◆◆◆◆◆:北米大陸にて
夢小説設定
なまえをいれてね名字は『フェローズ』で固定。
未亡人。自由すぎて嫁ぎ先を追い出されてカルデアに来た。
混沌・善属性。
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……とまあ、そんなことがあったから。
人の歴史と未来を守ることを目的とした組織の人間と、それに手を貸した英霊、それだけのビジネスライクな関係だとは、どうにも思えなかった。しかしお互い恋をして愛し合っているかと言えば、どうもそういうのではないのだと言う。ワケがわからねえ。
言い渋るビリーに重ねて問えば、紫煙を吐き出しながら、口元だけで笑って言った。
「ロビンフッド。僕はね、クソヤロウになりたくないんだよ」
「何の話をしてるか知らねえが、オタクは十分クソヤロウですよ」任務の合間に女を抱くような。
「はは、違いない」
少年は帽子を深くかぶり、それきり口をつぐんだ。その瞬間――
『注意してくれ、大きめの魔力反応だ! すごい速さでこちらへ向かってる!』
通信が響くや否や、俺たちの頭上を赤く光る矢が通り過ぎ、まっすぐ建物に突き刺さる。物凄い威力で爆発し、とたんに火が燃え広がった。
『ヤバい、この場所にこびりついたサーヴァント、アルジュナの残留霊基だ……! 本物ほどじゃないが、それでもかなりの魔力反応だ、気をつけてくれ!』
「オイオイ、勘弁してくださいよ……」
「っていうか、あの建物……お嬢さんのいる宿屋じゃない?」
「マジか」マジだ。
「……待って、何か来る!」
と、上空から何かが落下してくる。人だ。いや、人ではない。両腕に何人も人間を抱えた天使サマのお迎えだ。空中で何度かグルングルン回転しながら体勢を立て直し、轟音をたてて両足で着地した。
ナイチンゲール女史はその双腕にお嬢さんと宿屋にいた数人を抱えて、炎の迫る宿屋から跳躍したらしい。なんちゅう力持ちの天使だ。
「おはよ~……ビリー、ロビン」今のでようやく目を覚ましたお嬢さんはのんきに伸びをし、肝を潰したほかの人間は目を回している。
「私は傷病者の救助に向かいます、では」
炎の中へ果敢に向かっていこうとするナイチンゲール女史を、お嬢さんが「待って、火を消すから」と引き留める。眠そうな顔から一転、すうっと息を吸い、キリッとした顔になったかと思えば、呪文を口に――
「『水回り関係のことならトイレの詰まりから井戸掘り、消火活動のことまでなんでもご相談ください! 電話一本、ブルーウェルにおまかせ』!」
……。
「……まさかそれが詠唱じゃないですよねぇ!? ダサすぎません!?」
「ロビン……知らなかったのかい? 僕は何度か聞いたよ」
魔術師の呪文って、もうちょっとこう……あるだろう!
「見ろ、炎が消えてく!」
「助かった……! 今のうちに逃げるぞ!」
納得できないものはあったが、言葉は飲み込んだ。アホな上にダサすぎる呪文だがきちんと作用して水の塊が次々に空中に浮上し、町や道路をベチャベチャにしながらも火の手はおさまった。消し方、雑!
