空は夕闇に包まれ、木々の葉が風に揺れる音だけが静かに響いている。
れいの胸の中は、常闇への気持ちで押しつぶされそうだった。
ずっと爆豪に向けていた気持ちが変わり始め、今では常闇への淡い恋心に気づいてしまった。

「私……なんでこんなにバカなんだろう……。」

れいは、うつむいて静かに涙をこぼした。
常闇が自分を応援してくれる姿が、今では余計に胸を締め付ける。

私の恋を、優しく見守って応援してくれた人。

あの顔を思い浮かべるだけでどうしようもなく辛く、そして泣かずにはいられなかった。


「赤沢……？」

声に振り返ると、常闇が立っていた。
常闇は、れいが泣いている姿に気づき、驚いたように目を見開いていた。

「泣いているのか？」

常闇の静かな声が耳に届くが、れいはすぐに顔を伏せてしまった。今の自分の姿を、常闇に見られたくなかった。

「どうしたんだ？こんなに泣くなんて……。」

常闇はハッと気づいたように、口を開けた。
「……失恋、したのか？」

れいは何かを言おうとして涙を拭うが、どうしても涙が止まらない。

れいが泣いている理由は、爆豪ではなく常闇への気持ちに気づいたからだ。
しかし、今はそれを訂正する声が出なかった。

常闇は、少し声を落として優しく言葉を紡いだ。
「爆豪がどんな答えを出したのかは分からないが……泣かないでくれ。」

れいはその言葉を聞いて、胸が締め付けられるような痛みを感じた。
常闇はただ自分を励まそうとしている――それが分かるだけに、れいは余計に涙が止まらなかった。

「常闇くん……私は……。」

れいは言葉を詰まらせた。常闇への想いを伝える勇気はまだ出せない。
常闇が友達として自分を支えてくれているという事実が、余計に彼女を苦しめていた。

しかし、その瞬間常闇はれいに向き直り、真剣な瞳で彼女を見つめた。
そして深く息を吸い込むと、静かに言葉を口にした。

「赤沢……俺は、お前のことが好きだ。」

れいは驚いて顔を上げた。常闇の瞳の奥には真剣な炎が宿っている。

「俺はずっと、赤沢が幸せになれるように応援するつもりだった。でも、それでも俺の気持ちは変わらなかった。」

常闇の言葉に、れいは言葉を失った。常闇が自分に対してそんな感情を抱いていたなんて、思いもしなかった。ずっと彼は、自分を友達としてしか見ていないと思っていたから。

「俺は、赤沢が爆豪からどんな答えを受け取ったとしても、俺の気持ちを隠し続けるつもりだった。だが、今こうして赤沢……、れいが泣いているのを見ると……俺はもう、黙っていられない。」

れいは涙でボロボロの顔で、常闇を見つめ返す。

「常闇くん……。」
れいは常闇の名前を呼びながら、心の中に広がる感情を整理しようとしていた。
ずっと自分は常闇に友達としてしか見られていないと思い込んでいたが、今、常闇の真剣な想いが自分に向けられていることを知り、混乱で頭が破裂しそうだった。

「私は……爆豪くんのことじゃなくて、常闇くんのことを考えて泣いてたの。」

れいは、涙を拭いながら、ようやく真実を打ち明けた。
常闇の目が驚きに見開かれる。

「……俺のことで？」

れいは頷き、震える声で続けた。
「おかしいかもしれないけど……、爆豪くんの話をしているうちに、常闇くんのことが好きになっちゃったの。でも、常闇くんが私のことを友達だと思ってるって気づいて、それが辛くて……。」

常闇は戸惑いながらもれいの言葉を聞いて静かに息をつき、そっとれいの手を握った。

「俺は赤沢のことを、ずっと特別に思っていた。」

常闇の大きく温かい手を握り返しながら、この優しさにいつも助けられていた、と、れいはこの数週間のことを思い返す。

「常闇くんの優しさに、いつも助けられてた。気づくのが遅くなっちゃった。私、常闇くんのことが好き。もっと一緒にいたいし、もっと常闇くんのこと知りたい。」

「俺も同じだ。……お前のそばにいたい。」

常闇の手がふわっと離され、代わりにれいの肩を優しく包む。
近くなった距離に、顔を赤らめドギマギするれい。

「近い……。」
「？」
「近くで見る常闇くん、かっこよすぎて。」
「フッ。前はそんな素振りを見せてはくれなかったのに、飛んだ大躍進だな。」

常闇の低く落ち着いた声が、れいの耳に心地よく響く。彼が冗談のように言った言葉でも、どこか優しさが込められているように感じた。それは、今まで見てきた冷静な常闇とは違う一面だった。

れいは、ドキドキと高鳴る胸を抑えきれずにうつむいた。
「だって、……好きな人だから。」

その言葉に、常闇の口元には微かな笑みが浮かんだ。

「俺は、お前を大切にしたいと思っている。だから、もしお前が俺を選んでくれるなら……その気持ちに応えるつもりだ。」

れいは胸が温かくなるのを感じた。常闇がれいに対して抱いている感情が、こんなにも真っ直ぐで、そして優しいものだったことを改めて知ると、れいの中で常闇への想いがますます強くなっていくのを感じた。

「もちろん、お願いします。」

れいは照れくさそうに、小さく微笑んだ。
れいが爆豪に向けていた瞳が、今では確かに自分を見つめている――常闇はその事実をしっかりと噛みしめ、目を瞑ってれいの手の甲にキスをした。

「わ、わ。王子様みたいだね？」
「嫌か？」
「嫌なわけ、ない、です。」

キザに振る舞う常闇に顔を真っ赤にさせながらも、れいはできたばかりの恋人を、その瞳でまっすぐに見つめなおした。

お互いがお互いのことを見つめている奇跡を、今そこに感じながら、二人の影は地面に伸びていった。