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みじかいおはなし

ビリー・ザ・キッドが恋をしている。

 ――のだろう。俺にはそう見える。相手は、副マスターのお嬢さんだ。
 ビリーは、気を許していない相手に対してはそつのない明るい笑顔で壁を作るが、俺みたいな慣れた相手にはそっけなく比較的ぶっきらぼうに接する奴だ。猫をかぶっていると言ってもいい。
 けれど、どうも彼女の前ではそのどちらとも違う態度のように思える。うまく言えないけれど、自分には手に余る宝石を抱えているときのような、そわそわした感じ。手放してしまいたいと思いながら守らなければならないという矛盾。奴自身、自分の感情を持て余しているような気がする。
 なんでそう思うのかといえば、――いや、俺がストーカーというわけではなくて、よく一緒に組まされているからうすうす気づいているだけだ。

 眩しい西日に目をすがめる。場所はフランスの豊かな穀倉地帯、微小な特異点を滞りなく修正し、あとはカルデアへ帰還するレイシフトの準備が整うのをタバコをふかしながら待つだけの穏やかな時間だ。

「あっ、あった! 見つけたよ!」

 金色の穂の群れの中から声がする。背の低いビリーとお嬢さんは完全に麦の穂に埋もれるようにして、ビリーの髪の毛から二本飛び出た双葉のようなアホ毛だけがざわざわと揺れているのが見える。やがて麦の穂をかきわけて二人が出てきた。

「捜し物、見つかったんで?」
「うん、これ」 そう言ってお嬢さんが差し出してみせたのは、土にまみれた銀の弾丸。ワイバーンと戦ってて落っことしたと大騒ぎして、さっきから探していたがこれのことか。

「ビリー、アンタ銃弾なんていくらでも持ってるだろ、失くしたんならまたやりゃあいいんじゃないですか?」
「僕もそう言ったんだけど、お嬢さんが聞かなくってね」
「ううん、これは大事なものなので」
「大事なものならなおさら失くさないでくれませんかねぇ……」
「僕はどっちでもいいさ。さあ、帰ろうか」

 手をうやうやしく差し出して、自然に手を引く。「騎士様の真似事なんて柄じゃない」とかなんとか言っていた男とは思えないスマートさだ。こういう芝居がかったことを何のてらいもなくできるとこが、俺と違うところのような気もする。

「……そりゃ別にいいですけど。二人とも、麦の粒が服にいっぱい付いてますよ」
「あっはは、本当だ。ちくちくする」

 こうして笑っている見ると無邪気な子供にしか見えないのに、二人の繋がれた手に妙な邪推をしてしまうのは、アンニュイな陰影をつくる夕日のせいか、それともただ俺の思い込みのせいか。穂の向こう側で交わされたであろう会話に思いをはせてしまう。

 サーヴァントとマスター。アウトローと女の子。恋する少年少女。二人の関係を器にはめて言い表そうとするほどに、どれにも当てはまらない何か、無言の感情が溢れてしまうような気がする。そのどれもがグランドオーダーが終わるまでの、刹那の関係だ。
夕陽が沈む間ほどの刹那の触れ合いだからこそ、こんなに目を焼くほどに眩しいのだろう。

(……いや、それとも)

 それとも恋をしているのは俺の方なのか。俺の緑色の目のレンズが、実際は何もない二人の姿をゆがませて映しているだけなのかもしれない。
 二人を見ていると心が変なふうにざわつくのだ。

「ロビン、置いてくよ」
「おいてくよー」

 人の心も知らないで、二人が手を振る。逆光で表情は見えない。ぼやぼや考えていたら、もう帰還の時間だ。

麦畑の上には、もうすぐそこに星空が迫っていた。
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