すかさずナイチンゲール女史が突っ込んでいき、火傷を負った人々に治療を施していく。ここは任せて安心だろう。
「ロビンとビリーは矢の来た方へ向かってくれ!」
「――ああ、ちょっと待って」
振り向きざまに、顔色を変えもせず引き金を引く。二発の銃声。向こうで崩れ落ちる二人の男が見えた。
『ビリー、何を……!? 』
「これでいい、行こう。お嬢さん、防御お願い」
「おっけー!」
「おい、待てよ……!」
ビリーの突拍子のない行動には慣れているが、今回は本当にわからない。理由を聞けば、「ああ、クソヤロウがいたからね」とだけ答えて笑いもしなかった。お嬢さんは、「そういうの、許せなさそうだし」と笑った。「生きててもロクなことしない、ああいうのは」
今度ばかりはオペレーターも仕事をし、インドの大英雄、アーチャー・アルジュナの姿をかたどった影のようなものがたたずんでいるのがすぐ見つかった。
「さて。さっさと片付けて、帰るとしますか」
弓兵は懐に入られると不利なのは自分の経験から知っている。それは意思持たぬシャドウサーヴァントの向こうも理解するだけの頭はあるのか、近づかれるのを阻止するように間髪入れず弓を撃ちまくってくる。あたりはあっという間に炎上し、お嬢さんが端から消して回るがそれも追いつかないほど攻勢が激しい。
向こうの弓は威力だけなら完全に俺の上位互換で、普通に打ち合いしてたらこっちが先に消耗する。俺はフードをかぶって姿を消し一度視界から外れ、一足飛びに背後を取る。さっきと同じように、後ろから矢で援護し動きを止めた。
「お嬢さん、魔力供給!」
背中合わせになった二人がその呼びかけに合わせ、お互いの方を向き合い、ビリーがお嬢さんの顎をひきよせ――一瞬だけ、唇を合わせるのが見えた。まるで映画のワンシーンみたいな――できすぎた光景。
魔力を潤沢に受け取ったビリーが、銃を構える。
「――これで十分! 吹っ飛ばすよ!」
『壊音の霹靂』――銃が赤く光り、炎の矢を切り裂いて、お嬢さんの魔力も上乗せした必殺の三連撃がたたき込まれる。霊核を破壊されたシャドウサーヴァントが派手に爆発四散し、煙がおさまったあとにはチリすらも残っていなかった。
「おいこらビリー、俺まで吹き飛ばす気かよ!?」
「あはは、ごめんごめん!」
なんだこの威力。俺の方が先にカルデアに召喚されて、コイツに部屋の案内をしたのも覚えている。それなのに、いつのまに俺のレベルを追い越してそんなに強くなったんだ。胸を焦がすのは、純粋に嫉妬というよりはただの意地だ。
そして、なんでそんなにカッコイイのに、お嬢さんに対しては変なところで臆病なんだ、という疑問も浮かぶ。
『おつかれさま、みんな。その土地の魔力反応は全部消失した。カルデアへ帰還する準備をするから、ちょっと待ってて。ナイチンゲールさんの人命救助に加わってくれ』
ビリーは地面に落ちた帽子を拾い上げ、埃を払い、それからお嬢さんに頭を下げた。
「……ごめん、お嬢さん。えーと、というか、申し訳ない、ご夫人。勝手に貴女の唇を奪ってしまい」
「へ?」
『ご夫人』だって?
「あれ、知らなかったっけ? わたし、既婚で子持ちなのです、いまは世界が滅びてだんなさんも死んでるので未亡人だけど」だからいっつも黒いドレスなのか。
――じゃなくて、そういうことって最初に言うもんじゃないですかねぇ!?
「聞かれなかったので」と無邪気に笑う顔はやっぱりどう見てもガキにしか見えない。この二人、見た目詐欺である。
「……わかったろ? クソヤロウになりたくないって。まあ、なんていうか、子供がいる相手にそういうのはね」
俺にだけわかるようにそうささやいて、町へ颯爽と向かっていった。
町に戻りナイチンゲール女史と合流すると、「助けてくださって、ありがとうございます」と子供を連れた母親がビリーに頭を下げた。火事場騒ぎのドサクサで母子を犯そうとした男たちを見とがめて、思わずカッとなって撃ち殺したらしい。ついでに言うと、酒場のレベッカの旦那を殺したのもこの男たちだったと判明した。
「そういうところ、あるよね。ズルいよねぇ」
「ズルいよなあ、まったく」
ビリー・ザ・キッド。やっぱりこいつには勝てねえな。と、悔しくなるほどすがすがしい気持ちで、空を見上げた。