教室の窓から夕焼けが淡く差し込む放課後のひととき。
赤沢 れいは席に座り、クラスメイトである爆豪勝己をチラチラと見つめていた。
爆豪は教室の端で仲間たちと言葉を交わしているが、その瞳には強い意志が宿っているようだ。れいはその姿にいつも心を奪われてしまう。

爆豪のたくましい背中や、真剣に放つ言葉、そして不屈の精神。それらすべてが、れいにとっては憧れであり、心を満たす存在だった。
しかし爆豪がれいを振り返ることはなく、その視線はいつも遠くに向けられていた。

―あなたは、こちらを見ようともしないけれど。

れいは自分の胸に湧き上がる感情を持て余しながら、ただ爆豪の姿を見つめ続ける。その目には、決して本人には届かない、切ない思いが浮かんでいた。

少し離れた席に座る常闇踏陰は、そんなれいの横顔を見つめていた。
常闇は、れいが爆豪を見つめるその視線を知っていたし、彼女が抱いている感情も感じ取っていた。
れいが爆豪に恋をしていることに気づいていても、それでも彼女の横顔に惹かれずにはいられなかった。

―お前は、爆豪を見つめ続けるんだな。

常闇の胸に湧き上がる感情は、言葉にはできないほど複雑だった。
れいが爆豪を見ているとき、 れいの表情は何かを求めるように切なく、そしてそれが届かないことを理解しているような儚さを帯びていた。

れいが爆豪に向けるその想いが、自分に向けられることがないことはわかっている。
だが常闇にとって、れいがどんなに他の誰かを想っていようとも、その純粋な姿は、美しく、胸を焦がされた。

れいの横顔に映る夕日の光が彼女の髪を優しく照らし、その影が瞳に深い陰影を与えている。常闇はその横顔から、目を離すことができなかった。
 
その時、ふと何かを感じたのか、れいは視線を常闇の方へ向けた。

「常闇くん……？」

常闇の瞳は、まるでれいの心の奥深くまで見通すかのように静かに輝いていた。それは不思議なほど落ち着いていて、どこか優しさすら感じられる眼差しだった。

れいは驚き、なぜ常闇が自分を見つめているのかを考えた。
常闇はいつも冷静で、感情をあまり表に出さない。それなのに、今はその鋭い瞳がまっすぐに自分を捉えて離さないことに、不思議な気持ちを抱いた。

れいはしばらく常闇を見つめ返していたが、やがて気まずさを感じ、目をそらした。しかし、頭の中には先ほどの常闇の視線が強く残っていた。

―常闇くん……今の視線は……。

常闇のことをあまり気にかけたことはなかった。
彼はクラスメイトであり、仲間であり、信頼できる存在である。
しかし、それ以上に彼を意識することはほとんどなかった。
れいにとって、常闇はいつも静かに周りを見守り、時折助けてくれる、頼れるクラスメイトに過ぎない。

だが、今の常闇の眼差しは、それだけではなかったように思う。
何か別の感情が込められているように思えた。

―もしかして……私が爆豪くんを好きなこと、常闇くんにバレてるのかな……。

いつも爆豪のことばかりを考えていたから、他の人のことに気づけていなかったのかもしれない、とれいは思った。片思いをしていることがバレているのなら、それはとても恥ずかしい。
れいは再び常闇の方にそっと視線を向けた。常闇はもうれいの方を見ていなかったが、その表情は少し柔らかくなっているように見えた。

気のせいか、と思ったのも束の間、再度常闇がこちらを向き、今度は少し驚いたように目を見開いた。

お互い、視線を離せなくなる。

常闇の視線はまるで、れいに何かを伝えようとしているように感じた。だが、それが何かを確信するには、まだ時間が必要だった。
れいは疑問を抱きつつも、同時に少しだけ心が温かくなるのを感じた。常闇が自分のことをこんなに真剣に見つめてくれていることが、なぜか心地よかったのだ。

常闇への興味が徐々に湧き上がる。仮に自分の恋心がバレているのだとしたら、思い切って恋の相談相手になってもらうのも良いかもしれない、と、小さな好奇心がれいの中で膨らんでいく。

れいは常闇を見つめながらゆっくりと、歩き出した。