三つ子妊娠中の妻誘拐事件
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二本立て!
三つ子騒動:爆豪勝己の妻である貴女は妊娠していた。一人目は、二人目はと人生計画があったのにある日の妊婦健診にてまさかの三つ子と判明!
色んな意味で不安になる貴女は、爆豪の両親に相談して――。
誘拐編:お腹が大きくなった頃、一人の知らない男に「ダイナマイトの嫁か?」と声をかけられ誘拐される。しかしその男は妙に優しくて何か事情がありそうだと思い――。
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いつも帰ったら、嬉しそうな顔をして迎え入れてくれて家の中が明るかった。愛しくて心地よい感覚を与えてくれるそんな存在。
あいつのいない家は、酷く殺風景で寒い気がした。
奈生が誘拐された次の日には、犯人の嫁と両親が警察署に駆けつけた。
嫁はまともだった。別居中で「そんなの私の知ったことじゃない」とか言われたらブチギレるとこだったが、俺を視界にいれるなり頭を下げ謝罪の言葉口にした。
奴の両親も同じように頭を下げ「私達の教育が行き届いてなかったこと深くお詫び申し上げます」と告げた。
俺達は、犯人から身代金目的ではないことや“しばらく預かる”という言葉から奈生が殺害される可能性は低いと見解を打ち出した。生きている。
絶対とは言い切れないが、犯人が未だに西へと逃走しているのは所々の防犯カメラに映っている。そこに奈生の姿が映っているものもあった。特に乱暴に扱われている様子もなかったこともあっての見解だ。
映像情報は少ないが。だから
「別にお前らのせいじゃねぇ。頭をあげろ」
と思ったより冷静な声で言うことができた。
それでも、出久は「かっちゃん、言葉遣い」と口出してきた。教師かよ、と思わずツッコミ入れそうになったが……そういや教師だったわ。
「早速で悪いのですが、ご主人の声で間違いないかお聞きくださいますか?」
湯浅が俺に目配せをする。
昨日、犯人と会話した音声は録音済みだ。遠隔で通話できるシステムを発目に作らせた時に、録音機能も組み込むように注文してた。
俺はスマホを取り出し、昨日の会話を再生する。
――……‥‥
「間違いなく主人の声です」
「息子の声に間違いありません」
犯人の嫁と両親が口を揃えたことで確定だ。
「本当に申し訳ありません。息子を捕まえた時には然るべき対処をお願いします」
「どうしてこんなことを……」
両親が頭を抱える中、出久が口を開いた。
「あの、マミコさんでしたっけ?」
「はい」
「言いたくなかったらすみません。どうして別居をされたんですか?」
犯人の嫁の目を見て出久は真剣な声で問う。
その理由が今回の行動のきっかけになってるかもしれないとは疑ってた。
断片的な情報からだが……。
「それは……」
嫁は言葉を詰まらせ一向に喋ろうとしなかった。
何を躊躇っとるんか分からんかったから、イライラが募るのを感じた。
出久と上鳴はそれを感じ取ったのか、俺に落ち着けと言ってきたが俺からすれば、奈生が誘拐されて心底腹立ってるし心配もしてる。そんな状況で落ち着けるわけねぇだろうが。
思わず「はよ言えやァ……」と呟いた。
「かっちゃん」
「あ゛!?」
「落ち着いて。怒っても何もならないでしょ?」
「落ち着けだ……? テメェは他人事だから言えんだろうが」
「他人事とは思ってないよ! 僕だって奈生ちゃんとはかっちゃんを通して交流もあるし心配だよ。でも、今ここで苛立ってもしょうがないじゃないか。かっちゃんだって分かってるでしょ? 君はヒーローだ」
「……チッ」
出久の言うことは正しい。けど、俺にとっちゃ奈生は絶対失いたくないもんなんだよ……。
一刻も早く助けに行ってやりてぇ。
上鳴が横で「爆豪、落ち着こ」とか言ってる。無視した。
「すみません、複雑でどこから話したらいいやらと思って」
「大丈夫、落ち着いてゆっくり話してください」
