放課後、れいは痛む足を引きずりながら、教室を後にしようとしていた。
訓練で爆豪の強烈な攻撃が偶然にも彼女に当たってしまい、軽い捻挫を負ってしまったのだ。保健室で治癒してもらうほどの怪我ではないと思い先生に報告もしなかったが、放課後になって痛んできてしまった。
痛みを我慢しながらも、他のクラスメイトに迷惑をかけたくないという思いで、れいは何とか一人で寮まで帰ろうとしていた。

「大丈夫、これくらい……。」

れいは自分にそう言い聞かせながら歩き出そうとしたが、一歩進むごとに痛みが足に響く。訓練での疲れも相まって、体は限界に近づいていた。

その時、後ろから鋭い声が響いた。
「おい、お前、どこに行くつもりだ？」

振り向くと、爆豪が眉をひそめながら立っていた。思いがけない相手に話しかけられ、思考が停止するれい。

「お前が怪我してんの、俺のせいだろ。」
「……。」
「黙ってんじゃねぇよ。」
「大丈夫、これくらい平気だから……。寮に帰るだけだし。」

れいは少し困ったように微笑み、痛みを隠そうとしたが、爆豪はその態度にすぐに反応した。
「バカか。悪化させたらどうすんだよ。」

そう言うと、爆豪はれいの近くに歩み寄り、何も言わずに腕を取った。そして、強引にれいの肩に自分の腕を回し、彼女の体重を支えるように肩を貸した。

「えっ！？ちょ、爆豪く、」
れいは驚いて爆豪の顔を見上げた。
「文句言うんじゃねぇ。さっさと帰るぞ」
爆豪はそう言い放ち、れいの体をしっかりと支えながら歩き始めた。
「ま、まって……！」
れいはそのまま爆豪に引っ張られる形で歩き始めたが、足にかかる負担が軽くなっていることに気づいた。
爆豪は無言でれいを支えながら、しっかりと歩幅を合わせてくれていた。

あの爆豪がこんなに近くにいて、自分を支えてくれているという、信じられないシチュエーションに心が追い付かないれい。

「ありがとう、爆豪くん。でも、本当に平気なのに……。」
爆豪は少し苛立った様子で言葉を遮った。
「平気じゃねぇだろ。俺の攻撃は最っ強なんだよ！まともに食らって捻挫で済んでるお前がこえーわ。……とにかく、俺のせいでお前が怪我したのは事実だ。だから、俺が責任取る。それだけだ。」
「で、でも、爆豪くんがわざとやったわけじゃないし……。」
「うるせぇ。」
爆豪の顔には、どこか悔しそうな表情が浮かんでいた。

れいは少し戸惑いながらも、寮までの道のりを爆豪に助けられながら歩いた。爆豪の汗の匂いが鼻腔をかすめる。
二人の間に微妙な空気が流れていた。
れいはこのまま黙っているのも気まずいと思い、以前常闇にアドバイスされたことを思い出した。

―こんなに距離が近い今なら、話せるかもしれない。

「爆豪くんは……恋愛とか、興味あるの？」
れいは勇気を振り絞り、声をかけた。

一瞬、爆豪は足を止めた。そして、れいの顔を見つめた後、再び歩き出した。
「は……？なんでそんなこと聞くんだよ。」

れいは焦りながら答えた。
「あ、いや……なんとなく。爆豪くんって強いし、みんなに憧れられてるし、誰かに好かれてるんじゃないかなって思って……。」

爆豪はため息をつき、少し目をそらしながら言った。
「くだらねぇ。どうっでもいい。そんなこと考える暇があったら、俺はもっと強くなるために時間を使う。」

爆豪らしい答えだ、とれいが思ったその時、今度は爆豪が口を開いた。

「お前はどうなんだ？」

思ってもいない質問に驚き、言葉が出ない れい。

「……おい、人に聞いておいて自分は答えないのかよ。」
「そ、そういうわけじゃ……。」
「好きなやつでもいんのか？」

その言葉を聞いて、れいは時間がストップしたみたいに真顔になってしまった。
爆豪はれいの表情を見て何かを察したように、
「そんな暇があんなら、俺みたいにもっと強くなることでも考えろ。」と嫌味を言って会話を終了させた。

寮につくまでは二人とも無言で、特にれいは、お化けでも見たように呆然としていた。

やがて寮の入り口に到着すると、爆豪はれいの肩をそっと下ろし、腕を離した。

「あ、ありがとう。爆豪くん。」
「うるせぇ。」
爆豪はすぐに背を向けて去っていった。

その背中を見つめながられいは、唖然としてその場に立ちすくんでいた。

驚いていたのだ。

憧れの爆豪に肩を貸してもらったことでも、恋愛の話ができたことでもない。

「好きなやつでもいんのか？」
その質問をされたとき、れいの頭には何故か、常闇の顔が浮かんでいたことに。