リヴァイは、一言も発することなくそのままエルヴィン団長の部屋に一直線。
流石に私は入るわけにはいかないから、聞き耳を立てることにした。団長室といっても、所詮は調査兵団の施設。憲兵団施設のような立派なところと比べたら、壁が薄い。
二人の会話は容易に聞こえてきた。


「ご苦労だった。……ところでリヴァイ、肩が痛いのか？」

「あ？」

「いや、今書類チェックしている時に回していただろう」


不機嫌なリヴァイをもろともしない団長はやはり凄いと思う。
でも、無視されてる私からしたら返事があるだけ羨ましいのだ。


「……最近、休んでないだろう？　ちゃんと寝ているのか？　ハンジも心配していたぞ。ずっと働いているとな」

「チッ……」


盛大な舌打ちは、あのクソメガネと言っているようだ。


「もう一段落ついたところだろう？　今日はもう休め」

「いや、問題ない」

「……お前の顔はそうは言ってないようだが？」


目の下にクマを作って、顔色もあまり宜しくないからバレバレなのだろう。


「あんなことがあったんだ……眠れないのはわかるが、それじゃあララが――」

「問題ないって言ってるだろ！」


私の名前が出た途端、リヴァイの怒鳴る声とバンッという机を叩くような音が響いた。
何だというのか。私は、名前を聞きたくないほど嫌われたのか。

死にかけたから？
でも普通は無視じゃなくて心配してくれるものじゃないの！？


「……リヴァイ。お前はもう人類全ての希望を託されている。皆、お前に期待している。きちんと眠り食べて、元気でいてくれないと困るんだが」

「他の奴のことなんざ知ったことかよ。俺は別に期待されるために巨人を削いでるわけじゃねぇ」


やっぱりおかしいと思った。
リヴァイが少し怒っているというか荒れているというか、普段の彼ではないと感じた。
睡眠不足が原因だろうか？
そもそもその原因は私が怪我をしたからか。いやきっとそうだ。

でもそれって私はどうしたらいいの？
どうしてほしいのだろう。


「……おい、エルヴィン。待て、何をする気だ」


思い悩んでいると、少々焦ったリヴァイの声が聞こえた。


「こうなったら無理にでも眠ってもらおうと思ってだな」

「止めろ。それをおろせ」


え、何してるの！？
殴ろうとしてる！？


「嫌なら……って、リヴァイ！？」

「エルヴィン。今回は、お前の言うことでも聞けねぇ」

「リヴァイ！！」


足音が近づいてくるのが分かった。思わず私はドアから身を離し、団長室の前からは死角になるところに入った。

瞬間、リヴァイが部屋から出て来て急ぎ足で去って行く。
エルヴィン団長の溜め息が、部屋から聴こえた気がした。