◆◇◇◇◇:第六特異点・キャメロットにて
夢小説設定
なまえをいれてね名字は『フェローズ』で固定。
未亡人。自由すぎて嫁ぎ先を追い出されてカルデアに来た。
混沌・善属性。
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ザザ、と音がする。
ひどいノイズにまじって、声らしきものが聞こえる。しばらくしてやっとオペレーターと通信がつながった。
『ごめん、歩いて向かってくれないかな! 正門はそこから歩いて――』
面倒だが、従うしかない。お嬢さんは狭苦しい箱の外に出られたことが嬉しいのか、それとも僕にドレスを着せてテンションが上がってるのかスキップせんばかりだ。
「じゃ、とりあえずあの城壁に向かって歩いていけばいいのね。がんばりましょう」
こんなに危機的な状況で死ぬかもしれないというのにその状況が楽しくて仕方ないみたいな顔してるお嬢さんは、ちょっと生前にはあまり見なかったタイプの女の子だ。僕から見ても、ちょっとヤバい。正マスターとは違う方向のヤバさだ。
――僕と同じように。
わざと明るく振る舞って、深く詮索されないよう相手と壁を作るタイプなのだろうか? 僕はまだこのお嬢さんを信用しきってはいないし、お互いのことを対して紹介もしないできたので彼女のことをよくは分かってもいない。
一応、「ご趣味は?」と聞いたのだが、「人をだますことかな!」と明るい答えが返ってきたので、こりゃもう僕と同じタイプだな、と思って深りを入れるのはあきらめることにした。
「そういえば、追い追い話はするって」
「ああ、そう。このドレスね。あなた、すごく似合うから元から女の子だったのかと思って、普通に忘れてた」
「バカなこと言うねえ、どこが女に見えるって?」
「素敵な女の子に見えますわよ、ほらそこに求婚者がいっぱい」
何者か確認するより先に銃を手に取っていた。殺気だ。オペレーターの「敵だ!」の声が届く頃には、銃弾が相手の眉間を貫いていた。
揃いの紋章を背負った騎士たちにお揃いの銃弾。鎧の下から派手に血を吹き出して、ドサドサと倒れていく。砂埃で視界が悪いが、すぐ近くに潜んでいたらしい。
「わあ、さすが百発百中のガンマン」
「あっはは! お褒めにあずかり、光栄でございます……っと、こういうの、平気なのかい? お嬢さん」
いくら排除すべき敵とはいえ鎧の下は生身の人間だ。まだ成人もしてないぐらいの女の子だから血なまぐさいことは苦手だろう、という意味で聞いたのだが、「平気。こう見えて、わりと慣れてるの。ドレスの下には秘密がいっぱい」と煙に巻くような答えが返ってくるだけだった。そりゃいい。びびって肝心の勝負のときに役に立たないんじゃあ、世界を救えないからね。
しかし、求婚者、ときたか。嫌な予感はしてたんだけどそういう効果か。
「――もしかして、このドレスってさ……女の子に見える効果とかある?」
「あたり。相手サーヴァントを考えるとそれがいいと思ったので」
サーヴァントとは生前の英雄そのものではなく、死後に広まった風説やひろく信じられた伝説を『参考程度』に、魔力を人の形に流し込んで成形した使い魔のことだ。
たとえばロビン、彼の身体はロビンフッドのひとりだが、その能力は、たくさんいたロビンフッドと名乗る義賊たち、伝説の寄せ集めである。たとえばフローレンス・ナイチンゲール女史。彼女も僕と同じ近代の英霊で、生きているころは戦闘経験はひとつもない貴族階級の令嬢だったが、傷病者を救おうとするその狂気的なまでの鋼の意思がそのままサーヴァントとしての強さにあらわれていて、パンチがめちゃくちゃ強い。
逆に言えば伝説に伝えられていないことについては、生前のことであろうとサーヴァント本人もよくわかってはいないから、大切だったはずの人の顔さえ思い出せないのは、つまりそういうことだ。英霊の記憶は蓄積された物語の記憶、サーヴァントの強さはくりかえし語られた物語の強さ。つまりは。
「ガウェインを倒す手がかりも、伝説にある?」それでこのドレス?