湯浅の言葉に、犯人の嫁が深呼吸をした。
「元々、少しだけ抜けてる人だなとは思ってたんです。付き合ってる頃は、そこも天然で可愛いなって。……でも、結婚してからそれが能天気な考えだったんだって分かったんです。結婚する前に子供が出来てしまったから、結婚してから初めて一緒に暮らしました」
握り拳を作って俯く姿は後悔してるように見えた。
「一緒に暮らして分かったのは……抜けてるというより、理解してないんだなって。息子が赤ちゃんの頃、会社帰りにおむつとミルクのストックが残り少ないから買ってきてほしいって言ったことがありました。定期的に一緒に買い物に行ってストックを買ってたんですけど、諸事情で一回一緒に行けなかったんです。それで、分かったと言っていたのに忘れて帰ってきて……そういうこともあるかと思って、買いに行ってくれるか聞いたらあの人……一瞬嫌な顔したんですよね。言葉にはしなかったですけど。それで買いに行ってくれたのは良いんですけど、買ってきたのはおむつとミルク一個ずつだったんです……」
頭を抱える犯人の両親。
あれか、と呟いてる様子を見ると聞いたことがある話らしい。
「大量に持って帰れなかったとかか?」
俺が聞くと、犯人の嫁は「いえ……車がありますから」と微妙な表情を浮かべた。
あー、それは持って帰れないわけねぇよな。
「だから一個ずつ買ってきた時は思わず“え? これだけ?”と言ってしまいました。そしたらあの人、険しい顔をして“とりあえずあるだろ?”って。その後、私がいつもストックいっぱい買ってるじゃないと指摘すると“それは一緒に買い物行った時だけ買うものだと思った”とわけのわからないことを言われました」
次一緒に買い物行ける時まであの人が買ってきた物は持たなかったんで結局また後日に買ってきてもらったんですけどね、と付け加えた。
「そこが始まりか」
「そうですね。その後も、天然と呼ぶには限度があることが沢山ありました。会社に持って行くと言っていた書類をテーブルに置き忘れたと連絡があって持って行ったら、やっぱ今日じゃなくても良かったと言われ……じゃあ連絡してよって言ったら、忘れてたと。……後は、息子のお迎えを頼んだら先生から言われた次の日の変更事項を私に言ってくれなくて、そのせいで息子だけ皆と違って悲しい思いをしたこともあります」
その他にも色々口にしていたが、要は他者の言動の意味を理解出来てないことや大事なことをうっかり忘れることもあり、募った不信感が爆発して別居に至ったというわけだ。
「私は、もっと向き合うべきだったんでしょうね……。目を逸らさず、一緒に解決する道を選んでたら今回こんなことをしなかったかもしれないのに」
「マミコさん、あなたが気に病む必要はないわ。私があの子の教育を間違ってしまったことが原因よ。本当にごめんなさい」
「お義母さん……」
「あの子、昔から確かにちょっと忘れっぽいというか。子供の頃からランドセルの中にプリントを入れたまま忘れるとか、お友達に借りたゲームを返しに行ったと思ったら何故かそのまま持って帰ってきて、数日後にお友達から返却の催促されて思い出すとかあったから……」
犯人の母親の昔話はあいつが他の奴と少し違うということを物語っていた。
詳しくは知らねぇが、何かありそうだな。
すると父親の方も思い出したかのように口を開く。
「そういえば、こういう事もあったな。運動会だって言うのに、教科書持って行こうとしてたこと」
「……あったわね。確か雨で運動会が月曜日になった時だったわ」
「運動会なんだから教科書いらないだろ? って言ったら、でも月曜日だからとか言ってたか」
「……そうだったわね。運動会やってるのに授業どうやって聞くの? って言って漸く理解してたわね。男の子だからそういうこともあるかと」
つまりガキの頃から前兆があったわけだ。
それを“そういうこともある”と見てた結果がこれだ。
俺が不快に感じていると思ったのか、犯人の両親と嫁は深々と頭を下げ謝罪を口にした。
