「え？」

「昔はうるさいくらい喋ってたじゃねぇか。今は何か……無口だな」

「……」


ジャンと目が合う。
だけど、それが恥ずかしくてすぐに目を逸らしてしまった。


「別に、変わってはないと思う」

「はぁ？　絶対変わったと思うぜ。俺の中のお前はそんな落ち着いたやつじゃなかった。兵士になるって言った時も、お前じゃ絶対無理と思ったくらいだ」

「そんなことも言ってたね。でも、ちゃんと兵士になりました」

「……やっぱ変わったな、お前」


自分では分からないが、ジャンがそういうならそうかもしれない。
まぁ、ちょっと久しぶりだしずっと好きだったからっていうのもあるかもだけど……。

もし変わったとすれば


「あれかな」

「……？」

「訓練兵卒業してからトロスト区が襲撃されたでしょ？　今でも、夢に見るの」


ジャンが息を呑むのを感じた。


「今朝も見たばかり。友達が死んで、仲間が死んで、誰の死体かも分からない肉片や血があって……私も巨人が目の前にいて、何度掴まれそうになったか。夢では、自分も巨人の餌になったり血まみれの友達が“何で貴女だけ生きてるの”って言いながら追いかけて来るし……」


ずっと心に引っ掛かっている。
同じように恐怖を感じたはずの仲間の中には、なぜかあえて最前線をいく調査兵団を選んだ人が多い。（皆じゃないけどさ）
ここにいるジャンだって、直前までは憲兵になるって言ってたのに。
私はジャンや、他の皆のように恐怖に耐えることが出来なかった。
一時はエレンの演説で調査兵団にしようかな、と思ってたこともあったけど結局駐屯兵団にしたのだ。

それが割と心に引っ掛かっている。
調査兵団に行ったところでそりゃ、死んでたかもしれない。
でも、何だか友達や仲間の死から目を背けて逃げて来たような気がしているのだ。


膝を抱えて俯く。このままこの降り続ける雪が私を埋めていってほしいとさえ思った。


「気にするな、とは言えねぇけどよ……ずっとあの出来事を引きずっててもどうしようもねぇぞ。死んでいった奴らは戻らねぇ。どうやったってな」


ジャンが励ましてくれる。
そうだ、この人は昔から――


「大切なのは今をどう生きるかってことだ。今、何をすべきか考えろ」


私が落ち込んだら、側にいて声をかけてくれる。
口は悪いけど、優しいのだ。ジャンのお母さんだっていっつも「うちの子は優しい」って自慢してたのを思い出した。

だから好きになってしまった。


「分かったか？」

「努力はする」

「……今はそれでいい」


ジャンは、ぽんっと頭を触ってくる。ちょっと泣きそうになった。