◆◆◆◆◆:北米大陸にて
夢小説設定
なまえをいれてね名字は『フェローズ』で固定。
未亡人。自由すぎて嫁ぎ先を追い出されてカルデアに来た。
混沌・善属性。
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距離、およそ二百メートル。周囲は木造立ての民家や商店が立ち並んでいる。あんなものが暴れたら半刻もしないうちにこの町は更地になってしまうだろう。家を飛び出して一目散に逃げる人々の怒号と叫び声が聞こえる。早くなんとかしなければ。
人家の密集する地域にいきなり現れるとは不可解だが、やるべきは原因の特定より先にエネミーの殲滅だ。時代の歪みを正すための任務だというのに、人家に被害が出ては元も子もない。
「ロビン、関節を」
「わかってるよ、そらっ!」
弓に魔力をつがえて矢を成し、スプリガンの右腕の付け根めがけて放出する。――命中。矢の突き刺さったところから蔓が生い茂り、動きを封じるのが確認できた。振り下ろされようとしていた腕がすんでのところで止まる。もちろん物理的なパワーで言えば圧倒的に向こうが上回るため、一時しのぎにすぎない。めりめりと音をたてて今にも引きちぎろうとしている。
「やっべ、こっち見た」
「僕が行く。ロビンは順次、射撃で援護。的が遠いけど、できるよね?」
「できるよね? ――じゃねえよ、俺を誰だと思ってるんですか」
「もちろん、シャーウッドの森の義賊――弓の名手ロビンフッド!」
高らかに笑いながら、夜闇に赤いマフラーをひるがえしながら躍り出るビリー。
ロビンフッド。ああ、それが俺の名前だ。
俺も見晴らしの良い屋根に登って射撃をしつつ、状況を把握しようとあたりに目をやる。今のところ、エネミーはこいつしか確認できないが、いつ新しいやつが沸いて出るとも限らない。
(さてと、どうするかな)
俺たちサーヴァントはこうして単独行動はできても、マスターおよびカルデアから供給される魔力を行使するには上限がある。単独で魔力を使いすぎると、霊基を保てず戦闘が行えなくなってしまう。誰かさんが言うには、「口座に余裕があっても小銭入れの大きさには限度がある」。一気に魔力をぶつけるには、預金口座、もといマスターとの連携が不可欠だ。つまりこのままではジリ貧まったなし、というわけで。
「オペレーター! 敵が出た、お嬢さんをたたき起こしてくれ!」
――要請を送ったが応答はなかった。まったく使えねえ。正マスターの方にかかりきりなのかもしれないし、疲れ果てて寝ているのかもしれない。どちらにせよ頼るだけ無駄か。
敵の全体像は把握できないが、各個撃破していくよりほかにしかたがない。こちらからお嬢さんを呼びに行っていてはその間に町が踏みつぶされてしまうだろう。
ビリーが一度、振り払われて地面に叩きつけられるのが見えた。タイミングを合わせなければ。
「……今だ!」もう一度。俺が動きを封じた隙を狙い、ビリーがスプリガンの足、腕、肩、とジャンプして駆け上がり、頭のてっぺんを取る。スプリガンの動力である魔力を帯びた精霊根をむしり取ると、動きは止まってただのデク人形に戻った。
「チクショウ、いいとこ持って行きやがって」
「良い狙いだったよ、さすがロビン」
動力を失い崩れ落ちた石像をあとにし、もといた宿屋へ向かう道すがら、先ほど立ち消えになった話を蒸し返す。
「……で、なんだって酒場なんかで女漁りするんです? アンタ、相手にゃ困っちゃいないでしょうに」
お嬢さんがビリーに好意を持っているのは態度からも明らかだ。どういう種類の好き、かははかりねるが、肌を晒しても構わないぐらいには気を許していることからまあそういうつもりがあってもおかしくはない。
「あー……お嬢さんとは、そういうんじゃなくってさ……」
「じゃあ、どういうんだよ。見ててもどかしいんですよ」
「マスターとサーヴァント、それだけだろ」
「それだけの関係に見えねえから聞いてんだよ。オタク、ごまかすのが上手いんだか下手なんだか」
――ビリーとお嬢さんが初めて組んでへレイシフトを行った際、出発前は大して面識もなく、お互い笑顔ではあってもどこか腹の底を探り合うような油断ならない雰囲気があった。今回と同じレイシフトポイント異常みたいなトラブルもいろいろあったらしいが、そのへん詳しく見ていないのでよくわからない。どうあれ、二人は無事に標的を撤退させて帰還した。戦いのさなか敵の太刀を受けて怪我をしたらしいお嬢さんが医療班に担ぎ込まれたときに、治療室の外で待っているビリーと話す機会があった。
「……おう、どうしたそのドレスは。お嬢さんとおそろっちで?」
ビリーはなぜかフリルのたっぷりついたドレス姿をしていた。もともと華奢な体躯に細さを強調する衣装が深窓の姫君みたいではあるが、壁にもたれ、大股を開いてヤンキーみたいに座りこんで煙草をふかしていて中身は完全にいつものビリーだ。こんなお姫サマがいてたまるか。
「こんな格好で、いったいどんな強大な敵と戦ったんです?」
「ああ、つまんない相手だったよ――『太陽の騎士』ガウェインさ。きみも名前は知ってるかい?」
「げ。そりゃまたつまんねえ。アウトローとは真逆な騎士様じゃねえか」
「手強かったな、一発じゃ削りきれなかった。そのせいで」
ちょうど、お嬢さんが治療室から出てくるところだった。見た目に傷跡はないし顔色も良く、経過は良好そうだ。医療スタッフとナイチンゲール女史の技術の賜物だろう。
「あれ、どうしたの二人とも。お嬢さんの出待ち?」
「出待ちさ。きみ、傷は大丈夫だったかい?」
「へーき。腕吹っ飛ばされても回復するなんて、すごいわね。なんかまだへんな感じはするけど」
傷を受けた左腕をぐるぐると動かそうとするが、手首から先がうまく動かず、特に指先の方はガチガチに固まっていて痛々しい。
「……そもそもレイシフトとは魂をデータに分解して異なる時代に再現する技術で、レイシフト先で傷を受けたまま戻ってくると……つまり魂と肉体の再接続がうまくいかない場合……」
ドクター・ロマンの話が長いので半分ぐらいはわからない。要はしばらくしたら治るけど末梢部分はしばらく動かしづらいよ、ということだった。長期にわたり特異点に滞在するレイシフト運用は難しいかもしれない。
「あっ、これからオペレーションのシフトの交代があるんだ……! ごめん、予後を見たいからまた明日来てね、じゃ」言い残して、あわただしく走り去っていった。
「……ごめんね、痛かっただろ」
ふと、ビリーがお嬢さんの動かない左手を取る。そのまま自分の胸の方まで引き寄せ、両手であたためるみたいに抱きしめた。まるで『つまんねえ騎士様』の真似事でもするかのようで、とても似合わない。
「痛かったわ、次はちゃんと一撃で決めてくれないと困るからね」
「もちろん。次もきみが信じてくれるなら」
握る手に力が込もる。目には見えない思いが、手のひらにそっと重ねられる。
片方は男だとわかってはいても、ドレスを着た二人のその行為がひどく幻惑的に見えて、ここが冷たい廊下だということも忘れてここにだけ薔薇の花が咲いてるみたいな幻覚さえ見える。俺にはなぜだかそれが見ても触れてもいけないとても神聖な儀式に見えて、フードをかぶってそれとなく姿を消した。胸がどくどくと脈打ってざわついたが、いったい誰のせいなのかもよくわからなかった。