確かに妻を誘拐された身としちゃ、クソがと悪態をつきたくなる話だ。けど別に生まれ持ったもんは誰のせいでもない。それを理解できなかったんは、現代ほど昔はそういうことへの認識が見解が広まってなかったことにもある。
個性の話もそうだ。昔は個性差別も酷かった。そのせいで敵になったものも少なくはない。
そういう時代だ。
「今更どうこう言っても過去は消えねぇ。テメェらのせいでもなければ、誘拐した本人のせいでもねぇ。生まれもったものはな」
俺がこういうことを言うとは思ってなかったのか、全員が目を丸くしているのを感じた。
クソうぜぇけど、わからんでもない。
「けどな。俺の妻が誘拐されたのは別だ。許せるもんじゃねぇ。……おい、あんた」
俺が犯人の嫁に声を掛けるとビクついた。
「てめぇが向き合えんかったのは別におかしくねぇよ。子供育てながらそんな余裕、誰でもあるわけじゃないからな」
「……!」
「あいつがそれで誘拐に走ったことに責任感じる必要はない。それはあいつ自身の問題だ」
「ダイナマイト……」
「それから」
俺は犯人の両親に向き直った。
「俺は正直、家庭教育が子供の内面に影響を与えるのは大きいと思ってる」
「それは……ご尤もです」
「けど、親も人間だ。知らなかったことも沢山あると思うし、毎日悩むこともあるだろう。そういうもんだって思うこともな。後悔することもある。……過去は消えねぇ」
「はい……」
「けど、まだあいつは生きてんだよ。生きてる限り少しはマシにすること出来るんじゃねーの? 過去のことうじうじするより、これからどうするか考えろ」
なんで俺が犯人の家族にハッパかけてんだよ、クソが……。
静かになった空間に、舌打ちをかまして俺はそこらへんの椅子に腰かけた。
「かっちゃん、君そんなこと言えたんだね」
出久が静寂を破る。
「あ゛、ナメてんのか?」
「いや、ビックリしちゃって。ねぇ、チャージズマもそう思うよね?」
ブンブンと首を縦に振る上鳴。柄にもねぇことしてるのは自覚ある。
「君もヒーローだったんだなぁ」
「湯浅、そりゃどういう意味だ」
「そう凄まないでほしいな。大爆殺神ダイナマイトは優しいってことだよ」
「……チッ。くだらねぇこと言ってないで奴の居場所さっさと探れ! コロス!」
「コ、コロス……?」
「かっちゃん!?!? ご家族の前でコロスはダメだよ!」
「うっせぇ! そういう意味じゃねぇわ! 完膚なきまでに叩きのめしてお縄にかけたる。んで、奈生を救う! クソ後悔させたるわ……!」
「そ、そういう意味なら私達も同じ気持ちです。どうか息子を好きにしてください」
「好きにしてください!?」
「私も夫が見つかったら引っ叩いてやります」
「マミコさんまで!?」
「デク、ちょっと黙ってろ!!」
「久しぶりのデク呼び……!」
こいつはツッコミしねぇと生きていけねぇんか。
「爆豪、落ち着こ?」
アホ面もそれしか言えねぇんか!?
――次の日、奈生が誘拐されて二日が経った夜だ。最新の防犯カメラにとある高速道路のサービスエリアで奈生の姿が映っているのを捜査員が見つけた。
すぐさま、俺達はその映像を確認したが。
あいつは拍子抜けするほどに元気そうに歩いていた。一人で。
思わず「は?」なんて声が出た。
何やっとんだ。何で周りに助けを求めねぇ?
「結構自由に歩いてね!?」
上鳴が声を上げるのも無理はない。全員が思ったことだ。
別の防犯カメラの映像でも、犯人が黒いワゴン車の荷台の扉を開けると奈生が降りてきたのが映っていた。何か言葉を交わした後、犯人はそのまま運転席に戻り奈生は一人で歩き出していた。
しばらくすると奈生が自分で戻ってきて、運転席の窓をノック。犯人が再び荷台の扉を開けると奈生は自らそこに入った。
「ンだ、これ…… !」
一つの可能性が浮かんだ。
こいつはまさか犯人のこと助けようとしとんのか、と。あり得る。
奈生の性格は出久に似たものを感じることがあったからだ。
そういうやつだとは分かってたが、もしそうなら馬鹿にも程があるだろ!
