◆◇◇◇◇:第六特異点・キャメロットにて
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なまえをいれてね名字は『フェローズ』で固定。
未亡人。自由すぎて嫁ぎ先を追い出されてカルデアに来た。
混沌・善属性。
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寒い寒い冬のこと、母さんが洗濯仕事をしているのを、申し訳ない気持ちでいっぱいになりながら見ていた。幼い僕が鍋をひっくり返したんだったか、それとも寝小便でもしたんだったか、理由は忘れたけど僕の汚したシーツを母さんが「しかたないわね」と、井戸の水を汲んできて、冷たい水に手をひたして綺麗にしてくれたときがあった。
手伝わなくていいの、と聞いたら、いいのよウィリアム、と微笑んで、触らせてはくれなかった。白い布が水の中で踊るたびに、母さんの白い手は凍えるほどの冷たさに色を失っていく。洗い終えるころには、青を通り越して紫色に変色して、がちがちに震えてうまく動かなくなっていたので、幼い少年は自分の胸にぎゅっと抱え込むようにして、母の手を温めた。
母さん。顔も声も思い出せないのに、なぜかそのことは覚えている。本当にそんなことがあったかどうかはともかくとして、母さんはいつも優しかった。こうして僕の記憶に刻まれているぐらいには、大切な思い出だったのだろう。大切な母さんだったはずだ。それなのに――
そこで映像は途切れる。サーヴァントは夢を見ないはずなのに、魂がデータに分解されて転送される課程では、ときどき変な光景を見る。うたかたの、あたたかいような、苦しいような。
それから急激に吸い込まれて落ちていくような感覚。レイシフト成功のアナウンスが響く。
――仕事だ、ビリー・ザ・キッド。
目を覚ませば、乾ききった荒野が広がっていた。僕が生きた一九世紀のフォートサムナーではなく、本当は存在しない世界の、存在してはならない荒野だ。砂埃の向こうにかすんで見える城壁は、ここからでも純白に輝いているのがわかる。
十三世紀の中東、位置的には聖地エルサレム――しかし天にそびえる城塞都市の名はキャメロット。あらゆる願いを叶える聖杯を手にした誰かさんが好き勝手に作り替えた、あってはならない歴史。
僕が生まれるずっと前の時代の、よく分からない勢力を聖杯の中にいっしょにブチ込んで、不理解と悔恨でとったダシでじっくりコトコト煮しめました、みたいな状況の特異点だ。僕はお嬢さんに連れられ、カルデア管制室からの要請を受けてここまで来ていた。
「――で、僕がドレスを着せられていることについての説明は、お嬢さん?」
フリルがひらひらと翻る、西部劇に出てくる令嬢がよく着ているような、クリノリン式のドレスをなぜか僕は着せられていた。お嬢さんも同じような出で立ちをしている。
差し出されたドレスを一度は拒否した覚えがあるのだが、「作戦に必要なのでおそろっちです」と引く気配もなかったのでしぶしぶ袖を通した。裾まで伸びた分厚いスカートがひんやりと冷たい。母さんが着ていたのはもっとみすぼらしい感じだった、ような気はするが、あまりに遠い思い出にすぎる。
見た目に反してそこまで重くはないので動きにひどい支障はなさそうだが、裾の長い服を着た経験は生前にも召喚されてからもついぞ無いので戸惑ってしまう。鏡を差し出されて見れば、なるほど確かに女性に見えなくもない。じとっとした僕の顔が映っている。自分が小柄なのは知っているが、それにしたって。
お嬢さんは僕の不審がる顔をさらりと流し、「それはおいおい話すので、先に敵さんについての話をしましょう」と話を進める。
「おいおい」
「追い追いね。藤丸くんチームの正面突破が難航してます、ので、わたしたちは相手の不意をつく作戦でいきます」
「……まあそれが妥当だろうね。オペレーターはなんて?」
「さっきからつながらないんだよねえ」大丈夫なのか、この組織は。
作戦開始前のブリーフィングのおさらいだが――
先にこの地へ赴いた正マスターたちは、城門を守る『太陽の騎士』を突破するのに手こずっているらしい。太陽の騎士――真名はガウェイン。アーサー王伝説に語られる円卓の騎士の中でも一騎当千の強者であり、中心的な存在だ。日中は力が三倍になるうえ、この特異点の聖杯から戴く『不夜』の力があるうちは、そもそも日が沈まないという反則じみた力。
対してカルデアのマスターは藤丸立香ただ一人きり、人理修復プロジェクトのためあらかじめ用意したほかのマスター候補は四十八人もいたらしいが、内部の裏切りで爆発に巻き込まれて瀕死のコールドスリープ状態。大丈夫なのかこの組織は。(いまカルデアと呼ばれているものの内実はたったの二十数人で回しており、すなわち人類の生き残りが、その二十数人だけなのだ。わーお、責任重大!)
正マスターだけの力では鉄壁と猛攻を併せ持つガウェインに対抗するには、どうしても戦力が足りなかった。ということで、元は日陰職の職員(水回り関係)だったお嬢さんとマスター契約を交わし、急遽レイシフトで向かうこととなった。カルデアにたむろしてた無為徒食のサーヴァントたちの中でいちばん相性の良かったのが僕だったらしい。今回の相手となのか、お嬢さんとなのかは聞き忘れた。
「太陽の騎士の相手をするなら、日陰の女と日陰者のアウトローってことかい?」とドクター・ロマンに冗談を飛ばしたら、黙って首を振られた。
「彼女の魔術が水属性だから、炎を扱う相手には有効なはずだよ」
「あぁ、そういう」関係なかった。つまんないギャグは忘れよう。
どうあれ、こちらの勢力が弱かろうと、相手が誰であろうと、サーヴァントは雇い主の意向に従って戦うだけだ。確認事項、おわり。