「そういうこと」
お嬢さんが説明するには、『ガウェインとラグネルの結婚』という物語がある。アーサー王にかけられた呪いを解くため謎かけの答えを求めた代償として、ガウェインは醜い女ラグネルと結婚することになってしまう。
彼女は一日の半分を老婆の姿ですごさなければならない呪いにかかっており、「昼に美しい姿でいるのと、夜に美しい姿でいるのをどちらか選べるとしたらどちらがよいか?」という問いを夫に与えた。それに対して、「あなたの好きにしていい」と答えるなど、当時の社会では考えられないほど女性に対して優しかったという。
生前の彼が実際にどうだったかはともかくとして、女性には優しいはずだ、そうあってほしい、という幻想がサーヴァントのガウェインをそのように形成する、という理屈だ。
「なるほど、騎士だから女の子には優しいだろうって?」
「はい。目くらましの魔術礼装です。ただし」
「ただし?」
「回数制限があって。今ので効果切れ」
「アホでは?」
「オペレーターさんがもーちょっとガウェインさんの近くまで転送してくれてたら問題なかったんだけどなー! という気持ちです」
僕たちの会話は聞こえているはずだが返答はない。オペレーター、都合が良いときにだけ黙るんじゃあないぜ。思わずポーカーフェイスの笑顔が崩れそうになってしまった。
「わたし、前にオルガマリーちゃんに言われたわ。『スチャラカあんぽんたん』とか『人生テキトーでお気楽そうね』とか『アンタがマスターになるほどカルデアが人材不足なら、この世の終わり』ですって」
「ああ、生きていた頃の所長に?」会ったことのないカルデア所長、オルガマリー・アニムスフィアといったか、話を聞く限りおそらくは神経質で完璧主義だったのだろう。このスチャラカあんぽんたんとはさっぱり気が合わなかったということがよくわかる。ていうか、一職員のくせにめちゃくちゃなれなれしいな。
「生きていた頃のオルガマリーちゃんに。そうね、直接殺されてたところは見てないから、まだ信じらんないけど」
四十八人のマスター爆殺事件(まだ死んでないけど)の際、所長も殺された。それはもう念入りに、電力を支える炉心の中に投げ込まれて、魂まで燃やされたという。所長のことを語るとき、少しだけお嬢さんの顔が曇ったが、すぐに影を振り払うように明るい笑顔に戻った。
「いいの。人理修復を終えたら、また会えるかもしれないし。行きましょう、アーチャー。プランB、宝具で吹っ飛ばす奇襲作戦で」
「今決めただろ」
「今決めました」
こんなドレス着てて奇襲も何もないと思うんだけど、要は「敵の宝具で燃やされる前に、僕の早撃ちで吹っ飛ばす。以上」というだけのことだった。撃つしか能の無い僕でもできる簡単な仕事だ。相手の防御力を考えなければ、の話だが。
城壁に沿って歩いていくとやがて目標の正門が見えてきた。砂嵐は不自然に城門のすぐそばだけおさまっている。
空はバカみたいに青く晴れ渡っていて、ゆらめく陽炎の向こうに、ひどく端正だが、見ているだけで震えが来るような真っ黒な太陽の騎士の姿をみとめる。相手は絶好のコンディションに違いない。
「ヤバいねぇ」
「ほんとにね」
いや、バカみたいなのは僕か。バカ正直にドレスを着て、こんな作戦上手くいくんだろうか。雇い主の意向には、従うほかないんだけど。
……アーサー王にかけられた呪いを解く謎かけは、『世の中の女が一番望むことは何か』。
伝説の中に語られるその答えは、『自由にさせてもらうこと』だった。ガウェインがその問いに正しい答えを出したので、アーサー王の呪いも妻の呪いも解け、妻は美しい姿に戻ったという。
「自由にさせてもらうこと、って言い方がいかにも中世って感じはするけどね。やっぱり今も昔も、女って自由じゃないと思うものなのかしら」
「きみはそりゃもう自由に見えるさ。難しいことは何にも考えずに楽しそうだ」
「あら、そう見えるなら嬉しいわ。私は私だもの」
お嬢さんはそう言う。母さんはどう言ってたっけ、思い出せやしない。
……敵を僕の射程範囲内にとらえた。アウトローの戦い方は秩序の王国の秩序を守る騎士とは、やはり相容れない。相手を見据えて、見えない死角から卑怯にも銃弾を放つ。
「――さあ、早撃ち勝負だ――」