「あの、これって今日の昼の映像ですか?」
出久の問いに湯浅はそうだと言った。
「どういうこと? え、何で? もしかして最初からグルとか……?」
上鳴の言う事は考えない選択肢ではない。
少し不快感が胸に湧いたが、湯浅はきっぱりと否定した。
「いや、それはない。誘拐された瞬間を目撃した者の証言では奈生さんは拘束され、ワゴン車に押し込められたそうだ。抵抗の言葉も聞こえたと言っていた」
「それって……演技じゃなくて?」
「人通りの少ないところの防犯カメラ映像もある」
そう言って湯浅がパソコンを触ると、どこかの路地の映像だった。
黒いワゴン車は前方だけが映っているが、犯人と奈生がワゴン車の前に移動してきた。
「ここからだ、彼女の手には拘束リングがされているだろう?」
「確かに……」
「そして……見てくれ」
拘束リングが解除されると犯人は奈生の背中を軽く押して歩き出した。
「一旦、防犯カメラから姿が消えたがこの間二人は路地の個人スーパーに入って行き買い物。……そして」
再び防犯カメラ映像に姿が映る。犯人の手には買い物をしたと思われる袋。そして、運転席付近で奈生の手首にまた拘束リングをつける。
運転席を開けて袋を置くと、ドアを閉めて後方へ奈生と消えていった。
「その後、運転席に輪合は戻った」
「つまり、人目につくところでは拘束してなくて人目につかないとこで拘束はしている……ってことで可能性が低いと」
「デクの言う通り。もしもグルだった場合、これを徹底する必要はない。ちなみにこれは今日の夕方の映像だ」
「……ストックホルム症候群」
「うぇ? 何だっけそれ」
「昔、ストックホルムで起こった銀行強盗立てこもり事件での出来事だよ。簡単に言えば、人質が犯人に協力しだしたんだ。寝ている犯人に代わって銃を警察に向けたりして」
「あ、思い出した。犯罪心理学で習ったわ。確か、犯人に食べ物をもらったりトイレに行かせてもらったり優しくされると感謝して好きになる、みたいな?」
出久と上鳴の言ったことに納得せざるおえない。が、同時に不安が押し寄せるのを感じた。
「ふざけんな」
「ダイナマイト」
「これ夕方だよな。何処だ」
「かっちゃん、待って。まだ……」
「まだって何だ。今テメェがストックホルム症候群、つっただろうが。たった二日でそうなるなら、すぐにでも助け出さねぇと終わってんだよ。……湯浅、これはどこだ。今すぐ行く」
出口に向かって歩くと、出久が俺の体を掴んで止めてくる。
「待って。まだこれがストックホルム症候群と決まったわけじゃない。もしかしたら奈生さんの作戦かもしれない」
俺は出久に向きなおってその胸ぐらを掴んだ。周りが俺の名前を呼ぶのが聞こえたが、出久に腹が立ってるから離す気はない。
「だから何だ。そうだとしても被害者の作戦なんざ助かるための手段に過ぎねぇだろうが」
「そうだよ……! だから今のところは安全だって言ってるんだよ。もし居場所を正確には把握しないまま動いて、相手に僕達が近付いてること知られたらそれこそ何をするか分からないじゃないか……! この手を離してよ!」
「あのな。こいつは! 移動してんだよずっと! 追いかけねぇと、どんどん離れていく。居場所なんて定まらねぇ。出久、テメェは……いつからそんな腑抜けになった」
クソみたいに変わらない大きな目が俺を見た。
「こういう時こそ先に動くようなやつだっただろうが」
「!」
お前は困ってる奴がいたら、体が動いちまう。そんなタイプだろ、昔から。
ゆっくりと出久を離す。
「……そうだね。ごめん」
「思い出したかよ」
「うん。すぐ行こう」
湯浅に車を出すように頼む出久の目は輝いて見えた。気色悪い表現だが。
「デク、本当に言っているのか?」
「はい」
「君も言っていたように、確かな場所が分からないと……」
「ええ。だから気取られないようにする作戦を練ります。考えながらいくので、とりあえず車を出してください」
夜も遅くなるが、関係ない。
別室待機中の犯人の家族を連れて、俺達は西へ向かった。