「それは……」


クレハさんは俯いて言葉を詰まらせた。
迷っているようにも見えた。


「言えないことなんですか？」


しばらく待ったが、答えてくれないようなのでそう聞いた。
ちょっと責めているようにも聞こえるかもしれない。そういう気持ちも半分はあった。
今まで散々俺を無言で見つめてきて困ったからだ。知る権利ぐらいあるんじゃないかと思った。


「言えないっていうか……」

「何なんですか、はっきりしてください！」


アルミンが、ちょっとって止めてきたがそんなこと関係ない。


「理由を知れないのは、すっごく気持ち悪いです。俺はこれからモヤモヤしながら過ごさなくちゃいけないんですか？」


そこまで言うと、クレハさんはうーんと唸ってから


「どうせ信じてくれないし」


とこちらをチラッと見た。

信じる信じないの問題なのか？
いや、そんなこと関係なかった。とにかく答えが知りたい。今の俺はそう強く思っていた。


「信じますって！　何かあるんですか。話して下さいよ」


するとクレハさんは、小さく溜め息を吐いた。


「じゃあ言うけど」


そして意を決したのか、さっきまで躊躇っていたのが嘘かのようにあっさりと告白した。


「……エレンの肩に女が乗ってる。ずっと」

「え」

「髪の長い人。目力が強そうな」


は？


「ちょ、ちょっと待って下さい！　何なんですか！？　女！？」


突然何を言い出すのか。
急に女が肩に乗っていると言われて、理解出来るわけがなかった。


「ほら、やっぱり信じない」

「いや、信じる信じない以前の問題ですよ！　女って、怖いこと言わないでくださいよ！」


するとアルミンが口を挟んでくる。


「落ち着いてエレン。あの……女ってその……幽霊ってことですか？」

「は？」

「まぁ、そうともいうかな」


幽霊だと？
だったらとんでもない話だ。
こんな非現実的な話を受け入れろというのか。
何でアルミンは冷静でいられるのか、信じられなかった。


「幽霊って……嘘ですよね？」

「信じるんじゃなかったの？」

「いや、どう信じろっていうんですか！　幽霊？　そんなもんが本当にいるわけないじゃないですか！　というか、アルミンは何でそんな普通に受け入れてんだよ！？」

「噂を聞いたことがあって――」


噂？
何なんだよ本当に。


「調査兵団に幽霊が視える人がいるって言う噂なんだけど……」

「はぁ？」

「えっと、ベルティーニさんがその噂の人だったりするのかなって。今思ったんですけど……」


するとクレハさんは俺達を見て、


「あまり人には言わないんだけど、そんな噂になってるんだね」


と否定しなかった。


「いやいや、だからってアルミン何で信じるんだよ。本当かどうか分からないだろ」

「ちょっとエレン、失礼だろ！」

「いいよ、普通はそういう反応だもん。でもはっきり言うんだね、エレンは」