そこに刻まれていた文字は、現在リヴァイとアリアの子供として存在している娘の名前であった。
一緒に刻まれている年号は丁度、五年前になっている。


「どういう、こと……？」


一瞬頭が真っ白になったが、ハンジは状況を整理しようと深呼吸をした。そして今一度石の文字をよく見るべく、膝をついて石を触る。


「石はそこらへんに落ちている石と同じだ。明らかに盛った土の上に置いている。人の手が加わっている証拠だ。そして……」


石に刻まれた文字を指でなぞる。


「石に刻まれているのは、エルナという文字と五年前の年。そして、アリアが置いたであろう花輪。明らかに墓そのものだ。つまりこれが意味するのは……」


見てしまったものを隠し通すほど器用ではない。しかし誰かに話してはいけないとハンジの直感はいっていた。
特にリヴァイには駄目だと脳が強く警告している。


「これは……アリアに聞くしかない」




――……‥‥

その日の夜。
ハンジはアリアを呼び出した。


「ごめんね、エルナは大丈夫だった？」


入ってきたアリアにそう尋ねる。


「はい、リヴァイに預けて来ましたから」

「リヴァイにはなんて？」

「ハンジさんとお茶会するから見ててって言いましたけど、それで大丈夫でした？」

「あぁ、大丈夫だ。座って」


アリアを部屋のソファーに座らせ、用意してたお茶を出す。


「ありがとうございます。……それで、話ってなんですか？」


いつになく真剣なハンジを感じ取って、アリアから切り出した。


「……」

「ハンジさん？」

「……考えてもわからないから、単刀直入に聞く。君は何を隠してる？」

「え？」


何のことかわからないという反応を示したアリアに、ハンジはすぐに口にした。


「兵舎の外れ……誰も近づかないところに、何か隠してるよね？」

「っ！」


明らかにアリアの表情が強張ったのをハンジは見逃さなかった。


「今日、私は見たんだ。君がそこで祈っているのを」

「……つけたんですか？」

「それについてはすまないと思っている。けど、あれは目を瞑っておくにはあまりにも不可解だ。だけど安心して。あの場には私しかいなかったし、誰にもまだ話してないから」

「……」

「私の推測では、あれは墓だ。そしてそこに埋葬されているのは、丁度五年前に死んだ人物で……名前はエルナ。そう、君とリヴァイの娘の名前と同じ名前の人物だ」


目を合わせず、だんまりするアリアだたったがハンジは構わず続けた。


「考えたくはないけど、あそこに埋まっているのは……君が生んだ娘なのではないかと私は思った」


アリアがギュッと手を握りしめた。その様子を見たハンジはそれが真実であることに驚きを隠せなかった。
自分で言ったこととはいえ、当たってほしくないという気持ちがどこかにあったからだ。

心のどこかで、本当は死んでしまった恩師とかがいてその人があそこに埋まっていて、名前を取ったとかであってほしいと願っていた。
しかしそれだと、なぜあの場所にひっそりと埋めたのか等の不自然な部分が多すぎるのだけれど。


「その反応……まさか本当に……！？」


俯いたまま答えないアリア。ハンジは更に問いただす。