でられながら歯の浮くようなセリフを言われたれいは、照れて頭が回転せず、素直に思ったことを声に出す。

「私は……私も、ダークシャドウのこと、優しくて強くてすごく好きだし、言葉に表してくれない踏陰くんよりも、かっこいいなとか、今、思っちゃったけど……。」

「決まりだな！」

ダークシャドウは喜びながら、れいの唇に嘴をつけてキスをした。唇越しに体温が伝わり、真っ赤になるれい。
れいの顔を持ちながら
「可愛いなァ～！俺のカノジョ！」
と叫んでいるダークシャドウ。
その大きさは、いまや教室の半分ほどまでになっている。

「ずっと、ずっと好きだった。踏陰の気持ちにも気づいてたけど、絶対俺の方がれいを幸せにできるぜ。」
ダークシャドウは満足げに微笑んだ。

「俺が一生、れいを守り続ける！だって俺、最強だから！」

ウインクしながら決めたダークシャドウ。
れいはダークシャドウのその言葉に無限の愛情を感じ、自分からもキスをした。



二人には気づかないほど小さく、常闇は薄く目を開けていた。
「先を越された……。」
と、口下手な自分に後悔をしながら、常闇の狸寝入りは続く。