赤沢れいは、雄英高校の校庭で掃除のゴミ捨て当番をしていた。隣にはクラスメイトの切島鋭児郎が立っている。
もう当番の仕事はとっくに終わっているが、切島は昨日あったエピソードが面白くて話が止められないようで、大声で話を続ける。

「でさ、その時に爆豪がおじさんに絡んじゃって、マジで大変だったのよ！」
切島の明るい性格と面白いトークに、れいもつられて笑顔を見せる。

しかし、少し離れた場所からその様子を見ていた常闇踏陰は、心の奥に冷たい感情が渦巻くのを感じていた。
彼はれいの恋人であり、普段は理性的で冷静な彼も、今日ばかりは眉間に皺を寄せながらイライラを隠しきれない様子だった。

「踏陰、ドウシタ？」
ダークシャドウが彼の心の内を見透かすように問いかける。

「……いや、なんでもない。ただ、少し、落ち着かないだけだ。」

そのまま常闇は一歩一歩、校庭のれいと切島に向かって歩みを進めた。彼の中で沸き起こる感情を抑えきれず、無意識に“黒い影”をまといながら。

れいが常闇に気づいたのは、彼がすぐ近くまで来た時だった。
「あ、踏陰君！どうしたの？ここに来るなんて珍しいね。」

「れい、少し話がある。二人きりで。」

常闇のいつになく硬い表情は、れいにその深刻さを物語る。
「うん、わかった。切島くん、また後でその話聞かせて！」
「えー！こっからが面白いのにー！」

切島はちぇっ、と不貞腐れたが、常闇の尋常でない表情を見てそういえばれいと常闇は付き合い始めたんだった、と気がつき、ぎこちなく愛想笑いをしながらダッシュでその場を後にした。
れいと常闇は少し離れた木陰に移動し、静かに向かい合った。

「踏陰君、どうしたの？」
れいが優しく問いかける。

常闇は一瞬言葉を詰まらせたが、やがてその感情を抑えることなく口を開いた。
「……れいが切島と一緒にいるのを見ると、どうしようもなく胸がざわつくんだ。あいつはかっこいいし話も面白いし……。俺は……俺は嫉妬しているんだろう。」

れいは驚いた表情を見せた後、彼に一歩近づいてそっとその手を取った。
「あのね、切島くんはただの友達。かっこいいとか、思ってないよ。私は入学した時から踏陰君のこと、男としてタイプなんだよ。」

少し照れながら、れいは続ける。

「踏陰君も、嫉妬とかするんだ。意外。でも……その気持ちがちょっと、嬉しいかも。」

「嬉しい？」
常闇は彼女の顔をじっと見つめた。

れいは微笑んで頷いた。
「だって、それは私のことを、彼女として大切に思ってくれてるってことだよね。でも心配しないで、私は踏陰君だけを見てるから。」

その言葉に、常闇の心の中にあった冷たく暗い感情は一瞬で消え去り、代わりに安堵と温かさが広がった。
常闇は彼女の手をしっかりと握り返し、静かな声で言った。
「……すまない。れいを信じていないわけじゃない。ただ、俺も完璧ではないから、こんな感情が湧いてしまうことがある。」

れいはその言葉に微笑んで首を振った。
「誰だってそうだよ、踏陰君。でも、その素直な気持ちを教えてくれてありがとう。」

常闇はれいの優しさに感謝し、そっと彼女を引き寄せた。影に包まれた二人の間に、言葉にならない思いが確かに通じ合った。
その瞬間、常闇は心の底かられいを守りたいと強く誓った。